ねじ曲げられた前侍従長の提案──岩井克己朝日新聞記者の「女性宮家」論を読む [女性宮家創設論]
以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2012年1月2日)からの転載です
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ねじ曲げられた前侍従長の提案
──岩井克己朝日新聞記者の「女性宮家」論を読む
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あけましておめでとうございます。
今年最初のメルマガです。テーマはひきつづき、いわゆる女性宮家創設です。
読売新聞電子版が元日に伝えたところでは、「政府は、当主となる皇族女子の夫にも皇族の身分を付与する方向で調整に入った」のだそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111231-OYT1T00536.htm
前回、ご紹介したように、小嶋和司教授(故人。憲法学)によれば、明治の皇室典範は「皇族」身分の条件を明記せず、さらには臣籍出身の后妃も「皇族」とし、皇位継承資格者としての「皇族」と待遇身分としての「皇族」とを混同させ、本質をぼやけさせてしまいました。
その背景にあるのは、王朝の支配という観念の希薄さでしたが、女系継承に道をひらく今回の動きは、むしろ王朝の支配に対する挑戦でしょうか?
女性の場合、近代以降、皇室に嫁ぐことによって皇族の一員としての待遇を受けられることになったのですが、もし今回の改正が実現すれば、男性の場合も同様となり、いわば「すべて国民はひとしく皇族になれる権利を有する」ということになります。
誰でも皇族になれるというのなら、もはや「皇族」とはいいがたく、平たい言葉でいえば「ありがたみ」もなくなり、「象徴」の機能も果たせなくなるでしょう。ところが、不思議にも、「女性宮家」創設を求める声は、皇室の尊厳を守るべき立場の、陛下のお側近くから、もっとも大きく聞こえてきます。
というより、より正確にいえば、そのように曲げて報道されています。作為的な誤報でしょうか?
▽1 女性宮家創設の提案者は渡邉前侍従長
たとえば「週刊朝日」12月30日号に掲載された、当代随一の皇室ジャーナリスト・岩井克己朝日新聞編集委員による「女性宮家」創設提案の記事に、そのことが端的にうかがえます。
この号は、表紙には「天皇、皇后両陛下も嘆く『皇室の危機』 内親王家創設を提案する」と大書され、本文は岩井記者による4ページの記事に加え、宮内庁関係者や皇室ジャーナリスト計5人による「天皇家の不安と雅子さま」と題する誌上座談会4ページを載せ、さながら皇室特集号の様相です。
岩井記者の記事のタイトルは「『内親王家』創設を提案する」ですが、記事を読むと「提案」しているのは、じつは岩井記者ではなく、平成の宮中祭祀簡略化の中心人物である渡邉允前侍従長だということが分かります。
記事の冒頭、岩井記者は、皇室がさまざまな困難に苛まれているなか、昨年末、浮上したのが「天皇定年制」と「女性宮家創設案」だと指摘します。
「天皇定年制」については、岩井記者は、秋篠宮殿下のご発言の真意を探ったあと、そもそも終身天皇制のもとで定年制の制度化はあり得ず、当面、摂政や国事行為の臨時代行も考えられない。したがって、「宮内庁は天皇の公務つまり『公的行為』や祭祀・私的活動などの抜本的見直しに早急に着手すべきだ」と訴えています。
ご公務の抜本的見直しは必要で、宮内庁としてはすでに数年前から具体策を講じています。けれども、当メルマガが指摘してきたように、実際には、ご公務の日数は逆に増え、祭祀のお出ましばかりが激減したという経緯があります。
なぜそうなのか、が問われるべきなのですが、岩井記者の記事には言及がありません。
昨年末、陛下のご入院のとき、国事行為などご公務は皇太子殿下と秋篠宮殿下が分担してお務めになりました。それができるなら、もっと早い段階で陛下のご負担は軽減できたはずです。
▽2 文庫本の「後書き」につづられた「私見」
つぎに「女性宮家創設案」について、と話を進めるべきところですが、たいへん興味深いことに、岩井記者は「一方の皇位継承の問題については……」と文章を続け、悠仁親王が即位しているころ、女性皇族が次々に皇籍離脱していけば宮家は消滅している恐れがある、と論を展開しています。
前々回、「AERA」の記事を取りあげ、批判しました。同誌の場合は、皇族女子が婚姻後も皇族身分を維持する目的は、ご公務を担う「人手不足」の解消にありました。ところが、岩井記者の記事ではそうではなく、ずばり皇位継承問題だとされています。
たしかに考えてみれば、ご公務の「人手不足」解消であるなら、先述したように、ご公務の抜本的見直しをせよ、と主張すれば足りるわけで、「女性宮家」創設は必ずしも必要ではありません。
ともあれ、岩井記者によれば、羽毛田信吾宮内庁長官は歴代首相に対して、所管事項を説明する際、女性皇族の皇籍離脱と宮家消失の恐れについて「危機感を訴えてきた」のでした。
野田内閣成立から1か月後の10月5日、長官は首相に所管事項の説明をし、これが女性宮家創設の提案と報道され、一部では「陛下のご意向」と取り沙汰されたが、「いずれも羽毛田長官は強く否定している」と岩井記者は書いています。
記事によれば、長官が「眞子さまが結婚し、皇室を離れてからでは、佳子さまと仕舞いで使いが違うことになる」と「緊急性」を説明したところ、首相は「なるほど」と納得したのだそうです。
岩井記者はそのあと、渡邉前侍従長(現在は御用掛)の「私見」を紹介しています。前侍従長といえば、祭祀簡略化を何度も陛下に進言した方ですが、そのことを記録する著書『天皇家の執事』の文庫版の「後書き」の後半に、「皇位継承をめぐる問題」と女性宮家創設の提案が述べられています。
▽3 皇位継承問題についての陛下のお悩み?
