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削減どころか増えている陛下のご公務──皇室典範有識者会議報告書を読み直す その2 [ご公務ご負担軽減]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2009年4月7日)からの転載です


 拙著『天皇の祈りはなぜ簡略化されたか』の出版から2カ月がたちました。私が住む町の図書館でもようやく貸し出しが始まりました。どなたかがリクエストしてくださったのでしょう。

 ほんとうは多くの方々にお買い求めいただき、問題意識を共有してほしいのですが、このご時世ですから、無理強いはできません。まずは図書館でお読みいただいて、そのうえでお手元においておきたいと思われたら、どうぞご購入ださい。

 なお、立ち読みは並木書房のホームページでもできます。
http://www.namiki-shobo.co.jp/


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 削減どころか増えている陛下のご公務
 ──皇室典範有識者会議報告書を読み直す その2
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▽1 格調なき宮内庁ホームページのリニューアル
koukyo01.gif
 先月末、宮内庁のホームページがリニューアルされました。皇室を象徴する二重橋の画像が小さくなり、片隅に追いやられて、どこにでもある役所のホームページのようなトップページに変わってしまい、驚きました。

 宮内庁はリメイクの趣旨を、「デザインを刷新するとともに、見やすさや必要な情報の探しやすさなど、ご覧になる方の利便性向上に心がけました」と説明しています。情報源としての使い勝手が最優先されたようです。
http://www.kunaicho.go.jp/info/renewal.html

 なるほど皇室関係の事務をつかさどる役所のホームページという位置づけなら、それで十分なのかもしれません。けれども、古来、日本の最高権威である皇室の唯一無二の公式サイトだとすれば、それにふさわしい格調が求められます。その意味では今回の機能主義的なリニューアルは、少なくとも私はかなりの疑問を感じています。

 諸外国の公式サイトのURLを少し掲げます。比較してみて、読者の皆さんならどうお感じになりますか。

イギリス王室
http://www.royal.gov.uk/
スウェーデン王室
http://www.royalcourt.se/
royalcourt.4.367010ad11497db6cba800054503.html〉
オランダ王室
http://www.koninklijkhuis.nl/english/
スペイン王室
http://www.casareal.es/index-iden-idweb.html
タイ王室
http://www.soravij.com/


▽2 今年3月は「拝謁」が20件を超える

 さて、昨年の天皇陛下の御不例のあと、宮内庁がご公務のご負担軽減について発表したのは1月29日でした。
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/gokomu-h21-0129.html

 あれから2カ月がたちましたので、その後の経過について、少し検証してみたいと思います。

 宮内庁の方針は、(1)拝謁などは回数、日程を縮減する、(2)外国賓客の御引見などはしかるべき調整を図る、(3)国内行幸啓は御臨席のみとする、(4)宮中祭祀の新嘗祭は夕の儀のみ親祭に、旬祭の親拝は年2回に削減する──というものでした。

 実際はどうなったのか、ホームページ上の「天皇皇后両陛下のご日程」をもとに、2月~3月について、昨年と比較してみます。
http://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/gonittei01.html

 まずは拝謁・お茶・ご会釈などについてです。

[平成20年2月の拝謁など]
1)2月6日(水)天皇陛下。県勢概要ご聴取(神奈川県知事)(葉山御用邸)
2)2月7日(木)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
3)2月8日(金)天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(宮殿)
4)2月14日(木)天皇陛下。拝謁(全国検事長及び検事正会同に出席する検事正等)(宮殿)
5)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(全国連合小学校長会理事会に出席する小学校長)(宮殿)
6)2月18日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(赴任大使夫妻(経済協力開発機構日本政府代表部、パプアニューギニア、ベトナム、マダガスカル兼コモロ兼
モーリシャス))(宮殿)
7)2月19日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
8)2月21日(木)天皇皇后両陛下。お茶(日本学士院第二部会員)(御所)
9)2月25日(月)天皇皇后両陛下。お茶(帰朝大使夫妻(オーストラリア、アゼルバイジャン兼グルジア、アイルランド))(宮殿)
10)2月28日(木)天皇皇后両陛下。お茶(赤十字国際委員会総裁)(御所)

