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伝統主義者に求められていること ──引き続き竹田恒泰氏「女性宮家」反対論を読む [竹田恒泰]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2016年4月4日)からの転載です

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伝統主義者に求められていること
──引き続き竹田恒泰氏「女性宮家」反対論を読む
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▽1 民主党政権批判にとどまる

 竹田恒泰氏は、つづく第12回の記事で、女性宮家創設にメリットはあるか、と問いかけ、「甚だ疑問である」と否定している。

 論点は4つある。

 1つは、平成24年3月の参院予算委の質疑で、皇室典範改正法案提出の責任者であるはずの藤森官房長官(「藤村修」の誤りであろう。入力ミスであろうか)が男系と女系の違いさえ知らないことが明らかになったこと。

 2つ目は、同じ質疑で、「女性宮家」創設論が陛下の御意思を受けたものでないことが明らかになり、まことしやかな噂がはっきりと否定されたこと。

 3つ目は、やはり同じ質疑で、「女性宮家」創設の目的について、野田総理は「天皇陛下のご公務削減のため」と繰り返したが、そこには「大きな嘘が隠されている」こと。

 4つ目は、陛下のご公務は宮内庁が的確に取捨選択すべきもので、ご多忙なのはひとえに宮内庁に責任があること。

 おおむね同意できるし、政府・宮内庁に批判の矛先を向けているのはさすがだと思う。けれども、もっとも肝心な点について、不十分さが拭いきれない。

 竹田氏は天皇=「祭り主」と理解する歴史的天皇論の立場にあるはずなのに、お得意とすべき歴史的俯瞰図を描くことに成功していない。前回、取り上げたように、読売のスクープで「女性宮家」創設論が「にわかに浮上した」という理解を脱することができないからだろう。

 その結果、現政権=民主党政権批判にとどまっている。


▽2 自民党は清廉潔白か

 この日、参院予算委の質問者は、自民党の有村治子議員であった。竹田氏の文章では、法案提出に前向きな民主党政権の非を、野党の自民党議員が追及する図式になっている。

 しかし、過去の歴史にない女系継承容認=「女性宮家」創設の策謀が、政府部内で非公式・公式に進められてきたことについて、はたして自民党は清廉潔白だと証明できるだろうか。そのように竹田氏はお考えなのだろうか。

 自民党の小泉純一郎議員(のちの首相)が総裁選で女性天皇容認を打ち出したのは平成7年9月である。その翌年、鎌倉節宮内庁長官の指示で庁内に皇位継承問題に関する資料整理・作成が始まり、さらに翌年春に内閣官房の協力で工藤敦夫元内閣法制局長官を中心に非公式の研究会がスタートしたといわれる(阿比留産経新聞記者のスクープ)。

 雑誌「選択」に、皇室典範改正=女帝容認=「女性宮家」創設の問題提起が載ったのは平成10年6月。当時は第2次橋本龍太郎内閣の時代だった。

 13年4月に第1次小泉内閣が発足し、同年12月に愛子内親王が誕生され、翌年2月、「文藝春秋」は内閣法制局が女性天皇容認=「女性宮家」創設の典範改正を極秘に進めているとするスクープ記事を載せたのだった。

 16年12月には皇室典範有識者会議が発足し、翌年11月、女性天皇・女系継承容認の報告書を提出した。

 のちに首相となる自民党議員が先陣を切り、官僚たちが追随し、水面下で皇室の伝統を否定する典範改正作業が粛々と進み、自民党はこれを抑える術を知らず、やがて表面化し、女帝容認論は公式文書化されたのだった。

 野田政権批判で足りるはずはない。


▽3 「メリット」があると考える関係者

 竹田氏は「女性宮家」創設に「メリット」はあるのかと問い、これを否定しているが、「ある」と考える政府関係者が山ほどいるのである。政界にも、与野党を問わず、保守系か左派かを問わず、いくらでもいるというのが実態だろう。

 なぜだろうか。問題はそこだ。

 竹田氏は、藤村官房長官が男系・女系の違いを知らなかったことを指摘するが、けっして無知が原因ではない。むしろ逆に、知りすぎている「確信犯」が典範改正を推進しているのではないだろうか。

 古来、天皇は、竹田氏が仰せのように「祭り主」だった。明治に入り、日本は近代君主制国家と生まれ変わり、天皇は立憲君主となり、さらに大元帥陛下となられた。

 敗戦後、天皇は軍服を脱がれ、「象徴」となられたが、立憲君主としてのお立場には変わりはなかった。天皇の祭祀も、あくまで「私的行為」だが、存続してきた。

 しかし昭和40年代に入り、憲法の原則を最優先する祭祀否定論が現れ、祭祀簡略化が進められた。平成の御代替わりでは大嘗祭が行われるかどうか、危ぶまれるほどだった。

 今日、陛下の側近までが祭祀=私的行為論で固まっている。ご公務ご負担軽減策として祭祀のお出ましが真っ先に削減されたのはその結果であろう。そればかりではない、その側近こそが今回の「女性宮家」創設論の火付け役だった。その事実をどう見るかである。


▽4 伝統主義者の役目

 天皇=「祭り主」の伝統を否定し、天皇=「象徴」に凝り固まった確信犯なら、女系継承=「女性宮家」創設に傾くのは当然である。国事行為あるいはご公務なら、男性も女性もないからだ。「メリット」はあるのである。

 天皇制度の最大のポイントは、天皇が生身の人間であるところにある。限りある命のリレーによって、皇統は続いていく。そこに尊さがある。

 だが、天皇=「祭り主」とする歴史的天皇論ではなくて、現行憲法の象徴天皇制度を出発点として、「将来にわたり皇位継承を安定的に維持するため」(皇室典範有識者会議)、あるいは「皇室の御活動の維持」(皇室制度有識者ヒアリング)のためなら、男系主義の縛りを解き、女系継承=「女性宮家」創設を容認するのが理の当然ということになろう。

 つまり、天皇=「祭り主」とする歴史的天皇論の否定が起点とされていることに注目しなければならない。

 だから、逆に女系継承容認=「女性宮家」創設に反対するのなら、伝統主義者にしばしばありがちな、明治の天皇制を安易に懐かしむのではなくて、少なくとも千数百年におよぶ天皇=「祭り主」論の立場から、天皇とは何かをあらためて説き起こさなければならないと思う。

 そうでない限り、女帝容認論者を翻意させることはできないだろうし、それこそが竹田氏のような伝統主義者の役目ではなかろうか。

 繰り返しになるが、「なぜ男系継承でなくてはならないか」との問いに「理由などどうでもよい」では済まされないし、それでは無責任というべきである。

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