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「1・5代」象徴天皇制度下の「女性宮家」創設──有識者ヒアリングを読む その2 [女性宮家]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2012年6月3日)からの転載です


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「1・5代」象徴天皇制度下の「女性宮家」創設
──有識者ヒアリングを読む その2
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 引き続き、「女性宮家」有識者ヒアリングの資料を読みたいと思います。

 今日は、百地章日大教授(憲法学)と市村眞一京大名誉教授(経済学)です。お二方とも、私にとっては、個人的な恩義のある方です。であればこそ、あえて批判的に検証したいと考えた次第です。

 官邸のホームページには、今年2月から、これまで5回、開かれているヒアリングの議事録と配付資料が載っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koushitsu/yushikisha.html

 さっそく開いてみます。


▽1 皇位継承論を展開した百地教授

 百地教授のヒアリングは4月10日に、櫻井よし子氏(ジャーナリスト)のヒアリングのあとに、行われました。

 ヒアリングの質問項目は、前回、書きましたように、(1)象徴天皇制度と皇室の御活動の意義、(2)今後、皇室の御活動の維持が困難となることについて、など6項目です。要するに、皇室の御活動の維持が必要だけれども、今後、女性皇族の婚姻によって皇族の数が減少し、御活動が維持できなくなる懸念があるから、皇室典範を緊急に改正し、女性皇族が婚姻後も皇室に残れるようにしたい、というのが政府の見解で、これについて、意見が求められたのでした。

 百地教授の意見の論点は、議事録および配付資料によると、(1)「女性宮家」創設論への疑問、(2)憲法第2条「皇位の世襲」について、(3)陛下の御公務御負担軽減論について、(4)元皇族の皇籍復帰について、の4点でした。

 まず、(1)の「女性宮家」創設論についてですが、百地教授は、本来、皇位継承者を確保し、皇統の危機に備えるのが「宮家」なのだから、「女性宮家」は意味を持たない、などと疑問点をきびしく指摘しています。

 おっしゃっていることに間違いはありませんが、百地教授の主張はほとんどが皇位継承に関する議論でした。

 政府のヒアリングの目的は、皇位継承論ではありません。「今回の検討は緊急性の高い皇室の御活動の維持と女性皇族の問題に絞り、皇位継承問題とは切り離して行う」と断っているように、あくまで「皇室の御活動」維持論なのでした。また、ヒアリングの趣旨を説明する政府側の資料には、「女性宮家」という表現もありません。

 にもかかわらず、なぜ百地教授は「女性宮家」という表現を用い、皇位継承論を展開するのか、そこが重要で、政府の発問こそ問われるべきなのですが、百地教授の説明は十分ではないように思います。

 第2点目として、百地教授は(3)の、陛下の「御公務御負担軽減」論についての部分で、御公務そのものを縮小すべきだ、などと切り込んでいます。天皇皇后両陛下の御公務は膨大で、御負担軽減は喫緊の課題だが、その解決策として「女性宮家」創設をあげるのは本末転倒だ、というのです。

「皇室の御活動」の意味が不明確である、これが御公務をさすのだとすれば、「女性宮家」創設ではなく、国事行為の代行や象徴行為の整理縮小を議論すべきだ、と百地教授は主張するのです。

 百地教授は、御負担軽減の名目で、祭祀の簡略化が進行している点についても、「由々しき事態」と強く批判しています。

 まったくおっしゃるとおりで、憲法が規定する天皇陛下の国事行為ならいざ知らず、天皇の象徴行為(公的行為)、皇后陛下の御公務、皇族方の御活動は、法的に明文化されているわけでもありません。皇室の御活動の維持という目的論がそもそもおかしいのです。

 したがって、政府が目的と考える「皇室の御活動」とは具体的に何か、が問われるべきであり、なぜいま、「皇室の御活動」維持を目的として、「女性宮家」創設論が政府内に生まれてきたのか、が追及されるべきなのですが、少なくとも今回の百地教授のヒアリングでは、その部分は見えてきません。


▽2 賛意を示した市村名誉教授

 次に、4月23日に行われた、市村京大名誉教授(経済学)のヒアリングです。

 市村名誉教授の所見は、政府側の6つの質問項目に沿って述べられています。

 まず、(1)の皇室の御活動の意義について、ですが、市村名誉教授は、カール・レーベンシュタインの『君主制』を引用し、(1)国家と国民統合を象徴的に具現する、(2)政治家の権力欲を抑制する、など、立憲君主制下の君主・王族の持つ、6つの役割と意義を紹介したうえで、現行憲法下で、両陛下や皇族方がこの役割を立派に果たされていること、その基盤には国民との相互的な信頼関係、国民の敬仰の念があることを、指摘しています。