[今年2月の拝謁など]
1)2月2日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(皇太子殿下ベトナムご訪問首席随員)(宮殿)
2)同日。天皇陛下。お茶(退職認証官)(宮殿)
3)2月3日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
4)同日。天皇陛下。午餐(会計検査院長(職務代行)、人事院総裁、公正取引委員会委員長等)(宮殿)
5)2月4日(水)天皇皇后両陛下。ご懇談(経済三団体の長)(御所)
6)2月5日(木)天皇皇后両陛下。県勢概要ご聴取(神奈川県知事)(葉山御用邸)
7)2月12日(木)天皇陛下。お茶(退職認証官)(宮殿)
8)2月16日(月)天皇皇后両陛下。お茶(帰朝大使夫妻(イタリア(アルバニア、サンマリノ、マルタを兼轄)、フィジー(キリバス、ツバル、トンガ、
ナウル、バヌアツ、パラオ、マーシャル、ミクロネシアを兼轄)、ウクライナ兼モルドバ、ヨルダン))(御所)
9)2月17日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
10)2月18日(水)天皇皇后両陛下。お茶(帰朝大使夫妻(トリニダード・トバゴ(アンティグア・バーブーダ、ガイアナ、スリナム、セントクリスト
ファー・ネーヴィス、セントビンセント、セントルシア、ドミニカ、バルバドス、グレナダを兼轄)、アルジェリア、スロバキア、カメルーン))(宮殿)
11)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(赴任大使夫妻(モンゴル、アラブ首長国連邦、キューバ))(宮殿)
12)2月19日(木)天皇陛下。拝謁(全国検事長及び検事正会同に出席する検事正等)(宮殿)
13)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(赴任大使夫妻(ロシア、グルジア、トンガ、スリランカ兼モルディブ))(宮殿)
14)2月20日(金)天皇陛下。お話・午餐(法務大臣始め高等検察庁検事長等)(宮殿)
15)2月24日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
16)2月26日(木)天皇皇后両陛下。お茶(帰朝大使夫妻(欧州連合日本政府代表部、タンザニア、パキスタン、イスラエル))(御所)
17)2月27日(金)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)

 以上でお分かりのように昨年2月と比べると今年2月の拝謁は減るどころか、逆に大幅に増えています。

 3月はどうでしょうか。

[平成20年3月の拝謁など]
1)3月4日(火)天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(宮殿)
2)同日。天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
3)3月5日(水)天皇皇后両陛下。拝謁(法務大臣及び財団法人矯正協会会長表彰の法務省矯正職員代表)(宮殿)
4)3月6日(木)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
5)3月10日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(厚生労働大臣表彰の医療功労賞受賞者)(宮殿)
6)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(警察庁長官表彰の全国優秀警察職員)(宮殿)
7)3月11日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
8)3月14日(金)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
9)3月17日(月)天皇陛下。拝謁(警察大学校警部任用科第21期学生)(宮殿)
10)3月25日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
11)3月26日(水)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(御所)
12)同日。天皇皇后両陛下。ご接見(シニア海外ボランティア等)(御所)
13)3月27日(木)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
14)3月27日(木)天皇皇后両陛下。ご挨拶(栃木県知事、県議会議長、県警察本部長)
15)3月30日(日)天皇皇后両陛下。ご挨拶(栃木県知事、県議会議長、県警察本部長)
16)3月31日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(宮殿)
17)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(御所)

 これに対して今年3月はどうでしょうか。

[今年3月の拝謁など]
1)3月2日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(警察庁長官表彰の全国優秀警察職員)(宮殿)
2)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(宮殿)
3)同日。天皇皇后両陛下。ご夕餐(新旧最高裁判所長官夫妻)(御所)
4)3月3日(火)天皇皇后両陛下。会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
5)3月6日(金)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)

