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政府の「皇室制度」改革に歯止め──天皇誕生日会見のお言葉を読む [ご公務ご負担軽減]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2012年12月31日)からの転載です

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政府の「皇室制度」改革に歯止め
──天皇誕生日会見のお言葉を読む
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 今年最後のメルマガです。

 天皇陛下は今月23日、今上陛下が79歳の誕生日をお迎えになり、霊元天皇(78歳)を超え、昭和天皇(87歳)、後水尾天皇(84歳)、陽成天皇(80歳)に次ぐ、単独歴代4位の御長寿となられました。


▽1 「しばらくはこのままで」

 陛下はお誕生日を前にして、今月19日、記者会見に臨まれ、御公務御負担軽減問題について、「しばらくはこのままで」と語られました。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h24e.html

 宮内記者会は、(1)来年80歳となられるのを機に、一層のご負担軽減が必要であるという指摘があること、(2)一定の年齢に達すれば、国事行為に専念するか、あるいは国事行為と最小限の公的行為だけなさっていただき、それ以外は皇族方が分担するという考え方を取り入れるべきという意見が出ていることを指摘し、「現行制度のままでは陛下のご活動をお支えする皇族方が減ってしまう現状の下で、今後のご公務に関する皇族方との役割分担についてどのようにお考えでしょうか?」と質問したのでした。

 これに対して、陛下は、天皇の公務には国事行為のほかに、全国植樹祭や日本学士院授賞式に出席されというような象徴的行為があるとする一般的な考え方を示したうえで、(1)昭和天皇が80歳を超えても続けられたこと、(2)負担軽減は、公的行事については、公平の原則に十分に配慮する必要があること、を指摘されました。

 朝日新聞は、北野隆一、島康彦両記者連名の署名記事で、「穏やかだが、確固とした『宣言』」と伝えています。
http://www.asahi.com/national/update/1222/TKY201212220836.html?google_editors_picks=true

 宮内庁はここ数年、ご負担軽減を図ってきたが、健康不安は残っている。羽毛田信吾・前宮内庁長官は退任会見で、「陛下は『活動あっての象徴天皇』との信念で臨んでおられ、お務めを選別して減らすことは難しい」と語っていた──というのです。

 つまり、朝日の記事では、陛下は御健康に関する不安を振り切って、御公務に励もうとされている。その背景には、「御活動」こそ「象徴天皇」の本質とする「信念」がうかがえる、というのです。

 こうした御健康より御公務を優先される陛下の姿勢に対して、風岡典之・現宮内庁長官は、「陛下の健康維持は国民の願いであり、宮内庁として何より優先すべき課題。皇室医務主管や侍医長ら医師との連携をとっていく」と話していると記事は伝えています。

 以上、陛下のお言葉と報道から浮かび上がってくるのは、(1)御公務と御健康問題をめぐって、陛下と宮内庁当局者との対立の構図があるように見えること、(2)宮内庁当局による、いびつな御負担軽減策にひとまず小休止が打たれそうなこと、(3)したがって、御負担軽減を表向きの目的とした、女系継承容認=「女性宮家」創設論にも待ったがかけられたこと、(4)一方で、平成の祭祀簡略化は現状のまま維持されること、の4点です。


▽2 皇室の伝統に反する御負担軽減

 宮内庁が御負担軽減策を打ち出したのは、御在位20年がきっかけでした。

 20年2、3月、宮内庁は御健康問題を理由に、「昭和の先例」を踏襲する、御公務御負担軽減について発表し、その後、同年11月の御不例で軽減策は前倒しされます。
http://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/kohyo/kohyo.html#h20

 けれども軽減策にもかかわらず、御公務は少なくとも日数において、逆に増えました。文字通り激減したのは、「およそ禁中の作法は神事を先にす」(順徳天皇「禁秘抄(きんぴしょう)」)と、歴代天皇が第一のお務めと信じ、実践してこられた宮中祭祀でした。

 祭祀簡略化を進言したのは、渡邉允前侍従長(19年6月まで侍従長。24年4月まで侍従職御用掛)ら側近でした。前侍従長は「私も在任中、両陛下のお体にさわることがあってはならないと、ご負担の軽減を何度もお勧めしました」(雑誌「諸君!」20年7月号掲載インタビュー)と語っています。

