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自衛隊の武器管理は米軍とは対照的。即応力よりも安全第一主義 by 軍事評論家・高井三郎 [自衛隊]

以下はインターネット新聞「お友達タイムズ」2007年4月22日号からの転載です


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自衛隊の武器管理は米軍とは対照的。即応力よりも安全第一主義
by 軍事評論家・高井三郎
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 米週刊誌「タイム」の4月30日号に、バージニア工科大学の記事が早速、載った。これまでの学校銃器事故の統計も載っている。

 1999年のコロラド・コロンバス高校でも死者は31人。しかしながら、今回は犠牲者32人全員が何回も撃たれて倒れている。ところが1995年当時、校内暴力の発生件数は学生1000人当り、約90人であった。それが今では50人程度に減っているということだ。2005年には学生、100万人に対し1人だけが犠牲になっている。要するに、銃を持つ社会では数年に1回は特異な犯罪が起こるのは避けられないという見方を採る。すなわち再発の完全な防止は不可能である。犯罪を減らす努力はしているという説明である。

 米軍では小銃、拳銃を紛失しても、始末書1本と相当の賠償金だけで足りる。イラク駐留米軍では、すでに約4万丁の小銃、機関銃が行方不明と当局は発表した。それでも上級指揮官などは処罰されていない。

 数カ月前に九州の西部方面隊隷下の第4師団・第4戦車大隊で本部管理、中隊武器庫から小銃1丁と拳銃2丁などが失われて大問題になり、大隊全員で駐屯地及び演習場を捜索した。さらに司法警察権を有する警務隊が全国から召集されて捜査に当ったが、今のところ発見されず。結局、中隊長、大隊長、師団長、方面総監が処罰された。

 自衛隊は旧陸軍、米軍よりはるかに武器管理が厳重である。例えば、小銃は銃架に納めて施錠し、さらに各銃架を中隊隊舎内に設けた武器庫に入れ、その入り口を施錠する。鍵は勤務時間中に武器係幹部または陸曹が保管、隊員の要求に応じ、鍵を開く。勤務時間外には当直幹部・陸曹が鍵を保管する。なお係幹部・陸曹は武器の数を毎日点検して記録するように定められている。

 旧陸軍では内務斑の壁に各人の小銃を立てかけて置き、いつでも取り出して訓練や手入れができるようになっていた。米軍の中隊では各人のロッカーに銃を収納する。恐らく、どこの現代軍でも中隊でも、このような隊員の訓練の便宜性および隊の即応力を重視した武器管理体制を採り、まれに起こる事故は避けられない。規則を厳重にすれば、隊員の士気と即応力の低下を招くという見方に立つ。

 1954年に自衛隊創設当時、防衛庁の主要な官僚は、旧軍参謀本部が拙い戦争指導の結果、兵役に就いた多くの国民の人命と膨大な資材を失って、未曾有の敗戦を招いた恨みを抱いていた。さらには二・二六事件のような武装蜂起を避ける狙いから、今のような訓練効率を犠牲にした安全第一主義の厳重な武器管理制度を設けたのである。幸いにして半世紀以上も自衛隊は戦う機会がなく、中隊にとり、まことに不便な武器管理体でも事なきを得た。ただし、今後、脅威の増大に対応して、武器管理の在り方を再考する余地がある。

 旧軍将校は少尉任官当時、約200円 (月給の約2倍)の被服装具手当を支給されて、その中から私物の拳銃と弾薬を買い、携行した。今の自衛隊幹部は武器等所持の一般の法律を適用されて、私物の拳銃の取得を許されず、中隊装備の拳銃を使用する。米軍将校は中隊装備の拳銃を使用するが、別に一般米国市民と同様に私物の小銃、拳銃を持つことができる。ただし、これらは公務に使うのを禁止されており、家庭に備え付けて自衛やスポーツなどに用いる。

 先に触れた第4戦車大隊本部管理中隊の事故は当直幹部ないし武器係が武器庫の鍵束を机の引き出しに入れた状態で、その場を離れたときに何者かが勝手に取り出して、武器庫を開けたと言われている。

 小生も中隊勤務の時、当直幹部を命ぜられて、鍵束を引き出しに入れて、短時間、離れた事が何回もある。なお食事、入浴の際には当直陸曹に預けた。このような行為が小生の知る限り、各中隊で行われる普通の状態である。小生の場合、中隊の部下隊員は疑うことがなかった。

 今回の事故は中隊長、あるいは大隊長など上司に相当の恨みを抱く隊員の所業であるように思われる。小生の中隊勤務時代、人格の不完全な青少年の集まりであるから、喧嘩、窃盗、器物損壊などの事故は起きていた。しかしながら、このような武器紛失事故を警戒する必要性はまずなかった。

 今回の中隊は指揮官の統率が非常に悪かったように思われる。いわゆる部隊の健全性が失われると、獅子心中の虫の活動に類する異常な大事故が起こる。創設以来、半世紀、国政の場で軍事ないし国防を次等の扱いをした弊害が祟り、自衛隊の組織が劣化しているようである。

 海上自衛隊員の多くが第三国人と結婚して、情報が漏れる。防衛大学出身の3等陸尉が市民を殺して金銭を盗む。防衛大学の学生は一流校を落ちた連中が主力。このような、各国では政治問題になる様相が顕在化している。それでも防衛大臣はじめ中枢の動きは消極的。武田信玄いわく、『人は石垣、人は城』。このような兵学の原理を認識しなければ、規則だけを改正しても無意味である。

(たかい・みつお。軍事評論家。陸上自衛隊の幹部学校などで戦史・戦術の教官・研究員を勤め、1988年に退職。近著に『知っておきたい現代軍事用語』アリドネ企画など)




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