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「オモテ」「オク」のトップが仕掛け人だった!? ──窪田順正氏が解く「生前退位」の謎 [退位問題]


以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2016.8.31)からの転載です


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「オモテ」「オク」のトップが仕掛け人だった!? ──窪田順正氏が解く「生前退位」の謎◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 社会に出てすぐ、月刊総合情報誌の編集記者になりました。どこの媒体にも載っていないスクープ記事で全ページを埋め尽くすのが雑誌のコンセプトで、編集業務の最初のステップは新聞・テレビの情報を鵜呑みにせず、裏読みすることでした。

 以来、情報を疑うことが習い性となりました。

 ニュースの多くは中央官庁の記者クラブに垂れ流しされる発表ネタを二次加工したものですから、まともに受け取る方がおかしい。独自取材によるスクープならまだしも、意図的なリークを臭わせる特ダネならなおのことです。

 前回の読売新聞による「女性宮家」創設スクープにしても、今回のNHKによる「生前退位」報道にしても、納得できないものを感じるのは、当時からの勘が働くからです。


▽1 問題意識に答えるリポート

 前々回、陛下の「生前退位」論議には5つの問題がある、と指摘しましたが、私の問題意識に答えてくれるリポートにようやく巡り会うことができました。

 ノンフィクション・ライター窪田順生氏による「宮内庁の完全勝利!?天皇陛下『お気持ち』表明の舞台裏」(DOL特別レポート。2016年8月26日〈http://diamond.jp/articles/-/99848〉)です。

 窪田氏は大胆にも、「宮内庁が仕掛けた、巧妙な情報戦であった可能性が浮かび上がってくる」と指摘しています。

 つまり、陛下みずから率先して「お気持ち」を表明されたというのではなくて、宮内庁幹部が工作した結果であり、側近らが一連の「生前退位」論議の仕掛け人だったということになります。少なくとも「お気持ち」表明までは宮内庁の完勝である、と窪田氏は結論づけています。

 窪田氏のリポートは、5つの謎のうち、(1)歴史にない「生前退位」(「譲位」「退位」ではない)を言い出したのは誰か、(2)NHKにリークしたのは誰か、その目的は何か、(3)なぜ、どのようにしてお言葉が発せられることになったのか、の3つについて、事実は何だったのか、大きな示唆を与えてくれます。

 同時に、窪田氏も同様らしいのは残念ですが、陛下の「お気持ち」が「生前退位」にあるという既成事実化によってどんどん先走りする議論に、慎重さを求めるものといえます。


▽2 「駆け引き」に長けた高級官僚

 窪田氏の分析を要約すると、以下のようになります。

1、(常識論的理解への疑念)NHKの「生前退位」スクープ以後、宮内庁は内部関係者のリークを全否定し、抑え込もうとしたが、やがて陛下に押し切られるように「お気持ち」の表明となった。この場当たり的で、陛下を晒し者にする広報対応は「悪手」と見て取れる。けれども「生前退位」という陛下のお気持ちを国民に届けるという目的遂行からすれば、まったく逆に、かなり練り込まれた「戦略的広報」だといえる。宮内庁は高度な世論形成を行っている。

2、(「生前退位」報道の仕掛け人)「オク」(侍従職)のリークと信じる人が多いようだが、毎日新聞の続報によると、「オモテ」2人と「オク」2人、それに皇室制度に詳しいOB1人による「4+1」会合で、制度的検討が進められてきた。「オモテ」と「オク」のトップが一丸となって「お気持ち」を世に出すことを検討していたとする報道の信憑性は高い。宮内庁がNHKに抗議していないことからすると、NHKのスクープを仕掛けたのはほかならぬ「4+1」会合である可能性がある。NHKと宮内庁が「裏で握ったスクープ」だったのではないか。

3、(宮内庁トップが描いたシナリオ)一連の流れには随所に官僚らしい計算が込められている。NHKが報道し、宮内庁が否定すれば「どっちが本当か」と国民の注目を集めることができ、陛下に「お気持ち」を表明していただく名目が立つ。NHKのスクープから宮内庁の全否定、陛下の「お気持ち」表明は「4+1」会合が描いたシナリオではないか。

4、(マスコミを利用した理由)「お気持ち」表明が目的なら、まどろっこしいプロセスは不要で、「正面突破」的戦略で足りると首をかしげる人がいるかも知れない。だが、国民的議論が起きていないなかで宮内庁が陛下に、皇室典範改正を示唆するような政治的発言を促すことはあり得ない。幹部が陛下のお考えを慮って代弁することもできない。

5、(正攻法では議論は困難)国民も官邸も納得する形で、陛下が「お気持ち」を表明できる状況を作り出すには、報道機関にスクープさせ、これを形式的に否定し、「真実を知りたいという国民の求めに応じる」という大義名分のもとで、陛下ご自身に「お気持ち」を表明していただくことである。手練れの高級官僚ならではの「情報戦」である。

