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「男系男子」継承の理由が説明されない。だからアメリカ人にも理解されない [眞子内親王]


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「男系男子」継承の理由が説明されない。だからアメリカ人にも理解されない
(令和3年11月14日、日曜日)
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誰でも一度は聞いたことがある、ABBAの代表曲「ダンシング・クイーン」には、1976年6月に結婚されたスウェーデンのカール16世グスタフ国王の結婚披露宴で初披露されたというユニークな歴史がある。

王妃となった女性は第二次大戦中のドイツ生まれで、その父親はドイツ人、しかもナチス党員だったというので、とくにユダヤ人たちからは歓迎されなかった。しかし王室は「王妃の父親は王族ではない」として「ノーコメント」を貫いた。さすがの見識である。

ところが日本では、それが感じられない。


▽1 一貫しない「私人」の論理

たとえばNHKである。御結婚で皇籍を離れられた眞子元内親王殿下の渡米について、しつこいほどの報道が続いている。まるでストーカーである。

昨日の夕刻は「あす午前 日本を出発 アメリカへ」と伝え、今日は朝から「きょう日本を出発しアメリカへ」(8時15分)、「羽田空港に到着 このあとアメリカへ出発」(8時51分)、「アメリカに向けて日本を出発」(11時5分)とたたみかけている。

民間人になられた元内親王を、なぜそこまで執拗に追いかける必要があるのか。そして宮内庁もまたしかりである。

報道によれば、西村泰彦長官は11日の定例会見で、小室圭氏のNY州司法試験不合格について、「とくにコメントすることはございません」としながらも、「次回、頑張ってもらいたい」と述べたという。社交辞令では済まされない。

今回の御結婚は徹頭徹尾、「ICUの恋」の成就のため「私人」の立場が貫かれた。それゆえに皇室伝統の儀礼も一時金支給も避けられた。宮内庁もノータッチの姿勢を保ったはずである。それならなぜスウェーデン王室のように、「ノーコメント」で済ませないのか。記者がネチネチと質問したとしても、「民間人」のプライバシーに踏み入る必要はない。

それでも立ち入るというのなら、御結婚について十分な身辺調査を怠った責任を、宮内庁はあらためて問われなければならない。いま佳子内親王殿下の警護が厳格化されていると伝えられるのは、宮内庁自身、遅まきながら、責任を自覚してのことではないか。宮内庁は元内親王を、完全には「私人」と見なしていない。論理が一貫していない。


▽2 アメリカ人が感じる「民間人」「ジェンダー」への違和感

それなら、新生活が始まるアメリカでは、御結婚はどう受け止められているのか。

目に止まったのは、FNNの中川眞理子NY支局特派員による「小室眞子さんの結婚を報じた米メディア『民間人』と『ジェンダー』に微妙な温度差」と題する記事である。

中川記者によると、御結婚はアメリカでも関心が高いらしい。そしてメディアの報道には「コモナー(民間人)」「ジェンダー」の2つの用語が頻出すると指摘している。

まずは「民間」への違和感である。中川記者の解説では、王室のないアメリカ人は、「すべての人は平等」と考える。英語で「私はコモナーです」と言えば、必要以上に自身を卑下しているように聞こえる。だから「コモナー」はめったに使われない。それなのに今回の結婚報道では、この単語のオンパレードだというのだ。

もうひとつは「ジェンダー」。NBCに寄稿したコーネル大准教授の記事の見出しは、「プリンセス・マコのコモナーとの結婚は、皇室を滅ぼしうる、性差別を示唆している」と痛烈に批判したと伝えている。

アメリカのメディアが驚きをもって報じているのは、「日本では女性に皇位継承権がないこと(+女性皇族の減少)」と「結婚によって皇室を離れること」の2点だという。

中川記者の記事は、イギリス王室では結婚によって王族の立場を離れることはない。だから、日本では女性皇族が結婚によって皇籍を離脱し「民間人」、すなわち「コモナーになる」ことに驚いたのではないかと説明している。

NYタイムズは「世論の感情を逆なでしたのは、海外で生活をするという二人の決断だったかもしれない。お姫さまは皇室を出たあとも、伝統的な慣例に従うことを求められている」と書いている。日本の伝統と文化を受け継ぐ皇室や皇族に対する日本国民の反応が、閉鎖的で古くさいものに見えてしまうのかも知れないと中川記者の解説は続く。


