SSブログ

齊藤教授さま、現代皇室の史的検証の枠組みを誤っていませんか? 期待はずれの御代替わり論のなぜ [御代替わり]


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
齊藤教授さま、現代皇室の史的検証の枠組みを誤っていませんか? 期待はずれの御代替わり論のなぜ
(令和2年12月29日)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


資料を整理していたら、政教関係を正す会の会報が出てきました。目を引いたのは、「近代皇室制度と現代の御代替わり」と題する齊藤智朗・國學院大学教授の発表です。

昨年、令和元年8月29日に都内で開催された研究会の発表をまとめ直した記録でした。先帝から今上へと皇位が継承されて4か月、即位の礼、大嘗祭まで3か月を切ったタイミングで企画された神道学者の発表内容に、いやが上にも期待が高まります。

しかし会報の発行は、驚くなかれ、丸一年後の今年8月31日付。せっかくの企画なのに、編集があまりにも遅すぎませんか。これでは目の前の御代替わりに影響力を示すことなどとうてい無理でしょう。文字通り、後の祭りです。


▽1 「法規が一切ない」のではない

とはいえ、ともかく中身を読もうとページをめくり、結局、私は期待を裏切られることになりました。

発表のタイトルはすでに示したとおりで、「近代」と「現代」の比較を目的としているようです。千年を優に超える皇室の長い歴史から今回の御代替わりを考察しようとしているのではないということでしょうか。なぜ150年の歴史に限定して考察しなければならないのか、私には不明です。

「はじめに」の冒頭で、齊藤教授は、今回の御代替わりが「皇室典範特例法」に基づくこと、約200年ぶりの、憲政史上初となる「譲位による御代替わり」であることを指摘していますが、のっけから間違っていませんか。

いみじくも特例法が「退位」と銘打っているように、政府は「譲位」を否定し、避けています。政府にとっては「譲位による御代替わり」ではなく、「退位による御代替わり」であることこそが今回の御代替わりの最重要ポイントの1つであるはずなのに、教授は「譲位」「譲位」と続けています。失礼ながら、本質が見えていないということではありませんか。

もっと致命的なのは、戦後の重要な歴史がまったく無視されていることです。つまり、教授は前回の御代替わりについて、次のように述べています。

「30年前の御代替わりは、現行の日本国憲法および皇室典範のもとでなされた最初の御代替わりである……近代皇室制度、とくに明治皇室典範や登極令をはじめとする御代替わりに関する制度が占領期に廃止されて、以後、今日まで御代替わり、とくにその諸儀式の内容や詳細について定めた法規が一切ない状況のなかで、平成の御代替わりに伴う儀式が滞りなく行われた」

そのうえで、今回の御代替わりは平成の前例を踏襲することが閣議決定され、一方、「譲位」による御代替わりは近現代の皇室制度では予期されていないから、近代とも異なる、前回とも異なるものとなることが予想されるとして、変更点の検証を試みようとするのです。

つまり、教授の発想では「近代」と「現代」とは逆接関係にあります。しかし、私の読者ならすでにお気づきでしょうが、この教授の理解は正しくありません。少なくとも皇室の諸儀礼においては、「近代」と「現代」は順接なのです。

たしかに敗戦後、皇室典範は改正され、一法律となり、また日本国憲法施行に伴って登極令のみならず皇室令はすべて廃止されましたが、諸儀式に関する「法規が一切ない」のではありません。「近代」と「現代」をつなぐ法的基準がたしかにあるのです。教授はそれを見落とし、したがって史的検証の前提となる思考の枠組みを誤ってしまったのです。皇室の「近代」と「現代」の微妙な法的な関係を教授はまったく理解していないのです。


▽2 依命通牒の解釈・運用が変更された

日本国憲法および現行皇室典範の施行当日、つまり昭和22年5月3日付で、宮内府長官官房文書課長名による依命通牒が出され、その第3項「従前の規定が廃止となり、新しい規定ができていないものは、従前の例に準じて、事務を処理すること(例、皇室諸制典の附式 皇族の班位等)」によって、たとえば宮中祭祀はほぼ従来どおり存続することになりました。

宮中祭祀に携わる人たちなら常識のはずですが、もしかして神道学(近代神道史)を専攻する國學院大教授ともあろうお人が知らないのでしょうか。信じがたい気がします。本気で「法規がない」と仰せなら、反天皇の立場に立つらしい宗教学者や皇室研究家などが「宮中祭祀は法的裏付けがない」「戦後も温存された」などと放言しているのとあまり代わり映えしません。

