「天皇候補」なる新語を用いる理由──朝日新聞の皇室報道 [朝日新聞]
以下は旧「斎藤吉久のブログ」(2006年9月13日)からの転載です
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「天皇候補」なる新語を用いる理由
──朝日新聞の皇室報道
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今朝の朝日新聞は、新宮さまの命名の儀について伝える「時時刻刻」に、「宮家で育つ『天皇候補』」という見出しをつけています。
「天皇候補」は一般的な用語とはいえません。61の一般紙、専門紙、雑誌を検索できるniftyの新聞・雑誌横断検索で調べると、「天皇候補」はここ一ヵ月間で熊本日日新聞に一件、ヒットするだけです。Googleニュースでは一件のヒットもありません。
記事を読むと、「皇位継承者」という意味で使われていることが分かります。また議事では「天皇候補」はリードで1回、使われているだけで、記事本文では「皇位継承者」となっています。
言葉は生き物であり、時代によって変わっていくのは仕方がありません。しかし思考の道具である言葉は逆に人間の思考を規定します。「皇室制度」と「天皇制」とは違うでしょうし、「皇室」と「天皇ご一家」ではおのずと意味が異なります。
なぜ今朝の記事は、「皇位継承者」という用語があるのにもかかわらず、一般化していない用語を記事のみならず、見出しにまで登場させなければならなかったのでしょうか。世界でもっとも古い歴史を持つ日本の皇室は伝統に基づく用語があり、その伝統を守ることは重要なはずですが、客観報道を建て前とする新聞が、あえて「天皇候補」というこなれない言葉を用いたのには、何か特別の意味合いがあるのでしょうか。
過剰な敬語もまた好ましいことではないけれども、言葉の伝統が軽視されているのではないか、と危惧されます。
しかしそのことは大新聞に限ったことではありません。たとえば宮内庁のホームページで「用語について」の説明を開いてみましょう。
「お出ましに関する用語」の最初は「行幸(ぎょうこう)」で、「天皇が外出されること」とあります。「外出」がすべて「行幸」というわけではないでしょうから説明が十分とはいえないでしょうが、それよりなによりじつにお役所的無味乾燥な説明ではありませんか。せめて「天皇陛下がお出ましになること」と記述できないものでしょうか。
宮内庁のホームページで気になるのは、横書きの日本語に「、」「。」の句読点ではなく、英文のコンマ「,」が使われていることです。進歩的な朝日新聞のホームページだって句読点を使っています。なぜコンマを使う必要があるのでしょうか。そのような日本語の表記を宮内庁は標準的なものとお考えなのでしょうか。
皇室用語の伝統を守り、乱れがあれば、正していくべき立場の宮内庁がこれでは、改善は望みようがないではありませんか。日本最古の文学である万葉集がそうであるように、大和言葉の伝統は皇室と深く関わりがありますが、もはや国語たる日本語の伝統を守り伝える藩塀がいないというなのでしょうか。
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「天皇候補」なる新語を用いる理由
──朝日新聞の皇室報道
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今朝の朝日新聞は、新宮さまの命名の儀について伝える「時時刻刻」に、「宮家で育つ『天皇候補』」という見出しをつけています。
「天皇候補」は一般的な用語とはいえません。61の一般紙、専門紙、雑誌を検索できるniftyの新聞・雑誌横断検索で調べると、「天皇候補」はここ一ヵ月間で熊本日日新聞に一件、ヒットするだけです。Googleニュースでは一件のヒットもありません。
記事を読むと、「皇位継承者」という意味で使われていることが分かります。また議事では「天皇候補」はリードで1回、使われているだけで、記事本文では「皇位継承者」となっています。
言葉は生き物であり、時代によって変わっていくのは仕方がありません。しかし思考の道具である言葉は逆に人間の思考を規定します。「皇室制度」と「天皇制」とは違うでしょうし、「皇室」と「天皇ご一家」ではおのずと意味が異なります。
なぜ今朝の記事は、「皇位継承者」という用語があるのにもかかわらず、一般化していない用語を記事のみならず、見出しにまで登場させなければならなかったのでしょうか。世界でもっとも古い歴史を持つ日本の皇室は伝統に基づく用語があり、その伝統を守ることは重要なはずですが、客観報道を建て前とする新聞が、あえて「天皇候補」というこなれない言葉を用いたのには、何か特別の意味合いがあるのでしょうか。
過剰な敬語もまた好ましいことではないけれども、言葉の伝統が軽視されているのではないか、と危惧されます。
しかしそのことは大新聞に限ったことではありません。たとえば宮内庁のホームページで「用語について」の説明を開いてみましょう。
「お出ましに関する用語」の最初は「行幸(ぎょうこう)」で、「天皇が外出されること」とあります。「外出」がすべて「行幸」というわけではないでしょうから説明が十分とはいえないでしょうが、それよりなによりじつにお役所的無味乾燥な説明ではありませんか。せめて「天皇陛下がお出ましになること」と記述できないものでしょうか。
宮内庁のホームページで気になるのは、横書きの日本語に「、」「。」の句読点ではなく、英文のコンマ「,」が使われていることです。進歩的な朝日新聞のホームページだって句読点を使っています。なぜコンマを使う必要があるのでしょうか。そのような日本語の表記を宮内庁は標準的なものとお考えなのでしょうか。
皇室用語の伝統を守り、乱れがあれば、正していくべき立場の宮内庁がこれでは、改善は望みようがないではありませんか。日本最古の文学である万葉集がそうであるように、大和言葉の伝統は皇室と深く関わりがありますが、もはや国語たる日本語の伝統を守り伝える藩塀がいないというなのでしょうか。
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