 前侍従長によれば、18年春から2年間、宮中三殿の耐震改修が実施され、祭祀が仮殿で行われるのに伴って、祭祀の簡略化が図られました。工事完了後も側近は、陛下のご負担を考え、簡略化を継続しようとしたが、陛下は「筋が違う」と認められませんでした。ただ、「在位20年の来年になったら、何か考えてもよい」とおっしゃったので、見直しが行われたとされます(渡邉『天皇家の執事──侍従長の十年半』)。

 ところが、御公務は少なくとも日数において増え続け、22年には年間271日にまで達しました。その一方で、祭祀は文字通り激減しました。

「争わずに受け入れる」というのが天皇の帝王学ですが、皇室の伝統に反する御負担軽減に、けっして満足なさっていたのではないことが陛下のお言葉から読み取れます。

 21年のお誕生日のご感想では、「今年は日程や行事の内容を少し軽くするようにして過ごしてきました。昨年12月の体調よりは良くなっていますので、来年も今年のように過ごし、皆に心配をかけないようにしたいと思っています」と述べられています。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokanso-h21e.html

 しかし、翌22年になると、「一昨年(おととし)の秋から不整脈などによる体の変調があり、幾つかの日程を取り消したり、延期したりしました。これを機に公務などの負担軽減を図ることになりました。今のところこれ以上大きな負担軽減をするつもりはありません」と御公務への強い意欲を示されたのでした。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h22e.html

 11月にご入院された23年も同様で、「退院から日もたち、皇太子に委任していた国事行為も再開することができるようになり、体調も今では発病前の状態と変わらないように感じています。今後とも健康に十分気を付けながら新年にかけての行事を務めていきたいと思っています」と決意を述べられました。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/gokanso-h23e.html

 つまり、陛下はこれまで一貫して、御公務への意欲を示してこられたのです。


▽3 「皇室制度改革ありき」の誤り

 ところが、宮内庁はこれに反して、御負担軽減どころか、その目的をはるかに超えて、大胆不敵にも「皇室制度」改革に踏み出したのでした。現行皇室典範では女性皇族が婚姻後、臣籍降嫁する制度になっているから、「皇室の御活動」が安定的に維持できない、御公務が軽減されない、と強引に理屈づけて、です。

 民主党政権は有識者ヒアリングを実施し、「象徴天皇制度の下で、皇族数の減少にも一定の歯止めをかけ、皇室の御活動の維持を確かなものとするためには、女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族の身分を保持しうることとする制度改正について検討を進めるべきであると考える」とする「論点整理」をまとめ上げ、皇室典範改正案を来年の通常国会に提出する勢いでした。

 政権交代で、歴史にない「女性宮家」を創設する皇室制度改革は遠のきましたが、本当の意味での御負担軽減も実現されずに終わりそうです。つまり、何が御負担増の原因なのか、宮内庁の御負担軽減策「失敗」の原因はどこにあるのか、が追究されていないからです。

 一方、歴代天皇が第一のお務めと信じ、実践されてきた祭祀の簡略化はそのまま放置されています。

 陛下は会見で、「今のところしばらくはこのままでいきたいと考えています。私が病気になったときには,昨年のように皇太子と秋篠宮が代わりを務めてくれますから,その点は何も心配はなく,心強く思っています」と語られました。

 実際、23年11月の御入院の際、国事行為は皇太子殿下が臨時代行され、秋篠宮殿下が御公務を代行されました。

 御不例時に、皇太子殿下と弟宮殿下とで、御公務を「御分担」できるなら、もっと以前から御負担削減は可能であり、「皇室制度」改革など不要なのです。しかし、そのような仕組みができていません。だとすると、女性皇族皇族に「御分担」いただくという皇室政治改革の構想も画餅以外の何ものでもありません。

 月刊「正論」2月号掲載の連載「『女性宮家』創設賛否両論の不明 第3回」に書いたように、かねて宮内庁が御負担軽減で注目していたのは、「ご引見」「拝謁」の多いことでしたが、宮内庁の公表データによると、御負担軽減策の実施後も、外国大使との「お茶」「午餐」は減っていません。一カ国ごとに行われる離任大使の「ご引見」は驚くほど日程がたて込んでいます。叙勲に伴う「拝謁」もほとんど変わりません。

 皇室の基本法に手をつけるまえに、皇太子殿下をご名代に立てるなど、陛下の御負担軽減のためにできることがあるはずです。側近たちが信じ込んでいるらしい、「御活動」なさる天皇・皇室論に立脚する「皇室制度改革ありき」の姿勢に誤りがあるのです。

 御負担軽減の標的とされた宮中祭祀についても、原則なき簡略化以外に方法はあったはずです。
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