SSブログ

「やすくにの四季」を読む by 湯澤貞(前・靖国神社宮司) [靖国神社]

以下はインターネット新聞「お友達タイムズ」平成18(2006)年5月3日号(第2号)からの転載です

y_shinmon.gif
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢
 「やすくにの四季」を読む
 by 湯澤貞(前・靖国神社宮司)
▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢▢


 所属の俳句結社・若葉の月刊誌の四月号に特別作品二十句を発表した。それは「やすくにの四季」と題するもので、五十年になんなんとする神職の経験から、神域の風情を俳句に託したものである。

 その二十句の中からさらに拾い出し、自註を試みたものが本稿である。


 斎館に新年祭の御装束

 神社の一年は元旦の祭典から始まる。すでに午前零時の号鼓と同時に、いままでじっと時の来るのを待っていた多くの参拝者はいっせいに大歓声をあげ、行動を開始した。

 一方、夜明けを待って始める新年祭にはまだ少し間があり、白々と夜の明けてきた斎館の大広間には、早々と用意された白無垢の斎服が整然と並べられ、下臈(下位の者)より参着して着装を始める。その参着までの静寂な空間を句として捉えた。


 神に侍す寒の禊に身を浄め

 神職にはつねに清浄なることが要求される。神社界では「浄明正直」を神社奉祀の根本に置いている。したがって神前に出仕するには、まず心身を浄めることを第一とし、寒中に水を被いて身を浄めることもするのである。


 母子像気高く愛し若桜

 戦場に華々しく散っていった勇士がいる。その勇士には年老いた両親も、兄弟もいるが、さらには最愛の妻や幼子もいる。残された妻や子をいとおしむ勇士の心。

 残された妻は、悲しみに浸ってばかりいられない。母として夫亡き後、気丈に生きて子供たちを立派な人間に育てなければならない。そのような凛々しい心が結集して母子の像となった。戦争とは悲しいものである。


 力士来て奉納相撲八重桜

 相撲協会は、靖国神社御創建(明治二年)以来、毎年春の八重桜の咲く頃、協会役員、横綱以下、そろって参拝の後、境内の相撲場で戦没者慰霊の奉納相撲を行っている。

 戦後六十年を過ぎても忘れることなく毎年の奉納で、ただただ頭が下がる。


 夜店の灯金魚掬ひの子ら照らす

 毎年七月のみたままつりに、大鳥居から始まる参道の左右の慰霊の大提灯数万灯のその下に何百軒の露店が並び、昔懐かしいラムネ売りや焼きそば、金魚掬いの店も開いている。浴衣に身を包んだ子供たちが夢中で金魚掬いをしている。この心和む風景は、日本が平和であるこその風景だと実感する。


 花嫁人形亡き子に捧ぐたままつり

 靖国神社には二百四十六万余柱の英霊が祀られている。その多くは未婚の青年たちであった。国の危急存亡に際し、私情を捨て、大義のために戦場に赴き、無言の凱旋となった。

 その家族たち、とくに母親は不憫にも未婚のまま神となられた息子に、せめて人形なりとも花嫁を添わしてやりたいという心情を、誰が笑うことができようか。こうして花嫁人形が多く神社に寄せられた。遺族にとって英霊は何年経っても戦没した年齢のままの青年である。


 たままつり煙草サイダー神饌に

 英霊をお慰めするために、新暦のお盆の七月十三日から十六日まで、毎晩慰霊の祭典を行う。

 境内の大鳥居から神門にいたる参道の両側に何段もの提灯が設えられ、その下に三百余の夜店が並び、神垣の奥には有名人の揮毫による雪洞が下げられ、その他地方の有名灯籠なども飾られ、夕刻それらに灯が入ると、さながら光の祭典となる。

 毎夜六時から本殿にてみたままつりが執り行われ、生者に差し上げるように、煙草やサイダー、そしてご遺族御奉納の品々をもお供えして、懇ろなまつりが繰り広げられる。

 境内の能楽堂では奉納芸能が、外苑の大村益次郎の銅像の周りでは盆踊りが奉納され、夏の夜は刻々と過ぎていく。


 蔀戸を挙げて涼風たてまつる

 神社の建物はどちらかといえば夏型にできているが、神々の御前も相当な暑さである。そんなときに境内の樹の間を潜ってきた涼風にほっと救われた思いがする。神様にも涼しい風をどうぞといった気持ちが句になった。


 木枯や益荒男海に征きしまま

 山口誓子に「海に出て木枯帰るところなし」という名句があるが、この句は特攻戦死された縁者の青年を惜しんで詠まれた句だという。木枯が吹くとどうしてもこの句が思い出され、今次の大戦で海に散華された多くの英霊に対し心から哀悼と感謝の誠を捧げたい。


 御神楽は佳境其駒声高く

 御神楽は宮中の賢所の前庭などで夜間奏される雅楽の一つだが、神社仏間などでも奉奏することがある。

 御神楽のなかの其駒という曲を奏者も舞人も一生懸命学んで演じ、神々の御嘉納を戴こうと励む姿は美しい。それには一にも二にも弛みない稽古が欠かせない。

 誠心誠意が大切である。


タグ:靖国神社
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。