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2 「ご学友」天皇論の限界──橋本明さんの不思議な文体 [橋本明天皇論]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2009年8月4日)からの転載です


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 2 「ご学友」天皇論の限界
 ──橋本明さんの不思議な文体
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 橋本明・元共同通信記者の文章は不思議な文体です。

『平成皇室論』の最終ページには「本文では敬称を略しました」とありますが、これはきわめて不正確ないい方で、実際は天皇・皇室に関する敬語、敬称の使い方が不統一というべきです。


▽日本語の作法に従わない

 たとえば、「まえがき」を例にとってみます。

 最初の文は「……事実を明仁天皇は目にした」です。これは敬語・敬称が略されているだけではありません。日本語の伝統、ひいては皇室観の違いをうかがわせます。

 伝統的な考え方からすれば、「明仁天皇」という呼び方はしません。

 1つは、直接、相手の名前を呼ぶことをしないのが、日本語の伝統的作法だからです。たとえば、秀吉は関白様と呼ばれ、家康は大御所様と呼び習わされた、と歴史は教えています。ましてや天皇を固有名詞で呼ぶことは、伝統的な日本語の作法として、ふつうはしない、と私は思います。

 2つ目に指摘しなければいけない、と思うのは、そのことは、天皇は固有名詞で呼ばれる、肉体を持った個人ではない、ということとつながっているということです。歴史家にとって、あるいはジャーナリストにとっては、天皇個人への関心は当然、あり得ますが、天皇とは歴史的存在であって、個人ではない、というのが伝統的考え方なのだと私は思います。天皇に対して天皇としての名がおくられ、天皇が固有名詞で呼ばれるのは、崩御(ほうぎょ)のあとにおいてです。

 3つ目は、英語ならば Emperor Akihito という表現が成り立ちます。ヨーロッパ王政の歴史と伝統からすれば、そのように呼ぶ文化的土壌があるからです。私が橋本さんの文章を読んで感じる不思議さは、遠く万葉の時代から続く日本語ではなく、まるで英語を和訳したような違和感です。

 西郷隆盛の遺訓第八ケ条に、「広く各国の制度を採り、開明に進まんとならば、まず我が国の本体をすえ、風教を張り、しかしてのち、しずかに、かの長所を斟酌(しんしゃく)するものぞ」とあります。自国の本体をよくわきまえて、そのあとに海外の文化を取り入れるというのでなければ、本末が転倒し、国は乱れるという指摘です。橋本さんの皇室論には、その危うさがうかがえます。


▽天皇を敬愛しない天皇観

 面白いことに、橋本さんは次の文で、「……お気持ちが強く働いた様子である」と、部分的に敬語を用いています。かと思うと、「新天皇」「美智子皇后」あるいは「天皇」と両陛下を表現します。

 これは「敬称を略した」ということなのでしょうか。どうもそうではないように、私には感じられます。ジャーナリズムが客観報道という名目で、あるいはわかりやすい報道という大義名分から、伝統的な敬語敬称を略す、あるいは一般用語に代えて表現するということはあり得ます。しかし橋本さんの場合は少し違うようです。

 たった6ページの「まえがき」で、橋本さんは「天皇皇后両陛下」を「お二人」と敬語表現し、ときには逆に突き放した呼び方をする。一方、「皇太子」「徳仁親王」「雅子妃」は敬語も敬称もありません。客観報道の基準以外のものを感じるのは、私だけでしょうか。

「敬称を略した」のではなく、「部分的にあとから敬語表現をつけ加えた」のであって、それは敬語表現の前提としての、他者を敬うという感覚の不在を、私に感じさせます。

 つまり、天皇を天皇として敬愛の対象と考えられない天皇観です。それがすなわち、橋本さんの象徴天皇論の本質なのではないか。一般性を装ったあくまで個人的な皇室論である、と私には映ります。なぜそうなるのか、それはみずから「ご学友」を自任し、同じ教室で机を並べて学んだ学生時代のイメージに、いつまで経ってもしばられているからではないか、と私は考えます。

 たとえば、今年は戦後唯一の神道思想家といわれる葦津珍彦(あしづ・うずひこ)の生誕100年ですが、数々の天皇・皇室論を書き残した葦津が、陛下の拝謁をたまわることは生涯、なかったそうです。お目通り願えば、あるいは日常的に頻繁に接することになれば、人間的な側面しか見えなくなり、高次元の天皇が、個人を超えた歴史的存在としての天皇が見えなくなる、という理由からだろう、と私は解釈しています。

 橋本さんの目には、逆に、人間的な天皇個人しか映っていないのではないか、と私は考えます。それは天皇ではありません。「ご学友」天皇論の限界です。

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