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かつて安倍官房長官と対決した高市早苗・前総務大臣のいたってまともな皇位継承論 [皇位継承]


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かつて安倍官房長官と対決した高市早苗・前総務大臣のいたってまともな皇位継承論
(令和3年8月28日、土曜日)
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自民党総裁選に出馬を表明した高市早苗・前総務大臣が、雑誌インタビューに応え、皇位継承問題について、男系継承の維持を強調した。「万世一系という2000年以上の伝統は、天皇陛下の『権威と正統性』の源だ」と語っている。きわめてまともである。

高市氏が男系継承維持を訴えたのは、今回が初めてではない。高市氏の個人ブログには、15年前、2006年(平成18年)2月1日更新の「皇室典範問題について」と題するコラムが載っているので、ご紹介したい。〈https://www.sanae.gr.jp/column_detail256.html

ちなみに、皇室典範有識者会議が「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」との報告書をまとめたのが前年11月で、悠仁親王の御誕生はこの年の9月。皇位継承の根幹が覆りかねない、危なっかしい時期だった。


▽1 皇室典範有識者会議直後の国会で質問

高市氏のコラムは、内閣府職員の来訪で始まっている。1週間前の1月25日、皇室典範一部改正のための法律案概要についての説明がその目的だった。まだ条文化されていない、ごく簡単なペーパーには、以下のような「改正のポイント」が綴られていた。

(1)皇位継承資格者に、皇統に属する女子及びその子孫の皇族を含める(現行では、皇統に属する男系男子に限定)。
(2)皇族女子は、婚姻しても皇室にとどまる(現行では、皇族女子は婚姻により、皇室を離れる)。
(3)皇位継承順序は、直系の長子を優先することとする(現行では、直系・長系・近親優先)。

要するに、「女性天皇容認」「女系天皇容認」「第1子優先」が皇室典範一部改正の骨子だった。有識者会議の直後であれば当然だった。

しかし高市氏は一読して「不安に思った」。とくに、「皇族女子が婚姻後も皇室にとどまる」とすれば、「皇室予算にも変化が生じる」。そこで高市氏は、2日後の1月27日の衆議院予算委員会で急遽、質問することにした。

当時は第三次小泉純一郎内閣(改造)で、この案件の担当閣僚は安倍晋三官房長官だった。短い割り当て時間で、ほかにもテーマはあったから、関係項目はわずか2点。結局、安倍長官の考え方を聞くにとどまったが、その後も続いてきた議論の核心をつく本質的な内容だった。


▽2 官僚の作文を読まされた安倍長官?

高市氏はまず女系継承への危惧を語った。

「私自身は、『女性天皇』には反対しないが、『女系天皇容認』と『長子優先』については、慎重に検討していただきたいし、党内でも議論を深めたいと希望している。
 恐れ多い例えではあるが、仮に、愛子様が天皇に即位されたら、『男系の女性天皇』になられる。そして、愛子様が山本さんという皇族以外の方と結婚されて、第1子に女子の友子様が誕生し、その友子様が天皇に即位されたら、『女系の女性天皇』となられる。
 この友子天皇の男系の祖先は山本家・女系の祖先は小和田家ということになるから、今回の法改正により、2代目で天皇陛下直系の祖先は女系も男系も両方民間人になる可能性がある。
 また、男親から男の子供、つまり『男系男子』に限って正確に受け継がれてきた初代天皇のY1染色体は途絶する。
 男系の血統が125代続いた『万世一系』という皇室の伝統も、『天皇の権威』の前提でもあると感じている。
 官房長官は、皇位が古代より125代に渡って一貫して『男系』で継承され続けてきたことの持つ意味、皇室典範第1条が『男系男子による皇位継承』を定めている理由は何だったとお考えか?」

高市氏は言及していないが、近代以降の終身在位制のもとで、女帝が立てられる状況というのは近代以前とは異なり、けっして「中継ぎ」ではないから、女性天皇容認は取りも直さず女系継承容認を意味し、万世一系の歴史と伝統を侵すことになる。

その暗黙の前提に立って、政府は男系継承主義の意味に配慮したうえで、皇室典範の一部改正案を提出しようとしているのか、と問いただしたのである。これに対して、安倍官房長官の答えは不十分だった。

「憲法第2条に規定する世襲は、天皇の血統につながるもののみが皇位を継承するということと解され、男系、女系、両方が含まれる。
 皇室典範第1条が男系男子に限定してることについては、過去の事例を見る限り男系により皇位継承が行われてきており、それが国民の意思に沿うと考えられること、女性天皇を可能にした場合には、皇位継承順位など慎重な検討を要する問題があり、なお検討を要すること、男性の皇位継承者が十分に存在していること、この3つが当時の国会の論点だった。
 男系継承の意義については、学問的な知見や個人の歴史観、国家観に関わるもの。私は官房長官として政府を代表する立場なので、特定の立場に立つことは差し控えたい。
 いずれにしても、政府としては、男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みを受け止めつつ、皇位継承制度の在り方を検討すべきものと考える」

安倍氏の答弁を読むと、少なくとも当時の安倍氏は、「保守派」との評価とは全然異なり、男系継承の基本をまるで理解していない。「皇位の世襲」とは単に血がつながっていることだと言わんばかり。官僚の作文を読まされただけなのか。


▽3 「皇位継承の安定化」の目的は?

