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「普天間基地」移設先はやっぱりキャンプ・シャワブ沖か───軍事教育ゼロの文民統制が招いた迷走 by 高井三郎 [軍事情報]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2010年4月26日)からの転載です


 軍事専門家として内外で活躍されている高井三郎(たかい・みつお)先生が、普天間基地移設問題について寄稿してくださいました。

 昨日4月25日には沖縄県読谷村(よみたんそん)でアメリカ軍普天間飛行場(宜野湾市)の国外・県外移設を求める県民大会が開かれ、数万の人々が集まり、この問題の迷走は頂点に達した観があります。

 この問題でもっとも必要で、しかも欠けているのは、軍事的リアリズムの視点でしょう。その観点からいえば、どのような選択肢が賢明なのか、逆に選ぶべきではないのか、高井先生の意見を拝聴したいと思います。

 また、この問題に直接関わっている政治関係者をはじめ、多くの方々に読んでいただければありがたいです。

 では、本文です。


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 「普天間基地」移設先はやっぱりキャンプ・シャワブ沖か
 ───軍事教育ゼロの文民統制が招いた迷走 by 高井三郎
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 普天間(ふてんま)基地(沖縄県宜野湾[ぎのわん]市)の移転先は、鳩山政権の意図どおりに解決することなく、自民党政権時代に決めたキャンプ・シュワブ(名護市・宜野座村)沖に落ち着くのではなかろうか?

 あるいは、アメリカは、沖縄本島の海兵隊指揮機関のグアム移駐後も普天間基地の使用を継続し、1990年代から開発中の洋上基地(注。内容は後述する)が実用化次第、これに切り換える可能性も絶無でない。

 いずれにせよ、アジア太平洋地域の不穏な情勢にかんがみ、とくに中国の戦略目標である台湾─南西諸島─日本列島─千島列島を連ねる第1の列島線への進出を阻み、朝鮮半島における不測の事態に対応するためには、沖縄本島に海兵隊の戦闘部隊を常駐させる前方配備態勢は重要であり、現実主義的視点を欠いた選択肢はあり得ない。

 近年まれな政情と世論動向の混乱を招いて国民の期待を裏切り、さらには安全保障態勢下のパートナーであるアメリカの対日信頼感を損ね、近隣の中国、北朝鮮、韓国、ロシアにますます侮(あなど)られる材料さえ与えた現政権の責任は大きい。

 これまでの半年間を顧みるに、沖縄県民の基地の負担と被害の軽減というポピュリズムだけを掲げ、日米安保体制下における国防上の必要性も軍事効率も念頭にない愚案をいくつも挙げている。

 この機会に、メデイアがほとんど触れない軍事上の視点から、政府案の非合理性とその背景を検証する。


◇1 沙汰止みになった普天間・嘉手納統合案

 まず指摘したいのは、普段は戦闘機約50機が常駐し、戦時に100機以上が増強される嘉手納(かでな)に、ヘリ50機以上も詰め込めば、航空運用が成り立たないことである。

 昨年秋に岡田外務大臣が提案した普天間・嘉手納統合案が、在日アメリカ軍司令官、ライス空軍中将から直言を受けて以来、沙汰止(さたや)みとなったのは当然である。

 遺憾なことに、我が国の政治家が、軍事の基本を外国の軍人から学ぶとはまことに恥ずかしい話である。その前に、航空自衛隊の専門家が直接、政治家に助言できない理不尽な防衛機構の実態に、一般国民は素朴な疑問を抱くであろう。

 この疑問に答えるには、その重要な背景を説明しなければならない。

 それは、自衛隊創設以来、半世紀以上も続いてきた変則的な文民統制によって、統合幕僚長はじめ自衛官が、防衛省内局の文民の許可なしに、防衛大臣はじめ、いっさいの政治家と接触するのを禁じているからである。

 この病的ともいえる文民統制下では、もっぱら軍事素人の文民が防衛大臣を補佐し、あるいは官邸サイドに助言する内規になっている。

 ところが、軍事学ないし兵学を習っていない一般大学出身の彼らは、肝心な国防ないし軍事の知識にきわめて疎(うと)いので、有効で効率的な補佐ができない。それでは、内局を助ける立場の制服の意見を聞けば良いと言うが、もともと、ずぶの素人では、初耳の軍事専門事項を短時間で理解するのは容易でなく、防衛行政および安全保障政策の円滑な進展を妨げてきた。

