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妄想が書かせた「AERA」の「女性宮家」創設論──「陛下の意思」をかたる思惑はどこに [女性宮家創設論]

以下は「誤解だらけの天皇・皇室」メールマガジン(2011年12月29日)からの転載です


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妄想が書かせた「AERA」の「女性宮家」創設論
──「陛下の意思」をかたる思惑はどこに
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 いよいよ押し詰まってきました。年の瀬の話題は「女性宮家」です。

 ちょっと古いですが、「AERA」12月5日号の「皇太子妃あきらめた両陛下の意思? 『女性宮家』と雅子さま」を読んで、問題点を探ることにします。

「AERA」は昭和の末年、そのころ頻繁に親しくお会いしていた朝日新聞の幹部が基本的な構想を練り、発刊されたニュース雑誌で、私としてはそれなりに親近感があります。

 この記事は、編集部の三橋麻子、福井洋平両氏の執筆で、リードに「『火急の件』として宮内庁長官が女性宮家の創設の検討を首相に求めた。皇太子家の愛子さまや秋篠宮家の眞子さまら8人の女性皇族が公務を担う『姫宮の時代』が遠からずやってくるのか。そしてその先には──」と記されているように、羽毛田信吾宮内庁長官の発言をきっかけとする「女性宮家」創設なるものが何を意味するのか、を問いかけています。

 結論を先にいえば、この記事は、「女性宮家」創設論の胡散臭さとともに、タイトルにもうかがえるように、「雅子妃憎し」の妄想に近いものを、私は感じます。


▽1 長官の発言は「陛下のご意向」か?

 記事の書き出しはこうです。

「宮内庁長官の発言は天皇陛下のご意向──。これは皇室を取材する者の、暗黙の了解だ」

 長官や侍従長など、陛下の側近たちはみな人格的にも立派な方々で、陛下のご意思をよく理解し、その発言は陛下を代弁している──そのようにごく普通の一般人なら考えるかも知れません。

 だから、側近の批判をしようものなら、私が一貫して批判してきた宮中祭祀簡略化問題などでもそうですが、「宮内庁批判はよくない。お前こそ、無礼千万」と逆ギレされたりします。

 しかし一般国民とは異なり、生の情報に触れることができ、取材調査もできるジャーナリストまでが、「宮内庁長官の発言は天皇陛下のご意向」と本気で思い込んでいるとしたら、思考停止も甚だしいといわざるをえません。

 ところが、「AERA」の記事はのっけから思考停止状態です。いや、高級誌の記者たる者が思考停止とも思えません。とすれば、思考停止を装う、ほかの要因があるのでしょう。「陛下の意思」をかたって、「女性宮家」創設の、少なくとも議論を喚起しようとする、長官とも相共通する思惑でしょうか。そこにいったい何があるのか?


▽2 有識者会議にはない「宮家」創出

 ことの発端は、記事によれば、10月5日に長官が野田首相に面会したことでした。長官は、(1)皇室典範を改正し、女性宮家を創設することを検討すること、(2)皇位の安定的な継承制度を実現すること、を首相に要請しました。

 なぜ長官はこのような要請をしたのか?

 そもそも、聞き慣れない「女性宮家」とは何か?

 記事は、皇室典範は「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」(第12条)と定めているけれども、婚姻しても皇族身分のままとするのが「女性宮家」だと説明しています。

 記事はさらに、「ゆくゆくは、その子供も、皇位継承者になることにつながるかも知れない」と、「女性宮家創設」がいわゆる女系天皇誕生への引き金になることを示唆しています。

 記事は、今回、長官が「女性宮家」創設を言い出したのは、小泉内閣時代に、女性天皇や女性宮家創設を認める皇室典範改正の検討が行われ、その後、悠仁親王殿下が誕生されたことや政局が混乱したしたことで、棚上げとなった議論の「再燃」と見ています。

 しかし、この説明はヘンです。

 まず、小泉内閣時代の皇室典範有識者会議のテーマは、あくまで皇位継承問題です。「女性宮家」の創設を検討したのではありません。実際、少なくとも報告書において、「女性宮家」という表現はうかがえません。

 報告書は「女子が皇位継承資格を有することとした場合には、婚姻後も、皇位継承資格者として、皇族の身分にとどまり、その配偶者や子孫も皇族となることとする必要がある」(3 皇族の範囲)と記述しているのみです。「宮家」の創設ではありません。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/houkoku/houkoku.html

 有識者会議の報告書は、「安定的で望ましい皇位継承のための方策」を追求し、「現行制度では、皇族女子は天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れることとされている」けれども、「婚姻後も、皇位継承資格者として、皇族の身分にとどまり、その配偶者や子孫も皇族となることとする必要がある」と指摘したのです。


▽3 社会的に行動するのが天皇ではない

 つまり、有識者会議では、女子が婚姻後も皇族身分を維持する目的は、皇位継承の安定性にあります。けれども、「AERA」の記事では、議論が「再燃」した理由はまったく異なっています。ご公務を担う「人手不足」だというのです。

 東日本大震災では、両陛下(「AERA」の用語では天皇家)や東宮殿下、秋篠宮殿下が被災地の慰問をなさったが、お見舞いがなかった地域もあり、高齢化やご病気による「人手不足」が明らかになった感もある、と説明されています。

