SSブログ

「移民国家の英雄」ジダン退場の波紋 [フランス共和制]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」からの転載です

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「移民国家の英雄」ジダン退場の波紋
(2006年7月11日)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 サッカー・ワールドカップの決勝戦で、フランスの英雄ジダン選手がラフ・プレーをおこない、まさかの退場処分を受けました。報道によると、再三にわたる執拗なマークと汚い言葉責めによるイタリア選手の挑発に乗り、相手選手に頭突きをお見舞いしたようです。

 引退の花道となるはずだった試合でジダン選手は無念のレッド・カードを与えられ、キャプテンを失ったフランスは結局、優勝を逃しました。国民的英雄の不名誉は今後、フランス社会にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 というのは、ジダンは「移民国家」フランスのシンボルでもあるからです。今回のフランス代表チームには、アフリカのザイールやカリブ海に浮かぶフランス領グアドルーブ島、南米ギアナなどの出身者が名前を連ねています。アルジェリア系移民二世のジダンたちの活躍は、移民たちの希望なのです。

 フランスは革命以来、「自由・平等・博愛」を国是とする世俗国家を築いてきました。フランス共和制は、人種や民族、宗教に関わりなく、均質で平等な「国民」によって構成される「国民国家」です。

 近代のフランスはつねに国外の移民を「国民」として受け入れてきました。啓蒙思想家のモンテスキュー、作家のゾラ、化学者のマリー・キュリー、歌手のイブ・モンタン、そしてサッカー選手たちです。フランスでは、移民の子であろうとも、フランスに生まれれば、フランス国籍が与えられます。
 
 しかしそのためには徹底的な同化政策が実施されます。「共和制」「宗教と世俗の分離」「フランス文化一元主義」の原則を受け入れ、フランス人になりきることが求められます。民族や宗教という属性を捨てることで、人々はフランス「国民」に生まれ変わるのです。

 二百年の歴史をもつ、このフランス共和制の国家理念がいま揺れています。移民を平等な「国民」として受け入れてきたフランスが、そのことによって逆に国民国家の均一性を失ったからです。非欧州系、非白人の激増によって、フランスは人種のるつぼ、多文化的なモザイク社会と変質しています。

 ジダン選手がそうだったように、移民たちは大都市郊外の生活条件のきびしい地域に小さな集団を形成しています。人種差別や就職時の差別が根強いため、貧困と失業に悩まされています。フランスは猛烈な学籍社会で、初頭・中等教育段階での不十分な教育環境は「移民の子」の将来への希望を奪っているといわれます。

 何百万もの移民を「同化」させ、「国民」として受け入れてきたフランスが、皮肉にもそのために共和制の基盤としての国民的な均一性を失い、社会の分裂を招いています。その結果が昨秋、フランス全土を吹き荒れた大暴動だったようです。

 ここ十数年、フランスは移民をさらに受け入れるか、それとも規制するのか、激しく揺れ動いています。それは同時にフランス共和制という非宗教的国家理念が揺れているということです。

 ジダン選手の活躍は移民受け入れ政策成功のシンボルとされてきましたが、今回の退場処分はどのような波紋をもたらすのか、あるいはもたらさないのか、注目せざるを得ません。

nice!(0)  コメント(1) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 1

さいちゃん

<<読者から>>
 貴メールマガジンはだいたいすべて目を通しています。
 ふだん私の扱う世界と異なる世界を知ることができ、目が開かれることが多いです。(OM様)

<コメント>
 ありがとうございます。
by さいちゃん (2017-08-17 05:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。