6)3月9日(月)天皇皇后両陛下。お茶(帰朝大使夫妻(南アフリカ共和国(スワジランド、ナミビア、レソトを兼轄)、セルビア兼モンテネグロ、ポルト
ガル、カザフスタン兼キルギス))(御所)
7)3月10日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
8)3月11日(水)天皇皇后両陛下。拝謁(法務大臣及び財団法人矯正協会会長表彰の法務省矯正職員代表)(宮殿)
9)3月13日(金)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
10)3月16日(月)天皇陛下。拝謁(警察大学校警部任用科第24期学生)(宮殿)
11)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(厚生労働大臣表彰の医療功労賞受賞者)(宮殿)
12)同日。天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
13)3月19日(木)天皇皇后両陛下。ご接見(シニア海外ボランティア及び日系社会シニアボランティア)(御所)
14)3月23日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(御所)
15)3月24日(火)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
16)3月25日(水)天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
17)3月26日(木)天皇陛下。ご懇談(栃木県知事、県議会議長、県警察本部長)(御料牧場)
18)3月29日(日)。天皇陛下 ご挨拶(栃木県知事、県議会議長、県警察本部長)(御料牧場)
19)3月30日(月)天皇皇后両陛下。拝謁(赴任大使夫妻(クロアチア、レバノン))(宮殿)
20)3月31日(火)天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(宮殿)
21)同日。天皇皇后両陛下。ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
22)同日。天皇皇后両陛下。拝謁(人事異動者)(御所)

 このように前年比で増えているだけでなく、今年2月よりも、少なくとも件数は増えています。ご負担軽減どころではありません。まさに、看板に偽りあり、です。


▽3 狙い撃ちにされた宮中祭祀

 それなら宮中祭祀に関するご負担軽減はどうでしょうか。祭祀の簡略化が始まったのが昨年暮れからですので、1月から3月をまとめて比較してみます。

[平成20年1~3月宮中祭祀]
1)1月1日(火)天皇陛下。四方拝(御所)
2)同日。天皇陛下。歳旦祭の儀(賢所仮殿)
3)1月3日(木)天皇皇后両陛下。元始祭の儀(賢所仮殿)
4)1月7日(月)天皇皇后両陛下。昭和天皇祭皇霊殿の儀(賢所仮殿)
5)同日。天皇皇后両陛下。昭和天皇祭御神楽の儀(賢所仮殿)
6)1月30日(水)天皇皇后両陛下。孝明天皇例祭の儀(賢所仮殿)
7)2月1日(金)天皇陛下。旬祭(賢所仮殿)
8)2月11日(月)天皇陛下。賢所仮殿御拝(賢所仮殿)=筆者注。この日は建国記念の日です。
9)2月17日(日)天皇陛下。祈年祭の儀(賢所仮殿)
10)3月1日(土)天皇陛下。旬祭(賢所仮殿)
11)3月20日(木)天皇皇后両陛下。春季皇霊祭・神殿祭の儀(賢所仮殿)
12)3月23日(日)天皇皇后両陛下。花山天皇千年式年祭の儀(賢所仮殿)
13)3月25日(火)天皇皇后両陛下。ご遥拝(賢所皇霊殿神殿を本殿に奉遷の儀)(御所)

 これに対して今年はいかがでしょうか。

[今年1~3月宮中祭祀]
1)1月1日(木)天皇陛下。四方拝(御所)
2)1月7日(水)天皇皇后両陛下。昭和天皇二十年式年祭の儀山陵の儀(武蔵陵墓地)
3)1月30日(金)天皇皇后両陛下。孝明天皇例祭の儀(皇霊殿)
4)2月11日(水)天皇陛下。三殿御拝(宮中三殿)
5)2月17日(火)天皇陛下。祈年祭の儀(宮中三殿)
6)3月20日(金)天皇皇后両陛下。季皇霊祭・春季神殿祭の儀(皇霊殿・神殿)

