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「皇嗣」と「皇太子」の違いを強調し過ぎ──高森明勅先生の「立皇嗣の礼」痛烈批判を読む [皇位継承]


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「皇嗣」と「皇太子」の違いを強調し過ぎ──高森明勅先生の「立皇嗣の礼」痛烈批判を読む
(令和3年10月10日、日曜日)
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幻冬社のサイトに、「前代未聞の立皇嗣の礼」と題するエッセイが載っている。筆者は高森明勅氏である。タイトルだけなら私も同意見だが、中身を読むとずいぶんと違う。批判すべき論点が違うということだろうか。

同氏のエッセイは新著『「女性天皇」の成立』の試し読みらしい。編集部が作ったらしいリードは、「天皇が切望し、国民が圧倒的(87%,2021年共同通信の世論調査より)に支持する「女性天皇」を阻むものは何か? 「男尊女卑」「女性差別」社会はいらない。わたしたちの「女性天皇」が日本を変える——。緊急提言」と物々しい。

女性天皇・女系継承容認論のパイオニアとしてのエッセンスが凝縮された著書に、立皇嗣の礼批判の一章が立てられたものらしい。


▽1 皇位継承が確定していない

高森氏は「二つの不審点」を指摘している。「一つは、そもそもこのような前代未聞の儀式を行うべき必然性があったのか、ということ。もう一つは、この儀式が天皇陛下のご即位に伴う『一連の儀式』と位置づけられたことだ」という。

まず「立皇嗣の礼」自体の不可解さについて、高森氏は、「皇嗣」と「皇太子」の違いから説き起こそうとする。つまり、「皇嗣」とは「皇位継承順位が第一位の皇族」であり、「その皇嗣が皇子である場合」に「皇太子」と呼ばれる。

今上天皇の場合、平成時代は「皇太子」、つまり、「次の天皇になられることが確定したお立場」だった。その事実を内外に宣明するため、立太子の礼が行われた。

ただ、「皇太子の場合、お生まれになった瞬間、又は父宮が即位された瞬間に、次の天皇になられることが『確定』する。儀式はただ、その既定の事実を『宣明』するまでのこと」と高森氏は説明し、「ところが」と続け、「『傍系の皇嗣』の場合はどうか」というのである。

つまり、「儀式の『前』に、すでに皇嗣のお立場になっておられる点では、皇太子と事情は変わらない」けれども、「次の天皇になられることが必ずしも『確定していない』という点で、大きく異なっている」というのだ。


▽2 「立皇嗣の礼」が行われた論理

高森氏は秩父宮雍仁親王殿下の実例を取り上げる。

殿下は大正天皇の第二皇子で、明治35年6月25日にお生まれになった。昭和天皇が皇位を継承されたとき皇子はなく、昭和8年12月23日に昭和天皇の第一皇子がお生まれになるまでの8年間、殿下が皇嗣であり続け、その後は皇嗣ではなくなった。

「このように、傍系の皇嗣は継承順位の変動がありうるお立場だ。その点で皇太子とはまるで違う」と高森氏は説明し、「ならば、『立皇嗣の礼』を行わなければならない必然性はないだろう」と畳みかけている。

そして、「令和の時代に前代未聞の立皇嗣の礼が行われたこと」の「不可解」を指摘し、「これは憲法上の『国事行為』。なので、『内閣の助言と承認』によって行われ、『内閣が、その責任を負ふ』(第三条)べきものだ。内閣の意思によって行われ、天皇陛下や秋篠宮殿下ご自身のお考えとは直接、関係がない」と言い切っている。

さらに、「立皇嗣の礼というのは、単に前代未聞というだけでなく、客観的には天皇・皇后両陛下が今後、決して『直系の皇嗣』には恵まれられない、という見立てを前提にしなければ行えないはずの行事であることに思い至る。実はかなり非礼で不敬な儀式だったことになろう」と痛烈に批判している。

高森氏の批判には論理の筋が通っている。それならばなぜ、「立皇嗣の礼」は行われたのかである。そこには政府ならではの論理があったものと私は想像する。女性天皇・女系継承を容認する、高森氏とは別の論理である。同じ女系派とはいえ、呉越同舟なのである。


▽3 皇嗣=皇太子である

高森氏は、「皇太子」と「皇嗣」の違いを強調しているが、強調しすぎではないか。そもそも両者に違いはない。『帝室制度史』の「第2章 皇位継承」の「第四節」は「皇太子」ではなくて「皇嗣」と題されている。また本文には、以下のように書かれてある。

「皇嗣は天皇在位中にこれを選定冊立したまふことを恒例とす」
「皇嗣の冊立ありたるときは、その皇嗣が皇子または皇孫なると、皇兄弟またはその他の皇親なるとを問はず、これを皇太子と称す」

皇嗣=皇太子なのである。

皇嗣は皇太子と異なり、皇位継承が確定していないと解釈するのも誤りである。『帝室制度史』は「皇嗣の改替」にも言及し、さまざまな理由から「ひとたび皇嗣冊立のことありて後も…遂に皇位に即きたまふに至らざりしこと、その例少なしとせず」と明記する。

立太子の礼は皇位継承を必ずしも「確定」させるものとはならないし、皇太子ではなく皇嗣だから、次の天皇に確定したわけではないという論理も成り立たない。

『帝室制度史』は、近代以降、皇室典範の制定によって、「皇嗣の冊立」について4つの点で「重要な変革」を遂げたと指摘している。そのうち興味深いのは以下の2点である。

1、旧制では、皇太子の称号は必ずしも皇子に限らなかった。しかし新制では、皇太子の称号は儲嗣たる皇子に限られる。儲嗣たる皇孫の場合は皇太孫と称される。皇兄弟その他の場合は特別の名称を用いない。

2、旧制では立太子の儀によって皇嗣の身分が定められた。しかし、新制では立太子礼は皇嗣の身分にあることを天下に宣示し、祖宗に奉告する儀礼である。傍系の皇族が皇嗣にあるときはこの儀礼は行われない。

秩父宮雍仁親王殿下の立皇嗣の礼が行われなかったのは、近代の改革によるものである。


▽4 似て非なる女系容認論

ならば、今回、なぜ立皇嗣の礼は行われたのかである。次の皇位継承者を早期に確定させることは皇位継承の安定化にはきわめて重要で、であればこそ、御代替わりの一連の儀礼のひとつとして、政府は位置付けたのであろう。高森氏も皇統問題なればこそ、立皇嗣の礼に着目したのであろう。

しかしながら、高森氏と政府・宮内庁では皇統論の目的が異なるのではないか。平成8年以降、宮内庁内で非公式検討が始まり、政府が女性天皇・女系継承容認論に舵を切っていった目的は、国事行為・御公務をなさる特別公務員としての継承の安定化であり、高森氏の考える皇統連綿とは似て非なるものであろう。

政府が、立皇嗣の礼を、御代替わり行事のひとつに位置づけたのも、国家機関としての皇太子の御公務の継承を、御代替わり直後に確定化させる必要があるからではないか。

蛇足ながら、私が今回の立皇嗣の礼に違和感を覚えるのは、立皇嗣の諸儀礼のうち、もっとも中心的な宮中三殿での儀礼が「国の行事」とされなかったこと、おそばにあるはずの壺切御剣の所在が不明であること、などだ。つまり、皇位継承問題と同様に、皇室の歴史と伝統が蔑ろにされているのである。

高森氏は国民の大半が女系継承を支持していると胸を張る。国民の支持は重要だが、皇室のことは皇室のルールに従うべきだろう。そのように啓発するのが知識人の役割というものではないか。


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