SSブログ

男系主義の理由を論究せず。女系継承容認派に秋波おくる参院調査論文 その1 [皇位継承]

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
男系主義の理由を論究せず。女系継承容認派に秋波おくる参院調査論文 その1
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
☆★So-netブログのニュース部門で、目下、ランキング14位(5937ブログ中)。上がったり下がったりです。皇室論の真っ当な議論を喚起するため、「nice」をプチっと押していただけるとありがたいです。〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/〉★☆


皇位継承が古来、男系主義を採用してきたのはなぜなのか、そしていまなぜ女性天皇の容認のみならず、歴史にない女系継承容認論に世論が席巻される事態となったのか。天皇が祭り主であり、皇祖神のみならず天神地祇を祀り、米と粟を捧げて祈るのが天皇の祭祀であるなら、その祭祀のあり方にこそ男系主義の本質が見えてくるはずです。そして、戦後の象徴天皇制が祭り主天皇の否定であるなら、男系主義否定に帰着するのもまた当然なのでしょう。しかしながら、そのような議論は寡聞にして知りません。

前々回まで、帝国学士院編纂の『帝室制度史』や国会図書館の山田敏之専門調査委員の論考を取り上げ、私なりに考えを進めてきましたが、今回から参議院内閣委員会調査室の調査員・岩波祐子さんによる、25ページに及ぶ浩瀚なリポート『「安定的な皇位継承」をめぐる経緯―我が国と外国王室の実例』を読みつつ、考察することにします。徒労とは十分に知りつつ、ということです。

 【関連記事】「皇統は男系に限る」と断言しつつ、根拠は神勅と歴史以外に見当たらない『帝室制度史』https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2020-05-10
 【関連記事】国会審議に無用の混乱を招く「国会図書館」調査員の皇位継承論https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2020-06-07

参議院調査室は、参院議員の活動全般を調査面で補佐するために置かれた組織で、常任委員会調査室、特別調査室及び企画調整室から構成されています。調査室が参院議員のために企画・編集、発行している調査情報誌『立法と調査』には調査・研究の報告・論文が掲載され、岩波さんのリポートは昨年9月発行の415号に掲載されています。〈https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/20190910.html

サイトの説明ではリポートはあくまで「個人的な見解」とされていますが、公機関の編集・発行する公的媒体掲載の論考が「個人的」であり得るはずはありません。政治的に難しいテーマならなおのこと、公正中立に徹することは至難であり、逆に偏りのある内容なら議員たちの審議に誤った方向性を与えてしまうのではないかと危惧されます。

そうした懸念が生じるのはそもそも、既述したように、そしてまさに岩波さんの論考がそうであるように、古来、なぜ男系主義が採用されてきたのかが十分に論究されていないからです。


▽1 単なる議論の紹介

岩波さんのリポートは4部構成になっています。(1)皇位継承をめぐるこれまでの議論、(2)皇位継承における原則と例外、(3)提案の状況、(4)外国王室の状況、の4つです。

その前に「はじめに」です。岩波さんは執筆の目的を次のように説明しています。

平成29年6月、皇室典範特例法の附帯決議で「安定的な皇位継承確保の諸課題」を検討するよう求められた政府は皇位継承儀式が一段落したあと、検討を開始すると報道されている。
憲法は皇位継承について世襲制のみを規定し、具体的制度設計は皇室典範に譲っている。現行皇室典範は「皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定め、皇族女子は婚姻により皇籍を離脱すると規定されている。
現在、男系男子が不在となる懸念に関連し、小泉内閣時の有識者会議では男女の別なく直系・長子優先の継承を定める案が提言され、野田内閣では公務の担い手を増やす女性宮家の創設が提言されたが、いずれも実際の法改正等には至っていない。
本稿は、皇位継承に関する検討の経緯の概要について、皇位継承に関わる歴史上の原則等に触れつつ、皇位継承に関するこれまでの議論と、現在の提言の状況、加えて外国王室における参考となる事例等を紹介することを目的とする。

あとで詳しく検討することになると思いますが、憲法が定める「世襲」は単に血が繋がっていることを意味するわけではなく、「王朝の支配」を意味しますが、岩波さんのリポートではその指摘は見当たりません。また、外国王室との比較は有効なものなのかどうか、追って検証したいと思います。

それでは「皇位継承をめぐるこれまでの議論」です。

岩波さんは、(1)皇室典範制定時の議論、(2)昭和39年の憲法調査会報告書における議論、(3)平成17年4月の衆参憲法調査会報告書における議論、(4)同年11月の小泉政権『皇室典範に関する有識者会議報告書』、(5)同24年10月の野田政権『皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理』、 (6)天皇陛下御退位をめぐる議論における皇位継承策の検討、の6つのステージに分けて考察しています。

