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概念が変更される天皇の祭祀──いちだんと簡略化が進んだ宮中新嘗祭 [宮中祭祀]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2012年12月1日)からの転載です


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概念が変更される天皇の祭祀
──いちだんと簡略化が進んだ宮中新嘗祭
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 陛下が新嘗祭をお務めになりました。簡略化がより一段と進んでいます。
http://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/h24/gonittei-1-2012-4.html

 問題点は3つ。(1)マスコミの報道内容が不正確なこと、(2)それどころか宮内庁当局が天皇の祭祀の概念を変更させていること、(3)その背後に未成熟な祭祀学研究があるらしいこと、です。

 まず、マスコミ報道について、です。

 たとえば共同通信は、「2年ぶりの拝礼」と伝えています。
http://www.47news.jp/CN/201211/CN2012112301001715.html

「2年ぶり」はまだしも、「拝礼」には違和感があります。宮中第一の重儀といわれる新嘗祭は天皇がみずから祭りをなさる「親祭」が基本だからです。

 天皇の祭祀は秘儀ですから、その内容について詮索するのは憚られますが、いったい何がどうなったのでしょうか?


▽1 御告文を奏上されなかった?

 かつて新嘗祭は11月の下卯日(三卯あれば中卯日)が祭日でした。明治天皇の大嘗祭が行われた翌年、明治5(1872)年に新嘗祭が整備され、さらに太陽暦導入で、翌6年以後は今日、「勤労感謝の日」と呼ばれる11月23日に行われることとなりました。

 7年からは新嘗祭神殿を毎年建て直すやり方から恒久施設で行われる方式に変わりました。『明治天皇紀』は、旧例墨守を批判し、「偏に実際に就くを旨」として祭儀が整備された、と記述しています。

 午後6時、「謹慎と清浄」を表現する、特別の冠に純白生絹(すずし)の祭服を召された陛下が出御(しゅつぎょ)なさいます。次いで皇太子殿下が純白の祭服で参進されます。皇后陛下ほか女性皇族のお出ましはありません。

 陛下は、脂燭以外、照明のない、暖もない広間に1人端座され、古来の作法に従って、ピンセット型の竹の箸を用い、数々の神饌を、みずから1時間以上かけて、神前にお供えになります。

 なかでも重要とされるのが、その年に収穫された新米・新粟を炊いた米の御飯(おんいい)・御粥、粟(あわ)の御飯・御粥、および新米をもって醸造した白酒(しろき)・黒酒(くろき)の新酒です。

 御飯は葛の皮を編んだ葛筥(くずばこ)に納められています。蓋(ふた)をとると、なかに御飯と御粥をそれぞれ盛った窪椀(くぼて)があります。御飯は甑(こしき)で蒸した強飯(こわいい)で、米、粟各2盛。1盛は神前に供され、もう1盛は陛下が直会(なおらい)で召し上がるためのものです。

 東京・渋谷にある國學院大學の神道資料館に行くと、宮中新嘗祭に用いられる祭具のレプリカを間近に見ることができます。
http://www.kokugakuin.ac.jp/oard/4_n0008.html

 神饌御進供(しんく)ののち、陛下は恭しく拝礼され、御告文(おつげぶみ)を奏され、五穀豊穣を感謝されるとともに、国の平安と民の安寧を祈られます。

 続いて陛下は、新穀の御飯と新酒の白酒・黒酒を召し上がります。直会です。

 この「夕(よい)の儀」が終了して、3時間後、陛下がふたたびお出ましになり、2時間の神事が繰り返されます。これが「暁の儀」です(八束清貫「皇室祭祀百年史」など)。

 共同通信の報道では、「夕の儀」「暁の儀」ともに「出席時間」が30分に短縮され、「短縮形式の拝礼」となったというのですが、とすると、陛下は御告文を奏上なさらなかったということでしょうか? そんなことがあり得るのでしょうか?


▽2 「あり得ない」ことが起きている?

