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悠久なる皇室の伝統から切り離された「ご葬儀の簡素化」──「女性宮家」創設反対派の論理が助長する!? [女性宮家創設論]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2012年7月16日)からの転載です

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悠久なる皇室の伝統から切り離された「ご葬儀の簡素化」
──「女性宮家」創設反対派の論理が助長する!?
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 前回の続き、いわゆる「女性宮家」創設反対派による反対論の中味に関する検証をしたいと思います。簡単にいうと、反対派は何を反対しているのか、有効な反対論を展開できているのか、ということです。

 本論の前に言及したい、宮内庁周辺をめぐる最近の動きが、2点あります。


▽1 期待はずれ、「文藝春秋」前医務主管インタビュー

 1点は、「文藝春秋」8月号に掲載されている、「天皇皇后両陛下の主治医として」と題する、金澤一郎前宮内庁医務主管のインタビュー記事です。聞き手は、当代随一の皇室ジャーナリスト、岩井克己元朝日新聞記者です。
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/396

 端的にいえば、私としては、期待はずれでした。

 陛下の心臓外科手術では、恒例の御拝が行われる建国記念の日の2月11日に検査が行われ、親拝が行われるはずの祈年祭の17日にご入院という日程が組まれましたが、なぜそのような日程となったのか、少なくとも記事本文には言及がありません。

 聞いた方も聞かれた方も、問題意識がないのでしょうか?

 あるいは、歴代天皇が第一のお務めと信じ、実践されてきた宮中祭祀を二の次にし、いわゆるご公務やご自身の健康問題を優先するかのような日程が組まれるのは、医務主管とは別の部署で決まっているということでしょうか?

 宮内庁が平成20年にご公務ご負担の軽減のためと称して、宮中祭祀の簡略化に乗り出したのは、陛下のご高齢とご健康問題が理由でした。つまり、医師の診断が根拠となり、祭祀の簡略化が実行されたという説明で、それであればこそ、国民も納得したはずです。

 けれども、もし侍医団の判断とは無関係に祭祀簡略化が決定され、実行されているのだとすれば、医学的理由は後付の理由に過ぎないことになり、話はまったく変わります。

 これは追及されなくてはなりません。

 もうひとつ、金澤氏が、陛下のご心労について、皇統の問題、皇太子妃殿下のご病状に関すること、前立腺ガンのこと、の3つある、と指摘していることも、私には違和感があります。これでは、自分たちのことしか考えていない、ということになりかねないからです。公正かつ無私なる天皇という大原則に反します。

 国と民のために祈ることを第一のお務めとし、国民と苦楽を共にし、命をも共有しようとする天皇のお立場を深く理解することは、医務主管というポストでは限界があるのかも知れません。


▽2 「悪しき先例」を踏襲し、さらに簡略化

 2点目は、報道で伝えられている「両陛下の葬儀」の「簡素化」について、です。

 メディアの報道によると、4月末来、検討を進めている宮内庁が、葬場殿の儀を皇居・東御苑で行うことが可能かどうか、検討していることを、風岡長官が先週木曜日の記者会見で明らかにしたようです。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120714-OYT1T00004.htm
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/312526
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120712/k10013546031000.html

 気になることは、これも2つあります。

 ひとつは、「陛下のご意向」について、です。

 報道では、今上天皇は、火葬を希望され、ご自身の御大喪に関して、できるだけ国民生活への影響が少ないものにしたい、という「ご意向」を示されているといわれます。したがって、昭和天皇の御大喪が挙行された新宿御苑が2カ月半にわたって閉鎖されたことを改め、設営費や警備費の軽減を図るというのが、宮内庁の考えのようです。

 一応は理解できるのですが、おかしいのは、「ご意向」のつまみ食いが行われているという疑いがあることです。小泉内閣時代、皇位継承問題について検討した有識者会議でも、現在、行われている皇室制度有識者ヒアリングでも、皇族方の意見に耳を傾けようとしていないのに、なぜこの葬儀問題については、「ご意向」が優先されるのでしょうか?

 昭和から平成への御代替わりで、政府は参考人15人の意見を聞きました。皇室典範有識者会議では識者のヒアリングが行われた一方、有識主会議の吉川座長は「皇族から意見を聞くことは憲法違反」と言い放ち、寛仁親王殿下が男系継承維持を希望されると羽毛田宮内庁長官(当時)は「皇室の方々は発言を控えていただくのが妥当」と口封じまでしたと伝えられています。「女性宮家」創設問題についても皇族のなかから異論が出ていますが、積極的に耳を傾けようという姿勢は政府・宮内庁にはうかがえません。

 にもかかわらず、「ご葬儀」問題では、なぜ、最初に「ご意向」あり、なのか? 「ご意向」といえば、国民は黙ると宮内庁の官僚たちは考えたのでしょうか?