見出しから容易に想像できるように、岩波さんのリポートは単なる議論の紹介にとどまっています。その程度なら、リポートをまとめるまでもなく、議員たちはむしろオリジナルの報告書を読んだ方がいいように思いますが、どうでしょうか。

それはともかく、今日のところは、分量の関係上、(3)までを読めることにします。

まず、(1)皇室典範制定時の議論です。岩波さんは古代からの皇位継承の実態や明治の皇室典範制定には触れず、いきなり戦後の、つまり占領下という特殊状況下での議論に飛び、昭和21年7月設置の臨時法制調査会と同時期の第90回帝国議会での議論を紹介しています。


▽2 「女系派」園部逸夫氏に引きづられる

第一は臨時法制調査会における議論ですが、岩波さんは、女系継承容認派として毀誉褒貶半ばする元最高裁判事・園部逸夫さんの著書『皇室法概論-皇室制度の法理と運用-』を引用するのみです。なぜ調査会そのものの議論を取り上げないのか、不思議です。

『女系による皇位の継承及び女性天皇の是非については、認めるべきとする見解の論拠は明らかではないが、認めるべきでないとする見解は、歴史・伝統を論拠としていた。臨時法制調査会第3回総会における第一部会長代理の報告は、女系による皇位の継承は皇位世襲の観念に含まれないとしている。なお、背景として、当時は皇位継承資格のある男系男子が相当人数存在したこと、「日本には皇配(プリンス・コンソート)族とでも言い得るような特種の家柄が存在せず、存せしめることが不適当でもある」等、配偶者の在り方に難点があると考えられたことなども指摘されている』

以前、触れたように『帝室制度史』では男系主義の根拠として、「歴史・伝統」の前に「神勅」が挙げられていましたが、ここにはありません。女系が認められないのは「万世一系の皇統」を侵害するからですが、言及がありません。皇配の有無云々については、王族同士の婚姻を前提とするヨーロッパ王室との違いがあることが指摘されていません。

園部さん自身にこうした理解が不足しているということでしょうか。そんな園部さんの著書をなぜ引用しなければならないのか、理解に苦しみます。

第二に、帝国議会における議論です。

岩波さんは、帝国議会では憲法第2条で旧憲法の「皇男子孫」の文字を省略した理由に関連し、「此ノ第二条ニハ其ノ制限ガ除カレテ居リマスルガ故ニ、憲法ノ建前トシテハ、皇男子、即チ男女ノ区別ニ付キマシテノ問題ハ、法律問題トシテ自由ニ考ヘテ宜イト云フ立場ニ置カレル訳デアリマス」(金森国務大臣。衆議院憲法改正案委員、昭和21.7.8)などの答弁がされ、あたかも女系継承が容認されたかのように解説しています。

しかし、そうともいえません。7月17日の委員会では、芦田委員長が「将来、皇位が女系に移るがごときことは絶対にないという意味に了解するほかはない」と述べているからですが、岩波さんのリポートには言及がありません。女系派の園部さんに引きづられているからではありませんか。中立性に大きな疑念があります。

岩波さんは、「女性の皇位継承を可能としてはどうかとする制定時の議論」として、(1)歴史上も女性天皇の例がある、(2)文化国家、平和国家の象徴としてふさわしい、(3)新憲法の精神、男女平等原則に沿う、(4)近親の女性を優先する方が自然の感情に合致し正当である、(5)皇統の安泰を期すためには女性天皇を可能にする必要がある、という意見があったと指摘しています。

しかし、いつも申し上げるように、夫がいたり、妊娠中、子育て中の女性天皇は歴史に存在しないし、男女平等を掲げる憲法の第一章が天皇の規定であり、したがって男系継承主義は男女平等原則の例外と見るべきであって、実際、GHPは何ら異議を挟まなったのでした。

 【関連記事】基本を忘れた女系継承容認論──小嶋和司教授の女帝論を読むhttps://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2011-12-31


▽3 「世襲」はdynasticの和訳だが…

次に昭和39年7月の憲法調査会報告書での議論です。

憲法調査会は昭和31年6月、内閣に設置され、39年7月3日に内閣と国会に報告書が提出されました。岩波さんは、女帝関連部分を抜粋しています。

それによると、皇位継承について、女帝および退位を認めるべきかどうかの問題がとりあげられ、見解の対立がみられたが、意見を述べた委員は、天皇と国民主権との関係、天皇の地位および権限等の問題に関して意見を述べた委員に比較すればきわめて少数だったというのです。

女帝容認派の論拠は、例によって、(1)日本の歴史に先例があり、外国の例に照らしても、女帝を認めるべきでないとする理由はない、(2)男子の皇位継承資格者が絶えるという稀有の場合も生じないとはいえない、(3)両性の平等の原則からいっても女帝を認めるべきである、(4)天皇の権限は形式的・儀礼的な行為に限られているから、女子は天皇の適格性を有しないとはいえず、また現に皇室典範は女子も摂政となりうることとしている、というものでした。