次に高市氏が質問したのは、政府が皇室典範改正作業を急ぐ理由である。

「昨年11月下旬に提出された有識者会議報告書が法案のたたき台だと思うが、まだ多くの国会議員は報告書を入手していない。国民の皆様の理解も進んでいないと思う。
 また、『女系天皇』が即位される可能性は、皇太子殿下が『男系男子の天皇』として即位され、現在4歳の愛子様が『男系女子の天皇』となられた後、数十年先に即位されるかもしれない天皇のことなので、まだ十分に検討の時間はあると思う。
 今国会で急いで皇室典範一部改正法案を提出される理由は?」

これに対する安倍長官の答弁が興味深い。政府が考える「皇位継承の安定化」の本当の目的を図らずも暴露している。

「皇位継承は、国家の基本にかかわる事項。天皇が内閣の助言と承認のもとに内閣総理大臣や最高裁長官の任命、国会の召集など重要な役割を担う以上、どのような事態が生じても、安定的に皇位が継承されていく制度でなければならない。
 皇太子殿下の次の世代に皇位継承者が不在であるという不安定な状態は、早期に解消される必要があると、政府は考えている。
 将来の皇位継承者には、それに相応しいご養育を行う、いわゆる帝王学だが、その必要を考えれば、緊急の課題である。
 このような認識から議員各位や国民の皆様のご理解を賜りながら、今国会に法案を提出していく考えだ」

つまり、政府にとっての「皇位の安定化」は、これまで何度も指摘してきたように、「皇統連綿」でも「皇室弥栄」でもなく、あくまで「国事行為の安定化」でしかない。要するに、政府にとって、天皇は国事行為をなさる特別公務員という位置付けに過ぎない。

しかし、高市氏はそこを追及することはしない。「なぜ急ぐのか?」「なぜ今国会か?」と問い続けるばかりであった。

「まだ40代の皇位継承者が複数おられる中で、今国会で慌てて提出される必要があるのか。
 私たち日本人にとって、祖先が守り続けてきた非常に大切な伝統をどう変えるのか、守るべき伝統は何で、変えるべき伝統は何なのか、という議論も深めたいので、十分な議論の時間をいただきたいと希望する」

なぜ皇位は男系で紡がれてきたのか、そもそも皇位とは何か、を議論するには時間が短すぎたのであろう。質疑はここで終わっている。平行線である。


▽4 安倍官房長官の路線継承はあり得ない?

他方、高市氏のコラムは続き、「いずれ法案が条文化されたら、党の内閣部会などで、安定的な皇位継承の対案も含めて、積極的に議論に参加したい」と希望を述べ、次のような意見を表明している。

「これは、単純に『男女平等』などという価値観で判断してよい問題ではない。
 私は、『女系』『長子優先』には幾つかの懸念を覚えるものの、決して『女性天皇』に反対しているわけではないが、現実的には女性が皇位を継ぐということ自体も、肉体的には大変なことなのだろうと想像している。
 多くの国事行為、外国賓客への対応、宮中祭祀など、お休みの間もなく過密なご日程ををこなされている天皇陛下。皇位につかれた女性天皇が、激務をこなしながら、お世継ぎを妊娠し、出産されるということも、肉体的にも精神的にも想像を絶する大変なことなのだろうと思う」

たしかに現代の天皇は激務である。御公務は無限に増えていくが、生身の天皇には肉体的限界がある。だから先帝も「譲位」を表明せざるを得なかった。

それはそれとして、高市氏はいま「アベノミクス路線の継承」を明らかにしている。けれども、安倍氏の官房長官時代の皇位継承論の「継承」はあり得まい。

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皇室伝統の皇位継承法に従うことが「宗教派」なのか──日経編集委員の解説を批判する [有識者会議]


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皇室伝統の皇位継承法に従うことが「宗教派」なのか──日経編集委員の解説を批判する
(令和3年8月15日、日曜日)
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8月13日の日経新聞(電子版)に、井上亮編集委員による「宗教派と世俗派の相克 皇位継承、有識者会議の方向性」と題する解説記事が載りました。皇位継承有識者会議が7月に第10回目の会合を開き、皇位継承に関する「整理の方向性」を示したことについての解説でした。〈https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE110Z20R10C21A8000000/

