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大石眞先生、男系の絶えない制度をなぜ考えないのですか?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2 [有識者会議]

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大石眞先生、男系の絶えない制度をなぜ考えないのですか?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2
(令和3年6月13日、日曜日)
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前回の続きです。

2番手は大石眞・京都大学名誉教授(憲法学)でした。大石氏は以前、取り上げたことがあります。そのときは改元がテーマでした。保守主義の立場に立つ、じつに見識ある改元論で、感銘を受けました。

その大石氏が今回のヒアリングで、女系継承容認を表明されたのには、正直、大きな衝撃を受けました。日本の保守派を代表する知識人が女系継承を容認するという現実に、現下の問題の難しさをあらためて痛感させられました。

それならなぜ、大石氏は女系継承容認に傾いたのか、資料を読んでみると、歴史的考察の欠落という保守主義者にとって致命的な欠陥が浮かび上がってきます。視点がまるで違うということです。

以下、レジュメに沿って、かいつまんで検証します。


▽2 大石眞氏──憲法論の箱庭を飛び出せないのか

聴取項目の1は、「天皇の役割や活動」です。大石氏は憲法学者らしく、あくまで憲法論を展開しています。これですべてが氷解されます。大石氏の天皇とは、仰せのように「憲法的な機関」であって、それ以上ではありません。

たしかに、日本国憲法に基づき、国事行為ほか御公務をなさる「象徴天皇」の継承問題を論じるのであれば、大石氏の議論は正しいかも知れません。けれども、日本の天皇は憲法上の国家機関という位置付けだけではすみません。だからこそ国民的議論を呼んでいるのです。

大石氏にとっての天皇は2.5代なのでしょう。しかし私たちが考えたいのは、126代続く天皇の皇位継承なのです。それが保守主義の立場ではないのでしょうか。

設問3は、「皇族数の減少」についてで、大石氏は、皇族数が減少すると、(1)皇室会議の議員を充足できなくなる、(2)午餐会・晩餐会、園遊会などで「歓迎」「交流」の実質を確保できなくなる、(3)とくに男子皇族の減少は皇位継承自体の危機をもたらす、と説明しています。

まったく正しい指摘ですが、肝心のポイントが抜けています。先帝時代に増え続けた御公務の見直しについてです。先帝の譲位も、御高齢で、しかも健康問題を抱えつつ、御公務を行うことの肉体的限界性が契機となりましたが、その後、見直し問題は忘れられています。御負担軽減のために、女性皇族に御公務を「分担」していただく、「女性宮家」創設も必要だという議論はどこへ行ったのでしょうか。

先帝の在位20年のあと、宮内庁は御負担軽減に着手しましたが、見事に失敗し、御公務は逆に増えました。その失敗の反省も検証もないままに、「男系『女子』への拡大と『女系』皇子孫への拡大」などと安易に論理を飛躍させるべきではありません。

設問4は「男系男子による皇位継承」についてですが、大石氏は、「皇族女子の皇籍離脱制度は、少なくとも皇室典範の立案・制定過程において、女帝否認以外に説明を見いだせない」「男系主義と女子の皇籍離脱との間に必然的な関係はない」として、「女性皇族の皇籍離脱制度は再考する必要があろう」と訴えています。

つまり、大石氏は、1点目として、126代続く天皇とは何だったのか、なぜ男系主義が採られてきたのか、について踏み込もうとしません。皇室の天皇観によれば、天皇は「公正かつ無私なる祭り主」であり、そのことと男系主義とは密接不可分のはずですが、ほとんどの知識人と同様、その本質を追究しようとはしません。だから、たやすく女系容認に走るのでしょう。

たとえばイギリス王室なら、王族同士の婚姻、父母の同等婚が大原則でした。しかし日本の皇室の場合は、小嶋和司・東北大教授(憲法学、故人)が指摘したように、父系の皇族性を厳格に要求してきました。その結果として「万世一系」が堅持されてきたのです。

2点目は、女性天皇が歴史的に存在するのに、明治以降、否定されたのには、以前、指摘したように、終身在位制との兼ね合いがあるからでしょう。大石氏の提案はこれを無視しています。

皇籍離脱の否定は、終身在位制を前提としたとき、何をもたらすのか、大石氏に分からないはずはないでしょう。それでも「女性天皇・女系天皇の実現可能性は、女性皇族の存在を前提としている」「女性皇族の皇籍離脱制度の改正が最優先に検討されるべきであろう」と仰せになるのなら、革命を煽ることと同じではありませんか。

設問5は「男系女子への皇位継承権拡大」、6は「女系への拡大」で、大石氏は、これまで説明してきたことから容易に想像されるように、「基本的な方向としては妥当」と仰せです。

ただ、「しかし、古来、皇位が男系のみで継承されてきた伝統は重い」「一挙に、皇位継承資格を内親王・女王に認め、女系にも拡大するという大転換が最善とも思えない」として、現実主義に基づく「段階」論を提示しています。「まずは、これまでの皇位継承法を維持することが可能な限り、それによるものとする」というわけです。

つまり、大石氏には、男系の絶えない制度を追求しようという意思がまったく感じられません。大石氏は保守主義を捨てたのですか。

設問7は「皇族女子が婚姻後も皇族身分を維持する」ことについてです。

大石氏は「当然ありうる」「生まれてくる子を皇族とすることは当然」「その配偶者についても皇族とすることが適当」と述べていますが、すでに述べたように、これは父系の皇族性を厳格に要求する「万世一系」の皇統を根本的に変更する革命的挑戦です。なぜそこまで飛躍するのか、説明が求められます。

設問9は、「養子縁組や旧宮家の皇籍復帰」についてですが、大石氏は、いずれも否定的で、とくに旧宮家の復帰については、憲法の平等原則に対する「例外」を設け、「皇族」という継続的な特例的地位を認めることになるから、「憲法上の疑念がある」と完全否定しています。

つまり、大石氏は11宮家が臣籍降下した、させられた歴史的事情への考慮がありません。占領という異常事態での、自発によらざる皇籍離脱の歴史的評価が抜けています。それでいいのかどうかです。

おそらく旧皇族の皇籍復帰となれば、70数年前、皇籍離脱を促した当事者であるアメリカは沈黙を破り、皇位継承問題は俄然、外交問題化する可能性を秘めています。それでも126代の男系継承を守るのか否か、問われているいま、私たちは憲法論の箱庭に収まるようなスケールの小さい議論を超えていかねばならないのではありませんか。


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