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白酒と黒酒─新嘗祭に捧げられる2種類の神酒 [天皇・皇室]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」(平成19年11月27日火曜日)からの転載です


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斎藤吉久の「誤解だらけの天皇・皇室」vol.7
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第7回「白酒(しろき)と黒酒(くろき)」-新嘗祭に捧げられる2種類の神酒-


▼植物の根を焼いた灰を加えた酒
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 日本の伝統的な神祭りは食の儀礼、つまり命(いのち)の儀礼です。天皇の祭りも同様ですが、1年でもっとも重要な、11月23日の夜に行われる新嘗祭(にいなめさい)に、天皇がみずから神々に捧げる神饌(しんせん)として注目されるのは、前回お話しした、その年収穫されたばかりの米と粟(あわ)の新穀で作ったお粥と強飯(こわめし)だけではありません。やはり新穀の米を原料とする、白酒(しろき)と黒酒(くろき)とよばれる2種類の神酒を見落とすことはできません。

 白酒は米から作った原酒を漉(こ)した酒で、黒酒はこれに久佐木(くさぎ)という植物の根を焼いた灰を加えた酒です。平安中期に醍醐天皇の命を受けて、国家の神事などに関する細かい規定をまとめた「延喜式(えんぎしき)」に詳細な酒造法が記載されていますが、なぜわざわざ木の灰を加えたりするのでしょう。


▼伊勢神宮の重要な祭りにも用いられる

 白酒・黒酒は宮中の大嘗祭、新嘗祭のほかに、皇室の祖神・天照大神をまつる伊勢神宮の重要な祭り(三節祭)にも用いられます。明治になって白酒、黒酒のほかに#(※酉に豊)酒(れいしゅ)、清酒を加えた4種類になりましたが、古くは大神をまつる内宮(ないくう)では白酒と黒酒が供えられました。

 延喜23(804)年に太政官(だじょうかん)という国家の最高機関に提出された、伊勢神宮最古の文献とされる『皇太神宮儀式帳』には、酒作(さかとく)物忌(ものいみ)がつくる白酒、清酒作(きよさかとく)物忌がつくる黒酒、並びに二色(ふたいろ)の御酒を、大神が召し上がる神饌(しんせん、由貴大御饌=ゆきのおおみけ)に添えて差し上げる、と書いてあります。物忌というのは神事に関わる少女のことで、当時は少女が酒造りを担当していたようです。

 また「並びに二色の御酒」というのなら、合計4種類の酒になりそうですが、どうもそうではないようです。『儀式帳』の注釈書として安永4(1775)年にまとめられた『大神宮儀式解』には、「並びに」は「白黒の御酒共に」の意味だと解説しています。「二色」と強調するところに意味がありそうです。

 伊勢神宮では大神様の食事の中心に位置づけられる白酒・黒酒をかもす御酒殿(みさかでん)は数ある建物の中でもとくに神聖なものとされ、毎年、秋の神嘗祭(かんなめさい)の前に作り替えられたそうですが、肝心の酒造りの方法については神宮の文献には見当たりません。

 白酒・黒酒の作り方を説明しているのは『延喜式(えんぎしき)』巻第40の冒頭、「造酒司(さけのつかさ)」のところで、「新嘗会白黒二酒料」として「官田稲廿束」など、必要な原材料や道具が列記され、そのあと次のような記述が続きます。

 ──毎年9月2日に畿内の官田で原料の稲を納める国郡を占いで決める。次に黒木、茅葺き(かやぶき)の酒殿、臼殿、麹室、各1棟を建てる。10月上旬の吉日を選んで醸造が始まり、10日のうちに終わる。

 原料は米1石(こく。180リットル)。このうち2斗8升6合で麹(こうじ)をつくる。残り7斗1升4合を蒸し米とする。麹と水5斗を合わせて2つの甕(かめ)に仕込む。ひとつの甕から1斗7升8合5勺の酒ができあがる。熟後、一方に久佐木灰3升を入れる。これが黒酒で、混ぜ入れない方が白酒となる。


▼古代思想に基づく哲学的な酒

 『延喜式』にはずいぶんと細かい数字が列記されているのが注目されますが、この製法を実験的に再現させた人がいます。元山口県農業試験場長で、敬神家の岩瀬平さんです。実験で明らかになったことの1つは、水の量のあまりの少なさです。しかし汲水を多くすれば上澄みに清酒が浮いてきて、全体が白っぽくなり、黒酒が黒い酒になりません。黒酒を得るには、上澄みが浮いてこない粥状の酒でなければなりません。