それにしても、「宗教派vs世俗派」とはずいぶんと大仰な二項対立の図式です。いったい何をおっしゃりたいのでしょうか。もしかして、何か大きな勘違いをなさっておいでなのではありませんか。


▽1 180度違う対策案

井上さんの記事によれば、安定的な皇位継承を確保するために、有識者会議が打ち出した対策案は、(1)女性皇族が婚姻後も皇室に残る、(2)戦後に皇籍を離脱した旧皇族の子孫の男系男子を皇族の養子とする、(3)旧皇族の子孫を皇室に復帰させる──の3つです。

このうち、最重要課題の皇位継承にかかわるのは、(2)と(3)で、従来から男系維持の保守派が主張してきた案だと、井上さんはまず説明します。

しかし、井上さんの解説は、「これは同じ問題を討議した2005年の小泉純一郎内閣での有識者会議最終報告とは百八十度違う。同報告は男女を問わない長子継承と女性・女系天皇の容認を打ち出した。旧皇族の復帰は、そもそも男系継承は安定性を欠くとして否定された」と続きます。

井上さんによれば、「宮内庁幹部、関係者の間では、このときに議論は尽くされている」「皇位継承制度の安定性を考えれば、長子優先しか選択肢がない」「長い目で見ると男系継承の不安定性は明白である」とすれば、なぜ結論がこうも変わるのかという疑問が湧いてくるのは当然です。

「当時は上皇さまの孫世代に皇位継承者が一人もいない切羽詰まった状況」だったが、「今回の有識者会議は、同世代で皇位継承者が悠仁さま1人の状況」だという「違いはある」。「天皇の長い歴史と伝統は合理と数字だけで割り切れないのは確かだ」。だから、「ヒアリングの第1問にそもそも天皇とは何かを問う「天皇の役割と活動」を置いたのだろう」という展開は、私も理解できないことではありません。

問題は次です。


▽2 天皇は人間を超えた存在とみなしたい「宗教派」?

井上さんは「識者の回答は2つに集約できる」と言います。つまり、「天皇の正当性を神話に由来する祭祀王であることに求めるか、象徴として国民を統合する存在と定めた日本国憲法とするのか、である」というのです。

そして、この両者は、「天皇は人間を超えた存在とみなしたい『宗教派』と、国家機関としての役割を負った人間と見る『世俗派』ともいえよう」と仰せなのでした。「戦前から長く続いてきた天皇観の相克であり、これが皇位継承の考え方に強く影響している。大まかに見れば、前者に男系維持、後者に女系容認の論者が多い」と解説しています。

井上さんの解説は続き、「宗教派から見れば、世俗派は千数百年続いてきた天皇の伝統を戦後約70年にすぎない憲法と男女同権など現代の観念だけで論じていると映る」。他方、「世俗派は、男系は明治以降に確定した観念であり、神話や実証的歴史学では実在しない天皇を持ち出す宗教派は非合理的。継承確率の低い男系への固執はひいきの引き倒しで、皇統断絶を招き寄せると考える」と説明されています。

有識者会議は「国論を二分することは避けるべきだ」と警鐘を鳴らし続けているのに、「すでに国民の天皇観は分裂している」と井上さんは断定しています。

井上さんは「有識者会議の整理の方向性は宗教派に歩み寄った」けれども、「伝統は大事だが、現実社会との調整がなければ空論に終わるだろう」と警告しています。「皇室が悠仁さま1人になり、皇位継承者がいない状況にならなければ制度変更は無理だろう」という声も聞かれるというわけです。

さて、それでは批判です。

そもそも皇位継承法というものは、海外の王室と同様に、皇室独自のルールがあるのであって、国民的議論には馴染まないということが本来あるべき基本でしょう。有識者会議方式が誤っているのです。つまり、ネックは憲法の国民主権主義です。

井上さんが仰せのように、小泉内閣時代の皇室典範有識者会議は「皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」(報告書の「結び」)と結論づけましたが、その過程において、皇室の天皇観についてはまったく検討されませんでした。天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」からでしょう。


▽3 「祭り主」天皇への誤解と偏見

寛仁親王殿下は「一度切れた歴史はつなげない」と男系継承が破られることに警鐘を鳴らされました。井上さんは「男系は明治以降に確定」と書いていますが、皇位は古来一貫して男系主義で貫かれてきたのです。それなのに、なぜいま否定されるのか、歴史と伝統というものはそれほど軽いのか、議論すべきなのはそこでしょう。

ついでながら、古来の男系主義は女性天皇を否定していません。認められなかったのは、夫がある、もしくは妊娠中・子育て中の女性天皇です。明治になって女性天皇が否定されたのは終身在位と関わっています。終身在位制のもとで女性天皇が即位すれば、当然、女系継承を容認することになります。万世一系は終焉します。

