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中国外務省が公開した『戦犯起訴免除決定書』 [日中関係]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」(2006年5月12日)からの転載です。

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中国外務省が公開した『戦犯起訴免除決定書』
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 人民日報の報道によると、中国外務省は、1956-60年の外交文書、計2万5651点を公開しました。この中には、1956年7月に中華人民共和国最高人民検察院が第二次大戦中に「犯罪行為」を行った日本の「戦犯」を「寛大」にも起訴しなかった「起訴免除決定書」が含まれている、とのことです。
http://www.china.com.cn/japanese/237017.htm

 記事によると、最高人民検察院は、日本の投降から10年で状況や立場の変化があった、日中両国の国民間の友好関係が発展しつつあった、拘禁期間中、戦犯に反省の態度が見られた、重要な戦犯ではなかった、などを考慮し、戦犯328人を不起訴とし、釈放を決定した、と「決定書」には記されているようです。

 記事にはまた、最高人民検察院は、日本の戦犯の不起訴決定書を3回、発表し、計1017人の戦犯を不起訴とし、釈放した、とあります。

 人民日報の記事は、日本人「戦犯」に対する中国の「寛大さ」を強調しているように見えますが、事実はそうなのでしょうか。

 まず基本的な問題として、日本軍が中国大陸でおもに交戦した中国とは蒋介石が率いる国民党政府であり、中華人民共和国が成立したのは1949年の秋です。当然、中華人民共和国は東京裁判には関与していません。

 昭和26(1951)年9月にサンフランシスコ条約が調印され、連合国による日本人戦犯の赦免・減刑が具体的に動き出すのはその翌年、52年からでした。

 当時の朝日新聞によると、年明けからフィリピンやオーストラリアにいる戦犯が日本に送還されるようになります。4月に平和条約が発効すると、東京・巣鴨に収容されている戦犯の赦免が急展開しました。日弁連などが民間団体が赦免運動を開始したからです。

 日本政府は重い腰を上げ、平和条約に基づいて、関係各国に戦犯の仮出所を勧告し、アメリカは減刑保釈のための委員会を設置し、審査を開始しました。

 アメリカの壁は意外にも厚く、最初に赦免に動き出したのはやはりフィリピンでした。53年6月、キリノ大統領はフィリピンにいる戦犯113人全員の特赦例に署名したのです。その数日後にはマヌス島に収容されているオーストラリアの戦犯165人の帰国が発表されました。

 残されたのはソ連と中国大陸にいる戦犯たちでした。冷戦のまっただ中、ソ連は平和条約に調印しなかったし、「竹のカーテン」を隔てた中国との交渉はさらに遅れました。

 53年7月の時点で中国・中共赤十字の代表は、日赤の特赦依頼に対して、「中共の法律を守る日本人だけ引き揚げの援助をする。違反者は制裁を受けるべきだ」とかたくなな態度を示したと伝えられています。

 翌年の54年8月、北京放送は「日本人戦犯417名を寛大な精神で釈放した」と放送します。9月に舞鶴に帰ってきた中国の戦犯は「偉大的祖国」と口々に中国をたたえました。「思想改造」の結果でした。

 10月に周恩来首相は「400人を帰国させたが、まだ千人あまり残っている。寛大に、早く処理したい」と訪中議員団に語るのでしたが、結局は空手形でした。

 56年4月、中国政府は「数年来の中日両国人民の友好発展を考慮する」「戦犯の大多数が改悛の情を示している」として「寛大」な戦犯処理の方針を発表し、6月には満州事変が勃発した柳条湖に近い劇場を改修して、最高人民法院特別軍事法廷が開かれました。

 起訴状では死刑70人、無期以下110人でしたが、周恩来は「1人も死刑にしてはならない」と命じました。周恩来は未来を見据え、「侵略戦争で罪を犯したものが反省し、その体験を日本人に話すことは、中国共産党員が話すより効果的である」と政治的な効果を考えていたようです。

「死刑は免れない」と考えていた日本人戦犯は「寛大」な刑の宣告を受け、感激し、感謝したといわれますが、ほんとうに「感謝」したのはむしろ中国政府の方だったかと思われます。「極刑」を望む中国の人民たちを納得させるには「思想改造」の成果が必要だったのでしょう。

 中国の「寛大」さを示したとする「起訴免除決定書」を、中国外務省はなぜいま公開したのでしょう。興味深いのは、決定書の中身より、その理由ではないでしょうか。

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