興味深いのは、女帝を認めるとすれば、皇位継承のもっとも重要な事項であるから、皇室典範ででは足らず、憲法上明確に規定すべきであるとされたことです。ひとつの見識といえます。しかし、岩波さんはこれも単なる抜粋・引用にとどまっています。

時代は平成に飛びます。岩波さんはまず平成17年4月の衆参憲法調査会報告書における議論を取り上げます。岩波さんが指摘するように、悠仁親王殿下の御懐妊前の議論でした。

衆議院では、岩波さんによると、女性による皇位継承を認めるべきであるとする意見が多く述べられました。その論拠は、(1)憲法が皇位継承権を男性に限定していない、(2)男性による継承に限定したままでは皇統が断絶する懸念がある、(3)女性の天皇を容認する国民世論の動向、(4)これを認めることが男女平等や男女共同参画社会の形成という現在の潮流にも適うものである、などでした。

これに対し、慎重論は、男系男子による継承が我が国の伝統であることが論拠でした。

憲法の「世襲」はdynasticの和訳ですから、王朝の交代を招く女系継承は憲法違反のはずですが、立法過程に遡った議論はなかったのでしょう。男系が絶えない制度を模索すべきだという意見はなかったものなのか、何より男系継承の意義が見出されていないことが最大のネックなのでしょう。


▽4 国学、神道学も同じ

女性による皇位継承を認めるべきであるとする意見には、日本国憲法は、大日本帝国憲法と異なり、皇位継承資格を皇族男子に限定していない、現行の皇室典範では、男子の皇族にしか皇位継承権を認めていないが、摂政については現在でも皇族女子の就任を認めている、王室を有する欧州各国では、女性による王位継承を認めている、などの意見がありました。

しかし、これらも立法過程の議論に考慮しているとはいえず、ヨーロッパ王室の王位継承を外面的に眺めているだけといえます。これに対して、慎重派も男系主義の積極的な意義を見出せずにいます。

次に参議院ですが、岩波さんが引用する報告書の抜粋では、象徴概念の純化を図るべきである、男子限定の皇室典範は改正すべき、女性天皇賛成が80%という世論調査もある、男子誕生のプレッシャーを天皇家に掛けるのは良くない、皇室典範の改正で女性天皇を認めることは可能であり、天皇を男子に限る合理的根拠はない、などとして、女性天皇容認について、おおむね共通の認識があったとされます。

一方、天皇・皇族の人権問題が議論され、人格は基本的に守られるべき、国民の一人として人権が尊重されるべきことは当然などの意見が出されたことは注目されます。

このあと岩波さんは参考人・公述人の発言を引用するのですが、女系派である園部さんの意見がやたら多いのが気になります。むろん園部さんの議論は125代歴史的天皇の継承ではなくて、日本国憲法に基づく1.5代象徴天皇の継承なのでした。祭り主天皇に関心のない園部さんに、男系主義が理解できる道理はありません。

意気軒昂な女系容認派に対し、「議論自体は国民の自由、議院活動の自由であるが、個人的には皇族が悩む状況をむしろつくってしまうのではないかと懸念する」と慎重論を述べた阪本是丸・國學院大学教授の存在は異色でした。

慎重論は大いに理解できるところですが、男系主義の真髄が提示されないのはなぜなのでしょう。近世以来の国学、神道学が男系主義の本義を解明できないでいるのは、やはり学問的限界なのでしょうか。

最後にひと言申し上げます。政府・宮内庁は平成8年以降、皇位継承に関する非公式・公式な調査研究を開始し、女帝容認に完全にシフトしたことが知られています。しかし、岩波さんの論考にはまったく言及がありません。(つづく)

 【関連記事】伝統主義者たちの女性天皇論──危機感と歴史のはざまで分かれる見解(「論座」平成16年10月号から)https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2004-10-01
 【関連記事】どうしても女性天皇でなければならないのか。男系を固守することは不正義なのか。なぜ男系の絶えない制度を考えようとしないのか?https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2020-02-09


☆斎藤吉久から☆ 当ブログ〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/〉はおかげさまで、so-netブログのニュース部門で、目下、ランキング10位。アメーバブログ「誤解だらけの天皇・皇室」〈https://ameblo.jp/otottsan/〉でもお読みいただけます。読了後は「いいね」を押していただき、フォロアー登録していただけるとありがたいです。また、まぐまぐ!のメルマガ「誤解だらけの天皇・皇室」〈https://www.mag2.com/m/0001690423.html〉にご登録いただくとメルマガを受信できるようになります。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:ニュース

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。