皇室典範有識者会議は「皇位継承の安定的維持」を目的に掲げていましたが、これには大きな疑いがあります。平成8年ごろ宮内庁で開始されたという水面下の検討は、むしろ国事行為をなさる特別公務員たる天皇の安定的継承、つまり国事行為の制度的安定が目的だったのではありませんか。皇統より憲法が優先されています。

たとえば国会を召集するのに男女の別はあり得ません。憲法体制の維持のためには皇室の皇位継承ルールは無視されて当然ということになります。

井上さんの記事にもっとも欠けているのは、男系継承が歴史上、「綱渡り」だったにもかかわらず、固守されてきたのはなぜか、という問題意識でしょうか。

井上さんは、「天皇は人間を超えた存在とみなしたい『宗教派』」と男系派を決めつけていますが、天皇=神だから男系継承が守られるべきだなどという主張を、誰がしているのでしょうか。天皇は神として祀られるのではなく、神々を祀るお立場であり、それが「祭り主」というものです。

私に言わせれば、男系継承主義が「祭り主」天皇論から必然的に導かれるとして、天皇の祭りなるものは逆に、国家的儀礼としてもっとも現実的、世俗的な社会的要求のなかから生まれたのだと想像しています。

昭和天皇が「現人神」とされることを嫌われたように、「天皇は人間を超えた存在」は完全な誤解だとして、天皇が皇祖神ほか天神地祇を祀り、米と粟を捧げて祈られることと男系継承主義がどう関わるのか、そこを男系派は説明していない。そこに最大の弱点があるということをこそ、井上さんはきびしく指摘すべきではないのでしょうか。

井上さんには、「祭り主」天皇への大きな誤解と偏見があると思います。

最後に蛇足ながら、井上さんは「神風が吹いた例はまずない」と記事を締め括っていますが、皇位継承は皇祖神の御神意に基づくというのが伝統派の信念です。事実、皇室と国民の祈りが通じて、悠仁親王殿下はお生まれになったのではありませんか。


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【関連記事】血統主義と徳治主義の調和──西尾論文批判の続き〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2008-09-16
【関連記事】女系は「万世一系」を侵す──「神道思想家」葦津珍彦の女帝論(「論座」1998年12月号特集「女性天皇への道」から)〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/1998-12-01

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「膠着」どころか、着々と進む靖国神社に代わる「国の追悼施設」──日経編集委員の靖国論に反論する [靖国神社]


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「膠着」どころか、着々と進む靖国神社に代わる「国の追悼施設」──日経編集委員の靖国論に反論する
(令和3年8月14日、土曜日)
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明日の終戦記念日を前に、一昨日8月12日の日経電子版に「靖国・千鳥ケ淵・新施設…戦没者追悼の道筋なお見えず」と題する大石格・編集委員の記事が載りました。「戦没者をどう弔うのがよいのか」について、いわゆる靖国問題の経緯を振り返り、問題提起が試みられています。〈https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD1091R0Q1A810C2000000/

結論として、大石さんは、現状を「膠着状態」と捉えています。政府内には、「(靖国神社に代わる)新施設を推す動きはまったくない」し、「首相の公式参拝の復活は外交的にほぼ無理」だからです。

けれども違うのです。靖国神社に代わる国の追悼施設は着々と既成事実が積み上げられているからです。大石さんの見立てた「膠着状態」はむしろ、大石さん自身の頭脳内に腰を据えているのではありませんか。どういうことなのか、以下、説明します。


▽1 靖国神社は「宗教」なのか

大石さんは戦後史から書き起こしています。政府主催の戦没者追悼式も千鳥ヶ淵墓苑も「無宗教」だが、靖国神社は「宗教法人」だ、というのが議論の前提です。この論理こそ「膠着状態」の第一原因です。

靖国神社の歴史が幕末・明治維新期に遡ることは大抵の人は知っています。大石さんが戦後の歴史から書き起こしているのは「宗教法人」に着目するからでしょう。しかし創建史を無視してはいけません。

もともとは官軍の招魂社でしたが、靖国神社と改称列格されたのは、国に一命を捧げた国民の慰霊・追悼施設として確立されたことを意味しています。それは日本が近代国家として生まれ変わったことと同義です。殉国者の慰霊追悼は近代国家の責務です。慰霊追悼は宗教的行為です。

しかし国家による慰霊追悼はいかなる意味での「宗教」なのか。靖国神社は近世の義人信仰を源流としているとはいえ、一般の神社とは多くの点において異なっています。一律に「宗教」だと認めるべきでないことは、上智大学生靖国神社参拝拒否事件のときにバチカンが示した公式見解から明らかです。

ちなみに欧米で戦没者追悼の国家的儀式が行われるようになったのは、日本より遅く、第一次世界大戦休戦直後のイギリスからで、キリスト教の宗教的伝統に基づいて、いまも続いています。それに対して、政教分離の観点から批判があるとは聞きません。