 新嘗祭は白酒・黒酒の醸造が終了してから1カ月後です。それまで「二色の御酒」の色調を確保しておくには、汲水を抑制することが必要です。しかもその一方で、「酒造に適したぎりぎりの時期」も確保されています。「みごとなまでの経験則」と岩瀬さんは脱帽します。

 それなら、なぜ白黒2種類の酒なのか。岩瀬さんは古代中国の易と陰陽五行説に注目します。民俗学者の吉野裕子氏は、「伊勢神宮で重んぜられるのは、北辰の北と天を象(かたど)る西北、乾(いぬい)である。北は玄天で黒、西北は白である。神酒の白酒・黒酒をはじめ、神饌では北を表す水と、五味の中で北に配当される鹹(かん)、つまり御塩(みしお)とが、白色の米と並ぶ主要神饌である。海草類もたぶん黒色を呈するゆえに重んじられているのであろう」(『大嘗祭』)と書いています。

 色だけではありません。どうやら細かく決められた原料の数値やできあがりの酒量にも、そして久佐木という植物にも、古代思想に基づく深い意味がこめられているようです。少なくとも延喜式に記載されている、新嘗祭に捧げられる神の酒はきわめて哲学的な酒であることが分かります。つまり、これらを用いる天皇の祭りは単なる儀式ではない、ということになりませんか。


 参考文献=『大神宮儀式解 前篇・後篇』(神宮)、『延喜式 後篇』(国史大系、吉川弘文館、昭和30年)、阪本廣太郎『神宮祭祀概説』(神宮司庁、昭和40年)、櫻井勝之進『伊勢神宮』(学生社、昭和44年)、「皇太神宮儀式帳」(神道大系、神宮編1、昭和54年)、吉野裕子『大嘗祭』(弘文堂、1987年)、岩瀬平「『延喜式』新嘗会白黒二酒と易・陰陽五行説」(「日本醸造協会誌」89巻10号、1994年)など



((((((((「天皇・皇室の一週間」)))))))))))

11月22日(木曜日)
□高円宮妃殿下が第26回JAPANTEX2007の開会式にお出ましになりました(オンライン・インテリア・ビジネス・ニュース)。
http://online.ibnewsnet.com/news/file_n/gy2007/gy071122-01.html

11月21日(水曜日)
□平成14年に亡くなられた高円宮さまの5年式年祭が行われました(MNS産経ニュース)。
http://sankei.jp.msn.com/culture/imperial/071121/imp0711211838001-n1.htm

 墓所祭が行われた豊島岡墓地についてMNS産経ニュースが説明の記事を載せています。
http://sankei.jp.msn.com/culture/imperial/071121/imp0711211926002-n1.htm

11月20日(火曜日)
□天皇皇后両陛下が都内で開かれた「地方自治法施行60周年記念式典」に出席され、お言葉を述べられました(日経ネット)。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20071120AT1G2001C20112007.html

 陛下のお言葉は宮内庁のホームページに載っています。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/okotoba-h19-01.html#60chihou

□天皇皇后両陛下は、東京国立博物館で開催されている「大徳川展」(朝日新聞社など主催)をご覧になりました(朝日新聞)。
http://www.asahi.com/national/update/1120/TKY200711200342.html

11月19日(月曜日)
□天皇皇后両陛下は都内で開かれた「第23回国際生物学賞授賞式」に出席され、お言葉を述べられました(日経ネット)。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20071119AT1G1900419112007.html

 陛下のお言葉は宮内庁のホームページに掲載されています。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/okotoba-h19-01.html#23seibutsu

□皇太子さまが都内で開かれたモンゴル国立馬頭琴交響楽団の公演にお出かけになりました(時事ドットコム)。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007111900868

11月16日(金曜日)
□皇后さまが都内で開かれている「書に見る近現代日本女流展」にお出かけになりました(朝日新聞)。
http://www.asahi.com/national/update/1116/TKY200711160062.html

□愛子さまが学習院幼稚園の遠足で多摩動物園にお出かけになりました(朝日新聞)。
http://www.asahi.com/national/update/1116/TKY200711160073.html

11月15日(木曜日)
□天皇皇后両陛下は皇居・宮殿で中央アジアのキルギス大統領と会見されました(朝日新聞)。
http://www.asahi.com/national/update/1115/TKY200711150323.html

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