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皇室伝統の皇位継承法に従うことが「宗教派」なのか──日経編集委員の解説を批判する [有識者会議]


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皇室伝統の皇位継承法に従うことが「宗教派」なのか──日経編集委員の解説を批判する
(令和3年8月15日、日曜日)
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8月13日の日経新聞(電子版)に、井上亮編集委員による「宗教派と世俗派の相克 皇位継承、有識者会議の方向性」と題する解説記事が載りました。皇位継承有識者会議が7月に第10回目の会合を開き、皇位継承に関する「整理の方向性」を示したことについての解説でした。〈https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE110Z20R10C21A8000000/

それにしても、「宗教派vs世俗派」とはずいぶんと大仰な二項対立の図式です。いったい何をおっしゃりたいのでしょうか。もしかして、何か大きな勘違いをなさっておいでなのではありませんか。


▽1 180度違う対策案

井上さんの記事によれば、安定的な皇位継承を確保するために、有識者会議が打ち出した対策案は、(1)女性皇族が婚姻後も皇室に残る、(2)戦後に皇籍を離脱した旧皇族の子孫の男系男子を皇族の養子とする、(3)旧皇族の子孫を皇室に復帰させる──の3つです。

このうち、最重要課題の皇位継承にかかわるのは、(2)と(3)で、従来から男系維持の保守派が主張してきた案だと、井上さんはまず説明します。

しかし、井上さんの解説は、「これは同じ問題を討議した2005年の小泉純一郎内閣での有識者会議最終報告とは百八十度違う。同報告は男女を問わない長子継承と女性・女系天皇の容認を打ち出した。旧皇族の復帰は、そもそも男系継承は安定性を欠くとして否定された」と続きます。

井上さんによれば、「宮内庁幹部、関係者の間では、このときに議論は尽くされている」「皇位継承制度の安定性を考えれば、長子優先しか選択肢がない」「長い目で見ると男系継承の不安定性は明白である」とすれば、なぜ結論がこうも変わるのかという疑問が湧いてくるのは当然です。

「当時は上皇さまの孫世代に皇位継承者が一人もいない切羽詰まった状況」だったが、「今回の有識者会議は、同世代で皇位継承者が悠仁さま1人の状況」だという「違いはある」。「天皇の長い歴史と伝統は合理と数字だけで割り切れないのは確かだ」。だから、「ヒアリングの第1問にそもそも天皇とは何かを問う「天皇の役割と活動」を置いたのだろう」という展開は、私も理解できないことではありません。

問題は次です。


▽2 天皇は人間を超えた存在とみなしたい「宗教派」?

井上さんは「識者の回答は2つに集約できる」と言います。つまり、「天皇の正当性を神話に由来する祭祀王であることに求めるか、象徴として国民を統合する存在と定めた日本国憲法とするのか、である」というのです。

そして、この両者は、「天皇は人間を超えた存在とみなしたい『宗教派』と、国家機関としての役割を負った人間と見る『世俗派』ともいえよう」と仰せなのでした。「戦前から長く続いてきた天皇観の相克であり、これが皇位継承の考え方に強く影響している。大まかに見れば、前者に男系維持、後者に女系容認の論者が多い」と解説しています。

井上さんの解説は続き、「宗教派から見れば、世俗派は千数百年続いてきた天皇の伝統を戦後約70年にすぎない憲法と男女同権など現代の観念だけで論じていると映る」。他方、「世俗派は、男系は明治以降に確定した観念であり、神話や実証的歴史学では実在しない天皇を持ち出す宗教派は非合理的。継承確率の低い男系への固執はひいきの引き倒しで、皇統断絶を招き寄せると考える」と説明されています。

有識者会議は「国論を二分することは避けるべきだ」と警鐘を鳴らし続けているのに、「すでに国民の天皇観は分裂している」と井上さんは断定しています。

井上さんは「有識者会議の整理の方向性は宗教派に歩み寄った」けれども、「伝統は大事だが、現実社会との調整がなければ空論に終わるだろう」と警告しています。「皇室が悠仁さま1人になり、皇位継承者がいない状況にならなければ制度変更は無理だろう」という声も聞かれるというわけです。

さて、それでは批判です。

そもそも皇位継承法というものは、海外の王室と同様に、皇室独自のルールがあるのであって、国民的議論には馴染まないということが本来あるべき基本でしょう。有識者会議方式が誤っているのです。つまり、ネックは憲法の国民主権主義です。

井上さんが仰せのように、小泉内閣時代の皇室典範有識者会議は「皇位の安定的な継承を維持するためには、女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」(報告書の「結び」)と結論づけましたが、その過程において、皇室の天皇観についてはまったく検討されませんでした。天皇の地位は「主権の存する日本国民の総意に基づく」からでしょう。


▽3 「祭り主」天皇への誤解と偏見

寛仁親王殿下は「一度切れた歴史はつなげない」と男系継承が破られることに警鐘を鳴らされました。井上さんは「男系は明治以降に確定」と書いていますが、皇位は古来一貫して男系主義で貫かれてきたのです。それなのに、なぜいま否定されるのか、歴史と伝統というものはそれほど軽いのか、議論すべきなのはそこでしょう。

ついでながら、古来の男系主義は女性天皇を否定していません。認められなかったのは、夫がある、もしくは妊娠中・子育て中の女性天皇です。明治になって女性天皇が否定されたのは終身在位と関わっています。終身在位制のもとで女性天皇が即位すれば、当然、女系継承を容認することになります。万世一系は終焉します。

皇室典範有識者会議は「皇位継承の安定的維持」を目的に掲げていましたが、これには大きな疑いがあります。平成8年ごろ宮内庁で開始されたという水面下の検討は、むしろ国事行為をなさる特別公務員たる天皇の安定的継承、つまり国事行為の制度的安定が目的だったのではありませんか。皇統より憲法が優先されています。

たとえば国会を召集するのに男女の別はあり得ません。憲法体制の維持のためには皇室の皇位継承ルールは無視されて当然ということになります。

井上さんの記事にもっとも欠けているのは、男系継承が歴史上、「綱渡り」だったにもかかわらず、固守されてきたのはなぜか、という問題意識でしょうか。

井上さんは、「天皇は人間を超えた存在とみなしたい『宗教派』」と男系派を決めつけていますが、天皇=神だから男系継承が守られるべきだなどという主張を、誰がしているのでしょうか。天皇は神として祀られるのではなく、神々を祀るお立場であり、それが「祭り主」というものです。

私に言わせれば、男系継承主義が「祭り主」天皇論から必然的に導かれるとして、天皇の祭りなるものは逆に、国家的儀礼としてもっとも現実的、世俗的な社会的要求のなかから生まれたのだと想像しています。

昭和天皇が「現人神」とされることを嫌われたように、「天皇は人間を超えた存在」は完全な誤解だとして、天皇が皇祖神ほか天神地祇を祀り、米と粟を捧げて祈られることと男系継承主義がどう関わるのか、そこを男系派は説明していない。そこに最大の弱点があるということをこそ、井上さんはきびしく指摘すべきではないのでしょうか。

井上さんには、「祭り主」天皇への大きな誤解と偏見があると思います。

最後に蛇足ながら、井上さんは「神風が吹いた例はまずない」と記事を締め括っていますが、皇位継承は皇祖神の御神意に基づくというのが伝統派の信念です。事実、皇室と国民の祈りが通じて、悠仁親王殿下はお生まれになったのではありませんか。


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半井小絵先生、和気清麻呂のご子孫とは知りませんでした──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2 [有識者会議]

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半井小絵先生、和気清麻呂のご子孫とは知りませんでした──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2
(令和3年8月11日、水曜日)
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前回の続きです。今日は2番手、半井小絵氏です。気象予報士・女優と紹介されています。NHK時代からのファンも少なくないでしょうが、なぜこの方が「有識者会議」に招請されるのか、理解に苦しむところです。半井氏自身、「一国民」としての立場を表明しています。

しかし興味深いのは、半井氏が自己紹介する、その出自です。なんと「和気清麻呂の子孫」だというのです。古代において皇統の危機を救った忠臣の子孫とあれば、考えを改め、傾聴しなければなりません。


▽2 半井小絵氏──「しらす」までご存知とは

半井氏はきわめて謙虚です。「皇室のことを話すのは恐れ多い」「しかし、日本そのものの存続に関係する重要なことだから、勇気を振り絞り、発言させていただいている」とみずからを鼓舞しています。

かつての半井氏は「和気清麻呂の子孫」と両親や祖父母から聞いていたものの、興味はありませんでした。「柿本人麻呂の子孫」と誤って理解していたほどでしたが、数年前、ニュースのコメンテーターをすることになり、歴史を学び直しました。

