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「神道指令」とは何だったのか by 佐藤雉鳴 ──阪本是丸教授の講演資料を読む 中編 [国家神道]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2018年7月29日)からの転載です

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「神道指令」とは何だったのか by 佐藤雉鳴
──阪本是丸教授の講演資料を読む 中編
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▽6 宣命解釈の誤りを正した「人間宣言」

 結局のところ、「人間宣言」は「宣命解釈の誤りを正した詔書」と解釈して無理がありません。現実に昭和戦前には天皇を「現人神」とし、文部省『国体の本義』では「天皇=現御神」とされた事実があることは歴史のとおりです。

 国典に「現御神」天皇はない、それでも自分は天皇を神と崇める、これは問題ないと思います。しかし歴史の検証と信仰は区別されねばなりません。名だたる学者のみなさんが、これらを混同している様子は、「現御神と」の詳しい解説がないことで確認できます。

 いったい何時になったら、「現御神止」を含む宣命や「人間宣言」は正しく読まれるのでしょうか。


▽7 ポツダム宣言第6項の「世界征服」とは何か

 ポツダム宣言、神道指令、「人間宣言」そして公職追放令は、日本人にとって衝撃的なことでした。

 ポツダム宣言第6項のポイントは次の文章です。

「日本国国民を欺瞞し之をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は永久に除去せられざるべからず」

 当時の外務省がこの条項を検討した資料が国会図書館にあります。この「権力及勢力」に天皇が含まれるか否かの検討です。そうして狭義に解釈すれば、ドイツでいえばナチス、イタリアならファシスト、我が国では軍閥が相当すると考えました。ただしそれらを明確にしないのは、将来を拘束しないための漠然とした表現だろうと解釈しました。

 しかし問題は「世界征服」です。当時は国体護持が課題だったせいか、この「世界征服」が何を意味するか、検証する余裕はなかったと思います。そして12月の神道指令です。


▽8 神道指令「国家神道」の根拠は何か

 バーンズ米国務長官は、日本占領に当たって次のように述べました。

「日本国民に戦争でなく平和を希望させようとする第二段階の日本国民の『精神的武装解除』はある点で物的武装解除より一層困難である」(朝日新聞)

 GHQの「降伏後における米国の初期対日方針」の目標は、この「物的武装解除」と「精神的武装解除」となりました。前者は軍隊の解除、後者は極端な国家主義の排除です。

 昭和20年12月15日、GHQは神道指令を発し、国家と宗教を分離せしめました。具体的には国家と神道の分離です。

 ここで初めて「国家神道」が定義されました。

 要約すると、天皇・国民そして国土が特殊なる起源を持ち、それらが他国に優るという理由から日本の支配を他国他民族に及ぼす、という軍国主義的ないし過激なる国家主義のイデオロギーを含むものということでした。これには宗教学者D・C・ホルトムの『日本と天皇と神道』の影響が濃く表れています。

「世界征服」と「日本の支配を他国他民族に及ぼす」は同じです。それにしても、一体これらは何を根拠として語られたのでしょうか。


▽9 「世界征服」の思想と解釈された教育勅語

 GHQでは民間情報教育局(CIE)が宗教を担当しましたが、神道指令についてダイク局長は「これで総司令部の出すべき重要指令は、大体終わった」(岸本英夫「嵐の中の神社神道」)と述べました。

 これほどの神道指令に対し、我が国ではその分析が十分であるとはいえません。CIEのバンスやオアらは「近代国家神道の聖典」として教育勅語をあげました。昭和23年には民政局のケーディスらの強い示唆で、教育勅語は国会において排除・失効の決議がなされました。

 では教育勅語のどこに「世界征服」があるのでしょうか。

 ダイク局長は「(軍国主義者たちは)たとえば『之を中外に施してもとらず』という句のように、日本の影響を世界に及ぼす、というような箇所をもって神道を宣伝するというふうに、誤り伝えた」(神谷美恵子「文部省日記」)と語っています。

 教育勅語は「朕惟ふに、我が皇祖皇宗、国を肇むること宏遠に徳を樹つること深厚なり」にはじまって、実践すべき徳目が述べられ、後段につながります。

その後段の冒頭部分は以下の通りです。

「斯の道は実に我が皇祖皇宗の遺訓にして、子孫臣民の遵守すべき所、之を古今に通じて謬らず、之を中外に施して悖らず」

 そしてこの教育勅語後段の解釈を、同じCIEのドノヴァンが「教育勅語のクライマックス」として書きました。

「この文章は当初、世界征服の思想はなかったと思われるが、何にも増して、彼らを救世主願望で奮起させ熱烈な愛国者とし、皇道精神の世界拡張をかきたてたのである」(『続・現代史資料10』原文は英語・訳は筆者)

 要するに、教育勅語の「之を中外に施して悖らず」が「世界征服」の思想とされたのです。

 ポツダム宣言の「世界征服」、神道指令の「日本の支配を他国他民族に及ぼす」の根拠は、教育勅語の「之を中外に施して悖らず」でした。これでGHQが教育勅語を「近代国家神道の聖典」とし、排除・失効決議を迫った理由が分かります。


▽10 GHQと変わらない日本人の教育勅語解釈

 いま私たちが目にする教育勅語の現代語訳は、ほとんどが国民道徳協会のものだと思います。そしてその基礎は、昭和15年文部省の「聖訓の述義に関する協議会」の解釈にあります。

「之を古今に通じて謬らず、之を中外に施して悖らず」についての解釈です。

「この道は古今を貫いて永久に間違がなく、又我が国はもとより外国でとり用ひても正しい道である」(『続・現代史資料9』)

 この意味からすると、日本人の解釈とGHQのそれとは大差ありません。少なくとも昭和戦前の我が国では「建国の精神」「皇道を四海に宣布」といったスローガンがありました。「之を中外に施して」の「中外」を「国の内外」としたことは、日本人もGHQも同じでした。(つづく)


[筆者プロフィール]
佐藤雉鳴(さとう・ちめい) 昭和25年生まれ。国体論探求者。著書に『本居宣長の古道論』『繙読「教育勅語」─曲解された二文字「中外」』『国家神道は生きている』『日米の錯誤・神道指令』
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