 その顕著な弊害の一面が、今回の普天間移設の問題にほかならない。前政権時代に決めたキャンプ・シュワブ沖の候補地も、その決定までに文民がすべての政策の決定権を握る体制下では、制服からの意見の聴取と理解、政治レベルとアメリカ軍との意思疎通、連絡調整等に多大な時間、労力および経費を費やしている。


◇2 頓挫した石破長官の機構改革

 一方、制服幹部の大部分は、内局が握る人事権の前に、多分に萎縮(いしゅく)しており、現役時代はもとより、退役後も積極的に発言して、一般国民の啓発を図る向きが年を追うごとに少なくなった。実際に制服の人事権とその言動を抑える動きが部内に及ぼす影響には、軽視できないものがある。

 周知のとおり、最近、中沢剛第44連隊長が、日米共同訓練の開始に当たり、相互の信頼感の醸成(じょうせい)を促す善意の訓示の内容を、「トラスト・ミー(Trust me)」という約束を実現していない鳩山総理への批判と曲解されて注意処分を受け、左遷された。

 このような、現象が重なれば、制服の各位の間に、体制に迎合する消極退嬰(たいえい)的な空気がみなぎるのを避け難い。

 とは言え、栗栖弘臣(くりす・ひろおみ)元統幕議長(故人)、田母神(たもがみ)俊雄元空幕長、佐藤守元南西航空団司令など、現役時代から正論を説き続ける出色の士も決してゼロでない。

 それに加え、正規の課程と部隊勤務を通じて軍事の素養を培い、気概に富む少壮幹部のなかにも、国情を憂い、国防の在るべき姿を心に描く天下の士も少なくないと思われる。

 ちなみに、毎年、陸上自衛隊幹部候補生課程を経て任官する400人以上の若年幹部から、小数ながら、一騎当千の有為な人材が出てくることは必定(ひつじょう)である。

 先に触れた問題に立ち返るが、日本の政治家が、空幕長でなく外国の空軍中将から普天間、嘉手納各基地の併合の当否に関する助言を平気で受ける状態を、官邸サイドの面々はどのように受け止めているか、できれば拝聴したい。

 一方、前政権時代に、内局がいっさいの決定権を握る変則的な文民統制の弊害を正すために、石破長官が掲げた、「文民と制服が混然一体となって効率的に仕事に取組む体制の確立」という方針のもとに、防衛庁(当時)の機構改革が始まった。

 ところが、政治情勢の変化により、折角の改革は頓挫(とんざ)して現在に至っている。


◇3 徳之島移転は即応力を低下させる

 次に、最近における普天間基地の移転先に関する一連の愚案を眺めて見よう。

 キャンプ・シュワブ用地への滑走路新設案は地積が狭く、ヘリが市町村の上空を頻繁に飛行する弊害を生じ、ホワイトビーチ沿岸の埋め立て案は技術上の問題があるので、前政権時代に候補から落された。一方、下地(しもぢ)島、伊江(いえ)島、徳之島各案は、滑走路が存在するだけで、移転先としての価値はほとんどない。

 いまの普天間基地は、ヘリ50機(戦時には100機)を収容可能な地積を具備する。それと同時に、ヘリの使用者である海兵隊戦闘部隊の各駐屯地、有事にヘリを搭載すべき揚陸艦が接岸するホワイトビーチ軍港、辺野古(へのこ)弾薬庫、金武湾(きんわん)燃料基地、後方支援用の那覇軍港、遠距離機動用の輸送機の発着する嘉手納基地、それに加え、本島北部の演習場とも連携容易な態勢を採っている。

 しかるに、現政権の挙げる各離島に基地を移設するためには、膨大な経費、労力、時間を投じ、駐屯地、港湾、弾薬庫等の新設が必要であるが、各離島とも、各施設を余裕をもって配置するに足りる地積が乏しく、もっとも広い徳之島でも基地と施設が過密状態になる。それに加え、現在、嘉手納基地に常駐し、大陸および半島からの弾道・巡航ミサイル攻撃に備えるPAC-3大隊に匹敵する防空組織の配備とその施設の建設も必要になる。