6、(官邸と宮内庁)メディアを手駒にして「情報戦」を繰り広げる一連の動きは、「天皇・皇后両陛下と皇族方の健康維持は国民の願いで何より優先すべき課題」(風岡長官)と言い切る宮内庁が、皇室典範に消極的な安倍政権に対して仕掛けた「緩やかな謀反」と見えなくもない。

 以上、要するに、窪田氏の謎解きの核心は、30年間、「駆け引き」に明け暮れてきた辣腕官僚こそが「生前退位」論議の仕掛け人だという1点に尽きます。


▽3 仕掛け人は「4+1」か

 そうだとして、謎はさらに深まります。まず、本当の仕掛け人は誰なのか、です。

 窪田氏は「4+1」会合が仕掛け人とみています。つまり現在の風岡体制ということですが、私は違うと思います。

 窪田氏も言及する毎日新聞の報道では、「5月半ばから、早朝に会合を行うなど活動が加速。生前退位に伴う手続きの検討」と伝えられています。この情報は風岡体制仕掛け人説を補強するものです。

 ところが、「週刊新潮」7月28日号によれば、平成21年に陛下と皇太子殿下、秋篠宮殿下による3者会談が設けられ、24年2月に心臓手術を受けられ、3月に東日本大震災一周年追悼式にご臨席になったころから、陛下は「天皇としての任を果たせないのならば」と3者会談で漏らされるようになり、6月に風岡長官が就任すると3者会談が定例化し、長官もオブザーバーとして同席するようになったとされています。

 とすれば、風岡体制から1代遡って、羽毛田長官、風岡次長、川島裕侍従長、佐藤正宏侍従次長の時代からすでに動きが始まっていたと見なければなりません。

 24年といえば、陛下の手術と前後して、いわゆる「女性宮家」創設に関する有識者ヒアリングが2月に始まりました。「女性宮家」検討担当内閣官房参与に就任したのは、小泉内閣時代の皇室典範有識者会議で座長代理だった園部逸夫元最高裁判事で、キーパーソンとされました。また、前年暮れに「女性宮家」創設を著書で明確に提案したのは、渡邉允前侍従長(宮内庁参与)でした。

 園部氏はつい最近、新聞インタビューで「天皇といえども人です。……人道主義の観点が必要です」と「生前退位」に賛意を示しています。

 仕掛け人を現在の「4+1」に限定しなければならない理由はどこにもありません。デザインする人と実行する人が同じである必要もありません。

 NHKのスクープは「陛下が天皇の位を生前に皇太子さまに譲る『生前退位』の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました」でした。この「宮内庁関係者」はデザイナー自身なのかどうか。


▽4 陛下の本当の「お気持ち」

 次に、「生前退位」が陛下の「お気持ち」とされている点について、考えてみます。陛下の本当の「お気持ち」とは何か、です。そのことは、なぜ「巧妙な情報戦」が仕掛けられたのか、宮内庁当局者たちの戦略を明らかにすることにもつながります。

 窪田氏は「『生前退位』という陛下のお気持ち」に一片の疑いも抱いてはいないようです。最初に陛下の「生前退位」のお気持ちがあり、宮内庁トップは「お気持ち」を国民に届けるためにひたすら知恵を絞った高度なライフハックだったというわけです。

 これではまるで美談のようにも聞こえますが、そうなのでしょうか。

 もともと「生前退位」なる言葉はありません。昭和13年から終戦の年まで、帝国学士院が編纂・刊行した『帝室制度史』にも、戦後、宮内庁書陵部が編纂した『皇室制度史料』にも、「譲位」とあるだけです。

 左翼用語とは決め付けられないまでも、国会審議では30数年前、すなわち昭和天皇の晩年に野党議員が使用したのが最初です。そのことは前回、お話ししました。いまと状況が似ていることも指摘しました。

 けれども、国会で野党議員から「生前退位の検討をしたことがあるか」と質問され、答弁に立った宮内庁幹部は「退位を認めないことが望ましい」「臨時代行で対処できるから典範改正は不要」と否定しただけでなく、「生前退位」という表現すら避けています。いまとは逆です。

 宮内庁の姿勢が一変したのは、終戦60年、平成17年6月のサイパン島御訪問のようです。宮内庁内部から「生前退位」検討の動きが始まったらしいのです。「週刊現代」は、御訪問が閣議決定されたが、強行スケジュールはご高齢の陛下にはかなりのご負担なので、と説明しています(同誌2005年5月21日号)。

 折しも小泉内閣時代、皇室典範有識者会議が開かれているから、「即位」と「退位」の両方について明記すべきではないかという声があると伝えられています。

 宮内庁内部のこの動きが10数年来、ずっと続いているのだとすると、「生前退位」論議はけっして陛下のお気持ちが出発点ではないことになります。陛下のお気持ちと宮内官僚の「生前退位」論には一致しないのであり、今回の1件は陛下のお気持ちを国民に伝えるため、当局者が知恵を絞り、仕掛けたのではなくて、もっと別の動きだという可能性があります。


