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世論誘導に簡単に乗る「生前退位」支持派の人々 ──小林よしのり先生のブログなどを読む [生前退位]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2016.9.8)からの転載です

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世論誘導に簡単に乗る「生前退位」支持派の人々
──小林よしのり先生のブログなどを読む
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「生前退位」論議がどんどん先走りしている。

 ご意向の実現には典範改正か特措法かという議論もさることながら、こんどはNHKの報道が今年の新聞協会賞に選ばれたという。

 たしかに「国民的議論を提起した。与えた衝撃は大きく、皇室制度の歴史的転換点となり得るスクープ」(授賞理由)かも知れない。だが、もともと宮内庁関係者によるリークだろうし、それどころか宮内庁幹部たちが仕掛け人ともいわれる。格調高い皇室報道というにはほど遠く、不審さがぬぐえないスクープは、受賞に値するのだろうか。

 それにしても、どうにも分からない。陛下の本当のお気持ちは「生前退位」(「退位」「譲位」ではない)なのか。ビデオ・メッセージは、なぜ「生前退位」の表明と簡単に解釈されているのだろうか。

 ここでは「生前退位」支持派の代表格といえる漫画家の小林よしのり先生のブログ〈http://yoshinori-kobayashi.com/category/blog/〉などを読み、検証してみたい。

 結論からいえば、根拠らしいものはほとんどないように見える。メディアを利用し、「生前退位」論議を仕掛けたらしい知恵者の誘導に、まんまと乗せられているのではないか。あるいは逆に、陛下のお気持ちとされるものに便乗しているのか。


▽1 報道に一片の疑問も感じていない不思議

 NHKがスクープした先月13日、小林先生はさっそく「おそるべき天皇、生前退位の真相」〈http://yoshinori-kobayashi.com/10725/〉を書いている。

 ブログは冒頭、「天皇陛下が『生前退位』のご意向を示されたという報を聞いて、思わず身震いした。まったくおそるべき陛下です」に始まる。

 この日、夜7時のNHKニュースは、「天皇陛下が、天皇の位を生前に皇太子さまに譲る『生前退位』の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました。数年内の譲位を望まれている……」と伝えた。

 ほかのメディアも後追いし、たとえば朝日新聞は、「天皇陛下が、天皇の位を生前に皇太子さまに譲る『生前退位』の意向を示していることが、宮内庁関係者への取材でわかった」と伝えている。

 陛下への直接取材は不可能だから、あくまで「宮内庁関係者」を通じた二次情報なのだが、小林先生のブログでは、ご意向は明々白々な既成事実となってしまう。

 ブログは「このご意向を、このタイミングで発表されたこと自体に、陛下のおそるべき覚悟を察しなければなりません」と続く。「このタイミング」とはどういうタイミングなのか、わかりづらい。しかも「発表」ではなくて「リーク」だろう。「リーク」なら「陛下の覚悟」とはいえない。それとも陛下が「リーク」させたのか。そんなことはないだろう。

 先生は、8月4日のブログでは、「男系男子」にこだわる日本会議を「国賊集団」と罵倒し、最大級の激しい批判を加えているのに、議論のきっかけとなった「生前退位」報道には一片の疑問すら感じていないらしい。不思議といわねばならない。


▽2 「生前退位」なる皇室用語はない

 もともと「生前退位」なる皇室用語はない。NHKニュースには「譲位」もあるが、同義とみるべきだろうか。同じ意味なら、なぜ「譲位」と表現せずに、聞き慣れない新語を用いるのか。誰がそう表現したのか。陛下か、「宮内庁関係者」か、それともNHKか。

 8月28日のメルマガに書いたように、国会審議では昭和58年3月に参院予算委で江田五月議員が使用したのが最初らしい。

 その後、国会答弁に立った宮内庁幹部は「生前退位」という表現を避けてきた。

 昭和天皇はたいへんお元気である。皇室典範は退位の規定を持たない。天皇の地位を安定させるためには退位を認めないことが望ましいと承知している。摂政、国事行為の臨時代行で対処できるから皇室典範を再考する考えはない、というのが当時の宮内庁の姿勢だった。今日とはまったく正反対である。

 だとすると、なぜいま「生前退位」なのか。先例が破られ、方向転換するのは、ご意向だからなのか。昭和40年代、昭和天皇が、側近が進める祭祀簡略化に対して、「御退位」「御譲位」のご意向を示されたことが「入江日記」(昭和48年2月9日)に記録されているが、当時の宮内庁当局者は実現しようとはしなかった。

 まして先帝と同様、皇室の伝統を大切にされてきた今上陛下がみずから、歴史にない「生前退位」と仰せになるとは思えない。とすれば、陛下のお気持ちを、誰かがある種の意図をもって、「生前退位」と言い換えたのであろう。少なくとも、陛下のご意向とされているものと本当のお気持ちとは別だ、と考えなければならないのではないか。

