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支離滅裂なり!! 「女性宮家」創設の「論点整理」──変質した制度改革の目的意識 [女性宮家創設論]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2012年10月14日)からの転載です


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支離滅裂なり!! 「女性宮家」創設の「論点整理」
──変質した制度改革の目的意識
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 いわゆる「女性宮家」創設に関する「論点整理」がまとまり、10月5日、政府が公表しました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koushitsu/yushikisha.html

 けれども、議論がますますおかしいのです。

 第1点は、政府の問題意識です。


▽1 悠仁親王殿下の時代に話が飛んでいる

 2月の段階で、政府は、ヒアリングを実施する趣旨を、「現行の皇室典範の規定では、女性の皇族が皇族以外の方と婚姻された時は皇族の身分を離れることとなっていることから、今後、皇室の御活動をどのように安定的に維持し、天皇皇后両陛下の御負担をどう軽減していくかが緊急性の高い課題となっている」と説明していました。

 つまり、女性皇族の婚姻後の身分問題を検討する目的は、(1)皇室の御活動の安定的維持、(2)天皇皇后両陛下の御負担の軽減、の2つで、緊急性が高いという認識を政府は持っていました。たしかに、私が一貫して指摘してきたように、陛下の御公務は御負担軽減策の実施にもかかわらず、増えています。

 したがって、2月からの有識者ヒアリングでは、(1)象徴天皇制度と皇室の御活動の意義について、(2)今後、皇室の御活動の維持が困難となることについて、など6項目の質問事項が差し出されました。最大のキーワードは「皇室の御活動」です。

 園部逸夫内閣官房参与(元最高裁判事)はヒアリングの質問タイムでたびたび、こう発言しているほどです。

「天皇陛下の大変な数の御公務の御負担をとにかく減らさないと。それは大変な御負担の中なさっておられるわけでして、そうした天皇陛下の御公務に国民はありがたいという気持ちを抱いていると思いますが、国民として手伝えるのは天皇陛下の御公務の御負担を減らすことなんです。そのためには、どうしてもどなたかが皇族の身分をそのまま維持して、その皇族の身分で皇室のいろいろな御公務を天皇陛下や皇太子殿下や秋篠宮殿下以外の方も御分担できるようにする。そして、減らしていくというのが最大の目的です」

 御高齢になった天皇陛下の御負担軽減なら、緊急を要します。

 ところが、「論点整理」では、別の問題にすり替わっています。

「天皇陛下や皇族方は、憲法に定められた国事行為のほか、戦没者の慰霊、被災地のお見舞い、福祉施設の御訪問、国際親善の御活動、伝統・文化的な御活動などを通じて、国民との絆をより強固なものとされてきておられる」一方で、皇族女子の臣籍降嫁によって「皇族数が減少し、そう遠くない将来において皇室が現在のような御活動を維持することが困難になる事態が生じることが懸念される」。とりわけ、「悠仁親王殿下の御世代が天皇に即位される頃には、現行の制度を前提にすると、天皇の御活動を様々な形で支え、また、摂政就任資格を有し、国事行為の代行が可能な皇族がほとんどいなくなる可能性が高く、憂慮されるところである」(「問題の所在」)

 2月の段階では、「天皇皇后両陛下の御負担をどう軽減していくかが緊急性の高い課題となっている」と説明していたのに、「論点整理」では、悠仁親王殿下が皇位を継承される将来の問題に飛んでしまっています。

 これは「緊急性の高い問題」(「論点整理」)とはいえません。支離滅裂です。


▽2 「皇族」の概念が混乱している

 2つ目の混乱は、「皇室の御活動」とは何か、あるいは、「皇族」とは何か、です。もっといえば、「天皇」とは何か、です。

 今回の制度改革は「皇室の御活動」維持が目的ですが、2月の段階では、「皇室の御活動」について具体的な説明がまったくありませんでした。「両陛下の御負担」軽減を謳いながら、「両陛下の御活動」と「皇室の御活動」の関連についても説明はありません。

 そのためヒアリングでは、御活動の具体的中味について、有識者の言及はほとんどなく、「『権威』と『権力』を分離した象徴天皇制度は、我が国を安定させ、国民に深く根付いている」「国民との強い信頼関係に基づき、国家、国民統合の象徴となっている」「国際社会からも信頼と敬愛を寄せられる要因となっている」などと、抽象論にとどまっています。

 それが「論点整理」になって、ようやく具体的な「御活動」が示されるようになりました。たとえば、こう書いてあります。

「天皇陛下や皇族方は、憲法に定められた国事行為のほか、戦没者の慰霊、被災地のお見舞い、福祉施設の御訪問、国際親善の御活動、伝統・文化的な御活動などを通じて、国民との絆をより強固なものとされてきておられる」

 驚いたことに、天皇の御公務と皇族の御活動が同列に論じられています。

「天皇陛下は、日本国及び日本国民統合の象徴として、憲法に定められた国事行為のほか、様々な御活動を通じて、国民との絆を深められており、天皇陛下を支える皇族方についても、皇室と国民の間をつなぐ様々な御活動を分担されている」