大石さんは、国に命を捧げた戦没者への慰霊追悼は国が行うべきこと、それは宗教的伝統に従って行われるべきこと、政府が非伝統的儀礼を創設することは新たな国家宗教の創始であり、政教分離原則と矛盾すること、に思い至らないのでしょうか。

慰霊追悼は宗教行為そのものですが、政教分離に抵触するのかどうか。政教分離主義の源流とされるアメリカなら、同時多発テロの犠牲者の追悼ミサも、歴代大統領の葬儀も、「全国民のための教会」ワシントン・ナショナル・カテドラルで、キリスト教形式で、政府主催で行われます。ちなみに戦後の戦没者追悼式が靖国神社で行われたこともありました。それがなぜ「膠着状態」に至ることになったのか。


▽2 靖国問題の本当の核心

戦後は、たしかに大石さんが仰せのように、靖国神社は「宗教法人」となりました。しかしみずから進んで宗教法人化したわけではありません。

いわゆる神道指令発令ののち、宗教団体令の改正で、一方的に期限を示されたうえで、「宗教法人」とならなければ「解散」されたものと見做される、という切羽詰まった状況下での苦渋の選択によるものでした。靖国神社は国家的慰霊追悼の存続のため、やむを得ず宗教法人化したのです。

そして、まさにその原因となった「神道指令」です。靖国神社を標的にしたかのような指令がなぜ発令されるに至ったのか、です。国際法違反は明白なのに。

日本の敗戦はポツダム宣言の受諾によりますが、同宣言に明記された「軍国主義・超国家主義」が曲者です。アメリカはその源流を「国家神道」と見定め、その中心施設こそが靖国神社であり、その経典が教育勅語であると信じていたようです。そのことは戦時中にアメリカが新兵養成のために製作したプロパガンダ映画を見れば明らかです。

であればこそ、占領軍は靖国神社を敵視し、爆破焼却しようとも考えていたようです。しかし同社は生き残りました。靖国神社の神職が侵略戦争を指導していたと本気で考える人たちもいたようですが、実際には一兵卒として応召していたことを知って驚いたGHQ職員がいたとも伝えられます。

つまり、「国家神道」こそ幻なのです。

であればこそ、占領後期になれば、GHQの政教分離政策は限定主義に転換され、吉田茂総理の靖国神社参拝も認められています。にもかかわらず、戦後何十年も経って靖国問題が浮上し、政教分離の厳格主義が幅を効かせ、いつまで経っても問題が解決できない「膠着状態」に立ち至ったというところに、問題のほんとうの核心があるのでしょう。

アメリカでさえ卒業したはずの「国家神道」論を日本人が克服していないということです。


▽3 国にスルーされる靖国神社

大石さんは「富田メモ」を取り上げていますが、富田朝彦宮内庁長官は「無神論者」を自認する人だったことが知られています。個人の思想は自由とはいえ、宮内庁のトップでありながら、天皇の祭祀には「不参」のことが多かったと聞きます。根っからの宗教嫌いなのでしょう。

だとすれば、「富田メモ」もその前提で読み直されるべきです。

国に命を捧げた国民に対して、慰霊追悼の誠を捧げられるのは国以外にはあり得ません。それを戦後、半世紀以上も、民間任せにしてきたところに根本的問題があります。

大石さんは靖国神社当局による戦犯合祀に膠着化の原因があるかのように書いていますが、いわゆる戦犯を「戦没者」と認め、援護政策の対象としたのは日本政府です。靖国神社は政府の決定に基づいて、合祀したのです。合祀に異議があるのなら、戦犯者を戦没者と認定した政府を批判し、取り消しを要求すべきです。

靖国神社はいまも、本来、国がなすべき慰霊追悼の誠を、国に代わって、日々、捧げています。それは宗教儀礼というより国家儀礼というべきものです。昨日は現職閣僚の参拝がありましたが、宗教行為というより公人の表敬行為と見るべきでしょう。私人による参拝だから政教分離に違反しないとする政府の憲法解釈も誤っています。公人だからこそ表敬することに意味があります。

さて、大石さんは記事の最後で、「膠着状態はいつまで続くのか」と問いかけていますが、事態は水面下で着々と進んでいることにお気づきにはならないのですか。

つまり、大石さんも言及している、宗教法人靖国神社内の人間臭いゴタゴタに目を奪われている隙に、千鳥ヶ淵墓苑、防衛省メモリアルゾーンには、皇族方や総理ほか政府要人、外国政府代表者が定期的に参詣し、事実上、靖国神社に代わる国の追悼施設へと既成事実が積み重ねられています。

近代以降、唯一の国家的戦没者追悼施設である靖国神社が、ほかならぬ国によってスルーされているところに最大の問題があります。


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半井小絵先生、和気清麻呂のご子孫とは知りませんでした──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2 [有識者会議]

