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国家が守るべき礼節 [靖国問題]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」からの転載です


 先月は個人的な事情があって、ブログの書き込みがあまりできませんでした。何人かの方から、どうしたのか、とメールを頂戴しました。ご心配をおかけして、申し訳ありません。

 さて、自民党の中川秀直政調会長は、昨日6日、テレビ朝日の報道番組に出演し、「国が責任をもち、非宗教法人で誰を合祀するか、政府が決める、というかつての(靖国神社)法案のようなものを遺族会と検討していくべきだ」と述べ、靖国神社の非宗教法人化に加えて、いわゆるA級戦犯分祀についての見通しを表明しました(読売新聞など)。
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 中川氏は、内外で議論が沸騰しているA級戦犯の合祀は、一民間団体である靖国神社が勝手にやったことである、非宗教法人化によって国家機関にすれば分祀が可能になり、問題解決の道が開ける、とお考えのようです。

 しかしこの考えには、何度も申し上げてきたことですが、いくつかの間違いがあります。

 第一に、靖国神社はいまは一宗教法人ですが、これは終戦直後、宗教法人化しなければ廃止のやむなきに陥るというせっぱ詰まった中で、そのような判断をしたということです。

 国の非常時にかけがえのない命を捧げた国民を慰霊する責務をまず果たすべきなのは、間違いなく国です。国家同士が火花を散らした近代という時代に、国の中心的慰霊施設として機能してきたのが靖国神社であり、戦後は国に代わって日々、慰霊を行ってきました。

 第二に、いわゆるA級戦犯の合祀は、靖国神社が独自に判断し、行ったことではありません。

 国に命を捧げた戦没者を認定できるのは、国以外にはありません。A級戦犯の14人が合祀されたのは、絞首刑になった7人、公判中に病死した2人、受刑中に死亡した5人の死を日本政府が公務死と認めたからです。

 ついでながら、東京裁判の被告28人のうち、禁固刑で服役し、その後、サンフランシスコ平和条約に基づき、連合国との協議の末、赦免、出獄した戦犯や免訴となった容疑者たちは合祀されてはいません。

 もし日本政府が靖国神社のA級戦犯合祀を問題視するのなら、国が行った14人の公務死認定を取り消し、戦犯の遺家族に支払った遺族年金などを返還請求しなければならないということになりませんか。

 第三に、靖国神社の非宗教法人化、いいかえれば国家機関化は、むしろ神社側が表明してきたことです。数年前にも、当時の宮司が新聞インタビューで「いずれは国にお返ししたい」と語っています。

 繰り返しになりますが、殉国者の慰霊は国家の責務です。この60年、靖国神社の慰霊に国が主体的に関われなかった歪さこそ解決されるべきなのです。

 第四の問題は、分祀です。分祀の必要はありません。

 何度も書いてきたように、日本人の伝統的神観念からして分祀はあり得ませんが、分祀論者が言うところの分祀(神道的意味での分祀とは違います)をあえて行ったとしても何の意味もありません。

 合祀であれ、分祀であれ、人間の行為に過ぎません。人間が神をつくることはできません。人間がどうしようと、神は神なのです。

 第五の問題として、なぜ日本では戦没者が神として祀られてきたのか、靖国神社はなぜ神社という形態をとってきたのか、そこが探究されるべきです。

 憲法が定める政教分離主義、中川氏がいう非宗教法人化とどう関わってくるかですが、難しい問題はありません。政教分離の本家本元であるアメリカでは、ワシントン・ナショナル・カテドラルというキリスト教会で国の慰霊行事が行われています。靖国批判に余念のない韓国では国立墓地で宗教者による慰霊式が行われています。

 中川氏はおそらく靖国神社をまるごと非宗教法人化し、無宗教施設化することをお考えなのでしょうが、そんなことは必要ありません。

 最後の問題として、なぜ靖国問題がこれほど沸騰したのか、もう一度、振り返ってみるべきでしょう。20年前、中曽根首相の「公式参拝」をきっかけに中国では猛烈な反日デモがわき上がりました。その背後には親日派の胡耀邦を追い落とそうとする保守派の存在がありました。

 その中国には人民英雄記念碑があります。記念碑は共産革命のシンボルで、台座には抗日遊撃運動のレリーフもはめ込まれていますが、血なまぐさい天安門事件のカゲも引きずっています。弾圧の犠牲者ではなく、事件で落命した兵士が祀られているともいわれます。

 当然ながら、先進諸国の首脳は弾圧のシンボルへの献花を避けてきました。武力弾圧の汚名をそそぐのに一役買ったのは日本政府です。事件後、先進国首脳として最初に北京入りした海部首相は記念碑に表敬し、当然ながら国際社会から批判されました。

 靖国神社のA級戦犯合祀が批判されるなら、人民英雄記念碑もまた批判されなければなりません。反共と抗日をシンボルとする韓国の国立墓地もまた同様です。中国国際放送局は昨日、韓国外相が安倍官房長官に靖国参拝中止を要請したことを伝えていますが、それなら各国政府に対して人民英雄記念碑への表敬禁止を要請しなければなりません。

 しかしそのような政治論は意味がありません。慰霊と歴史批判はまったく別であり、国家は粛々と戦没者への慰霊を行うべきなのです。それが国家が守るべき礼節というものでしょう。

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