 これも同じです。天皇と皇族の違い、あるいは皇族の概念が混乱しているために、天皇の国事行為、天皇の御公務と両陛下の御活動、皇族の御活動の違いが不明確になり、その結果、女性皇族との安易な「御分担」論が展開されることになります。

 本来、皇族とは、皇統に連なり、皇位継承の資格を持つ血族の集まりを意味します。現行の皇室典範第5条は皇族の範囲を、「皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする」と定めていますが、これは、小嶋和司東北大学教授(故人)が指摘しているように、明治の皇室典範が本来、「皇族」ではないはずの、臣籍出身の后妃をも「皇族」とし、皇位継承資格者としての「皇族」と待遇身分としての「皇族」とを混同させ、その本質をぼやけさせてしまったことがいまに尾を引いています。

 宮内庁のHPも同じですが、政府の「論点整理」は「天皇皇后両陛下の御活動」として、「国事行為など」「行幸啓」「外国御訪問」などを説明し、「宮中祭祀」までが「両陛下の御活動」とされています。伝統的概念からの逸脱はいうに及ばず、憲法違反の疑いさえあります。

 実際、たとえば今年2月、陛下がご入院されたとき、皇后陛下は、フィジーなどに赴任する日本大使夫妻と「お茶」に臨まれ、3月には離任するペルー大使を「ご引見」になりました。憲法は「外国の大使及び公使を接受すること」を天皇の国事行為の1つとして定めていますから、天皇陛下が皇后陛下を供奉して、外国大使を「ご引見」なさるのは理解できますが、現実には、「見なし皇族」であるはずの皇后陛下お一人による「ご引見」が行われています。

 その延長線上に、皇族身分を失った女性皇族による「皇室の御活動」の「御分担」論が生まれているのでしょう。そして、「まとめ」では、こう結論づけられています。

「象徴天皇制度の下で、皇族数の減少にも一定の歯止めをかけ、皇室の御活動の維持を確かなものとするためには、女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族の身分を保持しうることとする制度改正について検討を進めるべきであると考える」


▽3 衣の裾から鎧が見える

 さらに、「論点整理」には、「別添2」の参考資料に、「2 天皇皇后両陛下・皇族殿下の御活動」が、じつに12ページにわたって説明されています。「文仁親王同妃両殿下(秋篠宮)の御活動」「正仁親王同妃両殿下(常陸宮)の御活動」「崇仁親王同妃両殿下(三笠宮)の御活動」「寛仁親王同妃両殿下の御活動」「宜仁親王殿下(桂宮)の御活動」「憲仁親王妃久子殿下(高円宮)の御活動」が解説され、「総裁職など」の肩書きが列記されています。

 たとえば常陸宮殿下は、日本鳥類保護連盟、日本肢体不自由児協会、発明協会など数々の団体の総裁や名誉総裁をお務めで、妃殿下とともに、全国健康福祉祭や全国少年少女発明クラブ創作展などに御臨席になっています。また寛仁親王殿下は御生前、友愛十字会、ありのまま舎、恩賜財団済生会、高松宮妃癌研究基金などの総裁などをお務めで、障害者福祉、スポーツ振興などの面で幅広い活動をなさっていました。

 政府の発想としては、国民との絆を強固にしてきたこれらの御活動が、将来、皇族の規模が縮小した場合、どうなるのか、と心配しているかに見えます。

 けれども、第一に、皇族方の社会活動は、「天皇の御活動」を「分担」しているのではありません。各財団法人、社団法人にとっては名誉職でしょうから、宮様総裁が不在なら組織が成り立たないということはないでしょうし、将来、不都合が生じるなら、それは各団体が考えるべきことです。

 日本オリンピック委員会は旧皇族を会長とし、伊勢神宮では元内親王が臨時祭主をお務めですが、それぞれの事務や経費の負担については、それぞれが考えるべきことで、政府が介入すべきではないでしょう。

 それぞれの団体の活動は、行政とは直接関係のない形で行われているはずです。たとえば、皇族方の社会福祉の分野での御活動が高く評価されるのは当然ですが、政府がすべきことは社会福祉政策のいっそうの充実であって、行政とは一線を画すべき皇族方の御活動の維持を目的として、皇族の規模を確保することではないでしょう。

 制度改革が必要だとすれば、男統の絶えない皇室制度をこそ、真剣に、慎重に模索するのが、先決ではないでしょうか?

 政府はいったい、何のために、過去の歴史にない皇室制度改革に挑んでいるのでしょうか? 「論点整理」は「終わりに」で、次のように棚上げしたはずの皇位継承論に言及しています。

「なお、今回の検討では、皇室の御活動維持の観点から、緊急性の高い女性皇族の婚姻後の身分の問題に絞って議論を行ったが、現在、皇太子殿下、秋篠宮殿下の次の世代の皇位継承資格者は、悠仁親王殿下お一方であり、安定的な皇位の継承を確保するという意味では、将来の不安が解消されているわけではない。安定的な皇位の継承を維持することは、国家の基本に関わる事項であり、国民各層の様々な議論も十分に踏まえながら、引き続き検討していく必要がある」

 衣の裾から鎧が見える、ということではないのでしょうか? もともと「女性宮家」創設論は10年以上前に、女性天皇・女系継承容認論と一体のかたちで生まれたのです。

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