岩井記者の記事は、前侍従長の文章を引用しつつ、その「私見」について。次のように説明しています。
「私が侍従長としてお仕えしていた期間のほとんどは、皇位継承をめぐる問題がつねに緊迫した課題として存在し続けていました。天皇陛下は、10年以上にわたって、この問題で深刻に悩み続けられました」
「それが現在では、現行の皇室典範の下で、皇太子さま、秋篠宮さま、秋篠宮家の悠仁さまが、次の次の世代まで皇位を継承なさることで落ち着いた状況になっています。私はこの段階では、それでいいのだと思います」
「いずれにせよ我々の世代は、皇位継承の問題について、一端、国論が分裂する事態を招いて、国民皆が納得する結論を得ることに失敗したわけです。従って、この問題は、将来の世代の人たちに、それぞれの時代の状況に応じて対応してもらうことに期待する以外にあり得ないと思っています」
以上の引用のあと、岩井記者は、「そのうえで、皇室典範の男系男子主義の規定はそのままにして、眞子さま、佳子さま、愛子さまら内親王方が結婚しても新宮家を創設して皇室に残ってもらう『女性宮家』案をあらためて提起している」と説明しています。
岩井記者によると、女性宮家創設案は前侍従長が数年前から「私案」としてたびたび公言してきたことで、「週刊朝日」誌上の対談でも表明してきたのだそうです。
岩井記者は、「長くもっとも身近に仕えてきた人だけに、両陛下のお気持ちを忖度しての発言だろう。今回、浮上している女性宮家問題も、こうした脈絡で見るべきだろう」と付け加えていますが、どうでしょうか?
もしそうだとしたら、祭祀簡略化も「陛下のお気持ちを忖度」したうえでのことになりますが、それはあり得ません。
▽4 原文はそうなっていない
岩井記者の資料の読みは、じつに独得です。
数年前、原武史教授の宮中祭祀廃止論に関連して、岩井記者が『卜部亮吾侍従日記』(朝日新聞社、平成19年)の解説に「天皇、皇后に忍び寄る衰え、その『老い』との戦いも記録されている」と記していることを、資料の誤読ではないか、と当メルマガで指摘したことがあります。
http://melma.com/backnumber_170937_4068197/
今回も同様の現象が見られます。
岩井記者の記事は、渡邉前侍従長が、皇位継承問題について将来の世代への期待を語り、「そのうえで」女性宮家創設案をあらためて提起していることになっています。つまり、皇位継承問題と女性宮家創設案が直線的につながっているように説明されているのですが、原文はそうはなっていないのです。
前侍従長の「皇室の将来を考える──文庫版のための後書き」は、先述したように、皇位継承問題を取りあげたあと、「現在、それとは別の次元の問題として」と前置きしたうえで、「急いで検討しなければならない課題」として女性宮家創設案に話を進めています。
岩井記者には皇位継承問題と女性宮家創設は同じ問題ですが、前侍従長にとっては「別の次元」なのです。
実際、前侍従長が説明する女性宮家創設は皇位継承とは無関係で、その必要性は次のように説明されています。
「もし、現行の皇室典範をそのままにして、やがて、すべての女性皇族が結婚なさるとなると、皇室には悠仁さまお一人しか残らないということになってしまいます。
皇室は国民との関係で成り立つものです。天皇皇后両陛下を中心に、何人かの皇族の方が、両陛下をお助けする形で手分けして国民との接点を持たれ、国民のために働いてもらう必要があります。そうでなければ、皇室が国民とは遠く離れた存在となってしまうことが恐れられます。
そこで、たとえば、内親王様が結婚されても、新しい宮家を立てて皇室に残られることが可能になるように、皇室典範の手直しをする必要があると思います」