 市村名誉教授は、皇室と国民とのみごとな相互関係が歴代天皇、今上陛下のご努力の結果であり、すなわち、天皇の祭祀、国事行為、公式行事へのお出まし、さらに皇族方の御活動が国民の敬仰・信頼の根源であると理解しています。

 そのうえで、今後、宮家というものがなくなると皇室の御活動がだんだん困難になり、立憲君主制の根幹が揺らぐ、したがって、制度的に一定数の宮家を確保できるよう、典範を緊急改正する必要があることは明らかだと述べ、政府の「女性宮家」創設に賛意を表明する同時に、中期的対策のための調査会を設置することを提言しています。

 市村教授はこのほか、皇室の御活動維持のために、すでに臣籍降下された皇族方、これから臣籍降下される皇族方が、必要に応じて、内親王・女王の称号を保持できるようにする典範改正が望ましいと語り、反面、占領期に臣籍降下された元皇族の復帰は緊急には認められるべきではないと主張し、また、明治天皇と昭和天皇の内親王が降嫁された朝香宮家、東久邇宮、竹田宮家、北白川宮家の4宮家を復活させることが妥当か否かについて問題点を指摘しています。

 さらに、慎重で、専門的、かつ真剣な、そしてセンセーショナルではない議論の必要性を求めています。

 このように市村名誉教授は、政府の「女性宮家」創設論と同様に、皇室の御活動の維持、さらに皇室の規模の維持という観点から、内親王・女王を当主とする宮家の創設を、皇室典範の改正によって実現することに賛成しているのですが、現行典範の長期展望の欠落という欠陥を指摘し、さらに皇統論にまで発展させています。

 一点だけ、批判を試みると、天皇の制度が古来、強固に続いていることについて、市村名誉教授が、天皇と国民との相互の信頼関係を指摘されたのは重要です。天皇の存在の一方で、国民の根強い天皇意識があればこそ、制度は連綿と続いてきたのでしょう。

 しかしながら、それは市村名誉教授がお考えのように、天皇や皇族方の御活動によって形成されてきた、というわけではないはずです。天皇あるいは皇族方が社会的に活動されるのは、すぐれてヨーロッパ的、近代的な現象です。皇室の御活動の維持が議論されていることこそが、まさに近代的なのだと思います。

 天皇は古来、公正かつ無私なる祈りの存在として知られてきました。そして、国民の天皇意識は神話や伝承、地名、年号、年中行事、文学、音楽などによって、広く、深く培われてきました。したがって、宮家がなくなり、皇室の御活動が困難を来すことによって、ただちに立憲君主制の根幹が揺るがされる、というような論理は、僭越ながら、一面的といわざるを得ないのではありませんか?

 極端に言えば、たぶんレーベンシュタインには理解が及ばないところでしょうが、生身の肉体を持った天皇がおられない、空位の時代でさえ、天皇の制度は続いてきたのです。


▽3 お二方に共通する視点の欠落

 以上、きわめて簡単に、百地教授と市村名誉教授のヒアリングを読んでみました。お一方は「女性宮家」創設反対、もうお一方は賛成で、立場は異なるのですが、じつはお二方に共通して欠けている視点があります。

 第1点は、すでに書いたように、なぜいま「女性宮家」なのか、という現代史的な視点と追及が見当たらないことです。

 当メルマガが明らかにしてきたように、一般メディアに「女性宮家」なる用語が登場したのはたかだか10年です。けれども、やがてそれは表舞台から消え、先の皇室典範有識者会議の報告書にも載っていません。

 しかし、ご在位20年を過ぎたころから、すなわち、ちょうど御公務御負担軽減の標的として祭祀簡略化が開始されたころから、そして、とりわけ昨年秋ごろから、ふたたび、そして急速に世間の耳目に触れ、広まりました。それはなぜなのか、です。

 2点目は、お二方とも皇位継承論、皇統論に踏み込んで議論しています。政府の質問は皇室の御活動維持が目的でしたが、女性皇族が婚姻後も皇室にとどまるのなら、皇位継承問題への発展は避けられないという認識があります。

 けれども、少なくとも表向きの政府の理解は異なります。政府は「今回の検討は緊急性の高い皇室の御活動の維持と女性皇族の問題に絞り、皇位継承問題とは切り離して行う」と断りを入れています。なぜ「切り離す」のか?

