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宍戸常寿先生、日本国憲法は「王朝の支配」を規定しているのでは?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3 [有識者会議]

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宍戸常寿先生、日本国憲法は「王朝の支配」を規定しているのでは?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3
(令和3年6月19日、土曜日)
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前回の続きです。

3番手は宍戸常寿・東京大学大学院法学政治学研究科教授(憲法学)でした。議事録によると、皇室制度が専門ではない。日本国憲法の全体構造や統治機構における天皇制の在り方については、自分なりに先行研究に触れ、ある程度の考えを持ってきたと仰せで、そのお立場からのご意見でした。

設問に沿ったレジュメがありますので、これに従って検証したいと思います。

結論からいえば、いかにも教科書的な憲法論だと思いました。日本の最高学府の頂点に立つ東大大学院教授のご意見ながら、寂しいことに、知的刺激らしいものをほとんど受けませんでした。日本人の知的劣化をつくづくと痛感せざるを得ません。そんな時代の有識者なる人たちに意見を求め、文明の根幹に関わる皇位継承問題を議論し、非伝統的な制度設計を決めていいものかと私は思うのです。


▽3 宍戸常寿氏──歴史的考察がないゆえの女系容認論

宍戸氏は設問への回答の前に、「はじめに」で前提となる基本的考え方を提示しています。つまり、日本国憲法を大前提とした天皇論です。レジュメから抜粋すると、以下の6点となります。

1、 国⺠主権原理をはじめ、日本国憲法の全体像と整合ある制度であるべきだ
2、主権を有する国⺠の総意に基づき維持されるよう、『伝統』とともに、現在及び今後の日本社会のあり方と両立すべきである
3、日本国憲法施行後の天皇制の運用も『伝統』の一部をなすこと
4、大日本帝国憲法下の皇室自律主義や華族制度・貴族院・枢密院等の諸制度が日本国憲法においてはそれらが明示的に否定され、国⺠と天皇・皇室との間に、いわば媒介が存在しないことに留意する必要がある
5、憲法上の国家制度としての天皇制を維持するという前提なら、全国⺠の代表である国会に天皇制の安定的運用を図る第一次的責務がある
6、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」にあるとおり、その解決は切迫した課題である

以上を見ると、現代憲法論としてきわめて常識的で、まったく代わり映えがしません。宍戸氏にとって、憲法とは成文憲法以外にはなく、考慮されるべきは2.5代象徴天皇制にほかなりません。したがって、皇室の長い歴史と伝統などはほとんど不問とされます。明治人なら憲法制定に際して考えた、「しらす」という歴史的な天皇統治の概念など一顧だにされないのは当然でしょう。

つまり、日本国憲法論としては論理的に成立し得たとして、日本という国家の基本的制度の将来を考えようとするとき、それで十分なのかどうか、です。少なくとも私はまったく不十分だと思います。

以下、設問項目にしたがって、具体的に、そして簡潔に見ていくことにします。


◇終身在位制が前提なら

設問の1は「天皇の役割や活動」ですが、したがって当然、天皇とは「象徴」として国事行為およびそれに準ずる行為を行う役割ということになります。

ただ、注目されるのは、宍戸氏が、「国事行為に準ずる活動については、国政に関する権能に当たらないこと、内閣がその責任を負うことが条件であるが、私的な活動と整理されるものについても、当然、国政に関する権能ではないこと、また、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴としてふさわしくないものは除かれるべきだ。また、その該当性については宮内庁、最終的には内閣によるコントロールが必要である」と指摘していることです。

つまり、宍戸氏は、伝統的な「祭り主」天皇観についてきわめて否定的だということです。皇室の天皇観によれば、天皇は公正かつ無私なる「祭り主」であり、だからこそ古来、「象徴」なのであり、そのためにこそ皇位は男系で紡がれてきたはずですが、宍戸氏にはその歴史的考察がありません。

設問4の「男系男子による皇位継承」、5の「内親王・女王に皇位継承権を認めること」については、宍戸氏は、男系継承が「伝統」と認めるばかりで、その理由について考究するという視点がありません。だから当然、「内親王・女王に皇位継承権を資格を認めることに賛成する」となるわけです。

宍戸氏は「憲法第2条の定める世襲は女性を排除するものではない」と断言しているのですが、近代以後の終身在位制を前提にした場合、内親王・女王の皇位継承容認は、すなわち女系継承容認に直結するのではないのか、と考えられますが、宍戸氏の説明はありません。

これまで何度も指摘してきたように、同じ憲法学者の小嶋和司・東北大教授(故人)は、憲法の「世襲」はdynasticの和訳で、「王朝の支配」を意味するものだと解説しています。内親王・女王継承=女系継承なら、憲法が定める「王朝の支配」に反する憲法違反のはずです。


◇「伝統」の意味を追究せず

ところが宍戸氏は、設問6「皇位継承資格を女系に拡大すること」にも「賛成」しています。

根拠は、既述したように、「憲法の世襲は女系を排除するものではない」こと、加えて、「国事行為及びそれに準ずる活動は女系の天皇でも可能である」ことですが、もし国事行為をすることが天皇の役割だとするなら、誰が考えても同じ結論になるのであり、わざわざ東大教授に聞く必要はないのです。

