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対イラク戦闘終結宣言──「解放者」ブッシュの十字軍魂 [アメリカ]

以下は「神社新報」平成15年5月12日号からの転載です


宗教情報
対イラク戦闘終結宣言
「解放者」ブッシュの十字軍魂


 ブッシュ米大統領は米東部時間五月一日夕刻、カリフォルニア沖を航行する空母エイブラハム・リンカーン艦上で、イラク戦争の「戦闘終結」を宣言した。事実上の「戦勝宣言」で、船橋には「ミッション・コンプリーテッド(任務終了)」のカラフルな横断幕が掲げられてゐたといふ。

 それにしても、戦闘終結を宣言するためにわざわざ戦闘機に乗り込み、ペルシャ湾での任務を終へて帰国の途にある空母に、現職大統領として初の「ワイヤー着艦」を敢行したブッシュ。映画『トップガン』の向かふを張る心憎いパフォーマンスといふべきなのか。


 奴隷解放のリンカーンになぞらへる

「合衆国と同盟国は勝利した」
「専制君主は滅んだ。イラクは解放された」。

 二十五分の演説で、大統領はイラクの「解放」を高らかに謳ひあげ、同時テロから十九カ月で「世界は変はった」と明言した。甲板に集まった二千人の乗組員から、何度も拍手と歓声がわき上がり、演説のために持ち込まれたといふクレーン式のカメラが将兵の晴れやかな表情を追った。

 ブッシュは、「専制君主」のイラクを「解放」した自分を、百四十年前の南北戦争中に奴隷解放を宣言した第十六代大統領リンカーンになぞらへてゐたのであらうか。であればこその空母リンカーンでの「戦闘終結宣言」であったのだらうか。

 ブッシュは演説中、「自由(フリーダム)」「自由(リバティ)」「公正(ジャスティス)」といふ建国以来の米国型民主主義の理念に繰り返し言及するとともに、過去をふり返り、いまと比較し、「解放」を強調した。

「第二次大戦で米軍はノルマンディー上陸を敢行し、硫黄島を強襲した。われわれの品位と理想主義はその敵を同盟国に変へた。その性格はいまも息づいてゐる。
(フセインの)銅像が倒される中で、われわれは新時代の到来を目撃した。ナチス・ドイツや日本帝国をうち負かしたときには、主要都市への爆撃によって国を破壊することを余儀なくされ、敵の指導者も生き残った。
 しかしいまは国を破壊するのではなく、国を解放したのだ」

 日独との戦争も「解放」であったとの歴史認識を示しつつ、大統領は米軍の力を誇示する。デモクラシーの伝道者は力の信奉者でもある。

 対テロ戦争の継続を強調し、「捕囚たちよ、出てきなさい。暗闇の中にいる者たちに自由を」といふ旧約聖書の預言者の言葉を引用し、いつものやうに「皆さん方と米国に、神の御加護がありますやうに」との祈りで締め括られる演説は、米国民の大多数が聞いた。

 演説直後におこなはれたギャロップ世論調査によれば、八二%が「すべて聞いた」といふ。評価も高く、「たいへん肯定的」が六七%、「やや肯定的」が二五%であった。また、この戦争によって米国の対テロ戦争は「容易になった」と考へる国民は七五%、大量破壊兵器が発見されなくてもイラク戦争を「肯定する」は七九%に達した。イラク戦争が対テロ戦争の「転換点になった」と考へるのは三一%、対テロ戦争は「ほぼ達成された」は四九%であった。


 イラク人によるイラク建設の成否

 しかし、イラク戦争の歴史的評価が定まるには、今後、長い時間を要するだらう。

 たとへばレバノン生まれのジャーナリスト、マアルーフの『アラブが見た十字軍』には、われわれの常識とは異なる歴史が描かれてゐる。

 十一世紀末、「野蛮」な欧州のキリスト教徒が「宗教的熱狂」に駆られて中東に遠征し、「聖地」エルサレムを奪還しようとした。ローマ法王ウルバン二世の提唱に始まり、キリスト教徒は二百年間、地中海東岸を襲ひ、占領し、破壊と殺戮の限りを尽くした。キリスト教徒にとっては「聖戦」だが、アラブ人には紛れもない「侵略」で、以後、アラブの衰退が始まる。

 アラブ人は侵略者たちを「フランク」と呼んだ。それから九百年後、カタールの前線司令部に陣取り、イラク戦争を指揮した米中央軍司令官の名が「フランクス」だったのは、偶然の符合といふにはできすぎてゐる。

 ブッシュの演説で、人々の関心は、大量破壊兵器の発見、国内の治安恢復、イラク人による新政権の樹立に移った。破壊と建設は、人類が愚かにも繰り返してきた歴史だが、復興は破壊より遙かに長い時間と資金と労力を要する。独裁者は倒れた。

 しかし、ブッシュも言及してゐるやうに、この先、イラク人は、リンカーン流の「イラク人の、イラク人による、イラク人のための政府」を打ち立て得るのか。

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