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男系主義の根拠が理解できない。園部逸夫vs御厨貴「週刊朝日」対談が示してくれた現代知識人のお寒いレベル [皇位継承]

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男系主義の根拠が理解できない。園部逸夫vs御厨貴「週刊朝日」対談が示してくれた現代知識人のお寒いレベル
《斎藤吉久のブログ 令和2年3月8日》
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「週刊朝日」(電子版。AERA dot.)3月2日号に、皇位継承問題に関する園部逸夫氏と御厨貴氏の対談が載っています。園部氏は小泉内閣時の皇室典範有識者会議の座長代理、元最高裁判事、法律家。御厨氏は公務負担軽減有識者会議(「生前退位」有識者会議)の座長代理、元東大教授、政治学者。現代日本を代表する、とくに皇室問題に詳しいと思われる知識人同士の対話です。

前編の『安倍政権が「愛子天皇論」を封印!? 皇位継承議論に「40年はやらない」の声』と後編の『天皇「男系派」の根拠はあいまい? 皇位継承問題は今後どうなる』を合わせて量的には分厚い内容ですが、ほとんど中身らしいものはなく、肩透かしを喰らったような印象を受け、ため息が出ます。

なぜそう思うのか、おふたりの発言を拾いながら、検討します。


▽1 議論のすり替え

対談は前編では、まず皇位継承論議に関する最新の動きについて、御厨氏が解説します。菅官房長官の「『立皇嗣の礼』のあとに具体的な論議を行う」との発言は「実は否定の意味」で、「40年はやらない」。「総裁任期は21年9月で終わる。皇室典範改正など新しいことに手をつける気はない」というわけです。

ここまでは腰の重い安倍政権への批判姿勢を鮮明にする、いわばプロローグで、このあと編集部が「上皇直系の内親王は3方」と仕向けて、ようやく本論が始まります。

園部:女性皇族は、結婚によって民間に出る以上、数の減少を止めるには、「女性宮家」創設の議論は避けられない。
御厨:どうも政権は、皇族の減少がギリギリに追い込まれるまで何もせず、最後に、「エイヤッ」とやってしまおうと思っている節がある。

ご両人は女系継承容認、「女性宮家」創設が好ましいと最初から思い込んでいるようですが、なぜでしょう。対談はこれまでの経緯を振り返ります。

園部:野田内閣は、12年秋に論点整理をまとめた。しかし、「女性宮家」に、皇室に「誰かわからない人」が入ってくる可能性があるということで反発が強く、結局お蔵入りしてしまった。あれだけエネルギーをかけて論議したにもかかわらず、非常にもったいない。

野田内閣時の有識者ヒアリングでは、女性皇族の婚姻後の身分問題を検討する目的は、(1)皇室の御活動の安定的維持と(2)天皇皇后両陛下の御負担の軽減にありました。野田内閣参与の園部氏もくどいように、そう説明していたはずですが、この対談では見事に皇位継承問題にすり替えられています。

というより、本当の目的が皇位継承問題であることを、野田政権も園田氏もずっと隠蔽し、誤魔化してきた。ついにいまになって隠しきれず、本音が出たのでしょうか。ご公務問題なら、ご公務の件数を思い切って軽減すれば済むことです。「女性宮家」は明らかに論理の飛躍です。憲法は天皇は国事行為のみを行うと定めているはずです。ご公務に明確な法的根拠はありませんから、なおのことです。

 【関連記事】〈短期集中連載〉「女性宮家」創設賛否両論の不明 第3回──月刊「正論」25年2月号掲載拙文の転載https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2013-02-03-1
 【関連記事】支離滅裂なり!! 「女性宮家」創設の「論点整理」──変質した制度改革の目的意識https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2012-10-14-1


▽2 皇室のルールを完全無視

対談は「女性宮家」創設反対論批判に展開し、眞子さま問題に言及します。

御厨:「旦那さんは誰?」という警戒は、「女性宮家」でも「女性天皇」でも起こる。「男系派」は、男性が皇室に入ることを非常に嫌う。
園部:眞子さまの交際問題では、一番まずいのは、国民の皇室への尊敬と敬愛の念を失ってしまうということだ。皇族の人数を保つ策として「女性宮家」をつくろうと言っていたのに、「どうぞ、早くご結婚なさって」という声につながりかねない。

両氏とも婚姻相手の個性が問題の原因と捉えていますが、矮小化です。女性宮家創設を認め、女系継承に道を開くことは、古代から続く皇統の変更をもたらす。それは許されないというのが反対論の最大の理由です。

最高裁判事や東大教授を務めた日本を代表する知識人にそれが分からないはずはないでしょうに。あまつさえ、皇統の変更など別段構わないとお考えなのか、男系継承を完全に拒否しています。というより、はじめから皇室のルールなど眼中にないのでしょう。