▽3 欧米から批判される謂れはない

中川記者は、アメリカのメディアが、「日本人にとっては別次元」であるはずの「職業や居住の選択肢が限られるなど皇族に課せられた様々な制約と、日本社会における男女不平等の問題」が焦点になっていると指摘し、だから、海外で理解されるには、「日本国内で女性皇族の減少や皇位継承権など皇室の将来について議論を尽くし、男女平等な社会の実現に向けて努力していくことが必要だろう」と訴えるのである。

中川記者の結論は常識的で批判には値しないが、「微妙な温度差」どころではない歴史的事実について、何点か指摘しておきたい。

まず、皇子が親王と呼ばれ、皇女が内親王と称されるのには古代律令に規定があり、皇女にも皇位継承権があったことである。歴史上、8人10代の女性天皇がおられ、最初の女帝・推古天皇は593年の即位であった。イギリスに最初の女王が誕生したのは16世紀のことである。男女平等の観点で単純に比較するなら、日本の方がはるかに進んでいた。

内親王に皇位継承権が認められなくなったのは、近代である。明治憲法は「皇男子孫の継承」、皇室典範は「男系男子の継承」を定めている。むろん理由がある。近代化すなわち欧化主義の影響であろう。いまさら欧米から批判される謂れはない。

近代天皇制の大きな特徴のひとつに、終身在位制の採用がある。譲位は制度として否認された。となると当然、女性天皇は否定される。なぜなら、女帝擁立はほかに男子が見当たらない状況なのであって、それでもなお女帝が即位されるなら、皇統は女系化するからだ。

イギリス王室なら、父母の同等婚、女帝即位後の王朝交替という二大原則から、王朝名が変わり、新たな父系継承が始まる。王位の断絶ということはない。女王の王配をヨーロッパ各王室に求めることもできる。しかし皇室はそうはいかない。

蛇足だが、イギリス王室はじめ、ヨーロッパ王室では王族同士の婚姻という大原則は崩れてしまった。もはや参考になるものではない。

古代の日本なら皇族同士の婚姻しか認められなかった。時代とともに拡大したが、明治においても内親王の婚家は華族までとされた。戦後は「民間人」にまで広がったが、内親王が「民間人」と結婚され、そしてもし皇位が継承されるなら、古来、男系で継承されてきた皇位は終わりを告げることになる。だから、甲論乙駁の議論が続くのである。


▽4 日本人自身が変わってしまった

現行憲法はGHQによる「押し付け憲法」ともいわれる。占領軍の置き土産だが、憲法学者の小嶋和司先生が指摘しているように、皇位継承の男系主義について、GHQ内で批判があったとは聞かない。つまり、是認されたということになる。

日本国憲法は「皇位の世襲」を定め、現行皇室典範は「男系男子の継承」を規定している。憲法はむろん男女平等を定めているが、皇位継承とはそもそも次元が異なる。国民の平等原則を皇室に持ち込むのは論理矛盾というものだ。占領軍も理解していたに違いない。

「皇室を滅ぼす」のは「性差別」ではなくて、むしろ「ジェンダー」の方だろう。中川記者はアメリカ人たちにそのように説明しなかったのだろうか。あるいは、そのように説明する知識を持ち合わせていないということか。

しかし中川記者のみを責めることはできない。なぜ皇位継承が男系主義で貫かれてきたのか、論理的に説明できる知識人など、いまの日本には見当たらないからである。だから、アメリカ人にも理解されないのである。

「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」と結論づけた、かの皇室典範有識者会議(平成17年)では、「なぜ皇位継承は男系でなければならないのか、を説明した歴史的文書などは見あたらない」と事務局が説明したと伝えられる。一方、男系派もまた、「もはや理由などどうでも良い」とサジを投げる始末である。

当たり前のことなら、あえて文書化する必要はない。男系主義の理由を論理で説明しなければならないのは、もはや日本人自身が変わってしまったということだろう。今日、男系継承主義は当たり前ではなくなったのである。それはなぜなのか。

中川記者にはそこを考えてほしい。「皇室の将来についての議論」はそのあとでも遅くはないと私は思う。


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