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失われた「善きキリスト者」の前提──一変した戦後巡幸の美談 [キリスト教]

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失われた「善きキリスト者」の前提
──一変した戦後巡幸の美談
(「神社新報」平成10年6月8日から)
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 昭和21年6月、昭和天皇は関西御巡幸のおり、キリスト教女子教育で関西においてもっとも古い歴史を持つ学校にお立ち寄りになり、ご昼食を取られた。

 大金益次郎侍従長の『巡幸余芳』によると、陛下が御座所に入られると、立ち去りかねた生徒たちが窓の下から芝生の校庭にかけて佇んでいた。

 陛下はブラインドを開けて、窓の下をご覧になる。生徒たちはそれを認めて、窓を見上げてうれしそうに笑っている。陛下もお笑いになったのか、生徒たちが続々と窓の方に寄ってくる。

 美しい君民の交わりである。

 御出発となり、玄関にかかられたとき、生徒たちは校庭に並び、「祖国」と題する讃美歌を歌った。

「わが大和の国をまもり あらぶる風をしずめ 代々やすらけくおさめ給え わが神」

 清らかな歌声は心を打たずにはおかなかった。陛下はポーチにお立ちになったまま動かれない。校長が敬礼して何度、促しても動かれない。讃美歌は二度、三度と繰り返された。

 そのうち歌声はくもり、生徒たちの頬に涙が伝わり始めた。陛下の御眼にも光るものが浮かんできた。大金氏は、

「この親和、この平和の境地」と記している。

 ところが、20年ばかり前(昭和51年)に刊行されたこの学校の『百年史』では、まるで違う話になっている。

 天皇の車の前後は多くのジープやトラックに分乗して銃を構え、肩を怒らせた米兵が取り囲んでいた。ある学生はこみ上げてくる腹立たしさを感じ、それまでの

「天皇は戦争の責任のゆえに潔く退位すべきだ」

 という持論を放棄した。戦後の天皇巡幸は軍国主義日本の主権者の変身の場であったというのである。

 また、ある大学教授は先導する院長がシルクハットにモーニング姿なのに、天皇はソフトに背広姿だったのが印象的だった。生徒が讃美歌を歌い、天皇も感慨深げであられたというエピソードそのものが、

「あわれ大御代におくれで進み おみなのまさみち たどりていそしまん」

 という天皇礼賛の「学院歌」が歌い続けられている理由を物語っている、と書いている。

「キリスト教主義教育を維持するという名目上、つねに国家権力に妥協することを余儀なくされ、その限りにおいて天皇制に対する態度はいつも曖昧であった」

 というのである。

 この落差はいったい何だろう。御巡幸の美談がそもそもフィクションなのか。

 学校を創設したアメリカ女性が来日した明治初年、日本では禁教令高札が撤去されたばかりであった。

 長崎の「二十六聖人」が「列聖」するのは「殉教」から約300年後の1862(文久2)年で、日本はキリシタン迫害国として西欧では広く知られていた。

 キリスト教が邪教視される「暗黒の国」にはるばる伝道にやってきた勇気と開拓者魂には脱帽せざるを得ない。

 創設者は西洋かぶれを排して「キリスト教魂を持つ日本風の女性」を育てることを教育目標としたといわれ、それだけに生徒たちの皇室尊崇の念が強かったとも伝えられる。

『五十年史』は皇室との関わりについて、大正11年に皇后陛下(貞明皇后)が九州行幸の途中、職員生徒一同に「菓子料」金200円を下賜され、学校では聖旨を記念して懸賞論文「地久節論文」の基金を設立したことを記している。

 ところが昭和30年に刊行された『八十年史』は、創設者が学園生活を過度にアメリカ風になることを好まず、庶民の水準に合わせたのは卒業生が庶民の世界に飛び込んでいって福音を伝えるための「じつに周到な用意」と説明している。

 大正13年に排日移民法案がアメリカ議会を通過したとき、この学校が抗議の決議案を発表したのには敬意を表する。戦時中、大阪憲兵隊による行き過ぎた宗教干渉を経験したことは同情に値する。

 それにしても、である。

「厳格なる正義の準備なきところにキリストの福音の栄えた例はない……日本においてももっとも善きキリスト者は厳格な武士の家に起こった……純潔なる儒教と公正なる神道とはキリストの福音の善き準備であった」とは内村鑑三の言葉(『全集27』)であるが、キリスト者は敗戦とともに善きキリスト者の前提を忘れてはいないか。

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