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皇室伝統の皇位継承法に従うことが「宗教派」なのか──日経編集委員の解説を批判する [有識者会議]


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皇室伝統の皇位継承法に従うことが「宗教派」なのか──日経編集委員の解説を批判する
(令和3年8月15日、日曜日)
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8月13日の日経新聞(電子版)に、井上亮編集委員による「宗教派と世俗派の相克 皇位継承、有識者会議の方向性」と題する解説記事が載りました。皇位継承有識者会議が7月に第10回目の会合を開き、皇位継承に関する「整理の方向性」を示したことについての解説でした。〈https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE110Z20R10C21A8000000/

それにしても、「宗教派vs世俗派」とはずいぶんと大仰な二項対立の図式です。いったい何をおっしゃりたいのでしょうか。もしかして、何か大きな勘違いをなさっておいでなのではありませんか。


▽1 180度違う対策案

井上さんの記事によれば、安定的な皇位継承を確保するために、有識者会議が打ち出した対策案は、(1)女性皇族が婚姻後も皇室に残る、(2)戦後に皇籍を離脱した旧皇族の子孫の男系男子を皇族の養子とする、(3)旧皇族の子孫を皇室に復帰させる──の3つです。

このうち、最重要課題の皇位継承にかかわるのは、(2)と(3)で、従来から男系維持の保守派が主張してきた案だと、井上さんはまず説明します。

しかし、井上さんの解説は、「これは同じ問題を討議した2005年の小泉純一郎内閣での有識者会議最終報告とは百八十度違う。同報告は男女を問わない長子継承と女性・女系天皇の容認を打ち出した。旧皇族の復帰は、そもそも男系継承は安定性を欠くとして否定された」と続きます。

井上さんによれば、「宮内庁幹部、関係者の間では、このときに議論は尽くされている」「皇位継承制度の安定性を考えれば、長子優先しか選択肢がない」「長い目で見ると男系継承の不安定性は明白である」とすれば、なぜ結論がこうも変わるのかという疑問が湧いてくるのは当然です。

「当時は上皇さまの孫世代に皇位継承者が一人もいない切羽詰まった状況」だったが、「今回の有識者会議は、同世代で皇位継承者が悠仁さま1人の状況」だという「違いはある」。「天皇の長い歴史と伝統は合理と数字だけで割り切れないのは確かだ」。だから、「ヒアリングの第1問にそもそも天皇とは何かを問う「天皇の役割と活動」を置いたのだろう」という展開は、私も理解できないことではありません。

問題は次です。


▽2 天皇は人間を超えた存在とみなしたい「宗教派」?

井上さんは「識者の回答は2つに集約できる」と言います。つまり、「天皇の正当性を神話に由来する祭祀王であることに求めるか、象徴として国民を統合する存在と定めた日本国憲法とするのか、である」というのです。

そして、この両者は、「天皇は人間を超えた存在とみなしたい『宗教派』と、国家機関としての役割を負った人間と見る『世俗派』ともいえよう」と仰せなのでした。「戦前から長く続いてきた天皇観の相克であり、これが皇位継承の考え方に強く影響している。大まかに見れば、前者に男系維持、後者に女系容認の論者が多い」と解説しています。

井上さんの解説は続き、「宗教派から見れば、世俗派は千数百年続いてきた天皇の伝統を戦後約70年にすぎない憲法と男女同権など現代の観念だけで論じていると映る」。他方、「世俗派は、男系は明治以降に確定した観念であり、神話や実証的歴史学では実在しない天皇を持ち出す宗教派は非合理的。継承確率の低い男系への固執はひいきの引き倒しで、皇統断絶を招き寄せると考える」と説明されています。

有識者会議は「国論を二分することは避けるべきだ」と警鐘を鳴らし続けているのに、「すでに国民の天皇観は分裂している」と井上さんは断定しています。

井上さんは「有識者会議の整理の方向性は宗教派に歩み寄った」けれども、「伝統は大事だが、現実社会との調整がなければ空論に終わるだろう」と警告しています。「皇室が悠仁さま1人になり、皇位継承者がいない状況にならなければ制度変更は無理だろう」という声も聞かれるというわけです。

さて、それでは批判です。

そもそも皇位継承法というものは、海外の王室と同様に、皇室独自のルールがあるのであって、国民的議論には馴染まないということが本来あるべき基本でしょう。有識者会議方式が誤っているのです。つまり、ネックは憲法の国民主権主義です。

井上さんが仰せのように、小泉内閣時代の皇室典範有識者会議は「皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」(報告書の「結び」)と結論づけましたが、その過程において、皇室の天皇観についてはまったく検討されませんでした。天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」からでしょう。


▽3 「祭り主」天皇への誤解と偏見

寛仁親王殿下は「一度切れた歴史はつなげない」と男系継承が破られることに警鐘を鳴らされました。井上さんは「男系は明治以降に確定」と書いていますが、皇位は古来一貫して男系主義で貫かれてきたのです。それなのに、なぜいま否定されるのか、歴史と伝統というものはそれほど軽いのか、議論すべきなのはそこでしょう。

ついでながら、古来の男系主義は女性天皇を否定していません。認められなかったのは、夫がある、もしくは妊娠中・子育て中の女性天皇です。明治になって女性天皇が否定されたのは終身在位と関わっています。終身在位制のもとで女性天皇が即位すれば、当然、女系継承を容認することになります。万世一系は終焉します。

皇室典範有識者会議は「皇位継承の安定的維持」を目的に掲げていましたが、これには大きな疑いがあります。平成8年ごろ宮内庁で開始されたという水面下の検討は、むしろ国事行為をなさる特別公務員たる天皇の安定的継承、つまり国事行為の制度的安定が目的だったのではありませんか。皇統より憲法が優先されています。

たとえば国会を召集するのに男女の別はあり得ません。憲法体制の維持のためには皇室の皇位継承ルールは無視されて当然ということになります。

井上さんの記事にもっとも欠けているのは、男系継承が歴史上、「綱渡り」だったにもかかわらず、固守されてきたのはなぜか、という問題意識でしょうか。

井上さんは、「天皇は人間を超えた存在とみなしたい『宗教派』」と男系派を決めつけていますが、天皇=神だから男系継承が守られるべきだなどという主張を、誰がしているのでしょうか。天皇は神として祀られるのではなく、神々を祀るお立場であり、それが「祭り主」というものです。

私に言わせれば、男系継承主義が「祭り主」天皇論から必然的に導かれるとして、天皇の祭りなるものは逆に、国家的儀礼としてもっとも現実的、世俗的な社会的要求のなかから生まれたのだと想像しています。

昭和天皇が「現人神」とされることを嫌われたように、「天皇は人間を超えた存在」は完全な誤解だとして、天皇が皇祖神ほか天神地祇を祀り、米と粟を捧げて祈られることと男系継承主義がどう関わるのか、そこを男系派は説明していない。そこに最大の弱点があるということをこそ、井上さんはきびしく指摘すべきではないのでしょうか。

井上さんには、「祭り主」天皇への大きな誤解と偏見があると思います。

最後に蛇足ながら、井上さんは「神風が吹いた例はまずない」と記事を締め括っていますが、皇位継承は皇祖神の御神意に基づくというのが伝統派の信念です。事実、皇室と国民の祈りが通じて、悠仁親王殿下はお生まれになったのではありませんか。


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