以上のように述べたあと、眞子さまが成人されたことに触れて、緊急性を訴え、最後に「繰り返しになりますが、この問題は皇位継承の問題とは切り離して考えるべきで、皇室典範の皇位継承に関する規定はそのままにしておけばいいのです」と念を押しています。
▽5 男系皇統が終わる
前侍従長の提案はご公務を分担する皇族の確保ですが、岩井記者の記事にはそのことについての説明がまったくありません。
そのあと岩井記者は、「宮家」創設と表現すれば、皇位継承問題に結びつくから、「内親王家」の認否と言い換えることを提案しています。
自分で最初に「女性宮家」創設問題を「皇位継承の問題」と明確に位置づけておきながら、またしても議論をねじ曲げようとしているように見えますが、結局のところ、議論は皇位継承論にもどり、最後に、皇室典範有識者会議の座長代理で、『皇室法概論』の著書もある園部逸夫元最高裁判事に、次のように語らせています。
「夫、子が民間にとどまるというわけにはいかないから、歴史上はじめて、皇統に属さない男子が皇族になる。問題はどういう男性が入ってくるか。また、その子が天皇になるとしたら男系皇統は終わる。女性宮家は将来の女系天皇につながる可能性があるのは明らか。たくさんの地雷原を避けながら条文化し着地できるかどうか。(結婚による女子の皇籍離脱を定めた)典範第12条の効力を一時停止する時限立法を妥協で図るのも一案でしょう。皇室会議のほかに皇族会議を設け、天皇陛下の下で相談してもらうのもいいかも知れない」
そのあと園部元判事は雅子非問題に言及しているのですが、引用は不要でしょう。妃殿下のご病気は平成11年暮れの岩井記者自身による「懐妊兆候」報道が発端だったはずです。4週目という不安定な時期を十分に配慮しない報道が、流産という悲しむべき結果を招いたことがすべての発端です。要するにマッチポンプです。
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ねじ曲げられた前侍従長の提案
──岩井克己朝日新聞記者の「女性宮家」論を読む
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あけましておめでとうございます。
今年最初のメルマガです。テーマはひきつづき、いわゆる女性宮家創設です。
読売新聞電子版が元日に伝えたところでは、「政府は、当主となる皇族女子の夫にも皇族の身分を付与する方向で調整に入った」のだそうです。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111231-OYT1T00536.htm
前回、ご紹介したように、小嶋和司教授(故人。憲法学)によれば、明治の皇室典範は「皇族」身分の条件を明記せず、さらには臣籍出身の后妃も「皇族」とし、皇位継承資格者としての「皇族」と待遇身分としての「皇族」とを混同させ、本質をぼやけさせてしまいました。
その背景にあるのは、王朝の支配という観念の希薄さでしたが、女系継承に道をひらく今回の動きは、むしろ王朝の支配に対する挑戦でしょうか?
女性の場合、近代以降、皇室に嫁ぐことによって皇族の一員としての待遇を受けられることになったのですが、もし今回の改正が実現すれば、男性の場合も同様となり、いわば「すべて国民はひとしく皇族になれる権利を有する」ということになります。
誰でも皇族になれるというのなら、もはや「皇族」とはいいがたく、平たい言葉でいえば「ありがたみ」もなくなり、「象徴」の機能も果たせなくなるでしょう。ところが、不思議にも、「女性宮家」創設を求める声は、皇室の尊厳を守るべき立場の、陛下のお側近くから、もっとも大きく聞こえてきます。
というより、より正確にいえば、そのように曲げて報道されています。作為的な誤報でしょうか?
