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伝統を失った日本人と天皇の未来。126代の皇統史に価値があると思うなら [天皇・皇室]

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伝統を失った日本人と天皇の未来。126代の皇統史に価値があると思うなら
(令和3年2月14日、日曜日)
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前回のブログにさまざまな反応があった。そして、やっぱりなと思った。日本人はもうすっかり近代化してしまったのではないか。ものごとの考え方が一神教化してしまったのではないか。日本古来の多神教的世界が理解できなくなっているのでないかということである。

天皇の世界は伝統オンリーでも、近代オンリーでもないが、近代オンリーとなった日本人には、伝統と革新を原理とする天皇の多神教的世界がますます理解できなくなっているのではあるまいか。

だとすれば、厄介である。その結果、何が起きるのか。


▽1 伝統と近代の共存が破れた戦後
皇居二重橋.jpeg
もし現代の日本人が日本古来の伝統的、多神教的世界観との乖離を感じることさえないのだとすれば、目の前の皇位継承問題についても、純粋な論理で考えるなら、女系継承容認でも構わないという結論に帰さざるを得ないと思う。女系継承容認=「女性宮家」創設論はまさに近代化の産物だからである。

近代化し切った日本人のありようを手放しで、完全に認めたうえで、同時に、皇室の伝統を固守せよという要求は成り立たない。伝統に近代を融合させることも至難だが、近代主義のうえに伝統主義を積み重ねることは矛盾以外のなにものでもない。

何度も書いてきたことだが、伝統と革新こそが皇室の原理である。水田稲作、漢字、仏教、律令制など、海外の先進的文化を積極的に受入してきたのが皇室の歴史である。戦後唯一の神道思想家と呼ばれた葦津珍彦は海外文化受容のセンターが皇室だったと評した。その一方で、天皇は伝統的な祭り主であり続けてきた。

日本の近代化、欧化をリードしたのも皇室だった。法律、貨幣・金融、官僚制度、軍隊、学校教育、道路網、交通機関など西洋の文化が導入され、明治政府のもとで一元化していった。天皇は近代君主、立憲君主となり、日本はアジアで最初の近代国家となった。

それは輝かしい歴史というべきだが、文明の衝突に苦しむことともなった。欧化主義にことごとく席巻される現実をもっとも憂えたのはほかならぬ明治天皇で、教育勅語の起草は明治天皇の憂慮の念が出発点だった。なにしろ修身の教科書までが翻訳物だった。数学、医学、建築、芸術から伝統が追放された。

しかし教育勅語こそは明治の近代化に翻弄された典型だった。非政治性、非宗教性、非哲学性が追求され、苦心の末にまとめられた教育勅語だったのに、煥発後は文部大臣らによって勅語それ自体が宗教的拝礼の対象とされた。教育勅語の解説を書くよう求められたのは西洋帰りの哲学者だった。明治天皇の憂慮は反故にされた。解説書が修身の教科書となることはなかった。

そして戦後、国家神道の聖典という烙印が押され、教育勅語は追放された。未曾有の戦争と敗戦が伝統を駆逐させてしまったということだろうか。それでも昭和30年代頃までは、日本の伝統が生きていた。日本の暦がキリスト教のグレゴリオ暦(太陽暦)に改暦となったのは明治5年だが、太陰太陽暦はその後も旧暦として生き続けた。度量衡、尺貫法もしかりである。

天皇は近代君主であると同時に、歴史的祭り主であり続けた。宮中祭祀の祭日は「休暇日」「休日」とされた。伝統と近代が共存したのが日本の近代である。その共存が破れたのは戦後しばらくしてのことであった。天皇の祭祀は「皇室の私事」となり、天皇は御公務をなさる特別公務員となった。他方、日本人は伝統を失い、伝統は死語となったのである。


▽2 伝統を回復させるための努力を

伝統と近代との狭間で格闘し、苦悩したのが夏目漱石だった。明治44年、和歌山での講演「現代日本の開化」で、漱石は、日本の「開化」を「外発的」と評し、「ただ上皮を滑って行き、また滑るまいと思って踏張るために神経衰弱になるとすれば、どうも日本人は気の毒と言わんか憐れと言わんか、誠に言語道断の窮状に陥ったものだ」と慨嘆している。

漱石が何を考えていたのか、もっと深く知りたいと思い、江藤淳の『漱石とその時代』をひと通り読んだが、佳境に至る前に残念ながら未完のまま絶筆となっていた。古来、海外との交流から国を発展させてきたのが日本であり、近代の「開化」のみが「外発的」だったとは思われないから、「言語道断の窮状に陥った」原因はきっとほかにあるはずだが、江藤の考察から探し当てることはできなかった。

余談だが、賊軍の末裔である私にとって、漱石の『坊っちゃん』ほど痛快なものはない。何しろ江戸っ子のべらんめえと会津っぽの山嵐が、新興インテリの赤シャツと太鼓もちの野だいこ連合を木っ端微塵に懲らしめるのだから、痛快そのものだ。

だが、結末はよくない。東京の清(きよ)のもとに戻った坊っちゃんが再就職したのは、路面電車の技手であった。文明開化に抵抗しきれず、英語教育から転身したのも、当時最先端の交通機関だった。「外発的」な「開化」に抗い、踏ん張るどころか、時流に乗っている。それは英語教師となった漱石自身でもあろうか。ともあれ、なぜ漱石は伝統と近代のねじれに苦悩しなければならなかったのか。

前にも書いたように、アインシュタインが来日したのは、大正11年、漱石の講演から11年後のことだった。アインシュタインは全国を精力的に歩き、日本人が美しい自然と共生する生き方から、日本独自の文化のみならず、天皇制をも創り上げていったと見抜いた。

そして他方で、伝統と近代の相剋に苦悩する日本人に対して、「生活の芸術化、個人に必要な謙虚さと質素さ、日本人の純粋で静かな心、それらを純粋に保って、忘れずにいて欲しい」(「印象記」)と願うのだった。

漱石ばかりではない。伝統の喪失をアインシュタインもまた憂いたのである。ならば、失われた「伝統」とは何だろうか。たぶんそれは何度も申し上げた多様性、多元性というものなのだと私は思う。

いまでは国土は一様にアスファルトで覆われ、伝統的自然観の前提となる多様な自然が失われている。自然との共生から生まれた日本人の宗教伝統を表現した神社建築でさえ、コンクリートで作られている。外的環境が一変したのである。アインシュタインの憂いは現実化している。

それならば、伝統を失った日本人と天皇は今後、どこへ行くのか。行くべきなのか。もはや日本の伝統などどうでも良いというのなら、皇位継承もまた男系主義にこだわる必要はない。20数年来、側近たちが先導してきた「女性宮家」創設=女系継承容認でも構わないということになる。

けれども千数百年の時を超え、126代続く皇統の歴史を価値ありと思うのなら、伝統の価値をあらためて深く認識し、国民に広く理解してもらう必要がある。先帝も今上も、ことあるごとに、皇室の伝統と憲法の理念を大切にと訴えてこられた。伝統を復権させるために国民の渾身の努力が求められている。


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