 もうお分かりでしょう。人事異動者や表彰者の拝謁、大使とのお茶などはご名代として皇太子を立てればいいものをそのようにはせず、少なくとも拝謁・お茶・ご会釈などに関して、ご負担はむしろ増しています。その一方で、宮中祭祀は額面通り削減され、親祭・親拝は半減しています。

 このメルマガがずっと指摘してきたように、祭祀を狙い撃ちにしたご負担軽減であることが明白です。

 宮内庁のホームページが宮中祭祀について、「天皇皇后両陛下は、宮中の祭祀を大切に受け継がれ、常に国民の幸せを祈っておられ、年間約20件近くの祭儀が行われています」といみじくも説明しているように、「祭祀を大切に受け継がれている」のは陛下であって、宮内官僚ではないのです。

 そして国と民を思う陛下の祈りの精神が重んじられるどころか、ご負担軽減と昭和の先例を名目にした、官僚たちによる祭祀の破壊が続いているのです。

 問題はなぜそうなってしまうのか、です。


▽4 有識者会議の報告書には、皇室の天皇観が欠落している

 というわけで、前回に続いて皇室典範有識者会議の報告書を読み進むことにします。

 前回は「はじめに」の最初の段落を読みました。小泉首相の検討要請を受けて会議が開始されたという説明は不正確だと指摘するとともに、有識者会議は先行して行われた官僚たちの非公式な研究を踏襲したものであり、目的は官僚たちにとっての「望ましい」制度の追求にあったと申し上げました。

 そのことは次の段落に明確に表明されています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/index.html

「天皇の制度は、古代以来の長い歴史を有するものであり、その見方も個人の歴史観や国家観により一様ではない。我々は、与えられた課題の重みを深く受け止め、真摯に問題を分析し、様々な観点から論点を整理するとともに、それらを国民の前に明らかにし、世論の動向を見ながら、慎重に検討を進めるよう努めた」

 つまり、(1)さまざまな天皇観があるから、さまざまな観点で検討した。(2)世論の動向に合わせて検討した、という2つのことが説明されています。

 多角的な検討は重要だし、国民の考えを参考にするのも大切です。しかしここには肝心な視点が抜け落ちています。つまり、皇室自身の天皇観、皇室にとっての継承制度です。

 そもそも皇位の継承というのは古来、もっぱら皇室に属することであって、余人が介入すべきことではありませんでした。ところが政府は、まことに不遜なことに、皇族の意見を求めることすらしませんでした。

 多様な天皇観があるというのなら、まず皇室自身の天皇観を掘り下げるべきでしょう。すなわち「神事を先にし、他事を後にす」という祭祀王としての天皇観ですが、皇室の天皇論に注目したという気配が感じられません。報告書にある「様々な観点」という表現は、逆にこうした皇室の天皇論に耳をふさぐための耳栓のように見えます。


▽5 無神論的な制度の模索

 さらに報告書は次のように説明し、祭祀無視の本性をむき出しにしています。

「具体的には、現行憲法を前提として検討することとし、まず、現行の皇位継承に関する制度の趣旨やその背景となっている歴史上の事実について、十分に認識を深めることに力を注いだ」

 官僚たちは開闢(かいびゃく)以来の祭祀王としての天皇の歴史を振り返るのではなく、公布から百年にも満たない憲法を出発点におき、無神論的な天皇の制度を模索しているかのようです。

 先述したように、宮内庁のホームページは「両陛下は祭祀を大切に受け継がれている」と説明しています。「歴代天皇が祭祀を大切にしてきた」という説明ではなく、まるで陛下の個人的な趣味であるかのように聞こえます。個人の趣味なら、憲法が優先されるべきであり、祭祀軽視に拍車がかかるのは当然です。


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