 2つ目は、昭和から平成への御代替わりで演じられた「悪しき前例」が繰り返されるだけでなく、さらに簡略化されるとなると、皇室の歴史と伝統は完全に吹き飛んでしまいかねないということです。

 報道では「風岡長官は今後、大喪の礼を管轄する内閣府とも相談していく方針を示した」ということですから、昭和天皇の御大喪で皇室行事の葬場殿の儀と政府の大喪の礼が分離して行われた二分方式が踏襲されることが、政府内では決まっているのでしょう。

「文藝春秋」2月号で私が担当した永田忠興元宮内庁掌典補インタビューは、昭和から平成への御代替わりにおいて、悠久なる皇室の歴史にそぐわない、さまざまな不都合が起きたことを明らかにしました。
http://melma.com/backnumber_170937_5540785/
http://melma.com/backnumber_170937_5545530/

 政府・宮内庁には準備態勢がなく、原理・原則も失われていました。戦前は皇室令による事細かな取り決めがありましたが、戦後は現行憲法の施行に伴い、皇室令はすべて廃止されました。国の象徴であり、国民統合の象徴と憲法に定められる天皇に関して、もっとも重要な皇位の継承について、現行法規は具体的規定を持たない状況となったのです。

 いや、より正確にいえば、昭和50年8月までは皇室令の中味は生きていました。昭和22年5月の宮内府長官官房文書課長高尾亮一名による依命通牒で、「従前の規定が廃止となり、新しい規定ができていないものは、従前の例に準じて事務を処理すること」とされたからです。

 であればこそ、祭祀の伝統は続いてきました。ところが、50年8月15日の宮内庁長官室会議で依命通牒は破棄され、以後、「宮内庁関係法規集」から消えました。こうして宮中行事の明文的根拠が失われたのです。

 依命通牒が反故にされることがなければ、昭和から平成への御代替わりにおいて泥縄的な政府の検討は不要でしたし、今日、宮内庁内で行われているという、「ご意向」を錦の御旗にした「簡素化」の検討も必要なかったのではありませんか?

 百歩譲ったとして、いまどういう検討方法が採られているのか、分かりませんが、1年程度の内部検討で決めるべきことなのでしょうか? 御代替わりのあり方はそれほど軽いのでしょうか?


▽3 求められる宮中祭祀の学問的探究

 さて、長くなってしまったので、簡単にまとめます。

 金澤医務主管インタビューと「ご葬儀の簡素化」には共通点があります。それは、天皇の祭祀とは何か、したがって、天皇とは何か、という本質論の探究がいっこうに深まっていないのではないかという疑いです。

 そのことは、前回、検証した、「女性宮家」創設反対論者にも共通します。

 たとえば百地章日大教授は、『政教分離とは何か』(成文堂、1997年)で、御代替わりの中心的儀礼である大嘗祭の本質について、天皇が稲の新穀を神前に供え、みずから召し上がる農耕儀礼的側面を重視する説と、真床覆衾(まどこおぶすま)にくるまれて皇祖神と一体化することを重視する説とがある、というように説明しています。

 拙著『天皇の祈りはなぜ簡略化されたか』でも、当メルマガでも、何度も申し上げてきたことなので、もう繰り返しませんが、このような理解こそ、125代にわたる天皇制度ではなく、悠久な皇室の歴史と伝統とは切り離された、1・5代象徴天皇制度的な、新しい時代の新しい御代替わりのあり方を模索する、いまの政府・宮内庁を元気づける結果になるでしょう。

 事実、天皇の祭祀は農耕儀礼だという根拠で、原武史明治学院大学教授は宮中祭祀廃止論を提起したし、なんら実体的根拠のない真床覆衾論の広がりを恐れた宮内庁は平成の御代替わりにおいて、諸儀礼の非宗教化を進めたのです。

 公正かつ無私なる天皇の祭祀こそ、日本の悠久なる歴史において、世界に稀なほど諸宗教が共存できた核心であることが、政教分離の専門家をもってしても理解できないのだとすれば、次の御代替わりはいったいどうなってしまうのでしょうか?

 もっともそのことの責任を憲法学者である百地教授に負わせるのは酷というものです。稲作儀礼論や真床覆衾論などをいまだに展開している神道学、民俗学の研究レベルの問題なのでしょう。総合的な天皇学の深まりを私が主張している所以もここにあります。

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