 今上陛下が「生前退位」のお気持ちを示されたのではなくて、陛下のお気持ちが「生前退位」と表現されたのであろう。それは誰によってなのか。「宮内庁関係者」か、NHKか。目的は何なのか。

 私ならどうしてもそのように推論せざるを得ないのだが、小林先生はまるで火を見るより明らかだといわんばかりに、陛下の「生前退位」のご意向を慮り、皇室典範改正論議へと大胆に話を進めている。

「現行の『皇室典範』は天皇の譲位を認めていないため、天皇陛下のご意向をかなえるには『典範改正』は必須です」

 正確にいえば、日本憲法第2条は「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と定めている。だが、現行の皇室典範には退位規定がない。そのため典範改正が必要だという先生流の結論が導かれるのだろう。

 しかし、そうでもない。


▽3 つきまとう胡散臭さ

 小林先生と同様、「生前退位」支持派の1人に所功先生がいる。両先生は女系継承容認でも一致している。

 そのお二人の対談が「週刊ポスト」8月5日号〈http://www.news-postseven.com/archives/20160725_432414.html?PAGE=1#container〉に載った。

 小林先生が「皇太子殿下が継ぐのだから、そのあとは直系の子である愛子さまが継ぐのがいちばん自然だ。男系絶対という古い風習に囚われるべきではない」と持論を展開すると、所先生は「いまはまず、陛下のご意向実現を最優先に考え、皇室典範第4条を終身在位に限らず、生前退位を可能にするよう的を絞るべきだ」と応じている。

 所先生もまた、「生前退位」報道を無批判に受け入れているらしいことが分かる。

 そういえば、「女性宮家」創設論議のきっかけとなった読売新聞の特ダネでも、同様のことが起きたのを思い出す。

「羽毛田長官が野田首相に伝えた」というスクープは長官本人によって強く否定された。歴史に前例のない「女性宮家」を、いったい誰が、何の目的で言い出したのか。提案者がかげに隠れたまま、わずか数か月後には有識者ヒアリングがスタートし、男系維持派と女系継承容認派との甲論乙駁が繰り返された。

 そして、いままた両者の対決が始まったのである。

 皇室制度は国家の基本中の基本である。であるからには、その変更には公明正大な議論が望まれる。それなのになぜこうも胡散臭さがつきまとうのか。


▽4 退位が認められない理由

 話を戻すと、皇室典範改正は簡単ではない。

 所先生も代表編者として参加し、まとめられた『皇室事典』(皇室事典編集委員会、平成21年)には次のように説明されている。

「退位規定 『皇室典範』に退位条項はない。天皇の地位は国民の総意に基づくものとされ、天皇個人の発意があっても『国民統合の象徴』は、国民の総意がなければ退位できないと解される。『皇室典範』の審議過程で天皇の自由意思で退位を認めるとすれば、退位に対応する即位辞退の自由も認めなれれば一貫しない。即位は憲法、典範の規定に基づいており、象徴の安定性からいっても自由意思は認められない。退位や即位の自由を認めれば、誰も即位しないことも考えられ、皇位は不安定になるなどとして、退位規定は入れられなかった」

 この項目の執筆者は高橋紘・元共同通信記者(故人)である。高橋氏も女系継承容認派の1人だった。

 小林先生は7月13日のブログで、「皇室典範改正は国会が決めること」で、「天皇陛下が直接、改正を要求できない」ので、「ご高齢になったことから、『憲法に定められた象徴としての務めを十分に果たせる者が天皇の位にあるべきだ』として譲位のご意向を表明された」とお気持ちを推量している。

 だが、少なくとも『皇室事典』によれば、天皇の自由意志による退位を認めないというのが憲法および皇室典範の精神なのである。

 陛下はお言葉で「象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ」られたが、制度的安定のために「生前退位」を法制化し、その結果、皇位の不安定化を招くとしたら、矛盾以外の何ものでもないだろう。


▽5 お気持ちの尊重ではなく便乗か

 陛下のご意向を想像するのは自由だが、匿名のリークを元にし、歴史に例のない「生前退位」なる造語で伝えられたご意向報道を鵜呑みにするかのように、小林先生は、「現在の状態で譲位すると次の皇太子がいないという事態になります」「典範改正となると、女性天皇・女性宮家を認め、愛子さまを皇太子にしようという議論が浮上しないわけにはいきません」と議論をどんどんエスカレートさせている。

 繰り返して強調するが、「生前退位」なる言葉は少なくとも皇室の歴史にはない。皇室の伝統を重んじる陛下ご自身が「生前退位」と仰せになるとは思えないし、かつての宮内庁は「生前退位」を避けてきた。