 なお、鳩山総理が異常な関心を寄せている徳之島に、ヘリ部隊だけを置いた場合、沖縄本島の海兵隊地上部隊との距離が200km以上にならざるを得ない。アメリカ軍の運用原則では、ヘリ基地と地上部隊の駐屯地との距離は100km以内と定めている。すなわち、100km以上も離れると、ヘリと部隊の提携に多大な時間を要して即応力が低下し、航空燃料の所要も膨れ上がるからだ。


◇4 沖縄駐留の意義を無視する海外移転案

 地図を瞥見(べっけん)するに、移設候補の各離島の飛行場は、東シナ海に接しており、中国軍の慣用戦法である海中から迫る特殊部隊の襲撃およびテロリストの破壊活動を受けやすい。これに対し、海岸から離れた台上の普天間基地および本島東岸のキャンプ・シュワブ沖は、相対的に警備容易な地理的条件にある。

 なお、キャンプ・シュワブ沖の基地は、台風来襲時に、ヘリを避難させる施設をキャンプ内に設けることができるが、地積の狭い各離島は、このような条件にも欠けている。

 硫黄島、グアム、テニアンへの移転案は、日米安保体制下のアメリカ軍の前方展開構想に基づく沖縄駐留の意義を無視する暴論である。

 注目すべきことに、暴論の主張者は、日本の防衛上のかなりの負担をアメリカ軍にさせている現状に目をつぶり、自主国防態勢の強化に結び付く自衛隊の増強と国民の防衛意識の昂揚には否定的態度を採る。

 現に抑止の役割を果しているアメリカ軍が沖縄から立ち去ったあとの空き巣を狙う大陸からの侵攻により、南西諸島一帯を失い、海上交通路も断ち切られた日本は、経済が困窮し、民主党が先の選挙運動以来、大衆を惹きつけてきた「生活第1」の政策は実現しない。

 当然のことながら、以上の脅威に備える国防がなければ、経済も国民生活も潰される。ヘリ基地と海兵隊主力の国外移駐論者の影には、駐留アメリカ軍の戦力を落して、防衛体制の弱体化を狙う第3国の政治謀略が存在するとも言われている。

 ところで、ペンタゴン当局は、厄介な政治問題の伴う外国の陸地への配備の弊害を避ける洋上基地を実用化次第、前方展開する可能性がある。

 それは戦闘、兵站(へいたん)、航空各部隊を収容した大型タンカーのような移動基地を沖縄沿岸など世界各地に配備するシステムであり、陸地への依存度を最小限にとどめる効用をもたらす。

 そうなると、沖縄本島の基地借上げ私有地が大々的に返還され、さらには基地従業員も減少し、地域の社会と経済の態勢に画期的な変革を生ずるであろう。


◇5 政官の軍事的無能が国家の斜陽を招く

 顧みるに明治建軍時代の政官界の要人の多くは、幕末期における多少の戦争経験と学習を通じて軍事の基本を知り、その素養を国防政策に活かしていた。

 また、戦後、自衛隊創設から間もないころの防衛庁文民の主力は、青壮年期の大正時代または昭和10年代に学校で必修課程としての基本教練等の軍事教育を受け、戦争中に兵役を経験していた。

 さらに、一部の文民は陸軍士官学校、海軍兵学校などの学生ないし生徒であり、あるいは職業軍人であった。したがって、文民の先輩たちは、個人差はあるが、ほとんど全員が、軍事の基本ないし本質を知り、これを実務に反映させていたのである。

 これに対し、いまや、政官界の要人はもとより防衛省内局部員も、近現代戦争史を含む軍事教育ゼロの学校の卒業生である。このような、文民統制の主役が、国防を律する体制の弊害が、先に述べたような普天間基地の移設に関する愚案の背景を成している。

 たまたま、数年前、筆者のもとに、英グラスゴ-大学から、マキュアベリ、クラウゼビッツ、マハンなどの軍事思想家の説く兵学理論、第2次大戦などの主要な戦争史、国防政策を含む軍事修士課程の案内が来た。英国では、軍人はもとより一般学生の志願者も、このたぐいの軍事学を学び、卒業後、政治、経済などの各分野で活躍している。

 このような各国の大学における軍事教育の情報に触れる筆者は、まず多くの政治家を排出した松下政経塾、次いで、一般大学に、兵学、戦争史、軍事原則、軍事技術から成る国防講座の開設を提言中である。

 さもなくば、将来の政官界の要人は、ますます軍事的に無能になり、沖縄の基地問題のような愚劣な防衛政策が繰り返されて、日本は斜陽国家の道を辿ることになる。


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