 まして、女性皇族が皇籍を離れたら、いずれ皇族は悠仁親王だけになる。花嫁探しもたいへんだろう。雅子妃殿下を上回るプレッシャーを受けるだろう、と「AERA」は畳みかけ、さらに話題を雅子妃問題に発展させます。

 これもヘンな理屈です。ご公務とは何か、という本質論が完全に抜けています。

 平成20年秋の御不例後、宮内庁は陛下のご公務ご負担軽減策に乗り出しました。けれども、いわゆるご公務はいっこうに減らず、それどころか逆に増え、それとは対照的に宮中祭祀のお出ましが激変したことは、当メルマガの読者ならすでにご承知のはずです(「文藝春秋」本年4月号掲載の拙文「天皇陛下をご多忙にしているのは誰か」をご参照ください)。

 しかも今年11月の御入院の際には、皇太子殿下と秋篠宮殿下が分担で、国事行為ほか御公務をお務めになりました。それができるなら、側近はなぜもっと早い段階でそのようにしなかったのか?

 いまさら、御公務を担う皇族の「人手不足」解消のため、「女性皇族」創設を、側近が呼びかけているのだとすれば、みずからの無能をさらけ出しているというほかはありません。というより、女系天皇誕生への執念でしょうか?

 順徳天皇の「禁秘抄」に「およそ禁中の作法は神事を先にし、他事を後にす」とあるように、天皇は祭り主であって、社会的に行動することが天皇本来の務めではありません。

 東日本大震災発生後、両陛下をはじめ皇族方の東奔西走ぶりは国民のまぶたに焼き付いていますが、これはあくまで大震災という非常時の出来事であり、これをもって制度改革の根拠とすべきではありません。

 それとも「AERA」の記者たちは、「皇族はもっと被災地を慰問せよ」と要求したいのでしょうか。長官はそのように主張しているというのでしょうか?


▽4 天皇個人の意思が大御心ではない

 さて、いわゆる雅子妃問題に関して、ですが、「AERA」は、妃殿下の状態が9月以降、悪化していて、長官が首相に「女性宮家」創設の検討を要請したのが、その「一連の渦中」だったことに注目します。

 そして、長官の首相との面会を、「両陛下が、雅子さまをあきらめ、眞子さまらに将来を託したとしても、無理もないかも知れない」と飛躍させています。

 つまり、長官=陛下の代弁者という論理です。陛下は妃殿下ら女性皇族に御公務の担い手となることを求めていて、そのため女性宮家の創設を、火急の件として希望されている、という推論ですが、根拠の不十分な妄想というべきではないでしょうか。

 いつも申し上げるように、天皇は公正かつ無私なる祭り主です。すべての民をわが赤子と思い、「国中平らかに、安らけく」(「後鳥羽院宸記」)と祈られるのが天皇です。天皇には、民の声に耳を傾け、民の心を知る、という王者の伝統がある、といわれます。であればこそ、陛下は被災地に出かけ、被災者と親しく言葉をおかけになります。その結果として、慰問は増え、ますますご多忙になります。

 しかし、やり過ぎがあれば、それを諫めるのが側近の務めのはずです。

 原武史教授の「宮中祭祀廃止論」を批判したときに申し上げたように、天皇は現実社会の救い主ではありません。天皇は祭り主であって、天皇の祈りを実現するのは私たち国民の仕事です。

 御公務の担い手が不足しているから「女性宮家」を創設する、という論理で、過去の歴史にない、いわゆる女系天皇の道をひらくことが、天皇の意思だなどと、どうしていえるでしょうか?

 天皇の意思、すなわち大御心とは、肉体を持った特定の天皇個人の意思ではありません。したがって天皇個人の意思をあげつらうべきではありません。


▽5 新嘗祭は「女人禁制」ではありません

 さて、長くなりしたので、最後に1点だけ付け加えます。宮中祭祀に関することです。

「AERA」の記事は、「ちなみに『女性天皇』になると問題とされることのひとつに、宮中祭祀がある」と指摘し、「新嘗祭は女人禁制なのだ」と説明していますが、完全な間違いです。

 たしかに「皇室第一の重儀」とされる新嘗祭に、皇后、皇太子妃とも本来、お出ましがありませんが、神事には女官が奉仕しています。「女人禁制」ではありません。

 歴史に存在する最後の女帝・後桜町天皇の場合は、明和元年11月8日に大嘗祭をお務めになり、同7年11月13日の新嘗祭に出御されたことが、明確に複数の記録に残されています(『後桜町天皇実録』)。

「AERA」の両記者はいったい何を言いたかったのでしょうか? 

 記事には「世界的には、女性の王位継承が認められる傾向にある」とくだりもありますが、皇位継承論をヨーロッパの男女同権論の論議と混同させていませんか?

 考えてもみてください。聖書は神がアダムのあばら骨から女をつくったと記していますが、日本の国生み神話は男女二柱の神による共同作業で国土がつくられています。イギリスで最初の女性君主マティルダは12世紀の人ですが、推古天皇の治世はそれより600年もさかのぼります。

 日本の天皇の方がはるかに進んでいるのです。

 最後の最後に、蛇足ながら、ひと言申し上げます。「AERA」の記事は、反妃殿下の感情が一部に根強いことをあらためて感じさせます。けれども、朝日新聞の「ご懐妊兆候」スクープ報道が流産という悲しむべき結果を招き、妃殿下のご病気の引き金となったことを、国民はけっして忘れてはいません。

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