▽1 女性宮家創設の提案者は渡邉前侍従長
たとえば「週刊朝日」12月30日号に掲載された、当代随一の皇室ジャーナリスト・岩井克己朝日新聞編集委員による「女性宮家」創設提案の記事に、そのことが端的にうかがえます。
この号は、表紙には「天皇、皇后両陛下も嘆く『皇室の危機』 内親王家創設を提案する」と大書され、本文は岩井記者による4ページの記事に加え、宮内庁関係者や皇室ジャーナリスト計5人による「天皇家の不安と雅子さま」と題する誌上座談会4ページを載せ、さながら皇室特集号の様相です。
岩井記者の記事のタイトルは「『内親王家』創設を提案する」ですが、記事を読むと「提案」しているのは、じつは岩井記者ではなく、平成の宮中祭祀簡略化の中心人物である渡邉允前侍従長だということが分かります。
記事の冒頭、岩井記者は、皇室がさまざまな困難に苛まれているなか、昨年末、浮上したのが「天皇定年制」と「女性宮家創設案」だと指摘します。
「天皇定年制」については、岩井記者は、秋篠宮殿下のご発言の真意を探ったあと、そもそも終身天皇制のもとで定年制の制度化はあり得ず、当面、摂政や国事行為の臨時代行も考えられない。したがって、「宮内庁は天皇の公務つまり『公的行為』や祭祀・私的活動などの抜本的見直しに早急に着手すべきだ」と訴えています。
ご公務の抜本的見直しは必要で、宮内庁としてはすでに数年前から具体策を講じています。けれども、当メルマガが指摘してきたように、実際には、ご公務の日数は逆に増え、祭祀のお出ましばかりが激減したという経緯があります。
なぜそうなのか、が問われるべきなのですが、岩井記者の記事には言及がありません。
昨年末、陛下のご入院のとき、国事行為などご公務は皇太子殿下と秋篠宮殿下が分担してお務めになりました。それができるなら、もっと早い段階で陛下のご負担は軽減できたはずです。
▽2 文庫本の「後書き」につづられた「私見」
つぎに「女性宮家創設案」について、と話を進めるべきところですが、たいへん興味深いことに、岩井記者は「一方の皇位継承の問題については……」と文章を続け、悠仁親王が即位しているころ、女性皇族が次々に皇籍離脱していけば宮家は消滅している恐れがある、と論を展開しています。
前々回、「AERA」の記事を取りあげ、批判しました。同誌の場合は、皇族女子が婚姻後も皇族身分を維持する目的は、ご公務を担う「人手不足」の解消にありました。ところが、岩井記者の記事ではそうではなく、ずばり皇位継承問題だとされています。
たしかに考えてみれば、ご公務の「人手不足」解消であるなら、先述したように、ご公務の抜本的見直しをせよ、と主張すれば足りるわけで、「女性宮家」創設は必ずしも必要ではありません。
ともあれ、岩井記者によれば、羽毛田信吾宮内庁長官は歴代首相に対して、所管事項を説明する際、女性皇族の皇籍離脱と宮家消失の恐れについて「危機感を訴えてきた」のでした。
野田内閣成立から1か月後の10月5日、長官は首相に所管事項の説明をし、これが女性宮家創設の提案と報道され、一部では「陛下のご意向」と取り沙汰されたが、「いずれも羽毛田長官は強く否定している」と岩井記者は書いています。
記事によれば、長官が「眞子さまが結婚し、皇室を離れてからでは、佳子さまと仕舞いで使いが違うことになる」と「緊急性」を説明したところ、首相は「なるほど」と納得したのだそうです。
岩井記者はそのあと、渡邉前侍従長(現在は御用掛)の「私見」を紹介しています。前侍従長といえば、祭祀簡略化を何度も陛下に進言した方ですが、そのことを記録する著書『天皇家の執事』の文庫版の「後書き」の後半に、「皇位継承をめぐる問題」と女性宮家創設の提案が述べられています。
▽3 皇位継承問題についての陛下のお悩み?
岩井記者の記事は、前侍従長の文章を引用しつつ、その「私見」について。次のように説明しています。
「私が侍従長としてお仕えしていた期間のほとんどは、皇位継承をめぐる問題がつねに緊迫した課題として存在し続けていました。天皇陛下は、10年以上にわたって、この問題で深刻に悩み続けられました」
「それが現在では、現行の皇室典範の下で、皇太子さま、秋篠宮さま、秋篠宮家の悠仁さまが、次の次の世代まで皇位を継承なさることで落ち着いた状況になっています。私はこの段階では、それでいいのだと思います」
「いずれにせよ我々の世代は、皇位継承の問題について、一端、国論が分裂する事態を招いて、国民皆が納得する結論を得ることに失敗したわけです。従って、この問題は、将来の世代の人たちに、それぞれの時代の状況に応じて対応してもらうことに期待する以外にあり得ないと思っています」
以上の引用のあと、岩井記者は、「そのうえで、皇室典範の男系男子主義の規定はそのままにして、眞子さま、佳子さま、愛子さまら内親王方が結婚しても新宮家を創設して皇室に残ってもらう『女性宮家』案をあらためて提起している」と説明しています。
岩井記者によると、女性宮家創設案は前侍従長が数年前から「私案」としてたびたび公言してきたことで、「週刊朝日」誌上の対談でも表明してきたのだそうです。
岩井記者は、「長くもっとも身近に仕えてきた人だけに、両陛下のお気持ちを忖度しての発言だろう。今回、浮上している女性宮家問題も、こうした脈絡で見るべきだろう」と付け加えていますが、どうでしょうか?
