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忘れられた神道人・今泉定助──非宗教的な現代だからこそ振り返る [政教分離問題]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2011年9月11日)からの転載です


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 忘れられた神道人・今泉定助
 ──非宗教的な現代だからこそ振り返る
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▽1 無宗教で行われる行政の追悼行事

 東日本大震災発生から6か月、そしてアメリカ同時多発テロから10年、今日は鎮魂の日です。

 大震災の死者は1万5781人、行方不明者と合わせると1万9867人、自宅に戻れない避難者は8万人をはるかに超えていると伝えられます。

 未曾有の自然災害から何か月も経つのに、県や国レベルの慰霊祭が行われたとは聞きませんが、市町村レベルでは追悼行事が行われています。

 昨日は福島県相馬市で合同慰霊祭が行われ、遺族ら400人が参列し、黙祷が捧げられ、祭壇に菊の花が手向けられたと伝えられます。
http://news24.jp/articles/2011/09/10/07190364.html

 先月25日には東京・浅草寺で、地蔵盆に合わせた、大震災の犠牲者を悼む「百僧法要」が行われ、「東日本大震災物故者諸霊位」と書かれた位牌に3000人が合掌、焼香したそうですが、市町村での慰霊祭は、宗教者が参加しない、宗教儀礼が行われない、無宗教もしくは非宗教形式で行われ、ほとんど定着しているように見えます。

▽2 まるで非宗教を国民に強制

 自治体が関与する慰霊祭は、「国はいかなる宗教的行為もしてはならない」と明記する憲法の政教分離原則に忠実であろうとしているからなのでしょう。

 厳格な政教分離主義の源流とされるアメリカでは、同時テロ発生の3日後、「全国民のための教会」と位置づけられるワシントン・ナショナル・カテドラルで、追悼ミサが挙げられました。

 ホワイト・ハウスが依頼し、歴代大統領や多数の政府高官、諸宗教の代表者が参列し、讃美歌を歌い、祈りを捧げました。ミサ形式ですから、牧師の説教も行われています。費用は政府が実費を負担したと聞きます。

 日本の政教分離主義は宗教者を排除し、宗教性を捨象するのに汲々としていますが、アメリカの政教分離はむしろ伝統的宗教性を重んじています。

 教会関係者は「憲法が禁じているのは、国家が国民に祈りを強制することだ」と説明しますが、日本は逆に、まるで非宗教を国民に強制しているようにさえ見えます。死者に祈りを捧げることが無宗教的、非宗教的であろうはずはないのに、です。

▽3 89年前の関東大震災時も同じだった

 政教分離主義は一般には、戦後の憲法によって確立された、といわれます。

 明治憲法下では信教の自由の保障が制限されていた、「国家神道」に国教的地位が与えられ、他の宗教が迫害された、敗戦後、GHQが「神道指令」を発し、新憲法に政教分離規定が設けられた、と津地鎮祭訴訟や愛媛玉串料訴訟の最高裁判決に説明されています。

 この歴史理解に従えば、行政が推進する無宗教・非宗教的追悼儀礼は、戦後、現行憲法下において、行われるようになったと思われがちですが、実際は違います。

 大正12年9月1日の関東大震災から今年で89年になりますが、関東大震災発生四十九日の東京府市合同の追悼式は、「国家神道」どころか、宗教者が参加しない、宗教儀礼が行われない、無宗教形式で行われています。

 そのため「行政は宗教に無理解」と宗教界が猛反発し、軋轢が生じた、と当時の新聞が報道しているほどです。

 現代の宗教家たちが行政の無宗教・非宗教政策にほとんど沈黙しているのとは、まったく対照的です。

▽4 急先鋒は内閣法制局だった

 戦後、とりわけ昭和40年代以降、先鋭化する政教分離の厳格主義は、単線的・直線的発展史観に立ち、歴史の事実を無視して、戦前を悪玉に仕立て上げ、明治憲法を批判し、「国家神道」に責任を押しつけ、天皇もしくは天皇制を指弾します。

 その延長上にあるのが、平成の御代替わりでした。

 昭和天皇の御大喪は、皇室行事としての葬場殿の儀と国事行為としての大喪の礼が分離され、宗教的、伝統的な天皇の喪儀から宗教性がむりやり引きはがされ、大喪の礼では祭官が退場し、鳥居や大真榊が撤去されました。

 大喪の礼を取り仕切ったキーパーソンの1人、石原信雄官房副長官は、その背景を著書の『官邸2668日』に説明しています。

 石原によれば、課題はずばり政教分離、つまり宗教と国事行為との線引きでした。鳥居を設け、大真榊を置き、葱華輦(そうかれん)で昭和天皇の亡骸を葬場殿まで運び、安置する葬場殿の儀は「かなり宗教色がある」というのが分離方式の理由でした。

