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来日する中国首脳はどこに表敬するのか [政教分離]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」(平成19年1月11日木曜日)からの転載です

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 靖国参拝について「行くとも、行ったともいわない」という「あいまい戦術」をとる安倍首相が、この正月、伊勢神宮と明治神宮を表敬しました。興味深いことに、靖国神社については「政教分離違反」「違憲」と声を張り上げる人たちがまったく沈黙しています。何が違うのでしょうか。

 たとえば、一昨年の秋、大阪高裁は、小泉首相の靖国神社参拝について、宗教法人である靖国神社に首相が参拝することは宗教的行為であり、靖国神社を特別に支援しているといわざるを得ないなどとして、高裁としては初めての違憲判断を下しました。

 この法理に基づくなら、伊勢神宮であれ、明治神宮であれ、あるいは西本願寺であれ、東本願寺であれ、東京カテドラルであれ、首相の参拝・参詣は宗教的行為であり、違憲ということになりますが、そのような批判は出てきません。

 靖国問題にきびしい姿勢をとる日本のカトリック教会は、ブッシュ大統領が平成14年に明治神宮を表敬したときは「信教の自由・政教分離違反」だとして「参拝中止」を「カトリック正義と平和協議会」の名で申し入れましたが、今回の明治神宮参拝について抗議の声は聞かれません。教会はもとより、平成17年11月のブッシュ大統領の金閣寺参詣についてはまったく沈黙しています。

 蛇足ですが、ローマ教皇は、先日、トルコのブルー・モスクを表敬し、祈りを捧げています。

 教会が憲法が定める政教分離問題を真剣に厳格に考えているとするなら、同じ平成17年春に東京カテドラルで行われたヨハネ・パウロ2世の追悼ミサに日本政府の要人が参列し、献花することを断るべきでしょうが、辞退したという話は聞きません。

 つまり、批判者たちの矛先は日本の神社、とりわけ靖国神社にむけられている、ということになります。ブッシュ大統領の明治神宮表敬への抗議文は、直接的には無関係のはずの小泉首相の靖国参拝に言及しています。

 憲法の政教分離原則を盾にして、もっぱら集中的に靖国批判を執拗につづけているということです。なぜなのでしょうか。

 ある新聞は、批判者たちを代弁するように、大阪高裁判決のあと、政教分離は、国家神道に国教的な地位を与えた戦前の反省に基づいている。国家神道への信仰が強制され、国民の信教の自由が侵されたからだ。国家神道の中核的な存在だった靖国神社だからこそ、政教分離はいっそう厳格さが求められる、と社説に書いています。

 しかし、このブログで何度も指摘してきたように、国家神道に国教的な地位が与えられた、というような歴史はないはずです。

 昭和14年にようやく制定された宗教団体法は神道・仏教・キリスト教の三教体制でした。それ以前は「国家は宗教には干渉せず」が政府の姿勢でした。厳格な国家神道への信仰が強制された事例として、カトリック教会などが決まって取り上げる昭和7年の上智大学生靖国神社参拝拒否事件も「迫害」「強制」とはほど遠いものであったことは、当事者の証言によって明らかです。

 同じ宗教法人だと考えるなら、あれはいいが、これはダメと恣意的に色分けするのは法の下の平等に反しますし、憲法が禁止しているのは「国の宗教的活動」であって、「宗教的行為」ではありません。

 クリスチャンだった大平首相は靖国神社に昇殿参拝しています。関東大震災と東京大空襲の犠牲者を悼んで東京都慰霊堂で春と秋に行われる仏式の法要には皇族や都知事らが参列し、焼香します。カーター大統領はかつて明治神宮に表敬参拝し、そのあと宮中で明治天皇の御歌を引用して名スピーチをしています。これらは宗教的行為ではあっても、宗教的活動ではないでしょう。

 安倍首相は首相就任後、最初の訪問で韓国・ソウルの国立墓地・顕忠院を表敬し、ベトナムで開かれたAPECに出席した折にはホーチミン廟を参詣していますが、日本の要人が国内および国外で国家的な記念施設や代表的な宗教施設を表敬することは社会的儀礼であって、それをも禁ずるほど日本国憲法が宗教的に不寛容ではないはずです。

 むしろ政治指導者たちは、神社であれ、寺院であれ、教会であれ、ときに宗教施設を訪れ、宗教的雰囲気に触れ、宗教家の声に耳を傾け、聖なるものへの畏敬の念を呼び覚ますことが必要ではないのでしょうか。そう訴えることこそが宗教者の務めであって、宗教施設に足を向けるな、などと要求する宗教者がいったいどこにいるでしょう。

 さて、この春、中国の温家宝首相、胡錦涛国家主席が相次いで来日すると伝えられます。

 日本の歴代首相は北京の人民英雄記念碑にたびたび献花しています。天安門事件後、西側先進諸国が「弾圧のシンボル」として献花を避けていたときも、日本の首相は他国に先駆けて献花しています。「国際儀礼上の表敬」というのが日本政府の説明でしたが、「国際儀礼」ならその返礼を中国政府はどのように表現されるのでしょうか。
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