 とすれば、ご意向を「生前退位」と言い換えて表現した誰かがいるはずで、報道を丸呑みにすることはできない。まして、女系継承=「女性宮家」創設容認論へと引き込むのは我田引水そのものだろう。陛下のご意向を尊重するのではなくて、逆に便乗していることにならないか。

 小林先生は8月8日のブログでは、政府内で浮上した特別立法案に反対を表明している。いわく、「なんとしても『皇室典範改正』を妨害したいらしい。典範改正の折に、女性宮家を創設せざるを得なくなることを恐れているのだ」。

 さらに8月21日のブログでは、「これは天皇陛下と安倍政権の戦争なのである」と、安倍内閣の特別立法案に敵対姿勢を一段と強めている。

 小林先生の反対表明は理解できなくもないが、「生前退位」論議を超えて、女系継承容認=「女性宮家」創設を実現させたい先生ご自身の並々ならぬ決意を浮かび上がらせる。


▽6 息を吹き返した女系継承容認論

 小林先生が7月13日のブログで、「天皇の譲位が禁止されたのも、女性天皇が禁止されたのも、たかだか明治の皇室典範からのことで、長い皇室の歴史から見れば、わずかな期間に過ぎないのです」と解説するのはなるほど正しい。

 けれども、いままさに議論されている「生前退位」(「退位」「譲位」ではない)は、ご公務をなさる天皇の行動主義が前提となっているのであり、天皇がほとんど御所からお出ましにならなかった近世まではあり得なかった。

 明治になり、ヨーロッパの王制に学んで近代君主となり、行動主義を原理とするようになったからこそ、高齢化に伴う制度のあり方が問われるのである。

 古来の祭り主というお立場から立憲君主となった明治以後の天皇のあり方を否定するのなら、「国会議員は、今度こそ天皇陛下のご意向をくんで、皇室典範の改正を行わなければなりません!」(7月13日のブログ)とは別の選択肢もあり得るだろう。

 ところが、現実は、NHKのスクープによって、すっかり下火になったはずの女系継承容認=「女性宮家」創設論をふたたび燃え上がらせたのである。リークの目的は、「生前退位」のお気持ち実現より、むしろそこにあったことを疑わせる。

 そして果たせるかな、小林先生らの女系継承容認論が息を吹き返したのである。

 だから胡散臭いのである。女系継承容認論者にとっては待ちに待ったチャンス到来であり、お気持ち報道のいかがわしさなど、どうでもよいということになるのだろうか。


▽7 お言葉は「生前退位」の表明か

 8月9日のブログは、前日、陛下のビデオ・メッセージを拝した先生の感想である。

「天皇陛下のお言葉を聞いて、ただただご希望どおりにして差し上げたいと思ったのは、わしも一般国民とまったく同じである。

 陛下のこれまでの『全身全霊』の国民のためのお務めに、素直に感謝しているから、そのお礼に皇室典範を改正してあげたい。政府は早急にこれに取り組んでほしい。

 そう願わずにはいられなかった」

 いかにも忠良なる臣民を思わせる文章だが、ここには「生前退位」の「せ」の字もない。陛下はお言葉で「生前退位」のお気持ちを表明された、と完全に信じ切っているからか。マスメディアもおおかた同様だから、仕方がないかも知れない。

 しかしお言葉は正確には「象徴としてのお務めについての……」と題され、「生前退位」ではない〈http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12〉。むろんお言葉のなかに「生前退位」という表現は用いられていない。

 NHKのスクープ報道に由来する先入観念を排して、お言葉を素直に読めば、陛下は「天皇もまた高齢となった場合、どのような(象徴天皇の)あり方が望ましいか」を問いかけられたのではないか。

 陛下は、身体の衰えから象徴としてのお務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じられ、一方で、国事行為や公的行為の縮小、摂政を置くことにも疑問を投げかけられ、また、ご大喪関連行事が長期にわたって続くことにも言及し、懸念を示されたうえで、象徴天皇の務めが安定的に続くことを念じられたのだ、と私は思う。

 陛下は仰せになった。「これから先,従来のように重い務めを果たすことが困難になった場合,どのように身を処していくことが,国にとり,国民にとり,また,私のあとを歩む皇族にとり良いことであるか」

 これを「生前退位」の表明と読むのは単純すぎないだろうか。「譲位」のご意向があるとしても、それはお気持ち全体の一部なのではないか。

 一部を拡大解釈し、過去に例のない「生前退位」表明と決め込んで、その実現のため、やれ典範改正だ、いや特別立法だと突き進み、あわよくば女系継承=「女性宮家」創設をも実現しようと企てる、匿名の仕掛け人たちの思惑に乗って社会が動いていくことに、私は大きな危険性を感じる。小林先生はどうだろうか。


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