そして、祖先の歴史を知るようにもなりました。清麻呂の姉・和気広虫は女官として天皇に仕え、日本ではじめて孤児院を開いた人物ともいわれます。

以前は「女性天皇」と「女系天皇」の違いも知らない半井氏でしたが、皇室を知るために、皇居の勤労奉仕にも参加し、御会釈を賜る機会にも恵まれました。「国民の幸せと世界の平和を祈ってくださっている天皇陛下のいらっしゃる、この国に生まれた幸せを実感した」「両陛下を、お父上、お母上と思ってしまうような親しみも湧いてきた」とそのときの印象を語っています。

じつに謙虚で、素直な人柄が伝わってくるエピソードですが、問題はそのような半井氏の理解と現下の皇位継承問題との関わりです。


◇「祭り主」天皇論の立場で

半井氏は、皇室の伝統的な天皇観である「祭り主」天皇論の立場で、話を進めています。

問1の「天皇の役割や活動」については、ほかの憲法学者たちとはまったく異なり、「天皇陛下はつねに我が国と国民の安寧を祈ってくださる有り難い存在である」「日本の長い歴史の中で育んできた伝統・文化をすべて背負ってくださっている存在である」と位置付けています。

つまり、半井氏によれば、歴代天皇は「日本そのもの」であり、「現代に生きる我々とその先祖の生きてきた証である」ということになります。とすれば、皇位継承について軽々に論ずることはできず、ヒアリングの場で意見を表明することは「恐れ多い」と思わずにはいられないことになります。

しかし、まことに残念ながら、天皇はなぜ「祭り主」なのか、具体的にいかなる「祭り」をなさり、そのことがいかなる意味を持つのか、少なくともこのヒアリングでは追究と説明がありません。

もっともそのことは半井氏だけの弱点ではありません。保守系の知識人はどなたも似たり寄ったりだからです。

なかには天皇は「稲の祭り」をなさると固く信じている神道学者さえいます。天皇が大嘗祭、新嘗祭で米と粟の新穀を供えて祈られるという事実を知らないばかりでなく、天皇の祭りが「稲の祭り」なら畑作民が疎外感を覚え、国と民を統合するスメラミコトたり得ないという想像性さえ持っていません。

半井氏は勤労奉仕の体験から、両陛下を「お父上・お母上」と感じたと振り返っていますが、なぜそういう思いが、「祭り主」天皇論から生まれるのか、ぜひ考察を深めてほしいものです。


◇常識的な皇位継承論

半井氏の意見は、保守派としては、きわめて常識的です。

「皇族の役割でもっとも大切なのは、皇統を引き継いでいかれることにある。皇統が途絶えるということは、日本そのものが終わるということである」
「どの天皇も父方をたどると神武天皇につながるということに大きな意味がある。女性皇族が婚姻に伴い皇族の身分を離れる現行制度は、民間の男性との皇位継承争いを引き起こさないためにも意義ある」
「女系天皇への拡大は我が国の歴史上ないことで、日本を混乱させる原因となり、許容できない」
「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持されることは、避けるべきだ。配偶者を皇族とすることはあってはならない。皇位継承は従来の伝統を崩してはならない」
「今後の変更で女性皇族も皇位継承資格を持つようになられたとしても、内親王・女王が結婚された場合は、従来どおり皇籍を離脱するべきである」
「婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援することについては、大使的な役割として、皇室の公務を担っていただくことには賛成である」
「現行の皇室典範では皇族に認められていない養子縁組を可能とすること、皇統に属する男系男子を現在の皇族と別に新たに皇族とすることは、共に賛成である」
「皇統を守るための方法は1つに絞らず、皇統を引き継いでくださる方が多いほど、安定的な皇位継承につながる」
「民間人として生まれ、皇籍に復帰し、天皇となられた醍醐天皇の例もある。旧宮家の男系男子の皇統復帰は、皇統の安定継承のためにも今すぐにでも実現する動きに入らなければならない」
「悠仁親王殿下に男子のお子様がお生まれになれば、旧宮家の男系男子の皇籍復帰は必要ないという意見もあるが、私はそうは思わない。もし男子がお生まれにならなければ、皇統の継承の危機となる。また、同世代に御相談できる男性皇族がいらっしゃるというのは、きわめて重要なことだ」
「皇室について国民が深く知り、理解することが必要である。学校教育でも表面的にしか教えない。日本は天皇陛下の『しらす』国である」
「いまのこの時代に2000年以上、大切にしてきた先人からの習わしを崩していいものかと思っている。できる限りの方法で守っていくということを希望している」


◇謙虚で素直な人たちばかりではない

いくつかのポイントを考えてみます。

ひとつは「皇族」です。皇位継承問題が混乱するのは、以前も指摘したように、「皇族」概念が定まらず、揺らいでいるからです。

もともとは皇統に連なり、皇位継承資格を有する血族の集まりが「皇族」のはずですが、明治の皇室典範以来、民間出身の皇后、皇太子妃までが「皇族」とされるようになり、現在では、血統ではなくて、天皇の御公務を「分担」できる特別公務員が「皇族」と認識されています。

政府・宮内庁が「安定的な皇位継承を確保するため」と称して、「女性宮家」創設=女系継承容認に舵を切ったのも、じつのところ国事行為・御公務の「安定」が目的であって、古来の皇位継承の存続は最初から念頭にはなかったのです。議論が混乱するのは当然です。

政府がまず取り組むべきことは、御公務の見直しです。御負担軽減に失敗した宮内庁の責任を問い、失敗の原因を探ることです。それをせずに、皇位継承に手を付けるのは論理の飛躍であり、不遜です。

ふたつ目は、半井氏は「皇族」に「大使的な役割」を期待していますが、現行憲法は皇室外交を予定していません。皇族の役割は「皇統の備え」に尽きます。

3つ目は、皇室の伝統を重視するのは当然として、「伝統」だけで現代の女系派を説得できるのかどうかです。半井氏のような謙虚な、素直な現代人ばかりではないのです。

それにしても、半井氏の口から「しらす」の解説が聞かれるとは思ってもみませんでした。


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【関連記事】「伝統」だけで女系派を納得させ得るのか──有識者ヒアリングのレジュメを読む 2〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2021-04-18
【関連記事】案の定、男系継承の核心が見えない!?──有識者ヒアリングのレジュメを読む 1〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2021-04-14
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【関連記事】女系派が大多数を占める今日、男系維持派は何をすべきなのか?〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2021-03-14
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【関連記事】女系は「万世一系」を侵す──「神道思想家」葦津珍彦の女帝論(「論座」1998年12月号特集「女性天皇への道」から)〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/1998-12-01

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綿谷りさ先生、天皇の役割とは何でしょうか?──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1 [有識者会議]


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綿谷りさ先生、天皇の役割とは何でしょうか?──6月7日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1
(令和3年8月1日、火曜日)
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報道によると、皇位継承有識者会議は、先月26日、10回目の会合を開き、今後の方向性を決めました。すなわち、これまでのヒアリングを踏まえて、(1)女性皇族が結婚後も皇室に残る案、(2)旧皇族の男系男子を養子に迎える案、の2案を中心に検討し、議論を再開するというのです。

有識者会議というのはあくまで政治的通過儀礼ですから、ヒアリングの意見の中身より、政府が具体的にどのような方向性を明示するかが重要です。

その点でいえば、平成8年に宮内庁が非公式の検討を水面下で開始して以来、「女性宮家」創設=女系継承容認は揺るがしがたい既定路線でしたから、今回の方針決定で、旧皇族からの養子案が盛り込まれたのは、きわめて大きな変化といえます。皇室独自の伝統を重視する男系派からの反転攻勢の圧力を無視できなくなった結果ではないかと評価されます。

さて、今日からは、6月7日のヒアリングを検証します。一番手は小説家の綿谷りさ氏です。代表作は『インストール』『蹴りたい背中』です。


▽1 綿谷りさ氏──慎重論は理解できるけど

綿谷氏のヒアリングが傑出しているのは、問1の「天皇の役割や活動」についての回答です。憲法を根拠に、やれ「象徴」だ、やれ「国事行為」だと論述する識者とは完全に一線を画しています。人間の現実世界から帰納法的に物事を考える小説家ならではの特質でしょうか。

綿谷氏はまず、「天皇陛下は、余りにも幅広い役割を担っておられる」と切り出しました。天皇の歴史的な多面的、総合的な機能に目を向けています。さすがです。


◇天皇はなぜ祭りをなさるのか

具体的には、「その中で、祭祀、そして国事行為が重要な役割・活動であると思う」と述べ、一方で、「これらは、国民として知ろうと思わなければ、必ずしも日常の中で直接的に実感する機会は少ないのではないか」と指摘することを忘れていません。

綿谷氏の説明にはありませんが、通俗的な理解では、明治以前、日本人は天皇など見たこともなく、存在すら知らなかった。明治になって「可視化」され、日本人は「皇民化」されたと説明されています。

