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「先帝」という呼称について考える [皇室用語]

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「先帝」という呼称について考える
《斎藤吉久のブログ 令和2年1月10日》
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先日、「先帝陛下というのは亡くなった天皇、大行天皇の意味ではないのか。ご存命の陛下に対して不敬にならないのか?」という趣旨のお問い合わせがありました。私は「先帝」で大丈夫だと思います。

譲位なさった平成の陛下に対してどのようにお呼びすればいいのか、敬愛の念の深い方ほど、悩まれるのでしょう。皇室典範特例法は「退位した天皇は上皇とする」と定めていますが、私は馴染めません。「退位」もそうですが、なぜ略称なのか。「太上天皇」という歴史的な呼び方ではいけないのでしょうか。


▽1 光格天皇は「先帝」

私は「先帝」をもっぱら使っています。200年前に譲位された光格天皇の場合、「先帝」と表現されていますから、問題はないと思います。

宮内省図書寮がまとめた『仁孝天皇実録』を見ると、受禅践祚が行われた文化14年3月22日の2日後の綱文(概要を示す本文)に、「先帝に太上天皇の尊号を上らる」(原文は漢字カタカナ混じり)とあり、譲位された光格天皇を「先帝」とお呼びしています。

正確にいえば、綱文に続いて掲載された史料の「寛宮御用雑記」「洞中執次詰所日記」には、「尊号宣下」「宣下」の記述はあるものの、「先帝」とは記されていません。自明であり、わざわざ書き込む必要はないということでしょうか。

したがって光格天皇、仁孝天皇の時代に「先帝」という呼称が使用されていたかどうかは、これだけでは不明ですが、宮内省図書寮という権威ある公機関が、この実録を編纂した昭和戦前期に、譲位後の天皇を「先帝」とお呼びしたことは少なくともはっきり確認できます。

それならいまの宮内庁はどうかというと、残念なことに、皇室用語の使用が目を覆うほどに混乱しています。今回の御代替わりでも、宮内庁がまとめた資料には、「旧天皇」「前天皇」「新天皇」などと書かれていました。「先帝」「新帝」ではダメなのでしょうか。〈https://www.kunaicho.go.jp/news/pdf/shikitenjyunbi-2-shiryo1.pdf

それどころか、信じがたいことに歴史の軽視どころか、改竄さえ行われたのです。もはや参考にならないということです。

 【関連記事】宮内庁は史実のつまみ食いをしている!?──第2回式典準備委員会資料を読む 4https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2018-04-09


▽2 固有名詞では呼ばない

ついでながら、終戦の年の春に、帝国学士院が編集発行した『帝室制度史 第6巻』は、天皇の称号である「帝号」について、詳しく説明しています。

それによると、天皇は古来、さまざまに呼ばれてきたが、漢字文化の到来で、漢風の称号が用いられ、国風と漢風の併用が行われるようになったとあります。皇祖の子孫たることを示すスメミマノミコト、ヒノミコ。統治の意義に基づくスメラギ、スメラミコトなど。君主の意義を示すオホキミ、天皇、帝などというわけです。

面白いのは、皇居などの事物を借りてお呼びするミカド、オホヤケ、禁裏、御所などの称号の存在です。なぜ場所で呼ばれるのか、これは、天皇の名前は固有名詞では呼ばれない御名敬避と関わっているようです。

『帝室制度史 第6巻』には、ずばり「御名の敬避」なる一節があり、隋唐の文化が移入、定着したと説明しています。ただ、完全な外来文化との断言を避けています。そして大宝令にいたり、皇祖以下御名敬避は制度化されました。「先帝」についてはとくに説明はありません。近代以後は譲位が否定されています。

戦後になると、天皇をわざと固有名詞で呼ぶケースがしばしば見受けられます。皇室の権威の低下か、あるいは特定の政治的意図があるのか。

先帝の「御学友」、といっても昭和天皇の御学友とは異なり、実態は学習院の単なる同級生でしたが、陛下を固有名詞で呼び、それを著書に著す方がいました。外信部も経験した記者で、ファーストネームで呼び合う欧米文化の匂いが強く感じられました。宮内庁が使い出した「前天皇」「新天皇」にも共通性があります。

 【関連記事】「ご学友」天皇論の限界──橋本明さんの不思議な文体https://saitoyoshihisa.blog.ss-blog.jp/2009-08-04-2

庶民なら気軽に名前を呼び合うのもかまいませんが、せめて皇室については千年を超える歴史と文化を大切にしたいものです。譲位された天皇を「先帝」とお呼びすべきか否かよりも、こっちの方が深刻なような気がします。

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