 宮内庁はこの数年、陛下のご健康問題を理由として、御公務軽減策を打ち出し、祭祀の簡略化を進めています。

 平成21年1月、宮内庁は昭和の先例を踏襲する宮中祭祀の調整・見直しを行いました。「例えば、新嘗祭については、当面、天皇陛下は、『夕の儀』には、従来どおり出御になることとし、『暁の儀』は、時間を限ってお出ましいただくこと」とされたのでした。
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/gokomu-h21-0129.html

 同年暮れに発表された「この1年のご動静」も、「新嘗祭について『夕の儀』は従来どおり出御になるとし、『暁の儀』は時間を限ってお出ましいただくこととなった」と説明しています。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokanso-h21e.html

 宮内庁の発表は、「出御」「お出まし」の時間的な説明しかありません。そして昨年は、ご入院のため、「お出まし」がありませんでした。

 宮内庁の発表では、当初は「新嘗祭における陛下の神嘉殿へのお出ましの時間を短縮し、夕の儀も暁の儀と同様、儀式の半ばより出御され」ることとされていました。
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/kohyo-h23-1101.html#K1101

 しかしその後、陛下は入院され、さらにご入院が長引き、医師の判断に従って、お出ましが差し控えられることになったとされます。
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/kohyo-h23-1101.html#K1118

 宮内庁が「御公務」とは理解していない祭祀について、二度もその変更について事前発表しているのは異例ですが、実際にどのような祭儀となったのか?

 産経新聞は新嘗祭の前日、「掌典長が陛下に代わり供物を供え、祝詞を読み上げる『代拝』を行う」と伝えていました。しかし天皇が親祭なさる神嘉殿の聖なる空間にまで掌典長が立ち入り、天皇がなさる神饌御進供、御告文奏上をも、掌典長が代わって行うというような掌典長の「代拝」は「あり得ない」と、昭和天皇の祭祀に携わった掌典職OBたちは断言しています。

 だとすると、「あり得ない」はずの「代拝」が行われたのか、それとも報道が不正確なのか?

 一般メディアよりは祭祀に詳しいと思われる神社関係専門紙の神社新報は、さすがに「代拝」とは表現せず、「掌典職限りで」祭祀が行われたと伝えています。「夕の儀」は23日の夕刻、掌典長が陛下に代わって神事を行う旨、祝詞を奏上したあと、神饌行立が行われ、神嘉殿で掌典長が神饌を供進し、祝詞を奏上したというのです。

 けれども、天皇の祭祀は天皇の出御の有無にかかわらず、天皇によって行われるのであって、「掌典職限り」という表現は、祭祀のあり方として不適切だという指摘が、やはり元掌典職職員からあります。

 とすると、やはり「あり得ない」ことが起きている、と見るべきなのかもしれません。


▽3 まるで「宮内庁の祭祀」に

「あり得ない」のは、祭祀の内容もさることながら、概念そのものが変更されているらしいことです。

 共同通信の記事は、平成の祭祀簡略化について、「宮内庁は70代後半となった陛下の負担軽減を図るとして、2009年から暁の儀の出席時間を30分間に短縮し、夕の儀も昨年から30分間とした。今回初めて双方の儀式が、途中から出席する短縮形式の拝礼となった」と説明しています。

 つまり、天皇が「出席」し、「拝礼」するのが宮中祭祀である、という考え方です。天皇の、天皇による祭祀という本来のあり方から逸脱し、まるで「宮内庁の祭祀」に変更されています。天皇の祭祀大権が奪われているということです。

 たとえば、国会は天皇が召集し、本会議の議事運営は議長が行い、議院運営委員会が日程を決め、議員が「出席」し、審議が行われます。学校の授業なら、学校が授業を主催し、教師が授業を執行し、生徒が「出席」します。けれども、宮中祭祀に天皇が「出席」するという表現は、祭祀の主体であり、執行者である天皇の存在をゆがめることになり、きわめて不適切です。

 マスメディアとしては、単に「出御」という専門用語を避けたいのかもしれません。それなら、せめて「お出まし」とすべきです。「出席」は角を矯めて牛を殺す結果を招きます。

 けれども、マスメディアの不正確な表現だけを責めることはできません。宮内庁当局も同様だからです。昨年末に公表された、陛下の「この1年のご動静」は「新嘗祭にご欠席」と表現しています。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokanso-h23e.html

 宮内庁の発表が不正確なら、マスコミ報道が不正確になるのは当然です。

 しかも天皇の聖域に、宮内庁が不当に介入していることになりませんか? 「宮中祭祀は、現行憲法の政教分離の原則に照らせば、陛下の『私的な活動』ということにならざるを得ません」(渡邉允前侍従長)というのなら、公機関としての宮内庁当局者が陛下の祭祀に関与することは大きな矛盾です。

 いったいなぜこのような現象が起きるのか、宮内庁は宮中祭祀の概念を誤って理解しているのではないでしょうか? それはなぜなのか、冒頭に申し上げましたように、未成熟な祭祀学の研究があると私は考えています。

 詳しくは次回、お話しします。

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