しかしそうではないことは、このブログで何度もお話ししました。京都の民にとっては、即位礼・大嘗祭は身近なものでした。地方の人々にとっては地域の信仰によって、文学や民俗によって、皇室は憧れと敬愛の存在であり続けてきました。でなければ、百人一首も内裏雛もとっくに廃れていたでしょう。

明治になり、天皇は御所を出られ、民草と親しく交わるようになり、立憲君主となられ、軍服を召されるようにもなりました。他方、宮中祭祀の祭日は国の祭日ともなりました。けれども、敗戦後は武装解除され、祭日もなくなりました。天皇の祭りは国民から縁遠くなりました。

宮中祭祀の存在が意識されるようになったのは、先帝陛下が高齢となり、ご公務のご負担が注目されるようになったからです。ご公務の影に隠されていた祭祀が、ご公務への注目度が高まった結果、日の目を見るようになったということでしょうか。

それなら、天皇の祭りとは具体的にいかなるものなのか、祭りをなさることの意味は何か、皇位継承問題とどのように関わるのか、残念ながら、綿谷氏の言及はありません。


◇行動主義によるご公務の限界

綿谷氏は代わりに、天皇と国民との触れ合いについて、説明しています。春・秋の園遊会等での華やかな場での交流、地方訪問の際の交流、たまたま沿道でお見かけしたお手振り、皇后陛下から賞状を授与される看護師、被災地訪問での被災者との交流、戦地での慰霊訪問です。人々の誇り、あるいは励まし、心の支え、歴史への学びがそこにはあると説明されています。

「天皇・皇后両陛下の役割・活動は、たいへん頼りになるものであり、国民として純粋にうれしく、励みにも勇気にもなるものである。自分自身だけでなく、自分以外に大変な目に遭った方々を労わる大切さも学ぶこともできる。災害や慰霊の場所を天皇・皇后両陛下が訪れるニュースは、ただただ感動する」と綿谷氏は述べています。

しかし、「感動」があるのか、深い分析はありません。その一方で、綿谷氏は、御高齢、御健康、御負担を心配しています。

「大きな被害に苦しみ、悲しむ人々を励ますのは、精神的にかなりの重労働ではないだろうか。相手の気持ちが跳ね返ってきて、心を痛められたことも多々あったと思う」

行動主義による御公務は無限に拡大していく運命にあり、いずれは肉体的限界にぶつからざるを得ません。そして結局、先帝は譲位を表明されることに至ったのでした。

としたときに、「天皇の役割や活動」はどうあるべきなのか、綿谷氏は、「とくに御高齢になるにつれ、御移動の負担や過密なスケジュールの疲労などを心配する気持ちが強くなった」と述べるのみです。


◇問題意識を深く共有できていない

先帝はまだしもで、今上の場合は、新型コロナ感染症拡大で以前のような地方訪問も被災地訪問もできない状況に追い込まれていますが、綿谷氏は、「医療従事者の負担増や、多くの国民が不安を感じていることに、心を痛められていたと思う。リモートで医療従事者を激励された話を聞いた際は、手段が限られている中でも精一杯国民に寄り添おうとされる姿に感動した」と語るにとどまっています。

つまり、それならば、天皇はどのように活動すべきなのか、そもそも天皇の本来的役割とは何なのか、綿谷氏は説明しきれずにいるのです。天皇の肉体的な限界を認める現実論から、政府・宮内庁の「女性宮家」創設=女系継承容認論は始まりました。天皇不在なら国会も開会できないのです。その経緯からすれば、綿谷氏は問題意識を深く共有せず、設問に答えていないことになります。

結論として、綿谷氏は、内親王・女王に皇位継承資格を認めることについては、「皇位継承順位に関しては、いますでに決まっている継承順位を軽く扱っていいのかという意見もある。今すぐ決められる問題でもないかもしれない」。女系継承容認については、「永らく受け継がれてきた皇室の歴史、そして築き上げられてきた伝統へ敬意を払うことはたいへん重要だ。女系天皇に関しては、伝統を重んじる観点から、慎重に取り扱う必要がある」などと、あくまで慎重論を崩しませんでした。

その一方で、旧皇族の皇籍復帰について、「長い皇室の歴史を重んじつつ、元皇族の系譜の方々をしかるべき形で皇族として改めて迎え入れ、皇室を支えていただくことは、これまでの伝統に整合的ではないか」とし、「皇族数の減少と現在の皇族の方々の御負担増という差し迫った課題を踏まえて検討を進めるのが良い」と賛意を表明しています。

綿谷氏の慎重論はもっともであり、安易に女系容認に暴走する政府や識者より共感を覚えますが、それだけに、もっともっと天皇論の深化が求められるのではないでしょうか。男系継承が皇室の「伝統」だとして、そこにいかなる根源的本質があるのか、説明されるべきです。表層的な慎重論では不十分です。


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都倉武之先生、天皇は完全に「政治社外のもの」ですか?──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 4 [有識者会議]


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都倉武之先生、天皇は完全に「政治社外のもの」ですか?──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 4
(令和3年7月25日、日曜日)
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前回の続きです。今日は都倉武之・慶應義塾大学准教授です。

新進気鋭の研究者のようですが、どんな方なのか、自己紹介では「政治史を専攻」とのことですが、慶応のサイトをのぞいてみると、所属は福澤研究センターで、慶應義塾論や福沢諭吉論の授業を担当する生粋の慶應ボーイのようです。正確には近代日本政治史の研究者ということでしょうか。著書は16冊。いずれも共著、もしくは「都倉武之研究会編」で、単著はありません。

それで、やっぱりなあ、と思いました。日本の天皇は古代から126代続いているのに、その皇位継承について議論するのにあたって、明治以来の5代の歴史しか検証しない。これは研究手法として妥当なのかどうか。


▽4 都倉武之氏──5代天皇論を克服してほしい

都倉氏は、まず基本的な視点を提示します。ひとつは、天皇・皇室の存在意義です。日本国憲法から論じ始める、ほかの論者との違いが際立っています。

都倉氏によれば、天皇・皇室は政治に関わらないという立場にあり、したがって日本社会にもたらす「緩和力」こそが存在意義だと訴えています。だから、政争に巻き込まないよう十分な注意が求められるということになります。

都倉氏によると、天皇は、大日本帝国憲法における主権者から日本国憲法における象徴へ転換した。戦後はきわめて限定的・儀礼的で、実質的な権能を有しない消極的存在であることに意味があったが、平成期は法的位置付けが曖昧な公的行為の充実により、象徴としての在り方に積極性が生まれ、それを多くの国民が受け入れた。戦後の昭和天皇及び現上皇の75年にわたる蓄積により、民主主義と皇室の共存の伝統と価値が培われたと考えられています。

そのうえで都倉氏は、それなら、天皇が日本国憲法に規定され存在することにはどのような意義があるか、より明確に言えば、国民にどのようなメリットがあるのかと問いかけ、そして、慶應ボーイらしく、福沢諭吉の2つの著作、「帝室論」「尊王論」から解き起こそうとします。

むろんそれは、都倉氏自身が説明するように、これらの著作が、戦後間もなく象徴天皇の在り方を模索する過程で、昭和天皇はじめ皇族方が参考にしたことが知られていると強く認識するからです。ご承知のように、そして都倉氏が解説するように、「帝室論」「尊王論」は、「帝室は政治社外のものなり」として、皇室を現実政治から最大限遠ざけることの重要性を繰り返し強調しています。


◇皇室はなぜ尊敬されるのか

さらに、これらに関連して、都倉氏は、皇室はなぜ尊敬されるのか、と問い、福沢諭吉が天皇の権威が絶対性を帯びることの危険性を指摘し、天皇の権威の由来を超自然的、超人間的に説明する神権主義的にではなく、世俗的・常識的に解釈しようとしたなどと解説しています。

また、古代より父方だけの血統をつなぐというルールで継承されたことが、天皇の家族が別格扱いされる希有な珍しさであり、歴史上も各時代の日本の同時代の一般的な家の継承の在り方と必ずしも軌を一にしてきたとは言えず、その特殊性こそが別格扱いの根拠となっているのではないか、と都倉氏は考えています。

この希有な珍しさが、他の拮抗する権威の出現を抑え、中立性や唯一性を担保したと見るならば、そのような歴史の蓄積が、近代における主権者としての天皇という例外的な一時期を除いて、再び回帰すべき象徴天皇という在り方を用意したということができるのではないかというのです。

こうした前提のうえで、政府の設問に答え、都倉氏は、まず第一に、男系での継承を継続する模索がなされてよいが、一方で、世襲のみを要件とする日本国憲法は、女性天皇及び女系天皇を容認し得ると考えられるからとして、女性天皇については容認します。

