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文部省編集・監修『学制百年史』と異なる記述 ──『明治天皇紀』で読む教育勅語成立後の歴史 2 [教育勅語]

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文部省編集・監修『学制百年史』と異なる記述
──『明治天皇紀』で読む教育勅語成立後の歴史 2
(2017年4月13日)
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『明治天皇紀』@福永懐徳堂

 明治23年10月の教育勅語渙発のあと、芳川文相が訓令を発し、謄本を全国に頒布し、神聖化が進められていった経過を振り返り、これらの動きについて、「明治政府はなぜ教師や生徒たちに教育勅語の趣旨を浸透させる方策を第一に考えようとしなかったのか」「当時の文部省は勅語の中身を正しく伝え広め、そのことによって知育偏重を改めるのではなく、教育勅語の権威付けを優先させていたように私には見える」と批判的に書いたが、じつは必ずしもそうではないらしい。

 というのも、翌年5月のくだりに、芳川文相が直後渙発の前に、くわしい解説本を有識者に著述発行させ、検定の上、教科書として使用するプランを考えていたと記録されているからである。

「これより先、明治23年9月、文部大臣芳川顕正、徳義に関する勅諭の議を閣議に諮るや、碩学の士を選びて勅諭衍義(えんぎ)を著述発行せしめ、文部大臣これを検定して教科書と為し、倫理修身の正課に充てんとす」

 文部省が編集・監修した『学制百年史』には、同年9月26日に芳川文相が山縣首相に提出した閣議を請う文が引用されている。ここに勅語奉体の方法が説明され、「耆徳(きとく)碩学の士を選び、勅諭衍義の著述発行せしめ本大臣これを検定して教科書となし、倫理修身の正課に充てんとす」(原文は漢字片仮名交じり。闕字[欠字]あり)とある。

 白羽の矢が立てられたのが、哲学者の井上哲次郎東京帝国大学教授だった。ドイツ留学から帰国したばかりだったらしい。

「ついで10月、教育勅語発布せらるるに及び、顕正は帝国大学文科大学教授井上哲次郎に嘱するに勅語衍義の起草をもってす。すでにして稿なる」

 原稿ができあがると、芳川文相らの修正を経て、明治天皇がご覧になるのだが、天皇はなおも修正を求められた。すでに半年が過ぎていた。文相はすでに式日に生徒たちを集め、教育勅語を奉読することを訓令しており、結果として、勅語の神聖化が先行することになったのである。

「顕正および文学博士中村正直、枢密顧問官井上毅らこれを校閲修正し、この年(24年)4月、奏して乙夜(いつや)の覧を請ひ、旨を候す。この日、天皇、侍従職幹事公爵岩倉具定を鎌倉に遣はして顕正にこれを下付し、かつ告げしめて曰く、この書、修正の如くせば可ならん。しかれどもなお簡にして意を尽くさざらんものあらば、また毅と熟議してさらに修正せよと」

 明治天皇は何にご不満でどう修正させようとお考えだったのだろう。「井上毅と相談して」とのご発言にはどのようなご真意が含まれていたのだろうか。『明治天皇紀』は何も説明していない。そして、結局、芳川文相としては大臣検定の教科書とするはずだったのに、私書として出版されるのである。

「ついでこの月31日、顕正、同書を哲次郎の私書として上梓せんとする旨を奏す。9月、その初版を発行す」

 ところが、である。不思議なこともあるもので、『学制百年史』はこれとは異なる記述をしている。

「教育勅語が発布されると、直ちに『勅語衍義』すなわち解説書の編纂を企画し、井上哲次郎が選ばれて執筆にあたった。その草案ができると、これを多くの学者・有識者に回覧して意見を求め、24年9月に刊行した。その後、勅語衍義は師範学校・中学校の修身教科書として使用された。このほか民間でも多数の解説書を出版している」

『明治天皇紀』は天皇が修正の必要を指摘されたとしているが、『学制百年史』はこれに言及していない。宮内省編集の公式記録は私書として出版されたと説明し、文部省編集の記録は教科書として使用されたと記述している。内容が正反対なのである。

 どちらが正しいのであろうか。

 翌月になると、教育勅語の神聖化が一段と進められる。御真影とともに勅語の謄本を納める奉安殿の設置が全国的に展開されるのである。『明治天皇紀』には次のように記録されている。数か月前、文相は芳川から大木喬任に交替していた。

「文部大臣伯爵大木喬任、文部省訓令をもって北海道庁および各府県に令し、管内学校に下賜せられたる天皇・皇后の御真影並びに教育勅語の謄本を校内一定の場所を選び、もっとも丁重に奉安せしむ」

 このあと『明治天皇紀』には教育勅語に関する目立った記述は現れない。

 結局、文部省は当初の目的と構想からはずれて、教育勅語を教師や生徒たちに「意を加へて諄々誡告」(芳川文相訓戒)することを怠り、むしろ勅語の神格化に走ったのではないかとの疑いがどうしても晴れないのである。
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