教授の言う「滞りなく」とは、諸儀礼が大枠で登極令に準じて行われたことを意味するのでしょうが、登極令が廃止され、「法規がない」のに、どうして登極令に準じた御代替わりが執り行われ得るのでしょうか。何かほかに法的根拠があるはずだとは想像なさらないのでしょうか。日本は古来、法治国家なのです。「法規が一切ない」なんてあるはずがないのです。そうは思われないのでしょうか。

御代替わりの歴史を正しく検証しようというのなら、「法規がない」なかで、諸儀礼がどのように「変更」されたかではなくて、逆に、法的基準があるのにもかかわらず、何がどのように変更されたか、なぜ変更されなければならなかったのかを検証すべきではないでしょうか。そこに神道学者の役割があるはずです。

たとえば教授は、「2 全体的な変更点」で、近代では「践祚」の語が使われたが、戦後は「法規がない」ため使われなくなったと指摘していますが、そうではなくて、依命通牒があるのにもかかわらず、登極令附式に定められる「践祚ノ式」が「剣璽渡御ノ儀」という宗教的儀礼を含むことを政府が嫌った結果、践祚の儀はズタズタにされたということでしょう。

皇室典範改正が議論されていた昭和21年当時、金森徳次郎大臣は、改正案には「践祚」という文字は消えたけれども中身に変更はない、即位礼の中身に変更はないという趣旨の答弁をしていますが、いまの政府は、「皇室の伝統」と「憲法の趣旨」とを対立的にとらえ、皇室の伝統行事を伝統のままに行うことは現行憲法の趣旨に反すると考え、国の行事と皇室行事とを二分し、そして「践祚後朝見ノ儀」は「朝見の儀」となったのです。

なぜそのようにしたのか。現行憲法の政教分離原則にこだわるあまり、平安期以来の践祚と即位の分離という大原則を失ったばかりではありません。依命通牒の解釈・運用を大きく変更させた結果であると指摘するのが、國學院で教鞭を執る神道学者のあるべき姿勢であり、「正す会」の趣旨にかなうことではないでしょうか。

教授は「おわりに」で、「平成の御代替わりは、大枠は明治皇室典範や登極令に準拠しつつも、変更点も数多く、近代皇室制度の転換を表すものだった」と振り返り、「今回はさらなる大幅な修正をもたらすもの」と指摘し、「現代の登極令を整備する必要がある」と結論づけています。

これには心から同意しますが、そのためには、あらためて戦後史をより正確に検証する必要があります。そうでなければ、学問的検証といいつつ、単に政府の政策を追認するだけで満足することになるでしょう。そうはならないよう、齊藤教授の奮起を心から期待します。


【関連記事】共有すべき問題意識が見えない齊藤智朗教授の発題──「周回遅れ」神社関係者の御代替わり論議 2〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2018-10-08
【関連記事】登極令に準じた即位大嘗祭の挙行をなぜ訴えないのか──「周回遅れ」神社関係者の御代替わり論議 1〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2018-09-17
【関連記事】大学のテストなら65点のトンデモ天皇論!?──宮中祭祀は年間18回? 法的な裏付けはない?〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2017-12-18
【関連記事】終戦後、天皇の祭祀はどのように存続し得たか──歴史的に考えるということ 3〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2013-04-29-1
【関連記事】依命通牒に関心を持とうとしないのはなぜか──歴史的に考えるということ その1〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2013-03-18-1
【関連記事】依命通牒の「廃止」をご存じない──百地章日大教授の拙文批判を読む その2〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2013-02-11-1
【関連記事】昭和22年の依命通牒は「廃止」されていない?──昭和の宮中祭祀改変の謎は深まるばかり〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2013-01-26-1
【関連記事】「昭和天皇の忠臣」が語る「昭和の終わり」の不備──永田忠興元掌典補に聞く(「文藝春秋」2012年2月号)〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2012-02-01-1
【関連記事】永田忠興元掌典補ロング・インタビュー──「昭和天皇の忠臣」が語る「皇位継承」の過去と未来〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2012-02-01-2
【関連記事】宮中祭祀を「法匪」から救え──Xデーに向けて何が危惧されるのか。昭和の失敗を繰り返すな(「文藝春秋」2012年2月号)〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2012-02-01
【関連記事】政府は戦後の重大な歴史にフタをしている──検証・平成の御代替わり 第6回〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2011-10-05-1

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。