しかし、安定性及び現在の皇族本人の予見可能性の観点からも、現状では男系男子優先が妥当である。男系継承模索の方途が尽き、他に選択肢がないときの最後の選択肢としてならば、女系天皇は容認されてよいと考えるが、いずれにしても、正統性に疑義を生じさせないよう、泥縄式の制度変更は避けることが望ましいと訴えることを忘れていません。

そして、政府の設問に対しては、とくに旧宮家の皇籍復帰については、皇室は、家の形式的な存続ではなく父方の血統の連続を重視してきたことや、女性は婚姻により皇族となるが男性は供給され得ない現行制度の在り方に着目するならば、抑制的な運用の下で、血統の連続を維持するための民間からの養子(血縁の近い皇統に属する男系男子)を可能にすることも非現実的ではないと述べています。

ただし、その場合、必要最小限度にとどめられるべきで、宮家の増設などは望ましくない。皇位継承資格は次代以降に認めることが自然だと釘を刺しています。

最後に、その他の方策として、間接的な方法として、宮内庁職員のほかに、参与、アドバイザーなどの形で、日頃より相談役となる民間人を置くべきだと提言しています。


◇天皇は古来、「国民統合の象徴」だった

さて、批判です。おおむね都倉氏の意見は福沢諭吉の天皇論が基礎になっています。福沢の天皇論は一般には評価が定まっているところかもしれませんが、近代の啓蒙主義の枠組みを超えていないように私には思われます。

明治になり、近代化が急がれたとき、学校教育もまた欧化主義に席巻され、「修身」の教科書までが翻訳本となりました。国会図書館にはほかならぬ福沢が翻訳した修身の教科書が収蔵されています。行き過ぎた欧化主義に、明治天皇が疑問を投げかけられ、制定作業が始まったのが教育勅語でした。

都倉氏はヒアリングの冒頭で、福沢の天皇観を基礎に置き、天皇統治の非政治性を強調しています。明治憲法下の主権者から、戦後は象徴へ転換したとも述べています。しかし、違うのではありませんか。

そもそも天皇は、皇室の天皇観によれば、皇祖神のコトヨサシに基づき、この国をシラスこととされたのであり、古代律令の時代すでに現実の政治は二官八省に委ねられ、間接統治が行われました。明治憲法が定める「統治」は同様にシラスの意味であり、統治大権は天皇に由来するものとしつつ、実際の統治権は三権に委ねられたのではないでしょうか。

つまり、そもそも天皇は、古来、スメラミコトと仰がれた時代から、「国民統合の象徴」だったのです。そのことは「戦後唯一の神道思想家」葦津珍彦が指摘しているところです。都倉氏が説明しているように、明治の時代は権力者だった天皇が、敗戦を経て、日本国憲法下において「帝室は政治社外のもの」となったのではありません。

また、都倉氏のいう天皇の権威の絶対性云々が何を意味するのか、よく分かりませんが、天皇統治の正統性が宗教的背景を有するのは明らかであり、否定することは不可能です。ただ、皇祖神が絶対神とほど遠いことは葦津珍彦が指摘しているとおりです。キリスト教世界とは違うのです。

もうひとつ、スメラミコトが古来、完全な「政治社外」の存在なのかは吟味されるべきです。まさにいま日本は、皇位継承問題で国論が割れています。そのようなときに、天皇は完全な「政治社外」たるべきなのかどうか、福沢はどのように考えていたのでしょうか。

葦津珍彦は完全「政治社外」論を退けています。葦津の表現でいえば、「議長」の立場であって、賛否同数なら、決定権は天皇にあります。「政治社外」であるべきではないのです。まして皇位継承は皇室の家法に委ねられるべきで、民草が介入すべきではありません。

都倉氏は、天皇の存在は人類普遍のものではないと断言していますが、当たり前です。天皇は日本にしか存在しません。そこには日本の文明と関わる独自の論理があり、皇位継承の男系主義もまたそこに理由があります。福沢諭吉の欧化主義では解明できないのでしょう。男系主義の歴史的意味も価値も理解できないなら、安易に女系容認に流れることは目に見えています。5代天皇論を克服すべきです。


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【関連記事】女系は「万世一系」を侵す──「神道思想家」葦津珍彦の女帝論(「論座」1998年12月号特集「女性天皇への道」から)〈https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/1998-12-01

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橋本有生先生、群○象を評すがごとしです──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3 [有識者会議]

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橋本有生先生、群○象を評すがごとしです──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3
(令和3年7月18日、日曜日)
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前回の続きです。今日は橋本有生・早稲田大学法学学術院准教授(家族法)です。現代家族法講座第4巻『後見・扶養』などの著書・論文があります。

橋下氏は、開口一番、「皇族の婚姻や養子縁組に関わる事項もあるので、本日は、家族法の研究者としての立場からお話をさせていただく」と述べ、設問に従い、レジュメに沿ってヒアリングを進めています。

つまり、私法研究の立場から、公人中の公人である天皇の地位について、その継承について、論じようとするわけです。天皇は「公」そのものであるという前提ならまだしも、どうもそうではありません。まさに場違いな招請というべきですが、なぜそんなことが起きるのか。


▽3 橋本有生氏──日本人の知性の劣化!?

以前、日本中世史研究者の本郷恵子氏を取り上げました。多くの論者が日本国憲法を起点として議論を展開しているのとは対照的に、歴史家らしく日本の歴史全体を俯瞰し、天皇の文化的力について論じていたのは、きわめて印象的でした。天皇は単なる政治権力者ではないという考え方です。

しかし、そんなことは普通の日本人にとっては当たり前のことです。和歌に親しむ者、書道を学ぶ者にとって、天皇は身近な存在ですが、むろん政治とは無関係です。桃の節句に女の子の成長を願い、内裏雛を飾って祝う習俗は、政治性とは無縁です。

大工さんにとっては、法隆寺を建立した聖徳太子は職業的祖神であり、木地師たちは横びき轆轤を発明した惟喬親王をわが祖神と崇めています。わが故郷では、養蚕と機織りを伝えてくれた崇峻天皇の妃が地域の神とされています。そのようなことは、このブログで何度も言及してきました。

つまり、日本人にとっての天皇とは多元的、多面的なのであり、だから国民の天皇意識は根強いのです。「戦後唯一の神道思想家」葦津珍彦が以下のように述べているとおりです。

「この根強い国体意識は、いかにして形成されたか。それは、ただ単に、日本の政治力が生んだものでもなく、宗教道徳が生んだものでもなく、文学芸術が生んだものでもない。それらすべての中に複雑な根を持っている」(「国民統合の象徴」=「思想の科学」昭和37年4月号)


◇私法レベルの議論

ところが、今回の有識者会議では、多くの識者が、憲法学者ならなおのこと、憲法を起点とする法律論しか語ろうとしません。群◯象を評すがごとき、あるいは寄ってたかって重箱の隅をつつくような議論に終始するのは当然です。つくづく日本人の知性の劣化を疑います。

橋本氏もご多分に漏れず、日本国憲法を引用し、国事行為を説明しています。「象徴としての天皇は、それぞれの時代を反映した役割を担われている」と指摘しつつ、古来、スメラミコトと呼ばれた所以について追究しようという姿勢はありません。

「皇族の減少」についても、「嫡出性」に着目しながら、「皇族」という概念、「皇族性」という意味について、深く探究しようとしているようには見えません。

だから、「仮に男系による継承を維持していく場合は、嫡出性による制限を無くすか、または養子縁組を認めていくことが方策として考えられる」と指摘しつつ、「前者については、現行の民法が一夫一婦制を採用しており、不貞行為は裁判上の離婚原因に該当することから、側室制度への回帰は国民の理解を得難いものだと考える」と結論するにとどまっています。

天皇とは何か、天皇のおつとめとは何か、多面的に、総合的に考察できていないからです。公法のカテゴリーではなく、私法のレベルで議論しようというところに、そもそもの限界があります。

橋本氏は、学問的アプローチもさることながら、歴史的理解も誤っています。つまり、過去の8人10代の女性天皇について、です。


◇「国民感情」で皇室の家法を変える?