もしそうだとしたら、祭祀簡略化も「陛下のお気持ちを忖度」したうえでのことになりますが、それはあり得ません。
▽4 原文はそうなっていない
岩井記者の資料の読みは、じつに独得です。
数年前、原武史教授の宮中祭祀廃止論に関連して、岩井記者が『卜部亮吾侍従日記』(朝日新聞社、平成19年)の解説に「天皇、皇后に忍び寄る衰え、その『老い』との戦いも記録されている」と記していることを、資料の誤読ではないか、と当メルマガで指摘したことがあります。
http://melma.com/backnumber_170937_4068197/
今回も同様の現象が見られます。
岩井記者の記事は、渡邉前侍従長が、皇位継承問題について将来の世代への期待を語り、「そのうえで」女性宮家創設案をあらためて提起していることになっています。つまり、皇位継承問題と女性宮家創設案が直線的につながっているように説明されているのですが、原文はそうはなっていないのです。
前侍従長の「皇室の将来を考える──文庫版のための後書き」は、先述したように、皇位継承問題を取りあげたあと、「現在、それとは別の次元の問題として」と前置きしたうえで、「急いで検討しなければならない課題」として女性宮家創設案に話を進めています。
岩井記者には皇位継承問題と女性宮家創設は同じ問題ですが、前侍従長にとっては「別の次元」なのです。
実際、前侍従長が説明する女性宮家創設は皇位継承とは無関係で、その必要性は次のように説明されています。
「もし、現行の皇室典範をそのままにして、やがて、すべての女性皇族が結婚なさるとなると、皇室には悠仁さまお一人しか残らないということになってしまいます。
皇室は国民との関係で成り立つものです。天皇皇后両陛下を中心に、何人かの皇族の方が、両陛下をお助けする形で手分けして国民との接点を持たれ、国民のために働いてもらう必要があります。そうでなければ、皇室が国民とは遠く離れた存在となってしまうことが恐れられます。
そこで、たとえば、内親王様が結婚されても、新しい宮家を立てて皇室に残られることが可能になるように、皇室典範の手直しをする必要があると思います」
以上のように述べたあと、眞子さまが成人されたことに触れて、緊急性を訴え、最後に「繰り返しになりますが、この問題は皇位継承の問題とは切り離して考えるべきで、皇室典範の皇位継承に関する規定はそのままにしておけばいいのです」と念を押しています。
▽5 男系皇統が終わる
前侍従長の提案はご公務を分担する皇族の確保ですが、岩井記者の記事にはそのことについての説明がまったくありません。
そのあと岩井記者は、「宮家」創設と表現すれば、皇位継承問題に結びつくから、「内親王家」の認否と言い換えることを提案しています。
自分で最初に「女性宮家」創設問題を「皇位継承の問題」と明確に位置づけておきながら、またしても議論をねじ曲げようとしているように見えますが、結局のところ、議論は皇位継承論にもどり、最後に、皇室典範有識者会議の座長代理で、『皇室法概論』の著書もある園部逸夫元最高裁判事に、次のように語らせています。
「夫、子が民間にとどまるというわけにはいかないから、歴史上はじめて、皇統に属さない男子が皇族になる。問題はどういう男性が入ってくるか。また、その子が天皇になるとしたら男系皇統は終わる。女性宮家は将来の女系天皇につながる可能性があるのは明らか。たくさんの地雷原を避けながら条文化し着地できるかどうか。(結婚による女子の皇籍離脱を定めた)典範第12条の効力を一時停止する時限立法を妥協で図るのも一案でしょう。皇室会議のほかに皇族会議を設け、天皇陛下の下で相談してもらうのもいいかも知れない」
そのあと園部元判事は雅子非問題に言及しているのですが、引用は不要でしょう。妃殿下のご病気は平成11年暮れの岩井記者自身による「懐妊兆候」報道が発端だったはずです。4週目という不安定な時期を十分に配慮しない報道が、流産という悲しむべき結果を招いたことがすべての発端です。要するにマッチポンプです。
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