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半井小絵先生、和気清麻呂のご子孫とは知りませんでした──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2
(令和3年8月11日、水曜日)
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前回の続きです。今日は2番手、半井小絵氏です。気象予報士・女優と紹介されています。NHK時代からのファンも少なくないでしょうが、なぜこの方が「有識者会議」に招請されるのか、理解に苦しむところです。半井氏自身、「一国民」としての立場を表明しています。

しかし興味深いのは、半井氏が自己紹介する、その出自です。なんと「和気清麻呂の子孫」だというのです。古代において皇統の危機を救った忠臣の子孫とあれば、考えを改め、傾聴しなければなりません。


▽2 半井小絵氏──「しらす」までご存知とは

半井氏はきわめて謙虚です。「皇室のことを話すのは恐れ多い」「しかし、日本そのものの存続に関係する重要なことだから、勇気を振り絞り、発言させていただいている」とみずからを鼓舞しています。

かつての半井氏は「和気清麻呂の子孫」と両親や祖父母から聞いていたものの、興味はありませんでした。「柿本人麻呂の子孫」と誤って理解していたほどでしたが、数年前、ニュースのコメンテーターをすることになり、歴史を学び直しました。

そして、祖先の歴史を知るようにもなりました。清麻呂の姉・和気広虫は女官として天皇に仕え、日本ではじめて孤児院を開いた人物ともいわれます。

以前は「女性天皇」と「女系天皇」の違いも知らない半井氏でしたが、皇室を知るために、皇居の勤労奉仕にも参加し、御会釈を賜る機会にも恵まれました。「国民の幸せと世界の平和を祈ってくださっている天皇陛下のいらっしゃる、この国に生まれた幸せを実感した」「両陛下を、お父上、お母上と思ってしまうような親しみも湧いてきた」とそのときの印象を語っています。

じつに謙虚で、素直な人柄が伝わってくるエピソードですが、問題はそのような半井氏の理解と現下の皇位継承問題との関わりです。


◇「祭り主」天皇論の立場で

半井氏は、皇室の伝統的な天皇観である「祭り主」天皇論の立場で、話を進めています。

問1の「天皇の役割や活動」については、ほかの憲法学者たちとはまったく異なり、「天皇陛下はつねに我が国と国民の安寧を祈ってくださる有り難い存在である」「日本の長い歴史の中で育んできた伝統・文化をすべて背負ってくださっている存在である」と位置付けています。

つまり、半井氏によれば、歴代天皇は「日本そのもの」であり、「現代に生きる我々とその先祖の生きてきた証である」ということになります。とすれば、皇位継承について軽々に論ずることはできず、ヒアリングの場で意見を表明することは「恐れ多い」と思わずにはいられないことになります。

しかし、まことに残念ながら、天皇はなぜ「祭り主」なのか、具体的にいかなる「祭り」をなさり、そのことがいかなる意味を持つのか、少なくともこのヒアリングでは追究と説明がありません。

もっともそのことは半井氏だけの弱点ではありません。保守系の知識人はどなたも似たり寄ったりだからです。

なかには天皇は「稲の祭り」をなさると固く信じている神道学者さえいます。天皇が大嘗祭、新嘗祭で米と粟の新穀を供えて祈られるという事実を知らないばかりでなく、天皇の祭りが「稲の祭り」なら畑作民が疎外感を覚え、国と民を統合するスメラミコトたり得ないという想像性さえ持っていません。

半井氏は勤労奉仕の体験から、両陛下を「お父上・お母上」と感じたと振り返っていますが、なぜそういう思いが、「祭り主」天皇論から生まれるのか、ぜひ考察を深めてほしいものです。


◇常識的な皇位継承論

半井氏の意見は、保守派としては、きわめて常識的です。

「皇族の役割でもっとも大切なのは、皇統を引き継いでいかれることにある。皇統が途絶えるということは、日本そのものが終わるということである」
「どの天皇も父方をたどると神武天皇につながるということに大きな意味がある。女性皇族が婚姻に伴い皇族の身分を離れる現行制度は、民間の男性との皇位継承争いを引き起こさないためにも意義ある」
「女系天皇への拡大は我が国の歴史上ないことで、日本を混乱させる原因となり、許容できない」
「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持されることは、避けるべきだ。配偶者を皇族とすることはあってはならない。皇位継承は従来の伝統を崩してはならない」
「今後の変更で女性皇族も皇位継承資格を持つようになられたとしても、内親王・女王が結婚された場合は、従来どおり皇籍を離脱するべきである」
「婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援することについては、大使的な役割として、皇室の公務を担っていただくことには賛成である」
「現行の皇室典範では皇族に認められていない養子縁組を可能とすること、皇統に属する男系男子を現在の皇族と別に新たに皇族とすることは、共に賛成である」
「皇統を守るための方法は1つに絞らず、皇統を引き継いでくださる方が多いほど、安定的な皇位継承につながる」
「民間人として生まれ、皇籍に復帰し、天皇となられた醍醐天皇の例もある。旧宮家の男系男子の皇統復帰は、皇統の安定継承のためにも今すぐにでも実現する動きに入らなければならない」
「悠仁親王殿下に男子のお子様がお生まれになれば、旧宮家の男系男子の皇籍復帰は必要ないという意見もあるが、私はそうは思わない。もし男子がお生まれにならなければ、皇統の継承の危機となる。また、同世代に御相談できる男性皇族がいらっしゃるというのは、きわめて重要なことだ」
「皇室について国民が深く知り、理解することが必要である。学校教育でも表面的にしか教えない。日本は天皇陛下の『しらす』国である」
「いまのこの時代に2000年以上、大切にしてきた先人からの習わしを崩していいものかと思っている。できる限りの方法で守っていくということを希望している」