橋本氏は、「いずれの女性天皇も皇統に属する男系の女子であり、その子が皇位を継承しても、その父親は皇統に属する男子であるため、男系による皇位の継承は例外のない伝統であるとするのが政府見解である」と説明していますが、女性天皇からその子へと皇位が継承されることはあり得ません。

また「過去の法を見ると、女帝の子も男性天皇の子と同様の身分を取得する旨の規定が存在しており、必ずしも全ての年代において、法律が男系男子以外の継承を禁じていたわけではない」とするのは、資料の誤読でしょう。継嗣令の「女帝子亦同」は「ひめみこも帝の子、また同じ」と読み、天皇の兄弟・皇子が親王とされるように、皇女も内親王とされると解すべきだからです。

したがって、「国民感情の推移によっては、女性が皇位継承資格を持つことも十分に考えられると思う」という結論は誤りです。皇室に伝わる皇位継承の大法を、「国民感情」で変えるなど、もってのほかです。皇位継承は皇室にお任せすべきであり、民草が介入すべきではありません。

橋本氏は、さらに「内親王に皇位継承資格を認めるべきであると考えるし、国民意識の変化によっては、女系天皇の可能性も十分に論じる余地があるものと思う」とか、「日本国民は男性のみによって構成されているわけではないので、女性天皇が日本国の象徴として活動することが不合理であるとは思われない」とか述べていますが、もうこれ以上の検証は不要でしょう。

ヒアリングののち、有識者会議メンバーとの間で質疑応答があり、「大変精緻な議論、法律論」とのお褒めの言葉を頂戴した橋本氏ですが、私は失笑を禁じ得ません。まさに群◯象を評すでしょう。私なら「私法のレベルから、『国民感情』を根拠に、皇室の家法を変えることの是非」を質問します。憲法の国民主権主義で、古来の男系主義を改変させるべきなのか、それほど皇位の男系継承は誤った制度なのかどうか。


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「斎藤吉久のブログ」令和3年上半期閲覧数ランキング・トップ10 [有識者会議]

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「斎藤吉久のブログ」令和3年上半期閲覧数ランキング・トップ10
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遅くなりましたが、「斎藤吉久のブログ」の今年上半期アクセス・ランキングのトップ10を発表します。記事の評価は読者の方々にお任せします。


1位 所功先生、「女系容認」派からの華麗な転身はなぜ?──4月21日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2(5月17日、月曜日)

2位 生々しい天皇意識を感じない?──過激派もネトウヨも神道学者も(1月31日、日曜日)

3位 女系派が大多数を占める今日、男系維持派は何をすべきなのか?(3月14日、日曜日)

4位 本郷恵子先生、これがいまの東大歴史学のレベルなのですか?──4月21日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 4(5月22日、土曜日)

5位 皇位継承有識者会議の最重要テーマは「天皇とは何か」だが…(4月4日、日曜日)

6位 伝統を失った日本人と天皇の未来。126代の皇統史に価値があると思うなら(2月14日、日曜日)

7位 新田均先生、「伝統」だけで女系派を納得させられますか──有識者ヒアリングのレジュメを読む 2(4月18日、日曜日)

8位 八木秀次先生、やはり「男系継承」の本質が見えません──有識者ヒアリングのレジュメ+議事録を読む 3(4月25日、日曜日)

9位 君塚直隆先生、126代続く天皇とは何ですか?──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1(6月27日、日曜日)

10位 天下国家は何処へ?──佐野和史宮司の「神社新報」投稿を読む(5月6日、木曜日)

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曽根香奈子先生、さすがの見識と学びですね──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2 [有識者会議]


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曽根香奈子先生、さすがの見識と学びですね──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 2
(令和3年7月4日、日曜日)
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前回の続きです。今日は曽根香奈子・日本青年会議所監事です。

曽根氏は、自己紹介によれば、愛知県半田市にある製造業の経営者の3代目です。3児の母であり、「ごく普通の民間人」です。「専門的な知識はない」と謙遜されますが、けっしてそうではありません。天皇の祭祀にいっさい言及しない大学教授らがほとんどなのに、曽根氏は天皇の歴史的なお役目を、臆することなく取り上げています。ご立派です。清涼感さえ感じます。

曽根氏は、ヒアリング後の有識者会議メンバーとの意見交換で、今回、ヒアリングに招請される前は、皇室問題にどの程度、関心を持っていたか、と質問されて、「なかった。テレビで見る程度」と正直に告白しています。短期間によくぞここまで深く学ばれたものだと心底、感心します。

言い換えるなら、国民の側に、皇室について、真摯に、謙虚に学ぶという姿勢があれば、女帝・女系継承容認が大半を占めるという現在のお寒い状況は、意外にも簡単に変わり得るということになります。曽根さんはいわばそのお手本です。

それでは、政府の設問に沿って、レジュメを作られ、話しておられますので、それに従って中身を検討していくことにします。


▽2 曽根香奈子氏──「普通の民間人」でもここまで学べる

まず問1の「天皇の役割や活動」について。

曽根氏は、天皇とは日本国と日本国民の象徴、シンボルであり、その役割と活動には、(1)祭り主、宮中祭祀の長であること、(2)お田植えなどを宮中でなさり、農業ほか伝統産業を守り伝えることの大切さを示されること、(3)国家元首として御公務をなさること、の3つがあると説明しています。

順徳天皇の「禁秘抄」に「およそ禁中の作法は神事を先にす」とあるように、天皇は「祭り主」であるというのが皇室の天皇観であり、曽根氏の指摘の第一がまさにこれです。3番目の「国家元首としての御公務」は近代化によって新たに加味されたものと一応、位置付けられます。


◇天皇と皇族の違い

注目したいのは、2の「田植え」です。

日本浪漫派の評論家・歌人として知られる保田與重郎全集の月報には、取材にやってきた新聞記者に、保田が「天皇の仕事でいちばん大切なのは何かね」と逆に質問し、考えあぐねる記者に「田植えだよ」と語り、記者が面食らったという逸話が載っていたのを思い出します。

天皇の稲作は歴史が浅く、昭和天皇が皇位継承後に始められたものでした。平成、令和と受け継がれ、平成以後は稲に加えて粟も栽培されるようになりましたが、その意味は何でしょうか。昭和天皇がお田植えを始められたとき、ある新聞はその目的を「産業振興」と伝えました。曽根氏も今回、同様のニュアンスで述べています。

一方の保田は、天皇の稲作は神話の時代と直結する、祭りであり、祈りであると考えていたようです。むろん記紀神話に描かれた斎庭の稲穂の神勅が前提でした。皇祖天照大神は天孫降臨に際して、「高天原にある斎庭の稲穂をわが子に与えなさい」と命じられたと伝えられます。天孫降臨は日本の稲作と始まりであり、皇室こそは日本の稲作産業の中心なのです。

としたときに、そのような「天皇の役割と活動」というものが、現下の皇位継承問題とどのように関わるのでしょうか。曽根氏はどのように説明しているのでしょうか。

問2の「皇族の役割や活動」について、曽根氏は、「天皇の役割と活動」と「皇族の役割と活動」は別であることを正しく指摘しています。このことはきわめて重要だと思います。

「女性宮家」創設=女系継承容認論は、天皇と皇族の役割を一緒くたにする考えが前提となっています。だから、園部逸夫内閣参与が以前の有識者会議でしきりに繰り返していたように、陛下はご多忙だから、女性皇族にも御公務を分担していただく、そのために「女性宮家」創設が求められるという論理が展開されたのです。

しかし天皇は「上御一人」であり、宮中祭祀がそうであるように、天皇にしかお出来になれないお役目を皇族方が代行することは、そもそも不可能です。まったく曽根氏の仰せの通りです。


◇問題は「皇位継承資格者」の減少

問3は「皇族数の減少」です。

曽根氏は「皇族の活動に一定の支障を来すという心配」を吐露しつつも、「根本の問題ではない」と断言しています。つまり、「安定的な皇位継承の資格を確保するための課題としては、皇位継承資格を有する者の減少が根本の問題である」からです。さすがの見識です。

そもそも「皇族」とは、皇位継承の資格を有する血族の集まりなのであり、本来の「皇族」といわゆる「みなし皇族」とを混同するから、議論は混乱していくのです。

そのうえで曽根氏は、「志ある旧宮家の方々に皇族、皇室へ復帰していただく以外に、根本問題を解決する道はない。ただし、皇族数が減少すれば、天皇および皇族の御公務の御負担が増えるのは確かであるから、何らかの対策は必要だ」と訴えています。

ほかに方法がないわけではないと私は思いますが、それはそれとして、いわゆる御公務の見直し・整理についても言及してほしかったと感じています。

何度も言いますが、先帝陛下の御在位20年を節目として、宮内庁の御公務御負担軽減策が始まりました。ところが、文字通り激減したのは宮中祭祀ばかりで、いわゆる御公務の件数は逆に増えていきました。失敗の反省も検証もなく、「女性宮家」創設=女系継承容認に走るのは、論理の飛躍以外の何者でもないはずです。


◇皇位継承は国民が議論すべきことではない

問4は「皇位継承の原則」についてです。「皇統に属する男系男子である皇族のみが皇位継承資格を有し、女性皇族は婚姻に伴い皇族身分を離れることとしている現行制度の意義をどのように考えるか」について、曽根氏は「たいへん大事な点だと思うので、私が学び、感じ、そして考えに至ったことを少し詳しくお話ししたい」と意を決したように語り始めます。