 もともと、宮内庁、内閣法制局、内閣官房が始めた典範改正の極秘作業では、女性天皇容認と「女性宮家」創設容認が「2つの柱」であり、もともとは「1つの柱」だったことが明らかにされています。

「女性天皇を認めた場合、一般の女性皇族にも皇位継承権があり、基本的には結婚しても皇室に残ることになる。つまり、必然的に女性宮家が認められる。いわば、女性天皇と女性宮家は表裏の関係で、検討案の『2つの柱』は、突き詰めると1つと見なせる」(森暢平「女性天皇容認!内閣法制局が極秘に進める。これが「皇室典範」改正草案」=「文藝春秋」2002年3月号)からです。

 切り離せないからこそ、「女性宮家」という表現が消えた有識者会議の報告書にも、「現行制度では、皇族女子は天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れることとされているが、女子が皇位継承資格を有することとした場合には、婚姻後も、皇位継承資格者として、皇族の身分にとどまり、その配偶者や子孫も皇族となることとする必要がある」(「3、皇族の範囲」)と、内容がはっきりと盛り込まれています。

 つまり、「女性宮家」創設論は、女性天皇・女系継承容認論と一体のかたちで、10年以上、続いてきた議論なのでした。それがいま、なぜ「皇室の御活動」維持に目的性を変え、にわかに浮上してきたのか。それが見えなければ、政府のお膳立てに乗って、ヒアリングに応じるほかはありません。

 3番目は、政府が「女性宮家」創設の目的とする、維持されるべき「皇室の御活動」とは、具体的に何か、です。

 百地教授は、天皇の国事行為、象徴行為について言及しましたが、天皇の御公務と皇室の御活動は同じではありません。歴史にない「女性宮家」をも創設して、維持しなければならない「皇室の御活動」とは具体的に何をさすのか、政府の質問は明確でありませんが、それについての踏み込みが十分とはいえません。

 百地教授はまだしもで、市村先生の場合は、「陛下の祭祀の御奉仕・国事行為・各地での公式行事へのお出まし等や皇族方の同様の御活動」とひとくくりにされています。

 具体的な内容の想定や検討なしに、議論をしても始まりませんが、政府はヒト、モノ、カネをつぎ込んで、典範改正に向けて、ヒアリングを開始させました。なぜなのか?


▽4 「皇室の御活動」という名の「***判」

 もう一度、政府の資料に目を向けてみます。ヒアリング事項の筆頭に置かれているのは、「象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について」でした。

 政府の発想は、とりわけ民主党政権下の発想は、現行憲法下の「象徴天皇制度」の維持であり、けっして古代から連綿と続く天皇の制度ではありません。その本質は、宮澤俊義東大教授(憲法学。故人)が言い切ったように、「憲法に書いてある天皇の行為は、すべて儀礼的・***判(斎藤吉久注。差別用語ということで、ネットに載らないため、伏せ字にしました)的なもの」(『憲法と天皇──憲法二十年(上)』UP選書、1969年)という理解なのではありませんか?

 羽毛田長官は皇族の意見も聴かないままに女帝容認の皇室典範改正を急ぎ、民主党政権に秋波を送り、鳩山内閣は中国の習近平副主席のゴリ押し天皇会見を強行し、菅内閣は歌会始の日に内閣を改造したことがあらためて思い起こされます。

 ゴリ押し会見の是非が問われたとき、小沢幹事長(当時)などは「天皇陛下の行為は、国民が選んだ内閣の助言と承認で行われるんだ、すべて。それが日本国憲法の理念であり、本旨なんだ」と記者会見で言い放っています。

 天皇に「***判」を押させる現行憲法の解釈・運用こそが、「女性宮家」創設を推進させているのではないでしょうか? 皇室の御活動の維持とは、まさに「***判」なのです。だとすれば、内容の吟味は不要です。

 ちょうど1年前、参院予算委員会で、山谷自民党議員が枝野内閣官房長官に「今上陛下は第何代か?」と質問したところ、枝野長官が「知らない」と答えたことが話題になりました。多くは長官の無知がさらけ出されたという理解でしたが、別の見方もできます。

 つまり、今上天皇は「125代」ではなく、「1・5代」という立場を、政府は採っているということです。

 たとえば、「女性宮家」創設をたびたび表明してきたといわれる渡邉前侍従長は、「今上陛下はご即位のはじめから現憲法下の象徴天皇であられた」(雑誌「諸君!」20年7月号掲載のインタビュー)と述べています。

 昭和天皇は在位の途中から、ですが、今上天皇ははじめから、象徴天皇制度の下での象徴天皇だという理解です。

 もし「125代」だとすれば、歴史的な枠組みで天皇の制度を考えなければなりません。けれども、現行憲法下での「1・5代」の象徴天皇制度なら、歴史にない「女性宮家」の創設も、悠久なる天皇の歴史とは無関係に進めることができます。皇室の御活動の維持も、現行憲法を出発点として考えればすむことです。

 考えてもみてください、天皇の国事行為はともかく、社会福祉やスポーツ振興などに関する皇族方の御活動はそれぞれの皇族方がほとんど自発的に行っていることで、政府が法改正してまで、立ち入るべき領域ではありません。政府のいう「皇室の御活動の維持」が便法に過ぎないことは明らかでしょう。
 
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