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橋本有生先生、群○象を評すがごとしです──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3 [有識者会議]

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橋本有生先生、群○象を評すがごとしです──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3
(令和3年7月18日、日曜日)
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前回の続きです。今日は橋本有生・早稲田大学法学学術院准教授(家族法)です。現代家族法講座第4巻『後見・扶養』などの著書・論文があります。

橋下氏は、開口一番、「皇族の婚姻や養子縁組に関わる事項もあるので、本日は、家族法の研究者としての立場からお話をさせていただく」と述べ、設問に従い、レジュメに沿ってヒアリングを進めています。

つまり、私法研究の立場から、公人中の公人である天皇の地位について、その継承について、論じようとするわけです。天皇は「公」そのものであるという前提ならまだしも、どうもそうではありません。まさに場違いな招請というべきですが、なぜそんなことが起きるのか。


▽3 橋本有生氏──日本人の知性の劣化!?

以前、日本中世史研究者の本郷恵子氏を取り上げました。多くの論者が日本国憲法を起点として議論を展開しているのとは対照的に、歴史家らしく日本の歴史全体を俯瞰し、天皇の文化的力について論じていたのは、きわめて印象的でした。天皇は単なる政治権力者ではないという考え方です。

しかし、そんなことは普通の日本人にとっては当たり前のことです。和歌に親しむ者、書道を学ぶ者にとって、天皇は身近な存在ですが、むろん政治とは無関係です。桃の節句に女の子の成長を願い、内裏雛を飾って祝う習俗は、政治性とは無縁です。

大工さんにとっては、法隆寺を建立した聖徳太子は職業的祖神であり、木地師たちは横びき轆轤を発明した惟喬親王をわが祖神と崇めています。わが故郷では、養蚕と機織りを伝えてくれた崇峻天皇の妃が地域の神とされています。そのようなことは、このブログで何度も言及してきました。

つまり、日本人にとっての天皇とは多元的、多面的なのであり、だから国民の天皇意識は根強いのです。「戦後唯一の神道思想家」葦津珍彦が以下のように述べているとおりです。

「この根強い国体意識は、いかにして形成されたか。それは、ただ単に、日本の政治力が生んだものでもなく、宗教道徳が生んだものでもなく、文学芸術が生んだものでもない。それらすべての中に複雑な根を持っている」(「国民統合の象徴」=「思想の科学」昭和37年4月号)


◇私法レベルの議論

ところが、今回の有識者会議では、多くの識者が、憲法学者ならなおのこと、憲法を起点とする法律論しか語ろうとしません。群◯象を評すがごとき、あるいは寄ってたかって重箱の隅をつつくような議論に終始するのは当然です。つくづく日本人の知性の劣化を疑います。

橋本氏もご多分に漏れず、日本国憲法を引用し、国事行為を説明しています。「象徴としての天皇は、それぞれの時代を反映した役割を担われている」と指摘しつつ、古来、スメラミコトと呼ばれた所以について追究しようという姿勢はありません。

「皇族の減少」についても、「嫡出性」に着目しながら、「皇族」という概念、「皇族性」という意味について、深く探究しようとしているようには見えません。

だから、「仮に男系による継承を維持していく場合は、嫡出性による制限を無くすか、または養子縁組を認めていくことが方策として考えられる」と指摘しつつ、「前者については、現行の民法が一夫一婦制を採用しており、不貞行為は裁判上の離婚原因に該当することから、側室制度への回帰は国民の理解を得難いものだと考える」と結論するにとどまっています。

天皇とは何か、天皇のおつとめとは何か、多面的に、総合的に考察できていないからです。公法のカテゴリーではなく、私法のレベルで議論しようというところに、そもそもの限界があります。

橋本氏は、学問的アプローチもさることながら、歴史的理解も誤っています。つまり、過去の8人10代の女性天皇について、です。


◇「国民感情」で皇室の家法を変える?

橋本氏は、「いずれの女性天皇も皇統に属する男系の女子であり、その子が皇位を継承しても、その父親は皇統に属する男子であるため、男系による皇位の継承は例外のない伝統であるとするのが政府見解である」と説明していますが、女性天皇からその子へと皇位が継承されることはあり得ません。

また「過去の法を見ると、女帝の子も男性天皇の子と同様の身分を取得する旨の規定が存在しており、必ずしも全ての年代において、法律が男系男子以外の継承を禁じていたわけではない」とするのは、資料の誤読でしょう。継嗣令の「女帝子亦同」は「ひめみこも帝の子、また同じ」と読み、天皇の兄弟・皇子が親王とされるように、皇女も内親王とされると解すべきだからです。

したがって、「国民感情の推移によっては、女性が皇位継承資格を持つことも十分に考えられると思う」という結論は誤りです。皇室に伝わる皇位継承の大法を、「国民感情」で変えるなど、もってのほかです。皇位継承は皇室にお任せすべきであり、民草が介入すべきではありません。

橋本氏は、さらに「内親王に皇位継承資格を認めるべきであると考えるし、国民意識の変化によっては、女系天皇の可能性も十分に論じる余地があるものと思う」とか、「日本国民は男性のみによって構成されているわけではないので、女性天皇が日本国の象徴として活動することが不合理であるとは思われない」とか述べていますが、もうこれ以上の検証は不要でしょう。

ヒアリングののち、有識者会議メンバーとの間で質疑応答があり、「大変精緻な議論、法律論」とのお褒めの言葉を頂戴した橋本氏ですが、私は失笑を禁じ得ません。まさに群◯象を評すでしょう。私なら「私法のレベルから、『国民感情』を根拠に、皇室の家法を変えることの是非」を質問します。憲法の国民主権主義で、古来の男系主義を改変させるべきなのか、それほど皇位の男系継承は誤った制度なのかどうか。


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