曽根氏は最初、「社会で女性が活躍し、男女平等が進んでいる今日、皇族も同じようにあるべきでは」と考えていました。皇位継承資格を男系男子に限る必要はないと思っていました。しかし、皇室についての認識が深まり、学んでいくに従って、誤りに気付いたというのです。

すなわち、天皇が「祭り主」であるという伝統が国民の結束の証であること、皇室に入られた女性たちが皇室の「多様性」を担ってきたこと、皇統の男系主義を壊してはならないこと、の3点です。

皇室問題の専門家でもない一民間人が真摯に学んでこられた姿勢に頭が下がる思いがします。そもそもが皇位継承の基本原則は、国民が議論すべきことではありません。

となれば、問5の「内親王・女王に皇位継承資格を認めること」について、賛成のはずはありません。「歴史的には時代状況により、皇族女性が皇嗣となったり、寡婦か未婚の状態で、中継ぎ的役割 で御即位されたりしたことはあった。したがって、男系女子の継承は、一時的にどうしても必要なときは可能だと考えている。しかし、その御子息・御令嬢である女系男子や女系女子への継承はあってはならない」と明言しています。

前にも指摘したように、近代の終身在位が前提なら、女帝即位はたちどころに女系継承容認に転化します。


◇正答を出すべき人たちはほかにいる

すなわち、問6の「皇位継承資格を女系に拡大すること」は認めようがありません。「父系、男系をたどり、初代神武天皇に血統がつながることが天皇」だからです。

そのうえで、曽根氏は「女系天皇というのは天皇には当たらず、もしも今後、女系天皇なるものが誕生すれば、それは天皇ではなく、新たな王朝を開くこととなり、皇室の歴史が終わり、ひいては日本の歴史が終わり、新王朝の下、新たな国家を開くことになる」と強く警告しています。

問7の「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについて」も同様で、曽根氏は「必要ない」ときっぱり。「その配偶者と御子息・御令嬢は皇族ではない」からです。まったくその通りです。

問8の「婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援することについて」は、「菊栄親睦会や新たな組織などがあれば、御活動いただくべきだ」と指摘するにとどまっています。

問9の「皇族に属する男系の男子を、養子縁組または皇籍復帰により皇族にすることについて」は、もともと旧宮家の臣籍降下はGHQによる不当なハーグ陸戦条約違反だから、「旧宮家の志ある方を養子縁組することのみ可能にすべきだ」し、皇籍復帰にも「賛成」しています。

最後に、問10の安定的な皇位継承を確保するための、あるいは皇族数の減少に係る対応としての「そのほかの方策」について、曽根氏は「旧宮家の皇籍復帰しかない」と言い切り、「旧宮家の方々と丁重に議論を重ね、志ある方々に皇族、皇室にお戻りいただければと思う」と締め括っています。

最後に、一点だけ指摘すると、天皇第一のお役目が祭祀にあるとして、なぜそのことが男系主義と関わるのか、曽根氏のヒアリングからは答えは見つかりません。しかしそのことは何ら批判されるべきことではないでしょう。正答を出すべき人たちはほかにいるからです。その人たちの不作為と無能力こそ、大いに批判されるべきなのです。


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君塚直隆先生、126代続く天皇とは何ですか?──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1 [有識者会議]

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君塚直隆先生、126代続く天皇とは何ですか?──5月31日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 1
(令和3年6月27日、日曜日)
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今日から、5月31日に開かれた有識者ヒアリングの議事録を、読むことにします。

一番手は君塚直隆・関東学院大学教授です。君塚氏は、ヒアリングで自己紹介しているように、専門はイギリス政治外交史あるいはヨーロッパ王室研究です。イギリス王室関連の著書のほかに、『立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか』などを著しています。

結論からいうと、君塚氏は日本の歴史全体から皇位継承問題を考えようとはしません。イギリス王室と日本の皇室との違いも理解しようとしていません。つまり、126代続いてきた天皇とは何だったのか、歴史的に深く探ろうとせずに、皇位継承を論じています。


▽1 君塚直隆氏──天皇は社会活動家なのですか?

君塚氏は、政府の設問に従い、ヨーロッパと比較しながら、話を進めています。

まずは「天皇の役割や活動」ですが、君塚氏の「天皇」は個人なのです。「現在の天皇陛下は」「今の天皇陛下は」と君塚氏は述べています。日本の天皇には姓も名もなく、固有名詞では呼ばれないという伝統が顧みられません。

つまり、国と民の中心に、公正かつ無私なるお立場の天皇がおられ、その地位が126代続いてきた歴史に想いを馳せ、皇位の継承の安定化を考えようという発想がありません。


◇学問的レベルを逸脱している

126代続いてきた天皇は、「およそ禁中の作法は神事を先にし、他事を後にす」(順徳天皇「禁秘抄」)という「祭り主」である、というのが皇室の伝統的天皇観ですが、君塚氏の「天皇」は公務をなさる社会活動家です。それが「国民に近い」「国民に見える」天皇であり、「現在の天皇陛下」の「理想」でもあると仰せなのでした。

キリスト教の絶対神信仰を背景とする「地上の支配者」であるイギリス国王と、皇祖神の「ことよさし」に基づき、「しらす」お立場の天皇は根本的に異なるはずなのに、君塚氏の比較政治論にはその差異がうかがえません。そしてイギリスの方が公務は多い、SNSで宣伝していると同列に議論を展開しています。

そして、であればこそ、皇族方には「さらに各種団体とも関わり、今まで以上に公務に携わっていただきたい」し、だから、「男系男子にのみ皇位継承資格を与えるという現行制度を改定し、女性皇族にも皇位継承資格を与えるとともに、現行の男性皇族と同様に、婚姻時もしくは適切な時期に『宮家』を創設し、ご自身、配偶者、お子さまを皇族とすべきである」と結論づけるのです。

皇統に連なり、皇位継承の資格を有する血族の集まりが「皇族」なのだという基本的概念が、完全に忘れられています。もはや学問的なレベルを逸脱しています。

あまつさえ、「内親王・女王といった女性皇族にも皇位継承資格を与えるべき」だし、「皇位継承資格を女系に拡大することには『賛成』」となるのは当然です。


◇「天皇とは何か」を理解しないのはご自身では?

さらには、「黒田清子さま、千家典子さま、守谷絢子さまなど、ここ20年以内に結婚された元女性皇族にも『皇族』としてお戻りいただきたい」「皇族数が足りないといった場合には、養子縁組を行う方向にしていただきたい」「旧皇族の皇籍復帰は基本的に『反対』だが、女性の皇族方と家族によっても公務が充分に担えない場合には検討の余地がある」と議論が果てしなく広がっていくのです。

君塚氏はご専門のヨーロッパ王室の現象を盛んに例示し、議論を展開するのですが、ヨーロッパの王位継承は父母の同等婚、すなわち王族同士の婚姻が大原則であり、父系の皇族性のみをきびしく要求してきた日本の皇室とはまったく違うという理解に欠けています。

女王が王位を継承したあとは王朝が交替するイギリス王室と、「万世一系」の皇室とでは同列に議論できないことぐらい、素人でも分かるのに、君塚氏は理解していません。

いみじくも君塚氏は、「皇室と国民との間をより親密なものにしていくべきである」と述べ、だからこそ、「皇室とは何か、皇族の方々は日々どのような活動をなさっているのかをより積極的に広報し、国民全体に現下の問題の深刻さを理解してもらうことが重要なのではないか」と訴えています。

しかしながら、君塚氏こそ、仰せの「天皇とは何か」を理解しようとしていないのではありませんか。126代続いてきた天皇とはけっして社会的活動家ではないことに、君塚氏は思い至っていないのです。


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百地章先生、結局、男系継承の理由は何ですか?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 4 [有識者会議]


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百地章先生、結局、男系継承の理由は何ですか?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 4
(令和3年6月20日、日曜日)
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前回の続きです。

本題に入る前にひと言。先日、若い編集者と言葉を交わす機会があり、皇位継承問題に話が及んで、私が編集の企画を提案したところ、「議論は出尽くしている」と否定されてしまいました。出尽くしていないからこそ、迷走するのだろうと私は思うのですが、残念ながら通じません。

たとえば、今回、取り上げる百地章・国士舘大学特任教授(憲法学)は男系派の代表的な論客ですが、肝心のことについて、議論を避けています。つまり、皇統はなぜ男系で続いてきたのかという、もっとも核心的な命題についてです。

男系継承の理由が現代人に分かるように理路整然と説明されるなら、女系継承容認派を説得し、納得させ、男系継承支持へと翻意を促すことができるはずなのです。そうできないのは、間違いなく、男系派の力量不足です。議論はまだまだ尽くされていません。


