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国旗・国歌そして天皇──国家の栄光ばかりではなく、悲しみをも背負っている [天皇・皇室]

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国旗・国歌そして天皇
──国家の栄光ばかりではなく、悲しみをも背負っている
(「神社新報」平成11年7月12日号)
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 私の故郷・福島県飯野町(いまは福島市)に、幕末から明治の時代を生きた、高野広八という人物がいる。いわゆる博打打ちだが、商取引のために江戸や横浜とを往復するうちに軽業師らと関わり、そのマネージャーとなってヨーロッパ、アメリカを巡業した。パスポート第一号の民間人だった。

 一行は、ニューヨークのブルックリンで、軽業の興業に先立って「日の丸」を押し立て、6頭立ての馬車で市内パレードをした。日本の民間人が海外で日の丸を掲げた最初が曲芸団であった、というのが、なんとも痛快である。

 国旗・国歌論議ほど、重ったるいものはないからである。

 その「日の丸」だが、この数か月、進められてきた国旗・国歌法制化のきっかけとなったのは、今年(平成11年)2月末に広島県立世羅高校で起きた校長の自殺である。

 広島県というところは日教組の活動が活発のようだが、広島の活動家たちが「先進地」と認め、40年前に実情視察に訪れたのが、広八の生まれ故郷だった。

 何が先進的だったか、というと、こうだ。

 合併促進法の施行に伴って、昭和30年正月に旧・飯野町と大久保村、明治村、青木村の1町3村が合併し、新・飯野町が成立した。

 合併で4中学校が飯野中学校に統合されることになったのだが、青木地区の住民が統合化に反発し、33年の新学期には住民が青木中学校を占拠、さらに共同林の木材を売却して財源とし、また福島県教組の全面的支援を受けて臨時教員を雇い、百数十名の子弟を通わせ、住民管理の自主教育を行うにいたったのである。

 紆余曲折の末、翌年春に事態は収拾するのだが、可哀想なのは生徒たちで、正規の学校ではなかったから、単位の修得が認められず、3年生は卒業証書がもらえずに進学が1年遅れた。

「町村合併反対先進地」のツケはすべて子供たちに降りかかった。

 その40年後に起きた広島県立高校の不幸な事件との直接的関連は見出しがたいが、子供たちを人質にとったかたちの政治闘争という点では共通している。

 さて、問題提起したいのは、この4か月あまり、行われてきた国旗・国歌論議の貧困さである。

 反対者は

「君が代は主権在民主義と矛盾する」

「日の丸はかつての軍国主義を想起させる」

 と主張する。

 矛先が向けられているのは天皇統治そのものであり、先の戦争とは何であったのかという歴史論であることは間違いない。

 天皇こそは国民を専制支配する前近代的絶対君主であって、50年前の悲惨な戦争と無残な敗戦はその当然の帰結である。時代遅れの君主制は打倒され、進歩的な共和制へと移行されなければならない──という論理なのだろう。

 まさに十年一日の反天皇論だが、それなら誰もが納得し得る明快な反論は提示されただろうか?

 外務省にいたっては、君が代は「天皇の治世」の意味だと説明していた海外向けリーフレットの配布中止を指示したという。お粗末だ。

 以前、神道思想家の葦津珍彦は、大原康男・國學院大学教授によるインタビューで、反天皇制論議が幼稚なために天皇制論議が発展しなかったと述べている(「近代天皇論の系譜」=「Voice」昭和61年5月号)が、同じ状況はいまも続いている。

 葦津は同じインタビューでこうも語っている。

「天皇制は自然成長的なものだから、これまでの長い歴史のなかで、まずいことがいくつもあった。道徳論的な天皇主義者が言うように、『いいことばかりが重なってきたから、天皇制が存続してきた』ということではない。そういう歴史観では事実に反するし、かえって天皇制の論拠を脆弱にしかねない。プラスばかりではなく、マイナス要素が複雑に絡みながらも、なおかつマイナスを克服して進んできた。そこに天皇制の強さがあるんだよ」

 天皇は国家の栄光ばかりではなく、苦悩のただなかにおられる。平時ばかりではなく、戦時においても、国民統合の象徴なのだ。

 同じように、国旗・国歌は国民の栄誉ばかりではなく、悲しみをも背負っている。だからこそ、国旗であり、国歌なのではないか?

 天皇の名のもとに進められた戦争を批判し、天皇制廃止を主張するのであれば、反天皇論者は同じ論理で、自分たちが祖国のように賞賛してきたソ連・中国社会の大失敗を批判し、みずから社会主義の旗を降ろさなくてはならない。

 しかし、むしろ問うべきなのは、この50年、心に日の丸を掲げ、アジアの平和のために祈り、汗と涙を流した日本人が何人いたか、である。
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