 宗教色のない喪儀など、この世にあろうはずはないのに、官僚たちは皇室の伝統より、憲法に忠実なあまり、皇室の「宗教」に介入するという政教分離に矛盾する行為を行ったのです。

 急先鋒は、味村治法制局長官以下、内閣法制局だった、と石原は証言します。「どう考えても、鳥居は宗教のシンボルだから、鳥居を置いたまま国事行為を行うわけにはいかない。絶対ダメだ」と主張したというのです。

▽5 憲法は宗教を否定していない

 憲法20条3項が規定する「国家はいかなる宗教的行為もしてはならない」を文字通り解釈すれば、天皇の喪儀に関わることも許されません。憲法はそのような絶対分離主義の立場に立っているわけでも、宗教否定の立場にあるわけでもないでしょう。

 昭和52年7月の津地鎮祭訴訟最高裁判決で、最高裁は、憲法の政教分離規定について、国家が宗教との関わり合いをまったく許さないというのではなく、目的と効果が限度を超えない範囲では許される、という緩やかな分離主義の判断を示しました。

 この目的効果基準の提示こそ、絶対分離主義の否定でした。

 憲法学者の小嶋和司・東北大学教授(故人)は、行為の「目的」と社会的な「効果」を基準として合憲性を判断するということは、その前提として、憲法は国家の宗教的中立性を要求してはいるが、無色中立性までは要求していない、と認めるからだ、と指摘しています。絶対分離主義の立場をとるなら、目的や効果を判断するまでもないからです。

 実際、「国は宗教教育その他宗教的活動をしてはならない」と憲法20条で規定しつつ、国立大学(法人)での宗教学研究は認められるし、(旧)教育基本法は宗教に対する寛容の態度の尊重をうたっている。憲法89条には「公金を宗教団体のために支出してはならない」とあるが、文化財保護の観点で神社、仏閣の修復が行われている。つまり、憲法の規定は無色中立性までは要求していない、と小嶋教授は指摘しています(小嶋『憲法解釈の諸問題』木鐸社、昭和60年)。

 人はみな宗教的存在であり、絶対分離主義の考え方自体に無理があります。国家の宗教的無色中立性を原理主義的に貫けば、真善美を追い求め、悪を憎み、悲しみに涙する人間性そのものを否定することになります。憲法の政教分離原則をことさら重んじて、国民の精神的伝統を脅かすことになれば、憲法が認める宗教の価値を否定することになります。

▽6 戦前を代表する第一級の神道人

 ところが、宮中祭祀や神道のこととなると、絶対分離主義が頭をもたげてきます。ある種の政治性を背景として、日本の宗教伝統の歴史を見誤り、あるいは曲解し、天皇統治の本質を見失っているからでしょう。何しろ教えてくれる人もめったにいませんから。

 たとえば、今泉定助という人をご存じですか?

 今泉こそ、戦前を代表する第一級の神道人でした。戦前・戦後を通じて、もっとも偉大な神道思想家といわれます。「憂国慨世の神道思想家」ともいわれ、歴代首相のほとんどがその国体論に耳を傾け、官僚、軍人、財界人が教えを乞うたと伝えられます。それほどの影響力を持った神道思想家は、昔も今も、今泉以外にはいませんが、いまはほとんど忘れられています。

 私が知る写真は、晩年のもので、白く長いヒゲを蓄え、和服を着、眼光はあくまで鋭く、ただならぬ気配を漂わせています。しかし今泉は、近代教育を受けたエリート中のエリートでした。

▽7 川面凡児との出会い

 戦後唯一の神道思想家といわれる葦津珍彦によると、今泉は文久3(1863)年、宮城県白石に生まれました。明治19(1886)年に最高学府たる東大の古典講習科を卒業後、ただちに東京学士院編纂委員となり、あの膨大な『古事類苑』の編集に4年間、携わりました。その後、皇典講究所に移り、国学院設立に参画しました。関東大震災当時は、伊勢神宮の崇敬団体・神宮奉斎会の会長でした。

 大震災直後、今泉が手がけたのは震災で焼失した日比谷大神宮の再建ではありませんでした。葦津珍彦の評伝によると、目に見える神殿の建設よりも、日本国民の精神の再建こそが緊要だ、と痛感し、今泉は国民精神発揚のパンフレットを大量に配布し、講演活動を展開したのです。

 お伊勢さんの神宮大麻の普及、門松や国旗の普及に力を入れ、やがて震災直後に急造されたバラックの民家にも神棚がまつられるようになった。学校や役所などにも神棚がまつられるようになったのは今泉らの活動によるところが少なくないといわれる、と葦津は書き残しています。

 葦津が今泉を語るうえでとくに重要視しているのが、「神道界の異才」川面(かわつら)凡児との出会いでした。今泉が川面と出会うことがなかったら、もしかしたら、今泉は単なる近代人で終わっていたかも知れません。

 長くなりましたので、以下は次号に書きます。

タグ:政教分離
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