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3 「国家神道」異聞 by 佐藤雉鳴 第4回 GHQの教育勅語観 [教育勅語]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2010年2月16日)からの転載です

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3 「国家神道」異聞 by 佐藤雉鳴
 第4回 GHQの教育勅語観
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◇1 日本人の著作の誤りのうえに

 ふたたびD・C・ホルトムである。彼には昭和20年9月22日付「日本の学校における神社神道についてのD・C・ホルトム博士の勧告」というのがある。

「教育勅語の奉読を取り巻く入念な儀式は排除されるべきである。教育勅語は、修正されていない儒教道徳だけでなく民主主義や国際主義の文言によって補完する、という見方で調査されるべきである」(『続・現代史資料10』。訳は筆者)

 この原文には、ordinary Confucian ethicsとある。これは「一般的な儒教の原則」というよりは「修正されていない儒教道徳」と訳して、前述のホルトムの「日本の儒教には一大修正が加えられた」が理解できる。

 井上哲次郎・加藤玄智らの影響を受けたホルトムは、教育勅語をやはり全体としては儒教に沿ったものだと理解していた。しかし易姓革命の国の道徳に万世一系が語られている。「一大修正」としなければ矛盾する、とホルトムは考えたのではないか。

 ホルトムの日本国家主義の理解は日本人の著作から皮相的な文言を引用して並べただけのものであって、その本質に迫るものではない。なぜ「世界の民を救うという神聖な使命を担っていることの自覚」(「日本国家の宗教的基礎」)が生じたかも分析されていない。「天皇を神と見なし」(同)も、その歴史的経緯は一切語られていない。日本人著作者の誤りの上に立った研究成果がホルトムの『日本と天皇と神道』である。


◇2 「救世主願望で奮起させ……」

 CIEのなかで教育勅語にもっとも敏感だった一人が婦人教育担当のドノヴァンだった。彼女には昭和21年6月の「1890年の勅語について」という覚書がある。

「(クライマックス)斯の道は実に我が皇祖皇宗の遺訓にして、子孫臣民の倶に遵守すべき所、之を古今に通じて謬らず之を中外に施して悖らず──この文章は当初、世界征服の思想はなかったと思われるが、何にも増して、彼らを救世主願望で奮起させ熱烈な愛国者とし、皇道精神の世界拡張をかきたてたのである」(『続・現代史資料10』、訳は筆者)

 昭和20年12月に教育勅語の議論があり、すぐに行動がとられるべきだとの強い意見があったにもかかわらず、他の業務が忙しくて何の行動もとれなかったと記している。しかし本当は、教育勅語の英語版を読んだ限りでは、何が問題であるかがわからなかったのではないか。

 「之を古今に通じて謬らず之を中外に施して悖らず」の英語訳は、infallible for all ages and true in all place であった。解釈に誤りのある日本語からの翻訳であるから、この後半部分も誤ったままとなっている。しかしもし徳目に普遍性があるとしても、世界征服思想とは直接関連しない。

 ドノヴァンはダイクCIE局長と同様、教育勅語のこの第三段落を重視した。

 儒教道徳が世界征服の思想とは、超国家主義侵略思想とは思えない。しかし日本人の信ずる「斯の道」=「肇国の大義、神威」=「之」を「諸民族に光被」するという意味なら、「之を中外に施して悖らず」の文章は問題である。ドノヴァンがこう考えたとしても無理はないだろう。


◇3 「日本を中心とする世界征服」

 ダイクと安倍能成文部大臣との対談メモには肝心な部分での齟齬がある。ダイクが「之を中外に施して悖らず」を問題にしても、安倍大臣はその意味が理解できない。ドノヴァンのようなセンスを欠いていたというのが実態だろう。

「古今に一貫し中外に施して悖らざる皇国の道」(『国体の本義』)

「支那事変こそは、我が肇国の理想を東亜に布き、進んでこれを四海に普くせんとする聖業」(『臣民の道』)

「中外に施して悖ることなき道こそは、惟神の大道である(中略)あまねく神威を諸民族に光被せしめることによって、皇国の世界的使命は達成せられる」(『神社本義』)

「古今に通じて謬らず、中外に施して悖らざる国是」(鈴木貫太郎総理大臣)

 国家機関や国家の要人の言説を並べただけでも、みな教育勅語の「之を中外に施して悖らず」を基礎としている。そしてこれらはホルトムのいう「国家主義を再確認した聖典は教育勅語」との見方を支持するように見える。

「日本がそのいわゆる東亜の『聖戦』に国家の総力を挙げて戦っていることの根柢には、日本が救世主たるの使命を持っているとの信念が横たわっている」(『日本と天皇と神道』)

「国家神道のイデオロギーで一番悪かった点は、領土拡張の思想的な地盤となり、侵略の運動がそこから起って来たからである。ことに神道の宣伝が、『古事記』の神話を用い、日本の使命は国を全世界に拡げようという根本ができたからである。例えば、皇室は天照大神から続いた現人神にあらせられる、また国民は神道の神々の子孫であり、『八紘一宇』の主義を宣伝し、各国は兄弟とならねばならないといったが、その真の意味は日本を中心とする世界征服にあった」(竹前栄治『日本占領 GHQ高官の証言』)(つづく)


 ☆斎藤吉久注 佐藤さんのご了解を得て、佐藤さんのウェブサイト「教育勅語・国家神道・人間宣言」〈http://www.zb.em-net.ne.jp/~pheasants/index.html〉から転載させていただきました。読者の便宜を考え、適宜、編集を加えています。
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