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真弓常忠「大嘗祭」論が誤認する「新嘗祭の本義」 [宮中祭祀]


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真弓常忠「大嘗祭」論が誤認する「新嘗祭の本義」
(令和4年12月7日、水曜日)
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前回にひき続き、真弓常忠・皇學館大学名誉教授(故人)の『大嘗祭』を読みつつ、あらためて大嘗祭・新嘗祭の本義について考えたい。
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というのも、真弓先生は、じつに興味深いことに、星野輝興・元掌典の『日本の祭祀』を引用し、「新嘗祭は収穫感謝ではなく、『皇祖より御おもの』をいただかれることを主にした祭り」と説明しているからである。

つまり、神社検定公式テキストの「(新嘗祭は)神恩を感謝」は不正確で、宮内庁などの「(大嘗祭は)安寧と五穀豊穣などを感謝される」(『平成大礼記録』)とする説明も誤りだということになる。むろん「勤労感謝の日」でもない。

▷稲オンリーの大嘗祭・新嘗祭論

真弓先生は星野元掌典を引用したあと、さらに「祝詞式」を引き、「大嘗聞こしめす」ことが新嘗祭・大嘗祭の「眼目」だと指摘している。神饌に着目するのは、神道学者としての面目躍如たるものがある。

このほか、真弓先生は新嘗祭について、「天皇が『日の御子』としての実質を体現する儀であった」とし、「大嘗祭は、天皇が瑞穂の国の国魂を体現せられ、ニニギノミコトという稲の実りを象徴する存在となられる意を持つ儀礼」と解説する。

要するに、真弓先生の発想では、記紀神話に、皇祖の物語として天孫降臨神話が記され、稲作起源神話としての斎庭の稲穂の神勅がある。これを現代において、繰り返し再現するのが新嘗祭・大嘗祭だということになる。

先生はなぜそのようにお考えになるのか?

なるほど、神社の祭りには創建の物語を毎年、繰り返し再現するものがある。たとえば、伊勢の神宮の神嘗祭も、大津・日吉大社の山王祭も、創建の物語と密接不可分である。けれども、皇室第一の重儀も同様の理解で十分なのか、そこが問われている。

そもそも真弓先生は「粟」を完全に無視している。記紀神話は皇祖・天照大神の物語がすべてではないし、記紀は稲作オンリーではない。逆に、真弓先生は「粟」が見えないから、神社祭祀と同列に、稲オンリーの新嘗祭・大嘗祭論を展開することになるのではないか?

真弓先生にとっての「大嘗」は米オンリーらしい。「米と粟の祭り」の基本的事実を誤認するなら、正しい結論は得られまい。

ちなみに、以前書いたように、日吉大社の山王祭は「粟」である。その昔、土地の漁師が大神に粟飯を差し上げ、いたく喜ばれたという物語がその起源とされる。「粟」は各地の神社に伝わっているが、神道学者には見えないのだろうか?

▷なぜ国家儀礼となり得るのか

もうひとつの論点は、古代の物語の再現がなぜ国家的儀礼となり得るのかだが、真弓先生は、「宮中祭儀は我が国の民族信仰に基づく民族儀礼であって、日本国家の成立とともに国家儀礼となってきた」と説明するだけである。「国家」だから「国家」儀礼だというのでは説明にならないのではないか?

たとえば神社の祭りのように、稲作民や畑作民の共同体の祭りが「稲の祭り」あるいは「粟の祭り」であるとして、共同体の祭祀の意義を説明するのなら、この説明で十分かも知れないけれど、天皇による国家的な「米と粟の祭り」はこれでは説明にはならない。

真弓先生は一方で、「神宮や神社の祭祀、神道行事はそれ(宮中祭儀)に倣って祭式を制度化したもの」と解説するけれども、これもあり得ないだろう。神社の祭りなら、天神地祇をまつり、米と粟を同時に捧げたりはしない。

つまり、真弓先生は、日本民族=稲作民族だと固く信じ込んでいる。だから、「粟」が見えない。日本民族のルーツはけっしてひとつではなく、記紀神話にその歴史が記録され、宮中祭祀にはその歴史が反映されていることに気付かない。神社祭祀と宮中祭祀の基本的違いが理解されていない。

まず稲作民や畑作民がそれぞれいて、それぞれに稲の神、畑の神が祀られ、それぞれに稲の祭り、粟の祭りがあって、これらを高い次元でひとつにまとめ上げる天皇=スメラミコトによる、皇祖神ほか天神地祇をまつる、「米と粟の祭り」がある。だからこそ天皇の祭儀は国家儀礼となるということが理解されないのではないか?

真弓先生は「粟」が見えない。「粟の神」の存在に気づかない。「粟の民」による「粟の祭り」を知らない。だから、天皇の国家儀礼が説明できないのであろう。

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