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聖徳太子17条憲法とチベット16条信掟 [チベット]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」(平成19年5月27日日曜日)からの転載です


 ペマ・ギャルポさんが参院選に出馬するそうです。チベットに生まれたペマさんは59年のチベット暴動のあと、中国による圧政を逃れ、最高指導者のダライ・ラマに従い、インドに亡命しました。来日したのは65年、以来、日本の学校で学び、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所の初代代表などを務め、一昨年、日本に帰化したと聞きます。

 ペマさんの祖国・チベットが建国されたのは紀元前127年、その歴史は第1代ニャティツェンポ王の即位に始まるといわれます。そのころチベットの人々は、日本の神道との共通性が指摘される、ポン教(ボン教)とよばれる自然崇拝と祖先崇拝を基本とする固有の民族宗教を信仰していました。

 仏教が最初にチベットの地に入ったのは第32代ソンツェンガンポ大王の治世といわれます。大王は7世紀初頭にチベット諸族を統合し、強力な王朝を建てました。

 そのころ中国は唐の時代で、唐の太宗は皇女文成公主を降嫁させました。ネパールのネワール朝からは王女ブリクティが妃として迎えられます。大王はこの二人の妃を通じて仏教を知り、仏教による政治を推進します。都ラサその他に多くの寺院が建てられ、仏教文化が花開きました。チベット文字が作られ、仏典が翻訳されました(ダライ・ラマ14世『大乗仏教入門』など)。

 ペマさんから聞いたお話でたいへん興味深かったのは、聖徳太子の十七条憲法によく似た十六条憲法がチベットにあるということでした。

 ペマさんによると、亜細亜大学に学んでいたとき、仏教研究者・梶村昇先生の「アジアの宗教」という講座で、両者の比較について学ぶ機会があったのだそうです。じつに面白いことに、ソンツェンガンポ大王が仏教をもとに強大な統一国家を樹立したのは聖徳太子と同じ時代で、大王は太子の十七条憲法にそっくりの十六条憲法を制定したのでした。

 調べたところでは、どうやら両者の類似性を最初に見出したのは、国会図書館の東洋文庫長だった岩井大慧氏のようで、「歴史教育」昭和29年1月号に発見の経緯などがくわしく書かれています。

 岩井氏によると、東洋文庫が所蔵するチベット文献、具体的には大史マニカンブムやダライラマ法王系譜などに問題の十六条法が載っているのだそうです。

 本文はこうなっています。

殺生、不与取、姦通、虚栄の四根本を断ずるをその一。
三宝を信じ、仏語を成就するをその二。
父母の恩を無量なりと感謝するをその三。
有徳者、高貴の人、年長者を尊敬するをその四。
親属、知友に対して、情細やかに善き人となるをその五。……

 これに対して、日本書紀に掲載されている聖徳太子の十七条憲法は、おおむね次のようになっています。

一にいわく、和をもって貴しとなし、さからうこと無きを宗とせよ。
二にいわく、篤く三宝を敬え。三宝とは仏・法・僧なり。
三にいわく、詔をうけたまわりては必ず謹め。君をばすなわち天とす。臣をばすなわち地とす。
四にいわく、群卿百寮、礼をもって本とせよ。
五にいわく、みちわいのむさぼりを絶ち、たからのほしみを棄てて、明らかに訴訟をわきまえよ。……

 岩井氏は両者の類似性を指摘し、さらにインド・アショカ王の十条の徳目やマイソールの碑文の六カ条、デリーの銘文の八カ条、などとの近似性をも指摘しています。そのうえで、ソンツェンガンポ大王と聖徳太子の業績が偶然の一致とは考えられないから、ひな形となる思想や文献があったのではないか、と推理しています。

 ひな形があったとして、なぜチベットは十六条で、太子の憲法は十七条なのか。資料が手元にないので、正確ではないのですが、以前、読んだ宗教学者の研究では、十七条憲法は第一条が在来思想、第二条以下は仏教思想に基づいている、と指摘されていました。

 だとすると、ソンツェンガンポ大王の十六条は仏教思想で貫かれているのに対して、聖徳太子の十七条は在来思想と仏教思想との融合と見ることができるのかも知れません。これは両者の大きな違いで、太子の十七条憲法はそれ自体が第一条の「和」を体現していることになります。

 さて、ペマさんは、「和」という協調と調和の精神こそ日本のよき伝統であり、それが日本の発展の原動力だった、と指摘し、そのうえで、高度成長期以後の日本人が公よりも私を優先する「わがまま主義」に陥っている、と警鐘を鳴らしています。今回の立候補を決意させたのは、そのようなもう一つの祖国への深い憂いでしょうか。カゲながらご健闘を祈ります。

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