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イギリス王室の求心力 [イギリス王室]

以下は旧「斎藤吉久のブログ」(平成18年12月15日金曜日)からの転載です

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イギリス王室の求心力
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 ロンドン警視庁はきのう、9年前にパリで亡くなったダイアナ元皇太子妃の死に関する調査報告書を発表しました。

 ダイアナ元妃は恋人のドディ・アルファイド氏と同乗していた車の衝突事故で亡くなりましたが、報告書は、約百キロのスピードで走っていた、運転手の血液から高い濃度のアルコールが検出された、として、事故はスピードの出し過ぎと飲酒運転が原因と結論づけたようです。ダイアナ元妃は妊娠していなかった、ドディ氏と結婚する意思はなかった、という見方も示されていると伝えられます。

 事故死に見せかけた暗殺だとする陰謀説は否定されました。

 チャールズ皇太子とダイアナ元妃との離婚は、皇太子の不倫が直接の原因とされています。イギリス国民には若くして不慮の事故で逝った美貌の元妃への同情論が根強くあります。しかし、感情論ではすまされないない深刻な問題も指摘されてきました。それは今回の報告書で否定された元妃の妊娠・結婚説です。

 事故車に同乗していたアルファイド氏は、エジプト出身の大富豪で老舗百貨店ハロッズのオーナー、モハメド・アルファイド氏の長男で、イスラム教徒です。二人が結婚すれば、イスラムの教えに従うなら、元妃はイスラムへの改宗が望ましい、とされます。

 となると、ダイアナ妃は皇太子妃の称号「プリンス・オブ・ウエールズ」をもったまま離婚していますから、「皇太子妃」がイスラム教徒となり、さらに将来の王位継承者すなわちイギリス国教会の首長の元妃や母親が異教徒というような、国教会が容認しがたい事態が発生することになります。事故死を装った謀殺と疑われている背景にはこのような事情もありました。

 イギリス王室と教会の歴史はしばしば王族の結婚問題を転機としています。そもそもイギリスのキリスト教会がローマ・カトリックから離脱したのは、国王ヘンリー8世(1491~1547)の時代です。ルターの宗教改革を批判する著書をみずからあらわすほど熱心なカトリック信者だった国王が、王妃との結婚解消、再婚をめぐって、離婚を教義的に認めないローマ教皇と鋭く対立したことが発端でした。

 神が夫婦にした一組の男女を人間の都合で破棄することは神の意思に反する、とという理由で教皇は国王を破門にしましたが、国王は自分こそが教会の唯一・最高の首長だとみずから首長令で宣言し、カトリックの支配を離れたのです。そのあと国王は反対者を処刑し、カトリック修道院の財産を没収するなどして王室の権威を確立したといわれます。

 70年前には「王冠を賭けた恋」が王室を揺るがしました。エドワード8世(現女王の伯父)が2度の離婚歴のあるアメリカ人シンプソン夫人との結婚を選び、王位を断念したのは美談ともされていますが、近年は、背後にヒトラーの陰があるとも指摘されます。シンプソン夫人はナチス幹部との交際も知られていて、その手先だったというのです。

 チャールズ皇太子がカミラさんと念願の結婚式を挙げたのは昨年の春でした。ウインザー城での祝福式に王室、政府、教会関係者が出席したことは時代の変化を示しています。

 国教会は数年前、例外的ながら、離婚者の再婚に際して結婚式を教会であげることを認めました。聖職者が式を拒否することも自由とされましたが、イギリス社会は再婚に寛容になっています。非キリスト者の国民が増えてイギリス社会はいまでは多文化・多宗教社会です。「女王が支配する教会」という国教会の実態も薄らいでいるといいます。

 しかしそれでもカミラさんの元夫が存命であるため、信仰的にはいまも夫婦関係が続いている、との考え方が教会関係者には根強いといわれます。そのため市公会堂での無宗教形式の結婚式が行われたのでした。

 カミラさんの称号はあくまで「プリンセス・コンソート(国王夫人)」で、「クイーン(王妃)」を名乗ることはないといいます。最大の問題は、皇太子の離婚、元妃の事故死という悲しみを超え、さらに再婚という事態にあって、国民と国家を統合する王室の求心力が今後、保持できるかどうかでしょう。今回の報告書は1つの区切りとなるのでしょうか。
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