「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」と結論づけた皇室典範有識者会議報告書が、「はじめに」で、さまざまな天皇観があるから、さまざまな観点で検討したと説明しつつ、それでいて、もっとも肝心な、皇室自身の天皇観、皇室にとっての継承制度という視点、すなわち天皇は古来、公正かつ無私なる祭り主であるという観点を完全に無視していたことを思い出させます。

 【関連記事】混迷する「女性宮家」創設論議の一因──古代律令制の規定を読み違えている?https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2012-03-18?1583650057

御厨:この流れになると、「旧皇族の復帰」という声も出てくる。適齢期の男性がいるならば、「女性天皇」や「女性宮家」のお相手に、という話だ。
園部:今は完全な民間人として暮らす方たちが皇室に戻るとなると、ご本人たちがそんな生活を望むのかという問題もある。加えて、ひとりでも復帰の前例ができれば、「血がつながっている」ことを論拠にして、どの範囲まで手が挙がるかわからない。
御厨:もうひとつ、いま議論が進まない背景には、アクションを起こせば、強い抵抗を受けるという現状がある。

歴史を振り返れば、26代継体天皇は先代武烈天皇の姉妹を皇后とし、119代光格天皇は先代後桃園天皇の皇女を中宮とされたのであり、その逆ではありません。そんなことはご両人には釈迦に説法でしょうに、それでも過去の歴史にない「女性宮家」創設や女系継承に一心不乱に挑もうとするのはなぜですか。

皇室は日本の歴史そのものです。歴史を無視し、歴史を変えようとすれば、「強い抵抗」かを受けるのは当然ではないですか。


▽3 陳腐な男女平等論

ところが、お二人はそうは考えようとしません。後編の冒頭で園部氏が言い放ちます。

園部:有識者会議で議論はし尽くしているから、問題はやるかやらないか。政府であれ野党であれ、天皇問題に手を突っ込むと、散々攻撃されるから嫌がっているだけ。
 しかし、手をつけないと、刻一刻と皇統が衰退へと向かう。改革と議論を攻撃する人たちは、本当に皇室の未来を保とうとしているのか。

それほどの危機感があるなら、男系男子の絶えない制度をなぜ模索しようとしないのでしょう。危機を煽って、一気に女系継承に突き走るのは論理的とはいえません。

園部:男尊女卑の価値観が残るなかで、「女性宮家」や「女性・女系天皇」について話し合うのは、なかなか困難だろう。

男女平等問題ではないことはこれまで何度も何度も言及してきました。過去に女性天皇が存在しないのではありません。夫があり、妊娠中、子育て中の女性天皇が存在しないのです。女性ならば、民間出身であっても皇后となり、摂政ともなれます。これは男女差別でしょうか。

そして対談はいよいよ核心に迫ります。

御厨:男系男子でなければ「困る」の根拠がいまいち明確でない。「皇統は男系で続いてきたから男系であるべき」以上の根拠が出ない。
園部:例えば、日本の皇室が範としてきた英国王室に君臨するのは、エリザベス女王だ。英国は、日本では想像できないほど厳格な階級社会だ。だけど、階級の頂点に位置する王室のトップが女性であることを、英国民は受け入れている。
 これは王室を継ぐのは、「血筋の近さ」であって、男であるか女であるかは重要ではないことを証明している。

お二人は政府の有識者会議などに関わり、多くの資料に目を通しているはずですが、どうやら基本中の基本をご存知ないようです。座長代理を務めるような御仁にそんなことがあるんでしょうか。まったくの驚きです。

明治の時代には女帝容認は火急の案件でしたが、否定されました。なぜなのか、近代史を学んだことがないのでしょうか。ヨーロッパの王室なら王族同士が婚姻し、女王即位の後は王朝が交替します。だからこそ、明治人はヨーロッパ流の継承制度を学ばなかったのではないのですか。

 【関連記事】女系は「万世一系」を侵す──「神道思想家」葦津珍彦の女帝論https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/1998-12-01
 【関連記事】基本を忘れた女系継承容認論──小嶋和司教授の女帝論を読むhttps://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2011-12-31

このあと対談は、男系主義は政府が受け入れているだけで、国民の大半は女性天皇を容認している(園部氏)。時代は変わっているが、典範改正は安倍政権の次の政権でも無理だろう(御厨氏)、などという政局論が続いています。

結局、いみじくもタイトルに示されている「男系主義の根拠」こそが問われているのに、歴史論的に深めることもせず、あるいはできずに、陳腐な男女平等論で終わっています。政府の有識者会議の議論なるものはこの程度だったのでしょうか。背筋が寒くなる思いがします。

最後に蛇足ながら、こんなお寒い日本の知識人のレベルを白日のもとに晒してくれた「週刊朝日」編集部に心から感謝したいと思います。これではまともな議論が期待できるはずもないことがよくよく分かります。


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