▽5 「生前退位」ではなく「ご公務のあり方」

 7月13日のNHKのスクープは「天皇陛下『生前退位』の意向示される」でした。

 なぜNHKは「譲位」ではなく、「生前退位」と伝えたのでしょうか。陛下は「生前退位」と表現し、関係者にお気持ちを示されたのでしょうか。なぜスクープはこのタイミングだったのでしょうか。

 まず一点目です。陛下は「生前退位」とはおっしゃっていないのではないでしょうか。

 8月8日のお言葉にはむろん「生前退位」はありません。陛下は「天皇もまた高齢となった場合、どのようなあり方が望ましいか」を問いかけられたのでした。

 身体の衰えから象徴としてのお務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じられ、一方で、国事行為や公的行為の縮小、摂政を置くことにも疑問を投げかけられ、また、ご大喪関連行事が長期にわたって続くことにも懸念を示されたうえで、象徴天皇の務めが安定的に続くことを念じられました。

 これをNHKは「生前退位の意向が強くにじむ」と伝えていますが、単純すぎるのではないでしょうか。「譲位」のお気持ちがあるとしても、それはあくまでお気持ちの一部なのだろうと私は考えます。

 その意味では、菅官房長官が「ご公務のあり方について、引き続き、考えていくべきものだと思う」と述べているのは正しいと思います。

 つまり片言隻句を捉え、先走って拡大解釈し、歴史に前例のない「生前退位」表明と表現した人物がいるのです。それは宮内庁関係者なのか、それともNHKなのか。

「生前退位」のご意向と報道されれば、それが先入観念となり、現行制度の改革、皇室典範改正が必要だという議論に発展することは必至で、実際、世論はそのように誘導されています。

 窪田氏が分析したように、仕組んだのが宮内庁トップだとすれば、彼らの意図は陛下のお気持ちを国民に伝えるというより、「女性宮家」論議のあと、すっかり下火になっていた皇室典範改正論議に再度、火を付けることにあったのだろうと私は強く疑っています。そして、仕掛けは首尾良く成功し、宮内庁当局者は「完勝」したのです。


▽6 むしろ長期政権への期待か

 それなら、なぜいまなのか。

 なかには参院選で自民党が大勝したのを見て、陛下が改憲阻止に動いたなどと深読みする人もいますが、あり得ないでしょう。むしろ百戦錬磨の官僚たちが長期政権化の兆しを見せる安倍内閣にすり寄り、挑戦的に制度改革への期待をかけたとみるべきでしょう。

 風岡宮内庁長官はお言葉のあと、「(陛下は)今後の天皇のあり方について、個人としての心情をお話になられた」と説明しています。

 長官はさらに、「(陛下は)去年からお気持ちを公にすることがふさわしいのではないかとお考えだった」とも説明しました。どうやら陛下は、昨年からお気持ちを国民にみずから示すことを希望されていたようです。

 なぜ「昨年から」なのでしょう。

 たぶん皇太子殿下の年齢を考慮されたのでしょう。昨年2月、殿下は55歳となられました。ちょうど陛下が即位された年齢です。「象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ」(お言葉)られればこそのタイミングでしょう。

 陛下はそこまで追い詰められているということだろうと拝察します。


▽7 「陛下vs宮内庁」の微妙な関係

 戦後の歴史を振り返ると、日本国憲法施行とともに皇室典範は一般法となり、皇室令はすべて廃止されましたが、これらに代わる法体系はいまもほとんどありません。たとえば、登極令、皇室服喪令、皇室喪儀令、皇室陵墓令に代わるものがない。このため前回の御代替わりは泥縄に終始したのです。

 戦後の象徴天皇制度は昭和天皇と今上陛下が身をもって築かれてきたというより、国民および国民の代表者たちの不作為と怠慢以外の何ものでもありません。だからこそ陛下は国民に問いかけているのです。

 象徴天皇制度がそもそも法的に未整備なら、ご在位20年のあと開始されたご公務ご負担削減策に明確な基準があるはずもありません。しかも陛下は皇室の伝統と憲法の規定の両方を追い求めておられるのに、当局者は憲法第一主義に走り、その結果、祭祀のお出ましばかりが激減したのです。

 窪田氏のリポートは最後に「官邸vs宮内庁」の対立構造を示していますが、むしろ見定めるべきなのは、宮中祭祀とご公務をめぐる「陛下vs宮内庁」の微妙な関係なのではありませんか。

 女系継承容認の皇室典範改正にもご公務ご負担軽減にも失敗した宮内庁当局者は、安倍政権と対立するどころか、陛下のお気持ちを利用し、「生前退位」報道に素直に誘導される世論を味方に付けたうえで、問題を官邸に丸投げして、結果的に皇室典範改正の果実を得ようと仕掛けたのだと私は想像します。そして安倍政権は「生前退位」実現程度でお茶を濁すわけにはいかなくなったのです。

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