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大切にすべき昭和天皇の思いとは [昭和天皇]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」からの転載です


 昭和天皇がA級戦犯合祀に不快感を示されていたことを裏付ける、富田朝彦・もと宮内庁長官(故人)のメモをめぐって、波紋が広がっています。
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 メモを発掘した日経の昨日の社説は、信頼性の高い資料によって、昭和天皇の意向が明確になった、A級戦犯合祀に強い不快感を示したのは、戦争への痛切な反省と平和への思い、諸外国との真義を重んずる信念があったためであろう、天皇の思いを大切にしたい、と訴えています。

 同じく日経の昨日の「春秋」は、天皇の発言からは当事者としての深く激しい思いが伝わってくる、靖国神社に参拝していないのは熟慮の末の判断だ、と指摘し、つづいて今日の「春秋」は、崩御の前年に戦争への感想を聞かれて積年の思いが噴出したのだろう、と述べています。

 メモが「信頼性の高い資料」かどうか、については疑問の声も上がっています。A級戦犯合祀に対する昭和天皇の不快感については以前からもいわれてきたことですが、メモの信憑性が実証的に明らかにされる、あるいは逆に否定される日は、いずれやって来るのでしょう。

 昭和20年8月の敗戦は、日本がいまだかつて経験したことのない屈辱でした。数百万の国民が命を失い、国土は焦土と化しました。外国の軍隊が進駐し、「国体」はおかされることになりました。

 そのような事態を招いたことについて、昭和天皇のご心中はいかばかりであったでしょう。終戦の詔書には、腸(はらわた)が引き裂かれるほどであるという意味の表現がとられています。

 9月下旬になって、昭和天皇はみずからアメリカ大使館にマッカーサーをお訪ねになりました。会見の内容は秘密になっていますが、『マッカーサー回想録』によれば、

「私は、国民が戦争遂行に当たって、政治、軍事両面で行ったすべての決定と行動に対する全責任を負うものとして、私自身をあなたの代表する諸国の採決に委ねるためお訪ねした」

 と語られたのでした。

 マッカーサーは、昭和天皇が戦犯として起訴されないよう、命乞いをするのではないか、と予想していたのですが、実際は逆でした。

「死を伴うほどの責任、それも私の知り尽くしている諸事実に照らして、明らかに天皇に帰すべきではない責任を引き受けようとする、この勇気に満ちた態度」

 は、マッカーサーをして「骨の髄までも揺り動かした」のでした。

 戦争責任を誰よりも深く感じ、終生、みずからを責められたのが昭和天皇でした。昭和天皇は

「戦争を防止できず、国民をその惨禍に陥らしめたのはまことに申し訳ない」

 という思いを生涯、持ち続けられたといわれます。

 そのような昭和天皇像は今回、発掘されたメモの内容とは矛盾します。どちらが正しいのか、あるいはそうではなくて、どちらも正しいのか。いまのところ判断はつきません。

「現人神(あらひとがみ)」と称えられる天皇も生身の人間である、という前提に立てば、ときの政治指導者に対する個人的な好悪の感情もおありだったかもしれません。もしそうだとすると、日経の社説が主張するように、

「天皇の思いを大切にしたい」

 と簡単にいいきることわけにはいかない、ということにもなります。

 そもそも天皇のご意思とは、生身の天皇個人の意思とは必ずしも同じではないでしょう。日本人が天皇を尊いご存在と考えてきたのは、個人崇拝ではありません。ご人徳が立派だから天皇を敬愛するというのではありません。日本の天皇制度における天皇とは、天皇個人ではなく、

「国平らかに、民安かれ」

 という絶対無私の祈りを連綿として続けてこられた歴史的存在としての天皇なのではありませんか。

 考えても見てください。天皇個人の意思に合わせて、国家の政策をそのつど変更していたら、立憲君主制の根幹が揺らいでしまいます。日本人の多くがいまは亡き昭和天皇を敬愛し、その思いを大切にしたいと思うことはすばらしいことですが、個々の天皇のご意思がそのまま政治に反映されるべきかどうかは別問題でしょう。

 富田メモに関連して、指摘すべきもう一つの点は、何度もこのブログに書いてきたことですが、靖国神社はA級戦犯を神格化し、神とあがめているのではない、ということです。

 合祀手続きはあくまで人間の行為にすぎないのであって、間違いもあり得ます。そして、靖国の神はあくまで靖国の神であり、それは、国家の非常時に私を去って、公に殉ずる精神なのでしょう。いうところの「分祀」は日本人の伝統的神観念上、あり得ませんが、もし仮に「分祀」できたとしても、神の世界ではなんの意味も持たないでしょう。神の領域に人間が立ち入ることはできないからです。

 いまはそんなことを考えています。
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