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簡略化が加速される新嘗祭──重大な歴史の事実が隠されたまま [宮中祭祀]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジンからの転載です


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 簡略化が加速される新嘗祭──重大な歴史の事実が隠されたまま
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 いよいよです。当メルマガや拙著『天皇の祈りはなぜ簡略化されたか』がずっと問題にしてきた天皇陛下の祭祀の簡略化が一段と加速することになりました。

 宮内庁は11月1日、「新嘗祭について」と題する情報を公表しました。
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/kohyo-h23-1101.html

 その内容は、次の4点にまとめられます。

(1)2月に行われた検査の結果、冠動脈狭窄のため、長時間にわたる祭祀にはさまざまなリスクがあるという指摘が皇室医務主管から報告された。

(2)このため、今年から、リスク軽減の観点から、今年から、新嘗祭における陛下の神嘉殿のお出ましの時間を短縮し、夕の儀も暁の儀と同様、儀式半ばから出御され、皇族および諸員の拝礼前にご退出(入御)されるようお願いした。

(3)ちなみに昭和天皇の場合、昭和45年、69歳のとき、暁の儀へのお出ましを取りやめられ、夕の儀だけをお勤めになった。翌46年からは、夕の儀においても時間を短縮され、儀式半ばから出御され、早めにご退出された。

(4)なお、今般、医師は昭和天皇のときの先例を踏襲されるよう願い上げたが、今上陛下は、やはり夕の儀、暁の儀ともに祭祀をお務めになる、と仰せになった。

▽1 祭祀を標的にする御負担軽減

 陛下のご健康問題が国民の大きな関心事であることは間違いないのですが、歴代天皇が、そして今上陛下が大切にされている祭祀がしわ寄せを受けているという印象が否めません。

 ガン療養中で、昨年暮れに喜寿をお迎えになった陛下が、今度は心臓に異常があるということが判明したのは今年1月の定期検診でした。

 このため2月11日の建国記念の日に精密検査のため入院され、幸いにも手術は不要で、当面は投薬で経過観察するということになりました。

 この日は建国記念の日でした。旧皇室祭祀令では、天皇がみずから祭りを行われる大祭と位置づける紀元節祭が行われました。例年なら初代神武天皇に思いを馳せられる陛下の御拝が午前中に行われることになっていました。

 しかし今年は、午後に行われるはずの定期検診の一環としての30分の精密検査が午前に繰り上げられ、御拝はお取り止めとなりました。宮内庁は、「11日の宮中祭祀は欠席されるが、現時点で公務の変更予定はない。今のところ、テニスなどの運動にも問題はない」(読売新聞記事)と発表したようでした。

 宮内庁の御負担軽減策は徹頭徹尾、祭祀を標的にしています。なぜそうなのか?

▽2 昭和の先例は御高齢への配慮がきっかけではない

 今回の発表には、歴史の事実認識において、重大な見落としがあります。

 宮内庁発表は昭和の先例に言及しています。昭和天皇は69歳のときに夕の儀のみを親祭されるようになり、70歳からは夕の儀も時間を限って祭祀をなさるようになったというのです。

 発表の文脈からいえば、御高齢に配慮して祭祀の簡略化が行われたように聞こえますが、事実に反します。

 当メルマガが何年も前から、何度も指摘しているように、入江相政侍従長の加齢と祭祀嫌いに端を発して、無神論者を自認する富田朝彦宮内庁長官の登場で、政教分離主義の厳格化が進んだ結果でした。

 拙著に書いたことですが、入江日記によれば、入江による祭祀簡略化の「工作」(入江日記)は昭和43年に始まりました。新嘗祭の簡略化は香淳皇后を通じて開始されたものの、思わぬ反対を受け、頓挫し、45年には昭和天皇に直接の働きかけが行われ、新嘗祭お取り止め、四方拝の洋装、歳旦祭の御代拝などが合意されたとされています。

 入江の「工作」は女官や香淳皇后の抵抗を押しのけて進められました。けれども理由が昭和天皇の御高齢問題にあるとは、少なくとも日記からはうかがえません。

 昭和天皇がご満足だったわけでもありません。46年11月23日の入江日記によれば、新嘗祭の夕の儀をお務めになった昭和天皇が、お帰りのお車の中で、「これなら何ともないから、急にも行くまいが、暁(の儀)をやってもいい」と仰ったのでした。入江は「ご満足でよかった」と書いていますが、逆にご不満の表明でしょう。それどころか、いわば側近中の側近に祭祀を奪われた昭和天皇は「退位」「譲位」を表明されるようになります。

▽3 依命通牒を反故にした宮内庁

 入江日記によれば、入江の祭祀簡略化「工作」は皇太子殿下(今上陛下)までも利用して行われました。

 そのようにして進められた昭和の祭祀簡略化を、間近でご覧になっていた今上陛下が今回の新嘗祭簡略化をどのように思われているか、拝察するにあまりあります。

 宮内庁発表によれば、祭祀の何たるかをほとんど知らないだろう医師は、陛下に先例踏襲をお勧めしましたが、陛下は夕の儀、暁の儀をともにお務めになることにこだわられたようです。祭祀王なればこそ、です。

 最後に、2点、補足しておきます。

 1点は、四方拝を御所のテラスで、洋装で行う、というような、入江による伝統無視の祭祀簡略化は、そもそもあり得ないことだったということです。

 というのは、戦前は皇室祭祀令などによって、祭祀には明文的に事細かな定めがありました。戦後、日本国憲法の施行に伴い、皇室令は廃止されました。けれども皇室の伝統は続きました。皇室行事にいささかの変化もないというのが当時の関係者の認識で、であればこそ、宮内府長官官房文書課長名で出された依命通牒は、「従前の規定が廃止となり、新しい規定ができていないものは、従前の例に準じて事務を処理すること」(第3項)と記してありました。

 入江の「工作」による祭祀簡略化はこの依命通牒を踏みにじるものでした。

 さらに決定的だったのは、昭和50年8月15日の宮内庁長官室会議です。無神論者を自認した富田氏が宮内庁次長となった翌年、依命通牒第3項は反故にされ、「宮内庁法規集」から消えたのです。その後、何でもあり、の祭祀簡略化が加速しました。

 依命通牒第3項が生きていれば、無原則な簡略化は不要なのです。陛下に御事情があれば、御代拝の制度もあったからです。

▽4 不正確なマスコミ報道

 2点目はマスコミの報道です。記事に不正確さが目立ちます。ネット版で記事を見てみます。

 朝日新聞は、「新嘗祭での天皇陛下の出席時間について……」などと、「出席」という表現を使っています。
http://www.asahi.com/national/jiji/JJT201111010123.html

 毎日新聞、読売新聞は「拝礼時間」「拝礼する時間」などと表現しています。
http://mainichi.jp/select/wadai/koushitsu/news/20111102ddm041040141000c.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111101-OYT1T01241.htm

 宮中祭祀は天皇の、天皇による、国と民のための祭りです。宮内庁が主催し、天皇が「出席」するわけではありません。とりわけ新嘗祭は宮中第一の重儀で、大祭と位置づけられます。天皇がみずから祭祀を行うのが大祭です。掌典長に祭祀を行わせ、天皇が拝礼する小祭とは異なります。

「およそ禁中の作法は神事を先にす」と歴代天皇がもっとも重んじたのが祭祀ですが、国民には遠い存在になっています。正確に伝える人もきわめて少ないのが現状です。祭祀簡略化が国民にとって何を意味するのか、も分かりにくくなっています。
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