◇謙虚で素直な人たちばかりではない

いくつかのポイントを考えてみます。

ひとつは「皇族」です。皇位継承問題が混乱するのは、以前も指摘したように、「皇族」概念が定まらず、揺らいでいるからです。

もともとは皇統に連なり、皇位継承資格を有する血族の集まりが「皇族」のはずですが、明治の皇室典範以来、民間出身の皇后、皇太子妃までが「皇族」とされるようになり、現在では、血統ではなくて、天皇の御公務を「分担」できる特別公務員が「皇族」と認識されています。

政府・宮内庁が「安定的な皇位継承を確保するため」と称して、「女性宮家」創設=女系継承容認に舵を切ったのも、じつのところ国事行為・御公務の「安定」が目的であって、古来の皇位継承の存続は最初から念頭にはなかったのです。議論が混乱するのは当然です。

政府がまず取り組むべきことは、御公務の見直しです。御負担軽減に失敗した宮内庁の責任を問い、失敗の原因を探ることです。それをせずに、皇位継承に手を付けるのは論理の飛躍であり、不遜です。

ふたつ目は、半井氏は「皇族」に「大使的な役割」を期待していますが、現行憲法は皇室外交を予定していません。皇族の役割は「皇統の備え」に尽きます。

3つ目は、皇室の伝統を重視するのは当然として、「伝統」だけで現代の女系派を説得できるのかどうかです。半井氏のような謙虚な、素直な現代人ばかりではないのです。

それにしても、半井氏の口から「しらす」の解説が聞かれるとは思ってもみませんでした。


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綿谷りさ先生、天皇の役割とは何でしょうか?──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1 [有識者会議]


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綿谷りさ先生、天皇の役割とは何でしょうか?──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1
(令和3年8月1日、火曜日)
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報道によると、皇位継承有識者会議は、先月26日、10回目の会合を開き、今後の方向性を決めました。すなわち、これまでのヒアリングを踏まえて、(1)女性皇族が結婚後も皇室に残る案、(2)旧皇族の男系男子を養子に迎える案、の2案を中心に検討し、議論を再開するというのです。

有識者会議というのはあくまで政治的通過儀礼ですから、ヒアリングの意見の中身より、政府が具体的にどのような方向性を明示するかが重要です。

その点でいえば、平成8年に宮内庁が非公式の検討を水面下で開始して以来、「女性宮家」創設=女系継承容認は揺るがしがたい既定路線でしたから、今回の方針決定で、旧皇族からの養子案が盛り込まれたのは、きわめて大きな変化といえます。皇室独自の伝統を重視する男系派からの反転攻勢の圧力を無視できなくなった結果ではないかと評価されます。

さて、今日からは、6月7日のヒアリングを検証します。一番手は小説家の綿谷りさ氏です。代表作は『インストール』『蹴りたい背中』です。


▽1 綿谷りさ氏──慎重論は理解できるけど

綿谷氏のヒアリングが傑出しているのは、問1の「天皇の役割や活動」についての回答です。憲法を根拠に、やれ「象徴」だ、やれ「国事行為」だと論述する識者とは完全に一線を画しています。人間の現実世界から帰納法的に物事を考える小説家ならではの特質でしょうか。

綿谷氏はまず、「天皇陛下は、余りにも幅広い役割を担っておられる」と切り出しました。天皇の歴史的な多面的、総合的な機能に目を向けています。さすがです。


◇天皇はなぜ祭りをなさるのか

具体的には、「その中で、祭祀、そして国事行為が重要な役割・活動であると思う」と述べ、一方で、「これらは、国民として知ろうと思わなければ、必ずしも日常の中で直接的に実感する機会は少ないのではないか」と指摘することを忘れていません。

綿谷氏の説明にはありませんが、通俗的な理解では、明治以前、日本人は天皇など見たこともなく、存在すら知らなかった。明治になって「可視化」され、日本人は「皇民化」されたと説明されています。