▽4 百地章氏──「歴史と伝統に謙虚に向き合う姿勢」

百地氏はヒアリングの冒頭、「皇室の伝統は、いうまでもなく男系、126代の天皇はすべて男系である」と言い切ります。そして訴えます。

「先人たちは、男系を維持するため英知を傾け、血のにじむような努力を払ってきた。それゆえ私たちも、先人たちの努力に倣い、世界に比類のない、2000年近い皇室の長い伝統を後世に守り伝えていく責務がある。そのためには、まず歴史と伝統に謙虚に向き合う姿勢が必要であり、現代人の価値観を優先させてはならない」

たいへんご立派な主張ですが、要するに、先人に倣うべしと呼びかけているだけで、先人がなぜそうしてきたのか考究しようという問題意識は感じられません。むしろ思考停止状態というべきです。

皇位の男系主義は当然、天皇の役割と関わります。いみじくも政府の設問の1は「天皇の役割や活動」ですが、百地氏は今回のヒアリングでは答えていません。

レジュメによれば「以前のヒアリングで述べたから割愛する」とのことなので、平成28年の公務負担軽減有識者会議をあらためて振り返ると、たしかに「象徴」論に続いて「御公務」論を展開するなかで、天皇の「お祭り」に言及していることが、当時のレジュメに記されています。

とすると、百地氏は、天皇が「祭り主」であることに、男系継承の理由を見出しているのかといえば、残念ながら、そうではありません。「明治維新頃までは、天皇が直接、国民の前に出られることは少なく、天皇は皇居の中で、宮廷文化の継承に務め、ひたすら『お祭り』をされていた」とたった2行、天皇の日常にふれているだけです。

126代続いてきた男系主義の理由が、皇室の「祭り主」天皇観に潜んでいることは明らかなのに、百地氏は宝物を探ろうともしません。仰せの「歴史と伝統に謙虚に向き合う姿勢」が欠けていませんか。

そもそも事実認識に誤りがあります。何度も書いてきたように、少なくとも京都周辺の民は、即位礼・大嘗祭を部分的ながら拝観していました。『更級日記』には後冷泉天皇の御禊のことが描かれ、人々が拝観に押し寄せていたことがうかがえます。最近では、江戸期に即位礼拝観の切手札(チケット)が配られていたことが分かっています。


◇「世襲」とは「王朝の支配」なのでは?

百地氏は「天皇はひたすら『お祭り』をされていた」と仰せです。けれども、いかなる「お祭り」なのかが重要で、そこが男系継承の本質と関わるはずですが、百地氏にはその考察も欠けています。

主著である『政教分離とは何か─争点の解明』には、「大嘗祭の本質」について、一般向けの歴史雑誌を引用し、「稲の祭り」論と「真床覆衾」論の両論併記にとどまっているのを知り、仰天したことがあります。いずれも間違いです。

天皇は公正かつ無私なる「祭り主」であり、そのことは皇祖神のみならず天神地祇を祀り、米と粟を捧げて祈る祭祀に、その本義がうかがわれることなど、考察すらされていません。今回のレジュメに「28年のヒアリングで述べたから割愛する」と仰せであるからには、少なくともここ5年間、ご研究の深まりはまったくないということになります。

百地氏は、ご専門の憲法論でも、混乱しています。

「憲法第2条は、皇位は世襲のものであると定めており、これを受けて皇室典範第1条は、『皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する』と定めた。つまり、憲法による世襲とは男系を意味するというのが立法者意思である。そして、歴代政府も一貫して、皇位の世襲とは男系、少なくとも男系重視を意味すると解釈してきた」と述べながら、「確かに政府見解は男系を絶対条件とするものではない」と正反対の話を続けています。

これでは「戦後70年以上積み重ねられた政府の公式見解はきわめて重いものがある。それゆえ、このような立法者意思や確立した政府見解を無視して、安易に女系を容認するのは憲法違反の疑いがあり、許されない」と勇ましく振りかぶったところで、説得力は半減します。

憲法は「皇位は世襲のもの」と記しているだけです。だからこそ、前回取り上げた、同じ憲法学者の宍戸常寿・東大大学院教授は「憲法第2条の定める世襲は女性を排除するものではない」と断言しているのです。

百地氏が「立法者意思」としての「男系主義」を訴えたいなら、憲法制定過程に立ち返って説明すべきです。すなわち、小嶋和司・東北大教授(憲法学、故人)がそうしているように、「世襲」はdynasticの和訳であり、「王朝の支配」を意味していると説明すべきです。なぜそうなさらないのですか。


◇歴史論争を呼び覚ます可能性

最後に、何点か、簡単に批判を加えます。

ひとつは、百地氏が「女系天皇」という表現を使用していることです。

平成14年の皇室典範有識者会議の報告書は「結び」で、「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」と書いていますが、「女系天皇」など歴史にはなく、皇室用語としてあり得ません。皇室の歴史と伝統に謙虚に向き合おうとする男系派なら、安易に用いるべきではないでしょう。

ふたつ目は、「女系天皇は万世一系の皇統を否定するものであって、認められない」として、イギリス王室の王朝交替を例示していますが、そもそもヨーロッパ王室の王位継承は参考になりません。

小嶋和司教授が指摘するように、イギリスでは王族同士の婚姻=父母の同等婚および女王即位後の王朝交替が大原則ですが、日本の皇室は父系の皇族性が厳格に求められてきました。ましてや、イギリスの王位継承はいま原則が崩れつつあります。

3つ目は、「女性天皇の問題点」に言及して、「女性天皇は御在位中伴侶を持たれることはなかった。これは女系の子の誕生を防ぐためであった」と説明していますが、根拠は何でしょうか。

女性天皇は近代以前の歴史に存在します。存在しないのは、夫があり、妊娠中・子育て中の女性天皇です。なぜそうなのかです。近代以後、女性天皇が否定されたのは終身在位制との兼ね合いがあるからでしょう。終身在位のもとでの女性天皇即位はたちどころに女系継承に転換します。百地氏はなぜそのことを指摘しないのでしょうか。

最後に、4点目。百地氏は「旧皇族の男系男子孫を皇族として迎え、男系による皇位の安定的継承を」と訴えています。敗戦後の旧宮家の皇籍離脱は「きわめて例外的なもの」との認識は私も同じですが、百地氏が触れていない厄介な歴史問題があることを見落としていませんか。

すなわち、旧宮家を皇籍離脱に追い込んだアメリカとの歴史論争を呼び覚ます可能性です。いわゆる国家神道論、靖国問題など戦後問題が一気に噴き出すことも考えられますが、ご覚悟はできているのでしょうか。「首相の靖国参拝は私人による私的行為」などという政教分離論程度で、お茶を濁すわけにはいかなくなるはずです。

ついでに、もうひとつ加えるなら、男系維持のために、ほかに方策はないのでしょうか。もっと知恵を絞ることはできないのでしょうか。


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宍戸常寿先生、日本国憲法は「王朝の支配」を規定しているのでは?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3 [有識者会議]

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宍戸常寿先生、日本国憲法は「王朝の支配」を規定しているのでは?──5月10日の有識者会議「レジュメ+議事録」を読む 3
(令和3年6月19日、土曜日)
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前回の続きです。

3番手は宍戸常寿・東京大学大学院法学政治学研究科教授(憲法学)でした。議事録によると、皇室制度が専門ではない。日本国憲法の全体構造や統治機構における天皇制の在り方については、自分なりに先行研究に触れ、ある程度の考えを持ってきたと仰せで、そのお立場からのご意見でした。

設問に沿ったレジュメがありますので、これに従って検証したいと思います。

結論からいえば、いかにも教科書的な憲法論だと思いました。日本の最高学府の頂点に立つ東大大学院教授のご意見ながら、寂しいことに、知的刺激らしいものをほとんど受けませんでした。日本人の知的劣化をつくづくと痛感せざるを得ません。そんな時代の有識者なる人たちに意見を求め、文明の根幹に関わる皇位継承問題を議論し、非伝統的な制度設計を決めていいものかと私は思うのです。


▽3 宍戸常寿氏──歴史的考察がないゆえの女系容認論

宍戸氏は設問への回答の前に、「はじめに」で前提となる基本的考え方を提示しています。つまり、日本国憲法を大前提とした天皇論です。レジュメから抜粋すると、以下の6点となります。

1、 国⺠主権原理をはじめ、日本国憲法の全体像と整合ある制度であるべきだ
2、主権を有する国⺠の総意に基づき維持されるよう、『伝統』とともに、現在及び今後の日本社会のあり方と両立すべきである
3、日本国憲法施行後の天皇制の運用も『伝統』の一部をなすこと
4、大日本帝国憲法下の皇室自律主義や華族制度・貴族院・枢密院等の諸制度が日本国憲法においてはそれらが明示的に否定され、国⺠と天皇・皇室との間に、いわば媒介が存在しないことに留意する必要がある
5、憲法上の国家制度としての天皇制を維持するという前提なら、全国⺠の代表である国会に天皇制の安定的運用を図る第一次的責務がある
6、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」にあるとおり、その解決は切迫した課題である

