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ホテルを指弾するだけでは癒えない──元ハンセン病患者の心の傷 [天皇・皇室]

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ホテルを指弾するだけでは癒えない
──元ハンセン病患者の心の傷
(「神社新報」平成15年12月8日)
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 熊本県阿蘇・黒川温泉の女性専用ホテルが元ハンセン病患者の宿泊を拒否した問題は、熊本地方法務局による支配人らの告発にまで発展した。


▢ 抜きがたい差別の
▢ 意識を浮き彫りに

 事件を振り返ると、熊本県が県内療養所に入所する元患者十八人に一泊してもらふ予定で、(平成15年)九月にホテルを予約。しかし十一月になって、ホテル側が

「宿泊を遠慮して欲しい」

 と県に申し入れた。県は感染の恐れがないことなどを文書でも説明したが、ホテル側は固辞。

「社会から差別が消え去ったとは思へず、客商売だから断った。判断が間違ってゐたとは思はない」

 とマスコミに語り、その後、ホテルに抗議が殺到、地元旅館組合の除名決定などを受けるにおよんで、

「無知と認識不足で不愉快な思ひをさせた」

 と元患者らに謝罪した、と伝へられる。

 ホテル側の無知と不手際は明らかだが、ある意味では正直で、事件は日本社会にはびこる抜きがたい差別の実態を浮き彫りにした。人の差別の意識はほとんど根元的といへるほど根深く、差別された者の恨みの感情は言語に絶するほど辛い。

 今回は差別・偏見による宿泊拒否をめぐって法務当局が初めて刑事告発する事態となり、ホテルに批判が集中してゐるが、一業者を一方的に指弾するだけでは根本的な解決にはなり得まい。

 実際、旅館業法(昭和二十三年制定)は第五条で

「営業者は左の場合を除いて、宿泊を拒んではならない」

 として、

「一、宿泊者が伝染病の疾病にかかってゐると明らかに認められるとき」

 を掲げてゐる。もちろん黒川の場合は「元患者」であり、

「ハンセン病やエイズなどは『伝染病』には含まれない」(県担当者)

 のだが、旅館関係者によると、法律の運用などについて

「これまで行政の指導を受けたことはない」。

 県は差別撤廃の努力を重ねてきたが、決して完璧ではない。


▢ 国の対策の誤りは
▢ 二年前確定したが

 ハンセン病はかつては「癩(らい)」とよばれ、「仏罰」「遺伝病」「不治の病」と考へられた。

 ノルウェーの医師ハンセンによって「らい菌」が発見され、感染症であることが分かったのは一八七三(明治七)年、国際学会で正式に認められたのはさらに二十数年後であった。感染力も弱く、有効な薬剤療法も開発されたが、日本では

「強い伝染力がある」

 などとの間違った宣伝や強制隔離政策が採られ、かへって誤解や偏見を深め、患者たちを苦しめてきた。ハンセン病を特別視する「らい予防法」が廃止されたのは平成八年のことであった。

 同法廃止は予防法制度の根本的変革ともいはれたが、患者の苦悩はさらに続いた。

 五年前に提訴された「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」で熊本地裁は一昨年、国のハンセン病対策を違憲とする判決を下し、その後、国が控訴を見送り、判決が確定した。国の対策の誤りが法的に定まったのは日本の歴史にとって画期的であったが、そのことで長年、現実に差別に苦しんできた元患者の心の傷は癒されたのだらうか。

 法制度の改革に依存して、社会に根深く巣くふ差別意識が容易に解消されるはずもなからう。


▢ 患者らに示された
▢ 皇室の深き御仁慈

 今度の事件は奇しくも天皇・皇后両陛下の奄美行幸啓、名瀬市内の国立療養所御訪問の直後に起きた。三十五年ぶりに園を再訪された両陛下には園内納骨堂に花束を捧げた後、入所してゐる元患者の手を握られ、

「またお会ひしましたね」
「お元気ですか」

 とお声をかけられた。

 この病に苦しむ人々に御仁慈を示されるのはわが皇室の伝統でもある。天平の御代、光明皇后がハンセン病患者の全身の膿を親しく口で吸ひ取り給うたことは半ば伝説ともなり、語り継がれてきた。貞明皇后も同様に深い御仁慈を示された。

 天皇はつねに

「国平らかに、民安らかに」

 との公正かつ無私の祈りを捧げられる。その大御心を国民はどこまで深く理解し、わが心とし得るのか。
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