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1 皇室擁護を謳いつつ破壊をもたらす橋本明『平成皇室論』 [橋本明天皇論]


以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2009年8月11日)からの転載です


 当メルマガはこのところ、皇太子同妃両殿下の「別居」「離婚」「廃太子」を進言する、陛下の「級友」橋本明氏の『平成皇室論』を取り上げ、批判しています。

 これまでのおさらいをすると、「週刊朝日」「WiLL」の記事などを読み、次のような指摘をしました。大きく分けると3点になろうかと思います。

 第1に、進言の方法です。陛下の「級友」だというのなら、陛下に直接、申し上げればいいのです。「級友」と称して、陛下の権威やマスコミの力を借り、国民的議論を求めるのは、問題解決より混乱を志向しているように見えます。

 第2は、橋本さんの天皇・皇室観です。橋本さんの天皇論は千年以上続く、祭祀王としての天皇ではなく、現行憲法を起点とする象徴天皇論であり、一夫一婦天皇制です。戦後の象徴天皇像は両陛下が協力して編み上げたと断定し、昭和天皇の存在すら黙殺されています。皇位を継承するわけではない皇后に徳を要求するのも誤りです。皇室像の継承を主張しながら、じつは勝手な皇室像を押しつけようとしています。

 第3は、事実認識です。いわゆる雅子妃問題の背後にある、マスコミが果たした負の役割に目をつぶり、もっぱら妃殿下批判に集中しています。「懐妊の兆候」スクープ報道が流産という悲劇を招いたこと、ショッキングな皇太子殿下の「プライバシー」発言の前にプライバシー暴き報道が繰り返されたことへの言及は見当たりません。

 以上、軽くおさらいしたところで、今回は著書の第七章を読んでみることにします。本のエッセンスがすべて書き込まれている、と思うからです。

 忘れないうちに申し上げますが、来週はお盆のため、メルマガをお休みさせていただきます。


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1 皇室擁護を謳いつつ破壊をもたらす橋本明『平成皇室論』
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▽3つの選択肢
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 橋本さんはこの最終章で、次のように論を展開させています。

1、皇太子は大半の仕事を単独でこなされている。残念なことに、雅子妃のお姿が見られない。「象徴天皇制」では、政治大権、主権は唯一国民にある。天皇の務めは国家と国民の象徴にあり、皇后の支えが大切だが、このままでは皇太子は1人で象徴の務めを果たさなくてはならない。東宮時代からつねにご一緒だった現皇室の哲学が継承されるか、陛下は悩まれているのではないか。

2、妃殿下の速やかなご回復を祈るけれども、万一の場合は、一連のご大喪儀に皇后の不参加を想定しなければならない。平成の即位礼で確立した様式も皇后不在となると適用が難しい。「歌会始」もどうなるのか。国賓接遇にあたってもそれなりのプロトコールを編み出さなければならない。予見される不都合を解消する唯一の道は早期のご回復であるが、現状は中途半端であり、抜本的な治療方針を確立すべきである。

 このように議論を進めたあとで、橋本さんは次の3つの選択肢を議論の手がかりとして例示します。

ア、思い切って雅子妃を皇室から遠ざけ、ストレス因子の存在しない空間に身を移し替え、回復に専念する「別居」(完治するまで、皇太子は単独で仕事をさばく)

イ、論理のうえで検討しておく必要のある「離婚」(皇室典範の改正が必要になる)

ウ、治療してもよくならない場合、仮に皇太子が一家庭人として幸福を追求するなら、天皇になる道を捨てる「廃太子」(皇次子秋篠宮文仁親王が立太子礼を経て皇太子になる。同時に徳仁親王は新宮家を創設し、継承順位は秋篠宮、悠仁親王、徳仁親王の順になる)


▽天皇を支えるのは内閣

 以上のように述べたうえで、橋本さんは最後にこう締めくくります。

3、日本の国家と国民を結ぶ節目は、正統な血の流れを保ち、だれもが敬意を表する徳を保持する天皇であり、天皇が高い徳を養ってこそ、象徴性は拡大し、国民は安心を覚える。基本的人権尊重の流れはイギリスの名誉革命にはじまり、戦後の日本に到達した。民衆に逆らう王制で長続きした例はない。国民も皇室も心してこの体制を運用し、世界に類を見ない国家統治の形を国の宝と見つめるべきだ。

 さて、批判です。

 基本的なことは冒頭に申し上げた3点に尽きると思います。とくに、天皇に関する本質論、歴史認識の2つについて誤りを指摘しなければなりません。

1、まず、橋本さんの一夫一婦天皇制について。今上天皇が東宮時代から皇后陛下とつねにご一緒だった、というのは正確ではありません。皇后が天皇を支えているという理解も必ずしも正しくありません。

 現行憲法は、天皇の国事行為は、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が責任を負うこと、しかも国事行為のみを行うことと定めています。天皇を支えるのは内閣です。