以上を見ると、現代憲法論としてきわめて常識的で、まったく代わり映えがしません。宍戸氏にとって、憲法とは成文憲法以外にはなく、考慮されるべきは2.5代象徴天皇制にほかなりません。したがって、皇室の長い歴史と伝統などはほとんど不問とされます。明治人なら憲法制定に際して考えた、「しらす」という歴史的な天皇統治の概念など一顧だにされないのは当然でしょう。

つまり、日本国憲法論としては論理的に成立し得たとして、日本という国家の基本的制度の将来を考えようとするとき、それで十分なのかどうか、です。少なくとも私はまったく不十分だと思います。

以下、設問項目にしたがって、具体的に、そして簡潔に見ていくことにします。


◇終身在位制が前提なら

設問の1は「天皇の役割や活動」ですが、したがって当然、天皇とは「象徴」として国事行為およびそれに準ずる行為を行う役割ということになります。

ただ、注目されるのは、宍戸氏が、「国事行為に準ずる活動については、国政に関する権能に当たらないこと、内閣がその責任を負うことが条件であるが、私的な活動と整理されるものについても、当然、国政に関する権能ではないこと、また、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴としてふさわしくないものは除かれるべきだ。また、その該当性については宮内庁、最終的には内閣によるコントロールが必要である」と指摘していることです。

つまり、宍戸氏は、伝統的な「祭り主」天皇観についてきわめて否定的だということです。皇室の天皇観によれば、天皇は公正かつ無私なる「祭り主」であり、だからこそ古来、「象徴」なのであり、そのためにこそ皇位は男系で紡がれてきたはずですが、宍戸氏にはその歴史的考察がありません。

設問4の「男系男子による皇位継承」、5の「内親王・女王に皇位継承権を認めること」については、宍戸氏は、男系継承が「伝統」と認めるばかりで、その理由について考究するという視点がありません。だから当然、「内親王・女王に皇位継承権を資格を認めることに賛成する」となるわけです。

宍戸氏は「憲法第2条の定める世襲は女性を排除するものではない」と断言しているのですが、近代以後の終身在位制を前提にした場合、内親王・女王の皇位継承容認は、すなわち女系継承容認に直結するのではないのか、と考えられますが、宍戸氏の説明はありません。

これまで何度も指摘してきたように、同じ憲法学者の小嶋和司・東北大教授(故人)は、憲法の「世襲」はdynasticの和訳で、「王朝の支配」を意味するものだと解説しています。内親王・女王継承=女系継承なら、憲法が定める「王朝の支配」に反する憲法違反のはずです。


◇「伝統」の意味を追究せず

ところが宍戸氏は、設問6「皇位継承資格を女系に拡大すること」にも「賛成」しています。

根拠は、既述したように、「憲法の世襲は女系を排除するものではない」こと、加えて、「国事行為及びそれに準ずる活動は女系の天皇でも可能である」ことですが、もし国事行為をすることが天皇の役割だとするなら、誰が考えても同じ結論になるのであり、わざわざ東大教授に聞く必要はないのです。

宍戸氏はさらに続けて、「『伝統』を理由として皇位継承資格を男系に限定すべきであるとの見解は傾聴に値するが、皇室の現状及び旧11宮家の現皇室からの『遠さ』に照らした場合、男系女系を問わず、日本国憲法施行時の天皇であった昭和天皇の子孫であることが、皇位継承の安定性・連続性という要請に適い、また日本国⺠統合の象徴としての国⺠の支持を得やすいものと考える」とも述べています。

つまり、宍戸氏は男系継承という外形的「伝統」のみを見て、「伝統」の意味を探るという知的営みを拒否し、あまつさえ、皇位継承の血統主義は「遠さ」や「近さ」ではなく、父系の皇族性の「有無」によることを無視しています。議論が本質的に間違っています。

以前、紹介したように、小嶋和司は、「男系」制をくつがえさない女帝制をさまざま模索して、たとえば、子に皇族身分を認める女帝制は、皇配もまた皇族である場合に限られるが、それには(1)女帝より皇配の方が皇位継承順位が下位であること、(2)皇統に属する遠系の男子が多数いること、の2つが必要だと指摘し、「こうまでして女帝の可能性は実現されなければならないのか」と問いかけました。言い換えれば、なぜ素直に男系の絶えない制度を模索しないのか、ということです。

設問7の「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持すること」に関連して、宍戸氏は「女系にも皇位継承資格を認め、その前提として内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する場合には、生まれてくる子はもちろん、配偶者も皇族とするのが適当と考える」と述べています。

小嶋和司がやはり指摘したように、父母の王族性を要求するヨーロッパとは異なり、日本では父系の皇族性が厳格に求められ、「王朝の支配」が固持されてきました。女系継承を容認する宍戸氏の意見は長い皇統史への革命的挑戦といえます。

同時に、「皇族」概念も混乱しています。皇族とは本来、皇統に連なり、皇位継承資格を有する血族の集まりを指します。内親王の配偶は「皇族」ではあり得ません。

設問8は「婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援すること」について、宍戸氏は「『皇室の活動』が国事行為及びそれに準ずる活動を指すものであるならば、反対する」と明言していますが、これも至極当たり前のことです。

しかし、すでに先帝御不例のときに、皇后陛下は、外国に赴任する日本大使夫妻と「お茶」に臨まれ、離任する外国大使を「ご引見」になったのを宍戸氏はご存知でしょうか。憲法は「外国の大使及び公使を接受すること」を天皇の国事行為に定めており、天皇が皇后を伴って、外国大使を「ご引見」なさるのは理解できますが、現実には「見なし皇族」であるはずの皇后お一人によって、国事行為に準ずる活動が行われています。


◇ヒアリングで唯一まともな答え

設問9「皇統に属する男系の男子を養子縁組または皇籍復帰により皇族とすること」について、宍戸氏は、まず「皇族間」なら「可能」だとします。問題は「皇族ではない男系男子との養子縁組」で、いくつかの「論点」を提起しています。すなわち……。

「法律等で、養子たりうる資格を皇統に属する男系男子に限定するならば、一般国⺠の中での門地による差別に該当するおそれがある。さらに、仮に旧11宮家の男系男子に限定する場合には、皇統に属する男系男子の中での差別に該当する」
「現在の制度では、皇族となるには生物学的に皇族の子孫であるだけでなく、皇室会議の議を経た婚姻から生まれた子であることを前提としているが、男系男子であることを養子縁組の要件とすれば、これまでの考え方と整合性が取れるのか」
「現在の制度では、皇位継承資格者であるためには出生時より皇族であることが条件であり、そのことが本人の皇位継承への準備及び国⺠の予期を形成してきたが、これまで一般国⺠として生きてきた者を養子縁組により皇位継承資格を有する皇族とすることは、これまでの考え方と整合性が取れるのか」
「皇統に属する男系の男子が、本人の意思による養子縁組により、皇位継承資格を有する皇族となるとすれば、皇位継承資格者について天皇の地位に就任するかどうかについて、意思決定の自由を認めないこれまでの考え方と整合性が取れるのか」

また、旧皇族の皇籍復帰についても、「門地による差別として憲法上の疑義がある」ときびしく戒めています。

宍戸氏の指摘は純粋な法理論としては理解できます。けれども、宍戸氏自身が「切迫した課題」と理解する状況を打破する場合には抽象論だけでは済まないのではないか。とくに旧11宮家の場合は、皇籍離脱の歴史的経緯をどう評価するのか、「一般国民」と言い切っていいものなのかが問われます。

最後の設問10は「ほかの対応策」を問うものでしたが、宍戸氏が、「皇族数が減少した場合には皇室の活動量も減少するというのが自然かつ適切な対応で、皇室の活動量を維持するために皇族数を増やすという発想に立つ対策は採るべきでない」と答えているのは、じつにもっともです。

宍戸氏のヒアリングで、唯一まともな答えがこれでした。

そもそも政府・宮内庁が女系継承容認に舵を切ったのも、先帝が譲位することとなったのも、発端は増え続ける御公務御負担問題でした。御負担軽減策がとられたものの、宮内庁内人事異動者と赴任大使の「拝謁」はいっこうに減りませんでした。皇室の「伝統」を曲げ、女系継承を認めるなどというのは、論理の飛躍であり、本末転倒以外の何者でもありません。

宍戸氏が仰せのように、まず御公務を見直すべきです。御負担軽減が失敗したことを認め、なぜ失敗したか、具体的に検証すべきです。そして先帝を譲位に追い込んだ責任者を処罰すべきなのです。

次回は、百地章・国士舘大学特任教授です。


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