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新嘗祭で隔殿に着座されなかった皇太子──『昭和天皇実録』が明らかにした異例 [宮中祭祀]

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新嘗祭で隔殿に着座されなかった皇太子
──『昭和天皇実録』が明らかにした異例
(2015年8月15日)
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 今年の春から『昭和天皇実録』の刊行が始まりました。

 宮中祭祀のあり方を考えるうえでたいへん興味深い記述がありますので、ご紹介します。大正8年、9年の新嘗祭です。

 この年、大正天皇の親祭はありませんでした。その場合、どのように行われたかというと、近年の簡略化された新嘗祭の次第と似ているのです。


▽ 神嘉殿南庇で御拝礼

『実録』には、次のように書かれています。

「(大正8年11月)二十三日 日曜日 新嘗祭神嘉殿夕の儀につき、午後五時四十五分御出門になる。次第において、皇太子は天皇の出御に続き、隔殿にお出ましになり御着座のご予定のところ、この日午後五時過ぎに至り、ご都合により天皇出御なき旨が仰せ出される。よって皇太子の隔殿御着座のことは行われず、神饌供進済了の後、掌典次長東園基愛・東宮大夫浜尾新の前導にて便殿より御参進、神嘉殿南庇の正面において御拝礼、終わって退下される。午後八時十五分御帰還になる。暁の儀にはお出ましなし。〇東宮侍従日誌、東宮職日記、侍従日記、侍従職日誌、祭祀録、典式録、儀式録、宮内省省報」

 ポイントは、天皇の出御がなかったこと、そのため皇太子は神嘉殿南庇で御拝礼され、隔殿御着座はなかったこと、暁の儀のお出ましはなかったこと、の4点です。

 翌年は少し違います。

「(大正9年11月)二十三日 火曜日 (前略)新嘗祭につき午後六時十分御出門、賢所御休所において軍服より斎服に召し替えられる。七時二十分、夕の儀につき神嘉殿に御参進、御拝礼になる。終わって軍服に召し替えられ宮城に御参内になる。御内儀にお成りになり、和服に直衣の袴を召され、天皇・皇后に御拝顔になる。十一時十五分、軍服に着替えられ御退出、賢所御休所にて斎服を召され、暁の儀に臨まれる。翌日、午前零時二十五分賢所を御出門、同四十五分御帰還になる。なお、天皇の出御なきため〈この日午前九時、出御なき旨仰せ出される〉、皇太子は隔殿に御着座のことなく、夕の儀・暁の儀とも皇族拝礼の前に便殿より参進され、神嘉殿南庇正面において御拝礼のみを行われる。〇東宮侍従日誌、東宮職日誌、祭祀録、儀式録、典式録、宮内省省報、官報、奈良武次日記」

 隔殿御着座はなく、神嘉殿南庇で拝礼されたのは前年同様ですが、前年とは異なり、暁の儀にもお出ましになりました。

 このような祭式のあり方が何に基づくのか、よく分かりません。8年と9年の違いが何に由来するのかも不明です。


▽ 「前例」のつまみ食い

 それはともかく、近年の簡略化された新嘗祭と似ていることは指摘できます。つまり、近年の簡略化は戦前の先例を踏襲しているようにも見えます。

 たとえば、4年前の平成23年、陛下御不例のため新嘗祭の親祭は行われませんでした。

 このとき宮内庁は「新嘗祭における陛下の神嘉殿へのお出ましの時間を短縮し,夕の儀も暁の儀と同様,儀式の半ばより出御され,また,両儀式とも,皇族及び諸員による拝礼前にご退出される」ことになったと説明していました。

 宮内庁は昭和の先例を根拠としていました。

 実際には、陛下のみならず、皇太子殿下もまた、「夕の儀及び暁の儀の両儀式とも、儀式の半ば過ぎに、拝礼のために参進され、皇族及び諸員による拝礼の前に退出なさいます」とされました。

 これは何を根拠としたのか、説明がありません。私は「無原則」とメルマガで批判しました。

 けれども、『昭和天皇実録』の記述を見ると、あながち「無原則」と断定することは控えなければならないのかも知れません。しかし、それなら、昭和天皇の晩年の例ではなくて、戦前のあり方を踏襲したと説明すべきではないでしょうか。説明不足です。

 いや、そうではありません。

「前例踏襲」なら、四方拝を御所のテラスで行い、洋装とするなどといった、入江侍従長による祭祀の「簡素化」はあり得なかったのです。

 宮内庁の方針はけっして「前例踏襲」ではないのです。都合のいいときだけ「先例」を持ち出すご都合主義に問題があるのではありませんか?

 天皇第一のお務めとされてきた祭祀が「前例」のつまみ食いによって行われていることになります。


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