宍戸氏はさらに続けて、「『伝統』を理由として皇位継承資格を男系に限定すべきであるとの見解は傾聴に値するが、皇室の現状及び旧11宮家の現皇室からの『遠さ』に照らした場合、男系女系を問わず、日本国憲法施行時の天皇であった昭和天皇の子孫であることが、皇位継承の安定性・連続性という要請に適い、また日本国⺠統合の象徴としての国⺠の支持を得やすいものと考える」とも述べています。

つまり、宍戸氏は男系継承という外形的「伝統」のみを見て、「伝統」の意味を探るという知的営みを拒否し、あまつさえ、皇位継承の血統主義は「遠さ」や「近さ」ではなく、父系の皇族性の「有無」によることを無視しています。議論が本質的に間違っています。

以前、紹介したように、小嶋和司は、「男系」制をくつがえさない女帝制をさまざま模索して、たとえば、子に皇族身分を認める女帝制は、皇配もまた皇族である場合に限られるが、それには(1)女帝より皇配の方が皇位継承順位が下位であること、(2)皇統に属する遠系の男子が多数いること、の2つが必要だと指摘し、「こうまでして女帝の可能性は実現されなければならないのか」と問いかけました。言い換えれば、なぜ素直に男系の絶えない制度を模索しないのか、ということです。

設問7の「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること」に関連して、宍戸氏は「女系にも皇位継承資格を認め、その前提として内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する場合には、生まれてくる子はもちろん、配偶者も皇族とするのが適当と考える」と述べています。

小嶋和司がやはり指摘したように、父母の王族性を要求するヨーロッパとは異なり、日本では父系の皇族性が厳格に求められ、「王朝の支配」が固持されてきました。女系継承を容認する宍戸氏の意見は長い皇統史への革命的挑戦といえます。

同時に、「皇族」概念も混乱しています。皇族とは本来、皇統に連なり、皇位継承資格を有する血族の集まりを指します。内親王の配偶は「皇族」ではあり得ません。

設問8は「婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援すること」について、宍戸氏は「『皇室の活動』が国事行為及びそれに準ずる活動を指すものであるならば、反対する」と明言していますが、これも至極当たり前のことです。

しかし、すでに先帝御不例のときに、皇后陛下は、外国に赴任する日本大使夫妻と「お茶」に臨まれ、離任する外国大使を「ご引見」になったのを宍戸氏はご存知でしょうか。憲法は「外国の大使及び公使を接受すること」を天皇の国事行為に定めており、天皇が皇后を伴って、外国大使を「ご引見」なさるのは理解できますが、現実には「見なし皇族」であるはずの皇后お一人によって、国事行為に準ずる活動が行われています。


◇ヒアリングで唯一まともな答え

設問9「皇統に属する男系の男子を養子縁組または皇籍復帰により皇族とすること」について、宍戸氏は、まず「皇族間」なら「可能」だとします。問題は「皇族ではない男系男子との養子縁組」で、いくつかの「論点」を提起しています。すなわち……。

「法律等で、養子たりうる資格を皇統に属する男系男子に限定するならば、一般国⺠の中での門地による差別に該当するおそれがある。さらに、仮に旧11宮家の男系男子に限定する場合には、皇統に属する男系男子の中での差別に該当する」
「現在の制度では、皇族となるには生物学的に皇族の子孫であるだけでなく、皇室会議の議を経た婚姻から生まれた子であることを前提としているが、男系男子であることを養子縁組の要件とすれば、これまでの考え方と整合性が取れるのか」
「現在の制度では、皇位継承資格者であるためには出生時より皇族であることが条件であり、そのことが本人の皇位継承への準備及び国⺠の予期を形成してきたが、これまで一般国⺠として生きてきた者を養子縁組により皇位継承資格を有する皇族とすることは、これまでの考え方と整合性が取れるのか」
「皇統に属する男系の男子が、本人の意思による養子縁組により、皇位継承資格を有する皇族となるとすれば、皇位継承資格者について天皇の地位に就任するかどうかについて、意思決定の自由を認めないこれまでの考え方と整合性が取れるのか」

また、旧皇族の皇籍復帰についても、「門地による差別として憲法上の疑義がある」ときびしく戒めています。

宍戸氏の指摘は純粋な法理論としては理解できます。けれども、宍戸氏自身が「切迫した課題」と理解する状況を打破する場合には抽象論だけでは済まないのではないか。とくに旧11宮家の場合は、皇籍離脱の歴史的経緯をどう評価するのか、「一般国民」と言い切っていいものなのかが問われます。

最後の設問10は「ほかの対応策」を問うものでしたが、宍戸氏が、「皇族数が減少した場合には皇室の活動量も減少するというのが自然かつ適切な対応で、皇室の活動量を維持するために皇族数を増やすという発想に立つ対策は採るべきでない」と答えているのは、じつにもっともです。

宍戸氏のヒアリングで、唯一まともな答えがこれでした。

そもそも政府・宮内庁が女系継承容認に舵を切ったのも、先帝が譲位することとなったのも、発端は増え続ける御公務御負担問題でした。御負担軽減策がとられたものの、宮内庁内人事異動者と赴任大使の「拝謁」はいっこうに減りませんでした。皇室の「伝統」を曲げ、女系継承を認めるなどというのは、論理の飛躍であり、本末転倒以外の何者でもありません。

宍戸氏が仰せのように、まず御公務を見直すべきです。御負担軽減が失敗したことを認め、なぜ失敗したか、具体的に検証すべきです。そして先帝を譲位に追い込んだ責任者を処罰すべきなのです。

次回は、百地章・国士舘大学特任教授です。


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