 実際、宮内庁が公表している「ご日程」によれば、ご執務や認証官任命式、あるいは国会開会式のご臨席などはお1人でお務めです。宮中祭祀の場合、皇室第1の重儀である新嘗祭などは、皇后の拝礼をそもそも制度的に予定していません。

 両陛下が仲睦まじいのは国民にとって喜ばしいことですが、天皇のご公務はあくまで天皇のものです。お2人でご公務をこなされているように見えるのは、各種行事へのご臨席やお出ましについて、マスコミがそのように報道している結果でしょう。

 したがって、皇太子殿下単独のご公務を神経質に気に病む必要はありません。

 皇室の伝統にはない天皇制を、あたかも伝統のように偽って継承せよと迫るのは、皇室の伝統の破壊にほかなりません。


▽君徳は祭祀によって磨かれる

2、橋本さんの象徴天皇論は、皇室と国民との二項対立を前提とし、憲法が定める国民主権下での天皇には徳が要求される、主権者に逆らえば長続きしないと脅していますが、根拠がありません。

 憲法の枠組みでいえば、皇位はあくまで世襲です。徳などは要求されていません。徳がなければ皇位を継承する資格がない。別居だ、離婚だ、廃太子だ、という橋本さんの進言は、GHQ憲法を前提としても、明らかな逸脱です。

 天皇の徳というのは、拙著『天皇の祈りはなぜ簡略化されたか』で述べたように、「国中平らかに、安らけく」と祈り、命を共有する祭祀を継承されてきたことの結果です。祭祀を重ねることによって天皇の徳はみがかれるのです。徳がないから皇太子たることをやめよ、と進言するのは本末が転倒しています。

 皇室と国民とを対立的に理解し、天皇主権か国民主権かと考える近代的な発想も、天皇の歴史を正しく理解するものではないでしょう。ヨーロッパの王室と日本の皇室は違うのです。

 世界に数ある王制のなかで、王妃にまで君徳を要求する国など聞いたことがありません。民主政治がイギリスからアメリカ、フランス、日本に到達したという歴史観も観念的すぎます。

 いま求められているのは、宮内官僚たちによって破壊され、空洞化された祭祀を正常化することです。今年に入って、ご公務ご負担の軽減と称して、毎月1日の旬祭が年2回となり、11月の新嘗祭の簡略化も企てられています。天皇の徳が象徴天皇制の重要な要素だとお考えなら、橋本さんは祭祀の正常化を宮内庁に強く要求すべきです。


▽そのあと何が起きるのか

3、橋本さんは「廃太子」こそがいちばん現実味がある、と結論づけているようですが、いうところの廃太子のあとで、何が起こると考えるのでしょうか。

 皇太子殿下は、マスコミの不作法なプライバシー暴き報道に抗して、ご病気の妃殿下を精いっぱい明るく支えておられます。ご高齢で、しかも療養中の陛下もそうですが、いっしょに病気と闘っている両殿下の姿は、同じように闘病のさなかにある、少なからぬ国民にとっては、希望ではないのでしょうか。

 だとしたら、橋本さんが勧める別居や離婚が行われたとき、日本の社会にどんな影響をもたらすのか。いわゆる家庭の崩壊を一段と進めることになりはしないか。少なくとも私には、いい結果をもたらすとは思えないのです。君徳をきびしく求めるあまり、社会の乱れを引き起こすことは矛盾以外の何ものでもありません。

4、橋本さんは、陛下のご心労について、致命的な誤解をしています。昨年暮れの陛下のご不例は、身心のストレスが原因だとされ、羽毛田長官は「所見」で皇位継承問題などを示しました。橋本さんの進言は羽毛田「所見」を論拠にしていますが、拙著に書きましたように、この「所見」自体が誤っています。

 つねに国と民のために祈る天皇にとって、ご心労は数限りないはずで、特定することは困難です。まして医師は「急性病変」と診断していますから、「ここに何年間かにわたり、ご憂慮の様子」とした羽毛田「所見」はまったくの的外れです。誤った「所見」に基づく橋本さんの進言は誤りです。

 また、皇位継承について、国民が口を出すことは、皇室の伝統に反します。というより、口を差し挟む必要がないといった方がふさわしいかもしれません。皇位は皇祖神の神意に基づき、御代替わりを重ねつつ、地上に蘇り、継承されると信じられてきたのであり、北畠親房(きたばたけ・ちかふさ)の『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』以来、万一、仁政が行われ難きときには、皇位は傍系の仁者に移る、と認められてきたからです。人間よりも神の意思がそうさせるのです。

 結局、結論的にいえば、「ご学友」と称する橋本さんの進言は、皇室擁護を謳いつつ、それとは逆に破壊をもたらすものであるといわざるを得ません。皇室の破壊を国民的な議論にしようとする「ご学友」など、私の理解をはるかに超えています。

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