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伊勢神宮神田に誕生した神秘の稲「イセヒカリ」の今昔 by 岩瀬平 [イセヒカリ]

以下はインターネット新聞「お友達タイムズ」2006年4月24日号(創刊号)からの転載です

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伊勢神宮神田に誕生した神秘の稲「イセヒカリ」の今昔
by 岩瀬平(元山口県農業試験場長)
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 イセヒカリは平成元年の秋、二度の台風に襲われて全面倒伏した伊勢神宮神田のコシヒカリ中に直立する二株があり、稔るほどに黄金色に輝いて、発見された神秘の穂です。

 当時の神田管理者・森晋(もり・すすむ)さんがこの穂を採って試験栽培してみますと、作りやすく収量も多い。けれども美味しい米なのかどうか、は分からない。それで文通していた私のところへ、平成6年産の仮称「コシヒカリ晩」の稲株5、稲穂3束を送ってきて、「これまでのどういう品種に似ているか」と問い合わせてきました。「多収品種だが、藤阪5号のように不味い米なら、神様にお供えできない」からだったようです。
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 古米の玄米が添えられていたので、これを山口県農試で食味値分析(ニレコ食味計)してもらいますと、76でした。山口県の奨励品種の新米の平均食味値が75〜76ですから、合格です。

 お知らせすると、神田関係の皆さんは喜びに包まれたそうです。これには私の方が驚きました。というのも、神田は神様にお供えするお米を作るところで、あらかじめ人間が試食してみて、よかったら差し上げるというような振る舞いは一切なく、よきものを“まごころ”をもってお作りするところだと知ったからです。

 生命を養う食物は人間が作り出したものではありません。大自然の神からいただいているもので、これに慎みをもつということは洋の東西を問わず、人間の精神文化の根底をなしています。神宮神田で稲を作る方々の振る舞いに私は感動し、以来、「イセヒカリ」に打ち込むことになりました。

 イセヒカリとは、いかなる稲なのでしょうか──。

 第一に、台風にも倒れない強い稲です。機械化一貫作業で作るいまの稲作にあっては、これが第一条件でなければなりません。これを立派にクリアしています。

 第二に、病気に強く、無・低農薬栽培ができる稲です。

 第三は、地力のある田で10アール当たり750キロ作った事例もありますが、コシヒカリ並みの少ない肥料で作ると8俵の平均反収に落ちるものの、味はコシヒカリをしのぎ、とくに冷えてからの美味しさは他の品種の追随を許さぬものがあります。

 第四は、稲としては関東以西に適する中生(なかて)の早いものです。米質は、いまは姿を消した硬質米で、「寿司米に向く」と異口同音にいわれます。米を洗わないで使うパエリヤやリゾットなどの本格的欧風調理に適します。歯の悪い年寄りは軟質米のコシヒカリを選びますが、壮年以下の若者はイセヒカリに軍配を上げるはずです。

 栽培上の注意点は、まず、生活雑排水の流れ込む用水の田には作らないことです。それはコシヒカリなどに比べて、根群が1.5倍以上あり、登熟後もいつまでも根から窒素成分が吸収され、不味い米になるからです。有機栽培をする人もこの点は要注意です。

 次に、9月早々に刈り取るような早植え栽培は避けてください。夏期高温のもとでの登熟はいまひとつ味がのらない米になるからです。9月下旬から10月にかけて秋風の立つころの収穫になるような作り方が望まれます。

 肥料が少なくてすみ、夏場の農薬散布もしないでいける稲、それがイセヒカリです。山田を守る高齢農家には、都会で暮らす子供たち世帯から「美味しい」と大歓迎される米となって、耕す労苦が喜びに変わると思います。もう田を荒らす必要はありません。荒らしてはならないのです。
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 紀伊國屋書店が製作したビデオ『稲と環境』の第3巻「未来の稲」は、イセヒカリが主役です。ビデオを監修した総合地球環境学研究所(京都)の佐藤洋一郎先生は、静岡大学農学部在任中にイセヒカリの遺伝子分析をされて、イセヒカリが熱帯ジャポニカの遺伝子をもつ新品種と判定してくださいました。

 熱帯ジャポニカは縄文時代の稲で、水陸未分化の稲といわれています。先行した熱帯ジャポニカのあとに水田耕作に適する温帯ジャポニカが渡来して、弥生時代の稲作が始まりますが、日本で作れば晩生(おくて)となる熱帯ジャポニカと温帯ジャポニカの晩生とが交雑すると、孫(F2)の代に早生が分離して出ます。この早生を獲得することで、稲作は瞬く間に津軽まで北上することになりました。この「日本稲の南北二元説」を提唱したのが若かりしころの佐藤先生でした。

 イセヒカリの作り良さは縄文の稲・熱帯ジャポニカの血を引くからか、そして神宮神田でコシヒカリの中から出たということで、弥生以来の品種改良の成果を身につけて出現したのか、と考えるなら、イセヒカリという稲のたぐいまれな資質が理解できるような気がします。

 こうした稲を、伝統的技法の交配育種や、いま注目の遺伝子操作で創り出し得るとはちょっと考えられません。日本の稲作6000年の末にイセヒカリが誕生した歴史がそう易々と再現できるものではない、と思うからです。イセヒカリが神宮神田で誕生したことは、まさに神秘というほかありません。神様からいただいたイセヒカリは農水省に品種登録されてもいませんが、品種登録という制度が障害となって消費者の方に“幻の米”となっているのは残念です。何とかならないものか、と83歳の老爺は嘆いています。

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