しかしそうではないことは、このブログで何度もお話ししました。京都の民にとっては、即位礼・大嘗祭は身近なものでした。地方の人々にとっては地域の信仰によって、文学や民俗によって、皇室は憧れと敬愛の存在であり続けてきました。でなければ、百人一首も内裏雛もとっくに廃れていたでしょう。

明治になり、天皇は御所を出られ、民草と親しく交わるようになり、立憲君主となられ、軍服を召されるようにもなりました。他方、宮中祭祀の祭日は国の祭日ともなりました。けれども、敗戦後は武装解除され、祭日もなくなりました。天皇の祭りは国民から縁遠くなりました。

宮中祭祀の存在が意識されるようになったのは、先帝陛下が高齢となり、ご公務のご負担が注目されるようになったからです。ご公務の影に隠されていた祭祀が、ご公務への注目度が高まった結果、日の目を見るようになったということでしょうか。

それなら、天皇の祭りとは具体的にいかなるものなのか、祭りをなさることの意味は何か、皇位継承問題とどのように関わるのか、残念ながら、綿谷氏の言及はありません。


◇行動主義によるご公務の限界

綿谷氏は代わりに、天皇と国民との触れ合いについて、説明しています。春・秋の園遊会等での華やかな場での交流、地方訪問の際の交流、たまたま沿道でお見かけしたお手振り、皇后陛下から賞状を授与される看護師、被災地訪問での被災者との交流、戦地での慰霊訪問です。人々の誇り、あるいは励まし、心の支え、歴史への学びがそこにはあると説明されています。

「天皇・皇后両陛下の役割・活動は、たいへん頼りになるものであり、国民として純粋にうれしく、励みにも勇気にもなるものである。自分自身だけでなく、自分以外に大変な目に遭った方々を労わる大切さも学ぶこともできる。災害や慰霊の場所を天皇・皇后両陛下が訪れるニュースは、ただただ感動する」と綿谷氏は述べています。

しかし、「感動」があるのか、深い分析はありません。その一方で、綿谷氏は、御高齢、御健康、御負担を心配しています。

「大きな被害に苦しみ、悲しむ人々を励ますのは、精神的にかなりの重労働ではないだろうか。相手の気持ちが跳ね返ってきて、心を痛められたことも多々あったと思う」

行動主義による御公務は無限に拡大していく運命にあり、いずれは肉体的限界にぶつからざるを得ません。そして結局、先帝は譲位を表明されることに至ったのでした。

としたときに、「天皇の役割や活動」はどうあるべきなのか、綿谷氏は、「とくに御高齢になるにつれ、御移動の負担や過密なスケジュールの疲労などを心配する気持ちが強くなった」と述べるのみです。


◇問題意識を深く共有できていない

先帝はまだしもで、今上の場合は、新型コロナ感染症拡大で以前のような地方訪問も被災地訪問もできない状況に追い込まれていますが、綿谷氏は、「医療従事者の負担増や、多くの国民が不安を感じていることに、心を痛められていたと思う。リモートで医療従事者を激励された話を聞いた際は、手段が限られている中でも精一杯国民に寄り添おうとされる姿に感動した」と語るにとどまっています。

つまり、それならば、天皇はどのように活動すべきなのか、そもそも天皇の本来的役割とは何なのか、綿谷氏は説明しきれずにいるのです。天皇の肉体的な限界を認める現実論から、政府・宮内庁の「女性宮家」創設=女系継承容認論は始まりました。天皇不在なら国会も開会できないのです。その経緯からすれば、綿谷氏は問題意識を深く共有せず、設問に答えていないことになります。

結論として、綿谷氏は、内親王・女王に皇位継承資格を認めることについては、「皇位継承順位に関しては、いますでに決まっている継承順位を軽く扱っていいのかという意見もある。今すぐ決められる問題でもないかもしれない」。女系継承容認については、「永らく受け継がれてきた皇室の歴史、そして築き上げられてきた伝統へ敬意を払うことはたいへん重要だ。女系天皇に関しては、伝統を重んじる観点から、慎重に取り扱う必要がある」などと、あくまで慎重論を崩しませんでした。

その一方で、旧皇族の皇籍復帰について、「長い皇室の歴史を重んじつつ、元皇族の系譜の方々をしかるべき形で皇族として改めて迎え入れ、皇室を支えていただくことは、これまでの伝統に整合的ではないか」とし、「皇族数の減少と現在の皇族の方々の御負担増という差し迫った課題を踏まえて検討を進めるのが良い」と賛意を表明しています。

綿谷氏の慎重論はもっともであり、安易に女系容認に暴走する政府や識者より共感を覚えますが、それだけに、もっともっと天皇論の深化が求められるのではないでしょうか。男系継承が皇室の「伝統」だとして、そこにいかなる根源的本質があるのか、説明されるべきです。表層的な慎重論では不十分です。


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